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京都大学 院試 過去問 解答例

京大 理学研究科 物理学・宇宙物理学専攻 専門科目(物理学) 2023年度 院試 解答例・解説

京都大学 理学研究科 物理学・宇宙物理学専攻 専門科目(物理学) 2023年度の院試 過去問について、設問ごとの解法方針・部分点の置き所を解説。全12問収録の解答・解説PDFと併用できます。問題本文は含みません。

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設問ごとの解法方針・部分点の置き所を無料で公開しています。

完全な途中式・最終答は解答・解説PDFに収録しています。問題本文は含まれません。

1 — I-1 力学(連星系の質量移動とロッシュ・ローブ)

方針 — 連星系を「保存則 + 幾何」の組合せで理解する

連星系の質量移動の議論は次の 3 段階に分けると整理できる.

  1. 軌道力学(Kepler 第 3 法則 + 角運動量): 全質量と分離 rr, 公転周期 PP, 角運動量 JJ の関係.
  2. 質量分配と幾何: 伴星のロッシュ・ローブ体積 VRV_{R}r,m1,m2r,m_{1},m_{2} にどう依存するか(本問は (C) で与えられている).
  3. 質量・角運動量保存からの r˙\dot rV˙R\dot V_{R} の式: (6),(7) のような対数微分の積上げ.

特に (5),(7) は「lnA=(±)lnB\ln A = \sum (\pm)\ln B」を時間微分するだけで議論が進む. 個別の物理量の具体形は最初から最後まで残り続けるので, 対数微分は連星問題の万能ツール.

m1>m2m_{1}>m_{2} なら orbit が広がる物理的意味

(6) で示したように, 伴星から重い星へ質量が移動すると軌道が広がる. これは「軽い星から重い星へ質量を移すと, 重力ポテンシャルの井戸が深くなる(縮む)代わりに, 軌道角運動量を保つには rr が広がる必要がある」という 角運動量保存の幾何的帰結. 直感的には, 系の重心は固定だが, 重心からの距離 r1,r2r_{1},r_{2} の比は質量比で決まり, rr も変化する.

ロッシュ・ローブ・オーバーフロー (RLOF) と ac=3a_c=3

伴星がロッシュ・ローブをあふれて L1 点を通って物質をコンパクト星に流し込む現象を ロッシュ・ローブ・オーバーフロー (RLOF) と呼ぶ. これが激変星(cataclysmic variables), X 線連星, タイプ Ia 超新星の祖先などの主流となる質量移動メカニズム.

(8) の条件式は, 「自然に止まらず継続するためには, 重力波などで角運動量を奪う外部メカニズムが必要」と言っている. 特に LIGO 等で観測される連中性子星合体は, 数億年スケールで重力波で JJ を失い, 最終段階で RLOF の暴走に至るシナリオで議論される.

典型ミス

  • (2) で公転角速度を ω=v/r\omega=v/r(線速度割る半径)と取り違える. 共通重心まわりの公転 ω=2π/P\omega=2\pi/P で両星に共通.
  • (3) Kepler の第 3 法則の mm. 1 体の運動なら m中心m_{\text{中心}} だが, 連星では 合計質量 m=m1+m2m=m_{1}+m_{2}. 還元質量 μ\mu ではない.
  • (6) で「m1<m2m_{1}<m_{2} なら逆転」と一般化しすぎる. (6) で得たのは m˙2<0\dot{m}_{2}<0(m2m_{2} から m1m_{1} への移動)を前提とした結論. 移動方向が逆なら符号も逆.
  • (7) で m˙=m˙1+m˙2=0\dot m=\dot{m}_{1}+\dot{m}_{2}=0 を使い忘れる. 系から質量が抜けない設定なので m˙=0\dot m=0. これがないと答えに m˙\dot m が残る.
  • (8) で不等号の向きを逆にする. VsV_{s}VRV_{R} から離れない(VsVRV_{s}\ge V_{R} を保つ)ためには「VRV_{R} が縮むかゆっくりとしか伸びない」必要があるので, V˙R/VRV˙s/Vs\dot V_{R}/V_{R} \le \dot V_{s}/V_{s}.

