京都大学 院試 過去問 解答例
京大 理学研究科 物理学・宇宙物理学専攻 専門科目(物理学) 2025年度 院試 解答例・解説
京都大学 理学研究科 物理学・宇宙物理学専攻 専門科目(物理学) 2025年度の院試 過去問について、設問ごとの解法方針・部分点の置き所を解説。全12問収録の解答・解説PDFと併用できます。問題本文は含みません。
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第1問 — 力学
循環座標と対称性
中心力ポテンシャルでは角度 の絶対値に物理的意味がなく,原点まわりに 全体を回転しても運動は変わらない。この連続対称性に対応する保存量が である。小問 (1) で を確認するだけでも 保存は示せるが,小問 (2) の母関数は同じ事実を正準変換の言葉で表している。 微小回転の母関数に が加わることから, が回転の生成子 であることも読み取れる。
作用の符号
ハミルトン・ヤコビ方程式から得られる には二つの符号がある。ここでは 上を負の向きに進むため, は時間とともに小さくなる。したがって は負であり,この条件で積分定数を除く の符号が決まる。 符号を機械的に選ぶと,物理的な運動方向と逆の枝を答えてしまうので注意する。
粒子の屈折率
通常の光学では屈折率は速さの逆数に比例するが,ここで定義された は そのものであり,境界接線方向の運動量保存から に等しい。井戸の中ではポテンシャルが負なので運動エネルギーが増え, ,すなわち になる。この点を光の屈折率の記憶だけで判断しない ことが重要である。
散乱角と焦点の近似
小問 (6) では と Snell 型の関係を組み合わせるだけで を消去できる。小問 (7), (8) ではさらに として, , を使う。焦点距離では 出射点の高さ と出射後の傾き の両方を同じ一次精度で 残す必要がある。 ではほとんど曲がらないため となり, では焦点が円周上の極限 に近づくので,得られた式の極限も 幾何と整合している。
第2問 — I-2 電磁気学(誘電体・磁性体境界の鏡像法)
方針 — 鏡像法と双極子展開を組み合わせる
鏡像法の電気・磁気アナロジー:
- 電気: , , , 連続, 連続 → 鏡像電荷 .
- 磁気: , , , 連続, 連続 → 鏡像モーメント .
変数の置換 のみで全公式が引き継がれる.
典型ミス
- (2) 境界条件: ではなく が連続. 「 連続」と混同しない.
- (4) 鏡像双極子の符号: 法線 (x) 成分反転, 接線 (y) 成分維持.
- (6) ロ の置換: (比の方向に注意).
背景 — 強磁性 vs 反磁性体への引力
(強磁性) で → 鏡像が反対符号同向き → 磁石は媒質に 引きつけ られる. (超伝導) で → 同符号 → 反発し磁石は 浮上 する.
第3問 — I-3 統計力学・熱力学(理想気体と Joule-Thomson 過程)
方針 — Joule-Thomson 過程と「自由エネルギーの変数」
定常な多孔質壁を通る気体の押し出しは, 「圧力の異なる 2 つのリザーバ間で気体を移動」する非可逆断熱過程. 各リザーバ内では気体が静止していて熱力学的状態は規定可. 気体 1 単位が左から右に移ると, 仕事の差が内部エネルギー変化となって, エンタルピー が保存される.
理想気体では のみで に依らないので, になり Joule-Thomson 効果は消える. 実気体の が温度依存性を持つと, 効果が現れる.
典型ミス
- (2) Stirling: . の項を忘れると で ではなく になる.
- (4) Maxwell: は から導かれる. 符号を逆にしない.
- (5): の方向は 逆転温度 に対する の位置で決まる. 単純に「気体は冷える」と暗記しない.
背景 — Joule-Thomson 効果の応用
希ガス・水素・空気を液化する標準技術. ヘリウムは逆転温度が約 K と低く, あらかじめ冷やしてから JT で更に冷却が必要. 一方, 空気の逆転温度は室温より十分高いので, 室温で減圧すると冷える(冷蔵庫の原理).
van der Waals 気体での から得る は, 経験的に各気体の逆転温度を 程度の精度で予測する.
第4問 — I-4A 量子力学(2 準位系の時間発展と期待値)
方針 — 2 準位系での時間発展は周波数
エネルギー差 が物理的に観測される振動数(Rabi 振動の角振動数). 期待値 がこの で振動するのは, が と を結ぶ非対角行列要素を持つから.
と等価で, から が任意の状態で. ゆらぎ は時刻によって 0 から 1 まで変動.
典型ミス
- (2) 位相の符号: で時間発展は . なら係数 .
