京都大学 院試 過去問 解答例
京大 理学研究科 物理学・宇宙物理学専攻 専門科目(物理学) 2024年度 院試 解答例・解説
京都大学 理学研究科 物理学・宇宙物理学専攻 専門科目(物理学) 2024年度の院試 過去問について、設問ごとの解法方針・部分点の置き所を解説。全12問収録の解答・解説PDFと併用できます。問題本文は含みません。
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第1問 — I-1 量子力学(Pauli 演算子と 3 体 Ising 鎖)
方針 — Stabilizer 符号としての
は互いに交換するエルミート二乗 演算子, つまり stabilizer 集合. すべての の同時 固有状態 が論理状態(基底状態)で, Pauli 誤り はいくつかの と反交換しエネルギーを上げる. 励起エネルギー で誤りの「重み」を表す.
典型ミス
- (1) 符号: で, 引数の順序を逆にすると符号反転. の関係を確認.
- (6) で「 なら反交換」と即断. 反交換するペア 2 つは で全体交換になる.
- (7)-(9) で「反交換の個数」を数え誤る. がサイト にどの Pauli を持つかを 1 つ 1 つ点検する.
背景 — 1D Cluster State と MBQC
型 stabilizer は 1 次元 cluster state の特性で, 測定型量子計算 (MBQC) の最小モデル. 全 の状態を準備すると, 順次 1-qubit 測定で任意の量子計算が実装できる(Briegel-Raussendorf, 2001). 本問はこの符号における Pauli 誤りのエネルギーシフト計算.
第2問 — I-2 電磁気学(層状・周期媒質中の Maxwell 方程式)
方針 — 1 次元 Bloch 理論とフォトニック結晶
問 (4)-(6) は 1 次元周期媒質中の電磁波 = 1 次元フォトニック結晶の最簡単な例. 周期 で誘電率が変動すると, Brillouin ゾーン境界 で の自由波が縮退し, 任意の小さな摂動 で「バンドギャップ」が開く. 開く幅は (1 次摂動).
これは結晶中の電子のバンド理論(Bloch 定理)と数学的に同じ. 「自由電子が周期ポテンシャルで折りたたまれて Brillouin ゾーン境界で gap が開く」という物理が, 光に対して反映された姿.
場でなく 場 (= ) を主軸にする理由
場は (う) で が 2 階微分の中に入った異常な方程式 になる. 一方 場 (= ) は (え) で「 重みの Sturm-Liouville 形」 . これは自己随伴形式で固有値分解が綺麗に進む(Hermite 行列 が出る).
典型ミス
- (1) 符号: , . 両者の符号と Maxwell の符号 の組合せで などが出る.
- (2) で の連続性を主張する. これは正しくない — にジャンプがあると も ジャンプ分だけジャンプ. 連続なのは .
- (3) Fresnel で 場の係数 を にも適用する. 符号が逆になる.
- (6) 摂動で の項を全部含めようとして手計算が膨れ上がる. ヒントの スケーリングでこれらが オーダになることを利用.
背景 — Photonic Crystal とブラッグ反射
で開く gap は バンドギャップ で, この周波数帯では伝播する Bloch 波が存在せず媒質内に存在不可. これが ブラッグ反射 の量子論的表現で, 光ファイバ・反射防止膜・フォトニック結晶構造の物理的基礎.
第3問 — I-3 統計力学(超流動体中のフォノン気体)
方針 — Bose 統計と分散関係から熱力学を組む
処方.\
- 分散 から状態密度 を出す.
- を決定 ( なら Planck 型).
- を と Bose 分布の積分で求める.
本問は超流動内のフォノン (=ボース粒子で , 線形分散) というモデル系統で, 黒体放射の光子と ほぼ同じ熱力学 を持つ.
典型ミス
- (2) で偏極自由度の係数 や を入れる: 光子は横波 , ソリッドのフォノンは縦 + 横 . 超流動液体は縦音波のみで .
- (3) ζ(3) と を取り違える: .
- (5) で と書く: 正しくは (Stefan-Boltzmann 系).
背景 — Landau の超流動理論
超流動 He-4 では低温の励起がフォノン (低エネルギー)ロトン (高エネルギー) で記述され, それぞれが Bose 分布で熱平衡. 比熱の温度依存 (フォノン) は二流体モデルの基礎.
第4問 — I-4A 力学(粘性抵抗のある減衰振動子)
方針 — 減衰のロジ-振幅(対数減衰率)
の指数 は 対数減衰率 と呼ばれ, 弱減衰 では . 振動 1 周期で系が失うエネルギーの割合 で, 値 () と の関係.
典型ミス
- (2) の の符号: から . 符号を反転させない.
- (3) で をポテンシャルエネルギー込みで考える: ではばねは自然長, なので運動エネルギー = 全エネルギー. 「 通過時の運動エネルギー」が問題の指定で, 全エネルギー比と同じ.