検算 — 極限ケース

質量比 q=m2/m1=3/4q=m_{2}/m_{1}=3/4(臨界)で 4m13m2=4m13(3m1/4)=4m19m1/4=7m1/4>04m_{1}-3m_{2}=4m_{1}-3\cdot(3m_{1}/4)=4m_{1}-9m_{1}/4=7m_{1}/4>0, OK.
q0q\to 0 極限(m2m1m_{2}\ll m_{1}): J˙/J4m˙2/(3m2)|\dot J/J|\ge 4|\dot{m}_{2}|/(3m_{2}). 伴星質量が小さいほど, 同じ質量損失率でも条件が厳しくなる(伴星の崩壊が速い). q1q\to 1(m2m1m_{2}\to m_{1}): 4m13m2=m14m_{1}-3m_{2}=m_{1}, 条件は J˙/Jm˙2/(3m1)|\dot J/J|\ge |\dot{m}_{2}|/(3m_{1}). 対称的な状況に近づく.

背景 — Bondi-Hoyle 降着と RLOF の 2 大シナリオ

連星系での質量移動は本問の RLOF の他に, 恒星風による Bondi-Hoyle 降着 もある. RLOF はロッシュ面を介する物質流, Bondi-Hoyle は風を吸い込む形. X 線連星のうち低質量系は RLOF, 高質量系は風が支配するなど, 観測種別の分類の物理的根拠になる.

完全な解答(途中式・最終答)はPDFに収録

2 — I-2 電磁気学(円形コイルの磁場と磁気双極子相互作用)

方針 — 双極子間相互作用は 2/+1-2/+1 パターン

(3) で得た U1=Km2(sinθ1sinθ22cosθ1cosθ2)U_{1}=Km^{2}(\sin\theta_{1}\sin\theta_{2}-2\cos\theta_{1}\cos\theta_{2}) の係数 2-2+1+1 の組合せは, 双極子間相互作用の「軸方向 vs 横方向」の特徴的な比. 軸方向(共線, 同向き)でエネルギーが 2Km2-2Km^{2} で深い極小, 軸横向き同向きで +Km2+Km^{2} で逆に高い. これは「N 極と S 極が直線上に並ぶ方が, 横並びより 2 倍強く引き合う」という双極子の anisotropic な 相互作用の表れ.

なぜ θ1=θ2=π/2\theta_{1}=\theta_{2}=\pi/2 の安定化に外場 33 倍が必要か

外場が無いと θ1=θ2=π/2\theta_{1}=\theta_{2}=\pi/2 は鞍点(あるいは極大). 外場 B0=B0e^x\vec{B}_{0}=B_{0}\hat{e}_{x} が双極子をその方向に揃えようとする力 mB0\propto mB_{0} と, 双極子間の整列力 Km2\propto Km^{2} が拮抗. 安定条件 B0>3KmB_{0}>3Km の係数 33 は, ヘッシアンの非対角成分 2Km2-2Km^{2}(横方向の鞍点をつくる)を打ち消して固有値全部正にする閾値で, mB0Km2>2Km2|mB_{0}-Km^{2}|>2Km^{2} の正の解として出る.