- (4) ゆらぎ: . 二乗差を取ってから平方根.
背景 — NMR と量子ビット
2 準位系 摂動は核磁気共鳴 (NMR), 量子ビットの単一ゲート操作の基本モデル. の振動はラビ振動, 周波数 (エネルギー差) は Larmor 周波数の一般化.
第5問 — I-4B 物理数学(対称行列・Fourier 級数・経路に依らない線積分)
方針 — 楕円面積 の便利公式
2 次元 2 次形式 の楕円面積は一般に . 本問 で即 . 固有値求めずに出せる.
Fourier 級数の対称性
矩形パルス偶関数 → 余弦展開のみ, 奇数倍周波数のみ残る. で減衰し Gibbs 現象あり. 級数の最初に対称性 (偶/奇) を確認するのが基本.
完全微分の条件
が経路非依存 ポテンシャル で . 単連結領域で同値.
典型ミス
- (1): 非対角成分に を入れる. 正しくは ( の係数を半分ずつ).
- (2): 周期を と取り違える. 「幅 の山と幅 の谷」で周期 .
- (3): の偏微分計算で多項式の係数ミス. 各項丁寧に.
第6問 — II-1 量子力学(磁場中の荷電粒子・Landau 準位)
方針 — 対称ゲージでの Landau 問題
磁場中の 2 次元自由電子問題で, 対称ゲージ を用いると角運動量 が保存される. エネルギー (= Landau 準位 ) と (= 量子数 ) で状態を完全指定. 縮退したエネルギー準位 は無限縮退で, は をとる.
ランダウ準位の最低 () 状態は , . これらは複素変数 の正則関数 に Gauss 因子をかけた形で, ランダウ準位最低状態が「正則関数の空間」と等価という有名な事実 (Lowest Landau Level 正則性).
典型ミス
- (2): で「」の零点エネルギーを正しく出す.
- (3): の符号. が回転の生成子であることを確認.
- (7): は のみ. で原点正則性を要求.
- (8): 励起状態 の最低 は (). を より低く取れない.
背景 — 量子 Hall 効果と最低ランダウ準位
最低ランダウ準位 は分数量子 Hall 効果の舞台. Laughlin 波動関数 が, ここで導いた単粒子 の 多体一般化. 多体波動関数の正則性 (lowest Landau level constraint) と粒子間の交換統計が分数量子 Hall を生む.
第7問 — II-2 統計力学(2 状態 1 次元鎖モデル)
方針 — エラスティック鎖と Ising 鎖の対応
鎖モデルは生体分子 (RNA, DNA) や ゴム弾性のミクロモデルとして頻出. 各要素が 2 状態 (短/長 = /) を取り, 外力 で長くなる方向に偏らせる. 長さの統計が Boltzmann 分布で決まり, vs の関係が 力 - 伸び曲線 (force-extension curve).
[B] では隣接要素の相互作用 を加える. これは Ising 鎖と完全等価で, 1 次元なので有限温度相転移は無いが, 熱容量に Schottky 型のピークが現れる.
転送行列法と外力下での 1 次元 Ising
(4) の は外場 がスピン にかかる Ising 鎖の転送行列に対応. 「Boltzmann 因子」の半分を左右の要素に振り分けることで対称な が作れる. (5) の最大固有値 が, 標準 Ising 鎖の転送行列の固有値と一致.
典型ミス
- (1): の符号. から , .
- (3): が低温・高温で 0 になり中間にピークというのは Schottky 異常熱容量の典型. exponentially supressed at low T, at high T.
- (4): 転送行列の行・列の振り分け方は規約. 半分・半分の Boltzmann で対称化するのが標準.
背景 — DNA 伸長実験と 2 状態モデル
シングル分子 DNA を引っ張る原子間力顕微鏡 (AFM) や光ピンセット実験で, 鎖の長さが力に対して階段的に変化する現象が観測される. 各塩基対が「畳まれた状態」「伸びた状態」の 2 状態を取ると考えると, 本問のモデルがそのまま使え, 力 - 伸び曲線が再現できる. (実際は隣接相互作用 ( 項) が「協同性」を生み, より階段的な遷移になる.)
第8問 — II-3 物理数学(Laplace 変換と微分方程式)
方針 — ODE を代数方程式に
Laplace 変換は 線形微分方程式を 多項式の代数方程式に変える. 微分演算 が乗算 に, 初期条件が代数式の定数項に変わる. 「変換」「代数で解く」「逆変換」の 3 ステップが標準.
ヘビサイド関数 と シフト則 で, スイッチング (=ある時刻からだけ駆動) のような区分的入力も扱える.
