京都大学 院試 過去問 解答例
京大 理学研究科 物理学・宇宙物理学専攻 専門科目(物理学) 2026年度 院試 解答例・解説
京都大学 理学研究科 物理学・宇宙物理学専攻 専門科目(物理学) 2026年度の院試 過去問について、設問ごとの解法方針・部分点の置き所を解説。全12問収録の解答・解説PDFと併用できます。問題本文は含みません。
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第1問 — I-1 電磁気学(Maxwell 応力テンソルの応用)
方針 — Maxwell 応力テンソルが与える「場の運動量」と「力」
電磁場の応力テンソル は, 任意の閉曲面で囲まれた体積の電荷・電流系に外から働く力(運動量変化率)を, 表面の場のみで計算するための道具. (1)-(2) で 2 個点電荷の Coulomb 力, (3)-(4) でコンデンサ平板間の引力, (5)-(6) でソレノイドコイルの外向き磁気圧, (7)-(10) で電磁波の輻射圧を全て同じテンソルで導出.
重要な対応:
電場 「線方向に引っ張る応力」(2 平板間で attractive).
磁場 「軸方向に引っ張り, 横方向に膨張させる応力」(ソレノイドコイルが膨張).
電磁波 進行方向に正の運動量, 反射で 2 倍の力 (輻射圧).
典型ミス
- (2) で対称性を使わず 成分も計算してしまう. 対称性で 0.
- (4) で「電源仕事」と「外力仕事」を混同. 容量 が で変わるので電圧/電荷は固定でない.
- (6) のエネルギー収支: 電源 機械仕事 蓄積エネルギー で 1:1:1 の比.
- (10) 反射条件: 全反射の boundary は . ( は界面接線) なので を使う.
背景 — 太陽帆 (Solar Sail)
(9) の輻射圧 N/m は微弱だが, 大面積帆 (km) で長期間 (年) 加速すれば 惑星間航行も可能. 日本の IKAROS (2010) が初の太陽帆実証. 重力以外の "free" 推力源として注目.
第2問 — I-2 解析力学(放物面上の質点)
方針 — 拘束系のラグランジアン
放物面のような曲面上の拘束は, 一般化座標 で問題を記述すると拘束が自動的に組み込まれる. 速度 に 方向成分 が加算される項が, 「 が変化すると も変わる」という拘束を反映.
回転参照系 (5) では遠心力 が現れ, 重力の接線成分 と打ち消しになる条件が . これは「ジャイロスコープが浮く」という現象の力学的記述.
典型ミス
- (1)で に 成分 を入れ忘れる. 放物面の拘束で .
- (4) 慣性系か回転系かで EOM が異なる. 本問は慣性系で を代入する形.
- (6) 線形化で の符号. 正なら不安定, 負なら安定.
背景 — 回転する炭酸水盆と放物面
回転する液体表面は遠心力との釣り合いで放物面になる. 反転すると, 重力下で「炭酸水を回転させる装置」と本問のセットアップは等価. (5)の臨界角速度を超えると質点は中央から外側に追いやられる現象は, 遠心式分離機の動作原理.
第3問 — I-3 物理数学(2 階 ODE・行列の対角化・熱方程式)
方針 — 線形 ODE と固有値
(1) 2 階線形 ODE は特性多項式の根が解を決める. (2) 行列 も同様の固有値問題で連立 ODE が解ける. (3) 偏微分方程式 (熱方程式) は変数分離 + Fourier 級数で.
3 つの問題は「線形性 + 固有関数による分解」という同じ構造.
典型ミス
- (2-1) 重根の対角化可能性. 幾何学的重複度 = 代数的重複度 で対角化可能. Null 空間の次元を確認.
- (3-3) 偶関数 の sin 展開: 奇のみ非零. 「全ての 」と書かない.
背景 — 拡散と熱の Fourier 展開
(3) は熱伝導, 拡散, ブラウン運動などに同じ形で現れる. 高次モード は急速に減衰し, 長時間後は最低モード が支配的. これが「初期条件のディテールが消えて滑らかな分布になる」直感.
第4問 — I-4 実験(中性子散乱と Poisson 統計)
方針 — Poisson 統計と誤差伝播
中性子計数のような数え上げ実験は典型的 Poisson 統計で誤差 . カウント率 の誤差は で, 測定時間を伸ばすと で減少する.
(6) の「カウント率高い試料に時間を多く割く」原則は実験計画の基本. 最終誤差は両試料の Poisson 誤差の二乗和なので, より「誤差源」の大きい方に時間配分する.