検算 — 隣接ピークでも同じ比
(3) の比は隣接した 2 つの 通過点の間隔が半周期 のときの値. 隣接した極大点(同じ位相)の間隔は周期 で, 振幅比 , エネルギー比は . 一方半周期では とエネルギー比.
(本問では半周期離れた 2 点での比較なので になる.)
背景 — RLC 回路と減衰
同じ運動方程式は RLC 直列回路 で電荷 について成立. 力学の振動と電気振動が完全に対応(機械-電気アナロジー). 物理 .
第5問 — I-4B 物理数学(Fourier 変換と複素積分)
方針 — 球対称関数の 3 次元 Fourier 変換
球対称な に対し も球対称で が公式. これは 積分から自動的に出る形で覚えておくと, など指数型, ガウス型, クーロン型などに直接適用可能.
型の積分
一般に . 本問 で . 結果一致.
典型ミス
- (1) で立体角 の係数を忘れる.
- (2-1) で偏角 を などと取り違える. から偏角 を 6 で割って .
- (2-2) 留数公式: 単純極 で分母 , . ここで .
背景 — Fourier 変換と Born 近似
(1) の結果 は量子散乱の Born 近似で, 湯川型ポテンシャル の Fourier 変換()を で 1 階微分したものと等価. 散乱断面積の角度分布計算で頻出.
第6問 — II-1 力学(円環上を滑る質点の回転・転がり運動)
方針 — 円環上の質点は cyclic な で「運動量保存」
(5) の鍵は「 が cyclic 座標 保存」. 初期条件 なので が常に成立. これを使って を で消去, 1 自由度の問題に帰着.
(7) の は重心定理 を使った美しい結果. 質点 円環の系全体の y 重心と床摩擦の関係を見ると, 質点の重心の y 加速度は 2 倍の慣性比 で円環中心と関連付き, 結果として .
典型ミス
- (5) 質点速度の y 成分: 質点位置 なので . ここで (滑る系では別物).
- (6) で T を間違える: を慎重に代入. 中間で をおき, と整理.
- (7) で の符号: 摩擦は円環中心の加速度と 反対向き に働く. 数学的には . 物理的には床が円環を「引き戻す」働き.
- (8) で sin β = 0 だけにとどめる: 「 の β 全て」を求めよなので, の解も含める.
背景 — Wobbling Wheel と複合振り子
円環上を質点が滑り, さらに円環が床を転がる系は Wobbling Wheel あるいは Hoop with sliding bead として知られる古典力学の標準問題. 重心の振動と回転の結合, さらに摩擦の役割がエネルギー散逸無しで現れ, 解析力学の良い演習例.
(7) の は, 円環単独でみると で, 質点の反作用が ( と組み合わさって最終的に にまとまる.
第7問 — II-2 統計力学(平均場 Blume-Capel 模型)
方針 — Blume-Capel 系の相転移
に対するモデル(Blume-Capel 模型, あるいは BEG 模型の特殊例)で, 多重度 が大きいと が「常磁性的」状態となり, 強磁性 () との競合で 1 次相転移が現れる. 本問はその平均場版.
なぜ で相転移の次数が変わるか
の 係数は (4 次までの一般展開で) . これは
- : 負()正(+) すなわち 係数 → 2 次相転移.
- : 係数 → 6 次以上で抑える必要 → 1 次相転移.
本問 [B] は で 2 次, [C] は で 1 次.
典型ミス
- (1) で の状態数 を分配関数に入れ忘れる: 各 の縮退を 状態として数える().
- (3) で などと書く: 標準 Ising () なら だが本問 [B] では .
- (5) で 1 次相転移の判別: 係数が負だと 1 次. 係数だけ見て「ゼロにならない」と書くのは不十分.
背景 — Blume-Emery-Griffiths モデル
本モデル(あるいは類似の Blume-Capel)は He³-He⁴ 混合物の相図(超流動相転移と相分離の競合)などの記述に使われる. 三状態スピン()が「液体相 vs ガス相 + 種類別」を表現. 多重度 は相空間における「両極端でない状態」の重みを担う.
第8問 — II-3 物理数学(Hermite 多項式とその性質)
方針 — Rodrigues 公式から導かれる Hermite 多項式の性質
Rodrigues 公式 (A) は Hermite 多項式の生成法の 1 つで, 微分の繰り返しで多項式が出る. ここから直交性, ノルム, 母関数, 漸化式が機械的に導ける. 同様の手法は Legendre, Laguerre 多項式でも使われる.
母関数の応用
は便利な道具:
- の漸化式: から .
- 微分公式: から .
- Hermite ODE: 上の組合せから .
典型ミス
- (1) で などと符号ミス: 計算は , それに を掛けて .
- (3) 部分積分の境界項を忘れる: 多項式 は で なので消えるが, 確認すること.
- (5) で と符号ミス: . Hermite ODE の符号に注意.
背景 — 量子調和振動子
Hermite 多項式は量子調和振動子のエネルギー固有関数 で現れる. 固有エネルギー の量子数 がここの の固有値 と直結. 重み関数 はガウス基底状態の確率分布.