典型ミス

  • (1) で e^z\hat{e}_{z} 以外の成分を残す. コイルが対称(θ[0,2π]\theta\in[0,2\pi] 全てに渡って積分)なので x,yx,y 成分は厳密にゼロ. 計算ミスで残ってしまうと不要に複雑.
  • (2) KK の符号と 1/r31/r^{3} 依存性. (B) の中の符号 - をうまく取り入れないと K<0K<0 になってしまう. 標準的な双極子場の式 3(mr^)r^m3(\vec{m}\cdot\hat{r})\hat{r}-\vec{m} から始めると安全.
  • (3) 鞍点を最小と勘違い. U/θi=0\partial U/\partial\theta_{i}=0 は臨界点を与えるが, 安定 / 鞍点 / 不安定の判定にはヘッシアンが必要.
  • (4) で δ1=δ2\delta_{1}=\delta_{2} に限定して考える. 安定性は すべての (δ1,δ2)(\delta_{1},\delta_{2}) に対して 2 次形式が正であることを要求するので, ヘッシアン行列の対角化(両固有値正)で判定.

検算 — エネルギー最小が物理直感と整合

(3) の最小 (θ1,θ2)=(0,0)(\theta_{1},\theta_{2})=(0,0) は「両棒磁石が zz 軸上で N \to S, N \to S と同じ向きに直線に並ぶ」状況で, N–S 間が近い吸引相互作用が最大. 双極子モーメントを矢印で描けば直感と整合.

(4) の安定条件 B0>3μ0m/(4πd3)=3B_{0}>3\mu_{0}m/(4\pi d^{3})=3 倍の双極子場(ピーク値)以上, は外場が双極子 1 から双極子 2 に届く磁場の 3 倍以上必要, という意味.

背景 — 反強磁性 vs 強磁性の起源

双極子間の磁気相互作用 (3) は強磁性的(同方向に揃う方が低エネルギー)に見える. しかし実際の固体磁性は 交換相互作用(クーロン + パウリ排他律)が主で, ダイポール相互作用はそれに比べて小さい. 本問は古典電磁気の双極子相互作用そのものなので, この強磁性的傾向は古典の結論. 実際の磁性発現の機構は量子力学的.

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3 — I-3A 物理数学(行列冪・Lagrange の未定係数法)

方針 — 行列冪は対角化, 制約付き最大化はラグランジュ

(1) は標準的な対角化問題. 固有値が異なる(対角化可能な)ので A=PDP1A=PDP^{-1} から An=PDnP1A^{n}=PD^{n}P^{-1} が直接得られる. もし固有値が重根のときは Jordan 標準形にすべき. 行列要素が単純な整数なので, 結果も 2n,  5n2^{n},\;5^{n} の和差で書ける.

(2) は楕円体面 g=0g=0 という制約付き極値を求める典型問題. ラグランジュの未定係数法は「制約面上で停留点を探す」道具で, 連立方程式が綺麗にスケールしている場合(本問のように)はそれぞれ x,y,zx,y,z で掛けて xyzxyz という共通量を作るのが王道.

なぜ x2/4=y2/9=z2x^{2}/4=y^{2}/9=z^{2} になるか

ラグランジュ条件から L/xi=0\partial L/\partial x_{i}=0xix_{i} 倍して足し合わせると, 各項が同じ xyz/(2λ)xyz/(2\lambda) になる. これは制約条件の「単位面積あたりの FF への寄与」が均等であるべきという最適化の一般論で, 制約が二次形式の場合に特に綺麗に出る.

典型ミス

  • (1) で固有ベクトル v2\vec{v}_{2} を別の解と混同. 固有ベクトルは定数倍の自由度がある. (1) で P1P^{-1} を計算するときに整合する選び方を維持.
  • (1) の検算を忘れる. A1=AA^{1}=A を確認するだけで型ミスや符号ミスが防げる.
  • (2) で「最大」と「最小」を取り違える. 制約付き極値は最大・最小・鞍点のいずれか. F=xyzF=xyz は連続で, 楕円体はコンパクトなので極大・極小が達成される. 同じ F=2/3|F|=2/\sqrt{3} で最小は 2/3-2/\sqrt{3} になる.
  • (2) で符号の組合せを 4 通りでなく 23=82^{3}=8 通りすべて挙げる. 8 通り中, xyz>0xyz>0 になる(偶数個の負号)4 通りが最大, xyz<0xyz<0 の 4 通りが最小.

