東京大学 院試 過去問 解答例
東大 数理科学研究科 数理科学専攻 専門科目B 2020年度 院試 解答例・解説
東京大学 数理科学研究科 数理科学専攻 専門科目B 2020年度の院試 過去問について、設問ごとの解法方針と確認点を解説。全18問収録の解答・解説PDFと併用できます。問題本文は含みません。
最終更新:
設問ごとの解法方針と確認点を公開しています。
続きの途中式・最終答は解答・解説PDFに収録しています。問題本文は含まれません。
第1問 — Galois閉包と中間体
方針
の符号を変えたときに の共役が の中に残らない点が重要である。 そこで を加えると,全ての共役が同じ体の中に入る。
採点上の注意
の次数だけを数えると で止まりやすいが,Galois閉包ではさらに で現れる平方根を加える必要がある。複素共役の分も忘れない。
第2問 — 二変数多項式環の極大イデアル
方針
剰余体が基礎環上代数的になることを使い,一つずつ変数を消していく。 体上では とその剰余体上の一変数多項式環がPIDであることが決定的である。
典型ミス
では,まず標数を決める素数 が必要である。 体上の議論をそのまま使うだけでは,この の分を落としてしまう。
第3問 — 特異点の随伴次数環
方針
随伴次数環では,元の関係式の「最低次の同次部分」が支配的になる。 今回の曲線では の最低次部分が である。
採点上の注意
の項を随伴次数環の関係に残してはいけない。-進次数で見ると は より高次であり,初期形式には現れない。
第4問 — 対称群の群環と中心
方針
有限次元代数では,素イデアルは単純加群・半単純商と結びつけて数える。 標数 では の3サイクル部分が冪零方向を作るため,中心のべき零根基を 明示してから商を取る。
採点上の注意
は半単純ではない。標数が群の位数を割っているため, 通常の複素表現の直和分解をそのまま使うと誤る。
第5問 — ベクトル場の第一積分
方針
第一積分は流れの軌道空間上の関数である。 では全ての非零軌道が 単位円周を一度だけ横切るため, は円周上の関数と同じになる。
典型ミス
でも原点へ全方向から近づくわけではない。片方の方向は膨張するので, 原点での連続性だけでは定数性を強制できない。
第6問 — 二次元可換Lie群の格子商
方針
この群は一見行列群だが, によってただの の加法群になる。格子も同時に になるので, 商は標準トーラスである。
採点上の注意
そのものではなく を使う点が重要である。 のスケールと上三角成分の せん断成分を分けると,群構造が加法に直る。
第7問 — 標準シンプレクティック形式
方針
閉1形式が 上で完全になることと,Cartanの公式を使う。 シンプレクティック形式が非退化であるため, から が従う。
採点上の注意
の符号を間違えやすい。標準形では に対し である。
第8問 — 正三角形配置空間のホモロジー
方針
三点の条件は「向き付き正三角形」を表している。基準正三角形を一つ選べば, 全ての配置は空間回転で得られるので,まず と見る。
採点上の注意
循環置換で割ると, の基本群由来の と,循環置換由来の が合わさり, 一次ホモロジーは になる。
第9問 — 積分の絶対連続性とVitali型収束
方針
最後はVitali収束定理の典型的な証明である。大きい集合上ではEgorovの定理で 一様収束にし,小さい例外集合上では一様可積分性で抑える。
採点上の注意
点ごとの収束だけでは 収束は出ない。例外集合で質量が集中しないことを保証する 一様可積分性が必要である。
第10問 — 留数定理と余接型展開
方針
は整数に単純極を持ち,留数がすべて である。 整数上の和を留数計算へ変換する標準的な核である。
採点上の注意
単に と書くと収束しない。 を加えて正則化し, 対称和として収束を確保する必要がある。
第11問 — フーリエ変換核の極限
方針
のフーリエ変換を先に計算し, 倍は周波数側の微分に移す。 極限ではPoisson核の微分がデルタ関数の微分に近づいている。
採点上の注意
核は奇関数なので,極限は ではなく に作用する。 符号は と の位置で決まるため,最後に部分積分で確認すると安全である。
第12問 — 閉部分空間の角度
方針
と の角度は各2次元平面 の中で独立に決まる。内積評価を一括して行うだけでよい。
採点上の注意
は,二つの部分空間の角度が一様に正であることを意味する。 この一様性がないと,有限次元ごとの和は閉でも,無限次元の和が閉とは限らない。
第13問 — 二次元線型微分方程式と錐不変性
方針
定係数の場合は跡が の2次行列なので,固有値の符号だけで有界性を判定できる。 非定係数の場合は,錐 の境界でベクトル場が内向きであることを見る。
採点上の注意
固有値が の場合に注意する。行列が非零冪零なら となり, 全初期値について有界とはならない。
第14問 — 離散ラプラシアンの安定性
方針
差分方程式を離散ラプラシアンの固有モードに分解する。安定性条件は, 全てのモードの増幅率が高々 であることを保証している。
採点上の注意
最大固有値は 未満である。ここを粗く見積もり,仮定の との関係を正しく使う。
第15問 — Hermite型多項式
方針
作用素 はHermite多項式の生成作用素である。 母関数を先に求めると,直交性以外の設問はほぼ係数比較で処理できる。
採点上の注意
は標準的な そのものではなく である。 この倍率を落とすと,直交積分とCauchy積分の係数がずれる。
第16問 — 球面ラプラシアンの固有関数
方針
変数 で軸対称部分をLegendre方程式にし, 方向を で分離する。これが球面調和関数の標準的な導出である。
採点上の注意
ラプラシアンの符号規約に注意する。ここで与えられた表示では, 固有値は として現れる。
第17問 — 極限計算可能集合とコンパクト性
方針
第1問は「左端の無限枝」を停止問題で選ぶ議論である。 第2問は命題論理のコンパクト性を,計算可能木の無限枝として実現する。
採点上の注意
真理値割当そのものが計算可能であるとは限らない。無限に伸びるかどうかの判定には 一般に停止問題相当の情報が必要で,結論は極限計算可能に留まる。
第18問 — 確率漸化式と標本平均
方針
平均は一次漸化式で閉じる。共分散は条件付き期待値 を使うと一行で指数減衰が出る。
採点上の注意
の分散評価では独立性を仮定してはいけない。 同士は独立ではないが, 共分散が幾何級数的に減衰するため,平均の分散は になる。