第9問 — II-4 実験(Michelson-Morley 干渉計)
方針 — エーテル仮説下のガリレイ的合成則
Michelson-Morley 実験は ガリレイ変換 + 光速一定 (in ether) を仮定して光路差を計算し, 装置回転で生じるはずの干渉縞シフトを検出しようとした. 結果は「シフトが予測の 1/40 未満」(零点で観測されず), エーテル仮説の否定 特殊相対性理論の構築につながる歴史的実験.
(1)(2) のテクニックは「エーテル静止系で光速 , 装置が動く」という設定で各アームの所要時間を計算する古典的手法. パラレル方向は の和で , 垂直方向はピタゴラスで . (v/V)² の因子 2 倍が縞シフトの源.
典型ミス
- (1) で と書く: ならそうだが, ではエーテル流のため が分母.
- (3) 単位: m, nm m. 光路差 nm. 比 . 単位を慎重に.
- (4) 縞シフト: 90 度回転で光路差は 符号反転 のみ(値は同じ). 縞移動量は .
- (8) 単色光に関して: 「白色光のほうが感度が高い」と書くと違う. 「中心縞の同定」が利点.
背景 — 特殊相対論への道
(3) の予測値 0.02 波長(D=1 m, 地球公転速度), Michelson の元の実験(D≈11 m)で予測 0.4 波長, 観測 0.01 波長未満. これがエーテル仮説の否定 Lorentz 短縮による回避 Einstein の特殊相対性 (1905) という流れ.
実は Lorentz 短縮 ( 倍) を装置の長さに適用すると, 平行アームの実効長が となり, で観測限界以下. これが Lorentz の救済策で, 後に時空構造の本質的修正へ.
第10問 — II-5A 量子力学(有限井戸ポテンシャル)
方針 — 井戸内外の波動関数のマッチング
有限井戸の典型的解法:
- 各領域で Schrödinger 解(指数または三角関数).
- 連続性 + 微分連続性で接続.
- ( のような)超越方程式が固有値条件.
本問は が指定されているので超越方程式が直接解け, 井戸幅 が逆算できる珍しい問題設定.
典型ミス
- (1) で 解(odd)を最低エネルギーとする: 偶対称な井戸の最低固有関数は 偶パリティ ().
- (3) で 以外の解を選ぶ: には がある. 最低エネルギーは最小の .
- (4) で井戸内・外それぞれの確率を「半分」と取り違える: 偶対称関数なので両側合計を考えるが, 各積分は から に取って最後に .
検算 — 極限
無限井戸 で , 外部減衰急速で . 一方 なので (). 一定 では井戸が浅くなる場合, この問題と固定. では束縛状態がなくなる(浅井戸限界).
背景 — トンネル効果と古典禁止領域
井戸外 は古典的には で進入禁止だが量子的には指数減衰で存在. という大きな割合は, 浅い井戸( が井戸の半分の深さ)では波束が外に大きくしみ出すことを示す.
第11問 — II-5B 電磁気学(ベータトロン: 軸対称磁場中の電子加速)
方針 — Faraday の法則と運動量 - 磁場の同期
ベータトロンは「時間変化する磁束で電子を加速しつつ, 軌道半径を一定に保つ」加速器. 鍵となる Wideröe 2:1 条件: 軌道内の平均磁束密度が軌道上の磁場の 2 倍 になるよう を時空間設計.
(1) は静的なローレンツ力釣り合い, (2) は Faraday 誘導による加速力, (3) は両者を組み合わせて と の時間発展を結びつける. これがベータトロンの基本方程式.
物理的意味の解釈
(3) の式 は と の時間変化率が 線形比 で結ばれている条件. 任意の時間関数 を選ぶと, それと整合する が(1 階 ODE で)一意に決まる.
実際の装置設計では電磁石を sinusoidal に駆動し, とする. も同期した 振動で, ピーク前の半周期で電子が加速される.
典型ミス
- (1) で と書く: 一般相対論的には で, 高エネルギーでは 因子重要. 本問は非相対論を仮定しているのでよいが, 実際のベータトロンでは MeV で相対論的補正が必要(電子は質量 MeV).
- (2) で電子の電荷符号: 電子は (). 力の方向と の符号関係を慎重に.
- (3) で と の関係を二乗の関係にする: 1 次関係( 増加)で正しい. 二乗では誤り.
背景 — Wideröe 条件と現代加速器
ベータトロンは Kerst (1940) が最初に実用化. 平均磁場 2 倍軌道磁場 という条件は Wideröe 条件 と呼ばれ, 軸対称磁場の特異な要請で設計が制約される.
現代のシンクロトロン (LHC など) はベータトロン原理を発展させ, と粒子エネルギーを独立に制御するため可動磁場(時間依存) RF 加速を分離して使う. 軌道一定の条件は周回ごとに粒子のエネルギー / の同期で保たれる.
第12問
この設問は図表を含むため、解説はPDF版でご確認いただけます。
完全な解答(途中式・最終答)はPDFに収録