検算 — Hadamard の不等式

楕円体 x2/a2+y2/b2+z2/c2=1x^{2}/a^{2}+y^{2}/b^{2}+z^{2}/c^{2}=1 上で F=xyzF=xyz の最大は, 一般に Fmax=abc332(対称性係数)=abc33. F_{\max} = \frac{abc}{3\sqrt{3}}\cdot 2 \cdot \text{(対称性係数)} = \frac{abc}{3\sqrt{3}}. 本問は a=2,b=3,c=1a=2,b=3,c=1abc/(33)=6/(33)=2/3abc/(3\sqrt 3)=6/(3\sqrt 3)=2/\sqrt 3. 答え一致.

背景 — Cayley-Hamilton 定理と行列冪

(1) の AnA^{n} は 2 次行列なので, Cayley-Hamilton 定理(A27A+10I=0A^{2}-7A+10I=0, つまり A2=7A10IA^{2}=7A-10I)から再帰的に計算しても OK. 実際 An=αnA+βnIA^{n}=\alpha_{n}A+\beta_{n}I とおいて, αn+1=7αn10αn1\alpha_{n+1}=7\alpha_{n}-10\alpha_{n-1} と同じ漸化式を解く. 対角化によるアプローチと数学的に等価で, どちらでも到達できる.

ラグランジュの未定係数法は, KKT 条件(不等式制約も含む)の特殊化で, 制約最適化の標準手法. 機械学習の SVM やサポートベクターのマージン最大化など, 統計分野でも頻繁に登場する.

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4 — I-3B 量子力学(ボソン代数とコヒーレント状態)

方針 — コヒーレント状態は古典電磁波の量子表現

コヒーレント状態 α|\alpha\rangle は消滅演算子の固有状態 aα=ααa|\alpha\rangle=\alpha|\alpha\rangle で定義される. 数演算子 NN の固有状態 n|n\rangle ではないが, 展開すると α=eα2/2n=0αnn!n. |\alpha\rangle = e^{-|\alpha|^{2}/2}\sum_{n=0}^{\infty}\frac{\alpha^{n}}{\sqrt{n!}}|n\rangle. cn2=eα2α2n/n!|c_{n}|^{2}=e^{-|\alpha|^{2}}|\alpha|^{2n}/n! がポアソン分布で, パラメータは N=α2\langle N\rangle=|\alpha|^{2}. 平均 == 分散 はポアソンの特徴.

物理的には, 古典電磁場の振幅 αE\alpha\propto E に対応するレーザー光の量子状態. 振幅が大きい(α|\alpha|\to\infty)極限で N2N2/N=1/α0\sqrt{\langle N^{2}\rangle-\langle N\rangle^{2}}/\langle N\rangle = 1/|\alpha|\to 0 となり古典極限に行く.

[N,a]=a[N,a]=-a の物理的意味

Nan=(aNa)n=a(n1)n=(n1)anNa|n\rangle = (aN-a)|n\rangle = a(n-1)|n\rangle = (n-1)\,a|n\rangle. つまり ana|n\rangleNN の固有値 n1n-1 の固有状態. 「aa はボソン 1 個を消す」という言い回しの数式表現. 同様に [N,a]=a[N,a^{\dagger}]=a^{\dagger} から aa^{\dagger} は 1 個生成.

典型ミス

  • (3) で位相の自由度を見落とす. 一般には an=eiϕnnn1a|n\rangle=e^{i\phi_{n}}\sqrt{n}|n-1\rangle で複素位相がある. 通常の規約は ϕn=0\phi_{n}=0 で正の実数を取る.
  • (4) で a2\langle a^{2}\rangle(aa)2\langle (a^{\dagger}a)^{2}\rangle を混同. 後者は数演算子の 2 乗の期待値で, 並べ替えに注意.
  • aaaaa^{\dagger}a\,a^{\dagger}a の整理で aaaa=aaaaa^{\dagger}aa^{\dagger}a=a^{\dagger}\cdot a^{\dagger}a\cdot a と書いて aa=aa+1aa^{\dagger}=a^{\dagger}a+1 を使い損ねる. 正しくは中央 aa=aa+1=N+1a a^{\dagger}=a^{\dagger}a+1=N+1 で展開.