典型ミス
- (2): 3 位の極の留数は 2 階微分. の係数を忘れない.
- (5): 初期条件 から境界項が消える. 一般には の 項を残す.
- (6): シフト則を忘れて をそのまま答えると でも非ゼロになり初期条件不適合.
背景 — 制御理論と回路解析
Laplace 変換は線形時不変系の周波数応答 (Bode 線図), 制御系の安定性解析 (極の位置), 電気回路の過渡応答計算で標準ツール. 本問の式 (F) はステップ入力に対する 1 階遅れ + 1 階遅れ系の応答で, 制御理論の最も基本的な過渡応答パターン.
第9問 — II-4 実験(X 線シリコンフォトダイオード)
方針 — 半導体 X 線検出器の動作原理
入射 X 線 Si 原子と光電効果 電子放出 + 二次電離で電子・ホールペアを生成 ( eV/ペア で Si 固有値). この電荷を空乏層中の電場で分離・収集してパルス出力.
電荷有感アンプは「入力電荷を時間積分して電圧化」する標準回路で, 入力電荷量に比例した電圧出力を で減衰. パルス高さがエネルギー比例, パルス幅が時定数 .
典型ミス
- (1) で の単位を間違える. cm 系で揃え, 結果 . 1 桁有効で .
- (2) 逆バイアスの方向: n-type には , p-type には . 順バイアスとは逆.
- (4) 単位: in F, in C, 結果 V. SI 単位を保つ.
背景 — Si(Li) 検出器と Ge 検出器
X 線天文衛星 (XRISM, NICER), シンクロトロン放射光のエネルギー分散検出器に Si(Li) や SDD (Silicon Drift Detector) が広く使われる. より高エネルギー X 線・γ 線には Ge (HPGe) 検出器, 高密度・高吸収率のため.
冷却は基本: 暗電流 で温度依存性が指数的. C C で暗電流が 4 桁減. 但し本問の通り結露問題は同時に発生し, 真空 / 乾燥環境が前提.
第10問 — II-5A 力学(剛体の慣性モーメントと板上の球の運動)
方針 — 「並進 + 回転」のエネルギー分配
転がり問題の鍵は「並進 KE と回転 KE の比 = 」. 球 , 円環 , 円板 , 円柱 で異なる.
- 球が斜面を転がる (3): で, 球は係数 , 摩擦無し滑り落ちなら . 転がりは 倍に速度減少 (一部のエネルギーが回転に行く). - 板を引いて球を回す (4): 摩擦力が球に「回転」だけ付与, 並進は外部から打ち消される.
典型ミス
- (2): 「中心軸まわり」の慣性モーメントは . 直径まわりは (直交軸定理).
- (3): 転がり拘束 を忘れ, を残すと自由度が間違う.
- (4): 摩擦力の向き. 球は静止 () なので重力下降を打ち消す向き = 斜面上向き. トルクは下端に上向きの力でかかるので, 球は時計回り (図の正方向) に角加速.
背景 — Tippe Top と「板を引いて球を回す」
(4) は「板を素早く引き抜くと球が転がり始める」という日常現象の力学的記述. 球の慣性が大きいので並進は遅れ, 板からの摩擦が球に角運動量を与える. テーブルクロスを引き抜く現象も同種.
第11問 — II-5B 電磁気学(導波管モード電磁波の分散)
方針 — 導波管モードの分散関係と「カットオフ」
電場が 方向に有限な依存性 を持つことは, 方向に有限の 導波管 (例: 平行平板間で間隔 ) を伝播する電磁波と等価. の依存性は基本モード ( あるいは ) で, 境界 で電場が 0.
分散関係 から:
- カットオフ周波数 . これより低い周波数 () では になり, 波は伝播せず指数減衰 (evanescent).
- で伝播波となり . は導波管 TE/TM モードの普遍関係.
典型ミス
- (2) 符号: には で が出るが, で 負. これと を比較し符号を誤らない.
- (3): は二乗を取った後の関係. 個別に を求めて積を取ると常に 1.
- (4): 「位相速度がエネルギー伝達速度」と勘違い. 因果律と整合するのは .
背景 — マイクロ波導波管とプラズマ
矩形導波管・円筒導波管は 型分散を持つ. 同型の関係式が プラズマ中の電磁波 (プラズマ振動数 ) でも現れる: . プラズマでは の波が反射 (電離層の AM 波反射, 太陽コロナでの遮蔽).
第12問
この設問は図表を含むため、解説はPDF版でご確認いただけます。
完全な解答(途中式・最終答)はPDFに収録