典型ミス
- (2): ではなく . 単位 [Hz] を意識.
- (5): 各カウントの誤差が独立 (相関無し) と仮定して二乗和.
- (6): 「半分ずつ」() は のときのみ最適.
背景 — 中性子小角散乱 (SANS)
本問のセットアップは小角中性子散乱 (SANS) 実験で, 高分子・タンパク質・コロイドの構造解析に用いられる. J-PARC, ILL などの中性子源で実用. (6) の最適時間配分は実験計画の標準.
第5問 — I-5 量子力学(2 準位スピンと量子速度限界)
方針 — Mandelstam-Tamm の量子速度限界
は Mandelstam-Tamm の量子速度限界 (1945) で, 「初期状態と直交する状態にたどり着く最短時間 」という普遍的限界. 2 準位系は等号を実現する典型例.
物理的意味: エネルギーのばらつきが大きいほど「速く動ける」. ばらつきが 0 (エネルギー固有状態) なら直交状態に到達できない().
典型ミス
- (1) Bloch 球: 軸まわりに で歳差. は 方向のスピン.
- (3): 「内積 0」と「位相が逆」を区別. 絶対値が等しく位相が反対の二つの寄与.
背景 — 量子計算のクロック速度
量子ゲート操作の最短時間は Mandelstam-Tamm 限界で支配. 量子コンピュータの「クロック速度」の物理的下限はエネルギーばらつき で決定.
第6問 — I-6 統計力学(N 個の量子調和振動子)
方針 — マイクロカノニカルとカノニカルの等価性
(1)-(4) はマイクロカノニカルアンサンブル( 固定)で熱力学量を計算. (5) はカノニカル ( 固定) で同じ量を別ルートで導く. 熱力学的極限 で両者は一致 (アンサンブル等価性).
Planck の公式 は黒体放射, アインシュタインの固体比熱モデル, フォノン気体熱容量など多くの場面で現れる基本式.
典型ミス
- (1) 重複組合せ ( 個の量子と 個の仕切り). 順列 ではない.
- (3) Stirling: で を忘れない. の各係数で出る.
- (4) は内部エネルギーから零点を引いたもので非負.
背景 — Einstein モデルと固体比熱
Einstein (1907) は固体を 個の独立調和振動子 (各原子 3 自由度) としてモデル化し本問の結果を適用. 比熱 at high (Dulong-Petit), 低温で指数減衰. これが固体比熱の量子効果の最初の説明 (Debye モデルへの土台).
第7問 — II-1 量子力学(水素原子の Stark 効果)
方針 — 縮退・非縮退摂動論の使い分け
(2)(3) は 縮退摂動論 ( の 4 重縮退). 摂動行列の対角化で 1 次補正と「正しい」固有状態を同時に決める. (4)-(7) は 非縮退摂動論 の 2 次補正で, 異なる近似 (有限和 vs 完全系で平均エネルギー近似) を比較.
水素原子の極化率 は完全和で得られる厳密値. (4) では n=2 のみで , (6) では Unsöld 近似で過大評価.
典型ミス
- (2) 対角成分: パリティ argument で 0. 直接計算する必要なし.
- (4) (5) 行列要素値: は教科書的標準値.
- (7) 比較の方向: より多くの寄与を含めるほど 増, より小さい分母を使うほど 増.
- (8) 時間依存摂動: 始 , 終 , 振動因子 + 励起確率は分母 (Lorentzian).
背景 — Stark 効果と Rydberg 状態
水素原子の 1 次 Stark 効果 (3) は で線形分裂 (). Rydberg 状態は次数高いが同様の構造.
時間依存摂動 (8) は 断熱定理 の限界. 緩やか () なら励起確率小, 急 () なら大.
第8問 — II-2 統計力学(中性子星と相対論的縮退気体)
方針 — 縮退圧と Chandrasekhar 限界
中性子星(白色矮星も同様)の安定性: フェルミ縮退圧 vs 重力.
- 非相対論 (): . 質量増 → 半径減. 安定.
- 超相対論 (): 上限質量 存在. で重力崩壊.
は Chandrasekhar 限界 を与える(数値定数 は中性子相互作用で実際は 倍補正).
典型ミス
- (2) 計算で因子 . , のセット.
- (5) 平衡条件 で を で表してから.
- (8) BEC 積分: 反粒子寄与の差し引きで が出る. Bose 因子の Taylor 展開.