検算 — 数状態 n|n\rangle での揺らぎは 00

数状態 n|n\rangleNN の固有状態なので N2N2=n2n2=0\langle N^{2}\rangle - \langle N\rangle^{2} = n^{2}-n^{2}=0. 一方コヒーレント状態は α2>0|\alpha|^{2}>0 で揺らぎが残る. これが「数状態 vs コヒーレント状態」の根本的な違い.

背景 — コヒーレント状態の応用

レーザー光, 振動子の準古典的状態, ボーズ凝縮の超流動相の記述などに広く現れる. 不確定性関係 ΔxΔp\Delta x \Delta p を最小限(/2\hbar/2)に保つ「最小不確定状態」の代表で, ガウス的波束の最も自然な量子状態.

応用例として, 量子光学のホモダイン測定, 光ファイバ通信の量子限界, 重力波検出器(LIGO)のスクイーズド光などが, コヒーレント状態の代数的性質に依拠している.

完全な解答(途中式・最終答)はPDFに収録

5 — II-1 統計力学(鎖状・樹木状 Ising 模型)

方針 — 移行行列(transfer matrix)の Bethe 格子版

(1)(2) の議論は鎖状 Ising 模型の標準的な「移行行列法」と数学的に同値. 移行行列 T=(eβeβeβeβ) T = \begin{pmatrix}e^{\beta} & e^{-\beta}\\ e^{-\beta} & e^{\beta}\end{pmatrix} の固有値が z±=eβ±eβ=2coshβ,  2sinhβz_{\pm}=e^{\beta}\pm e^{-\beta}=2\cosh\beta,\;2\sinh\beta で, 大きい方 2coshβ2\cosh\beta が熱力学的極限で Zˉnz+n\bar Z_{n}\sim z_{+}^{n} を与える. 物理的に許される(正値性を保つ)固有ベクトルが (1,1)T(1,1)^{T} で, これが Z0(1)=Z0(1)Z_{0}(1)=Z_{0}(-1).

(4) 以降の樹木状(Bethe 格子)では, 1 次元のような移行行列が使えず, 「根の値の比」 yy を順に変換する非線形写像 f(y)=((ay+1)/(y+a))2f(y)=((ay+1)/(y+a))^{2} が rec 系を作る. 写像の固定点 y=1y=1 が「無秩序解」, それ以外の固定点が「秩序解」を表す.

なぜ ac=3a_{c}=3 で相転移

Bethe 格子で, 配位数 qq (ある格子点の最隣接スピンの数)の Ising 模型の臨界点は tanh(βc)=1/(q1)\tanh(\beta_{c})=1/(q-1). 本問の樹木状グラフは「根を除けば内部スピンは親 1 + 子 2 = 配位数 3」. q=3q=3 なら tanhβc=1/2e2βc=3\tanh\beta_{c}=1/2 \Leftrightarrow e^{2\beta_{c}}=3 で, 確かに ac=3a_{c}=3 と一致.

1 次元 (q=2q=2) では tanhβc=1\tanh\beta_{c}=1 となり βc=\beta_{c}=\infty, つまり相転移は T=0T=0 でしか起こらない(本問 (3) でエントロピーが解析的に有限温度では正なのと整合). 2 次元 Ising は本物の相転移(Tc2.27J/kBT_{c}\sim 2.27 J/k_{B})を持つが, それは厳密解 (Onsager) が必要.