背景 — ニュートロン星と Tolman-Oppenheimer-Volkoff 限界
実際のニュートロン星質量上限 (TOV 限界) は GR + 強い相互作用を含めた精密計算が必要だが, 本問のオーダーオブマグニチュード推定は基本となる. 観測上限 ~2.1 (J0740+6620 など).
第9問 — II-3 力学(連星系・剛体円環の歳差運動)
方針 — 連星-リング系の潮汐力と歳差
主星のまわりにある剛体リングが伴星から潮汐力を受け, 公転面に対する傾き から歳差運動を始める. これは月軌道の歳差(地球の赤道隆起と月の引力)や, 人工衛星の軌道平面の歳差と同型.
Key 関係式:
- 慣性力 = (P 系で外向き).
- 潮汐トルク ( 展開).
- 歳差速度 .
典型ミス
- (4) 慣性力が に依存しない理由: 軌道力学で ( なし) の通り (重力で見ると慣性 = 引力).
- (7) 歳差の方向と sign. の大きさだけ問われている.
背景 — 地球軸の歳差と Saros 周期
地球の赤道隆起 + 月・太陽の重力で, 地球自転軸が約 26000 年で歳差(春分点歳差). 同様に月軌道面が約 18.6 年で歳差(食の周期 Saros). 本問の式 は両者の主因.
第10問 — II-4 物理数学(線積分・留数定理・テイラー展開)
方針 — 3 つの基本ツール
物理数学の典型 3 問: ベクトル線積分(物理での仕事/磁束計算), 複素線積分(伝播関数や Fourier 反転), Taylor 展開(摂動計算).
- (1) 拘束のあるパラメータ化: 2 つの拘束式 , から実質 1 自由度. で書き下す.
- (2) 留数定理. 経路内の極だけを拾う.
- (3) 2 次までの Taylor で 3 桁有効数字を確保.
典型ミス
- (1) パラメータの向き: 始点 から終点 で が自然 (反時計回り). 逆向きにすると符号反転.
- (1) 因子整理: 展開して全項を計算するより, 共通因子 をくくって括弧内を整理する方がミス少.
- (2) は 経路外. 含めると を誤って加える事故.
- (3) 1 次のみで止めると で十分だが, 2 次の補正を忘れて誤差 を見落とす可能性.
別解 — Stokes の定理 (1)
ベクトル場 の回転:
これは 0 でないので は保存場ではない. しかし Stokes で曲面積分に置き換えれば計算可能 (面の選び方による). 直接パラメータ計算の方が早い.
背景 — 留数定理と工学応用
型部分分数で和を取れる留数定理は, 信号処理 (Z 変換), 制御工学 (Laplace 逆変換), 量子論 (Green 関数) に直結. (2) のような有理関数の積分は伝播関数 を時間領域に戻す原型.
第11問 — II-5 電磁気学(4 重極磁場による荷電粒子の収束)
方針 — 加速器物理の基本 (Strong Focusing)
4 重極磁石は 方向で収束, 方向で発散する(逆も)バイアスのある磁場で, 2 つを組み合わせる(strong focusing あるいは alternating-gradient)と両方向で実効的に収束できる. 1953 年 Courant-Livingston-Snyder が提案. 現在のシンクロトロン加速器(LHC, KEK-B など)の必須技術.
典型ミス
- (1) Lorentz 力の符号. で のため第 1 項消える.
- (2) が一定なのは飛行中の 変化を無視する仮定から. 強い磁場や相対論的領域では成り立たない.
- (3) ( や ) なら 解で発散. (本問は .)
- (4) 「恒等的に 0」と「ある で 0」の区別. 前者は係数全体 が要求される.
検算 — 次元
. 磁束密度勾配 の単位 T/m に C を掛けて CT/m. kgm/s. CT/ms/(kgm)m (Tkg/(Cs)). よって は m, の次元は m. 整合.
背景 — 強収束原理と現代加速器
歴史的に弱収束 (weak focusing) では加速器サイズに対する制限が大きかったが, --- (focus-defocus 交互) 配列で両方向を実効的に収束できることが示された後, ビームサイズが劇的に縮小. これにより GeV〜TeV 規模の加速器が現実的になった.
本問は 2 次元 1 セクションだけだが, 実機ではこれを多数並べた周期構造を考え, Floquet 理論や Hamilton 形式 (action-angle 変数) で安定性 ( 関数, tune) を議論するのが標準.
第12問
この設問は図表を含むため、解説はPDF版でご確認いただけます。
完全な解答(途中式・最終答)はPDFに収録