典型ミス

  • (2) で z=2sinhβz=2\sinh\beta を採用してしまう. Z0(1)+Z0(1)>0Z_{0}(1)+Z_{0}(-1)>0 から z=2coshβz=2\cosh\beta しか正値性を保たない. 固有ベクトルの正値性まで踏み込むこと.
  • (3) で総スピン数を nn と数える. 鎖は左端 ss も加えて n+1n+1 個. 熱力学的極限では NnN\sim n なので結論には影響しないが, 有限系では区別すること.
  • (5) で平方根を取る際に ±\pm を両方残す. y>0y>0 から y>0\sqrt{y}>0 で正値のみ.
  • (6) の判別式 (1a)24(1-a)^{2}-4(a21)(a^{2}-1) などと展開ミス. 正しく (a3)(a+1)(a-3)(a+1) になることを確認.
  • (7) でTcT_{c} を「秩序-無秩序転移温度」とのみ書く. 強磁性転移なので「キュリー温度 (Curie temperature)」と呼ぶのが標準.

検算 — 鎖の解と Bethe の整合性

鎖は配位数 2 の Bethe 格子(子 1 個)と見なせる. (D) の代わりに Zntree(s)=s1eβss1Zn1tree(s1)Z_{n}^{tree}(s)=\sum_{s_{1}}e^{\beta ss_{1}}Z_{n-1}^{tree}(s_{1})(子 1 個 \to (B) と同じ)で, 比 y=(ay+1)/(y+a)y=(ay+1)/(y+a) から y=1y=1 のみ常に解. 相転移なし(ac=a_{c}=\infty). 1 次元 Ising に有限温度相転移が無いという有名な結果に整合.

背景 — 平均場・Bethe-Peierls 近似

Bethe 格子(無限木)は実空間 DD 次元格子の 平均場近似 の系統的な高度化として歴史的に重要. 1 配位の最近接効果のみ含めるが, 分配関数を厳密に解析でき, 相転移が綺麗な閾値で起こる. 実際の 3 次元立方格子の TcT_{c} は Bethe lattice (q=6q=6) の値と数 \% 程度の精度で一致する.

別解 — 平均場を使った臨界温度

Bethe 格子で平均磁化 mm の自己無撞着方程式は m=tanh(β(q1)Jm). m = \tanh\bigl(\beta\,(q-1)\,J\,m\bigr). m0m\to 0 極限の線形化は 1=β(q1)J1=\beta(q-1)J で, Tc=(q1)J/kBT_{c}=(q-1)J/k_{B}. 一見 βc(1/2)ln3\beta_{c}\ne (1/2)\ln 3 とずれて見えるが, この簡単な平均場は「自分自身の効果」を含めた裸の近似で, 本問の Bethe 解 tanhβc=1/(q1)\tanh\beta_{c}=1/(q-1) より粗い. 厳密 Bethe は反応場の効果を取り込んでいる.

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6 — II-2 量子力学(2 つの井戸とボーズ 2 粒子)

方針 — 2 準位モデルから 2 粒子問題への拡張

(1)–(4) は 2 準位モデルそのもので, σx\sigma_{x} 型の摂動が 2 つの井戸間のトンネルを表す. ここで KK がトンネル振幅, E0±KE_{0}\pm K が結合・反結合準位.

(5) からはボソン 2 粒子. 2 粒子のヒルベルト空間は {LL,LR,RL,RR}\{|LL\rangle,|LR\rangle,|RL\rangle,|RR\rangle\} で, ボーズ統計(対称)を要求すると 3 次元 A=LL,  B=RR,  C=(LR+RL)/2 |A\rangle=|LL\rangle,\;|B\rangle=|RR\rangle,\;|C\rangle=(|LR\rangle+|RL\rangle)/\sqrt 2 だけが許される. (反対称な (LRRL)/2(|LR\rangle-|RL\rangle)/\sqrt 2 はフェルミ統計に対応し本問では除外.)

(7) で D=(AB)/2|D\rangle=(|A\rangle-|B\rangle)/\sqrt 2 が一つの固有状態として分離するのは, 「左右対称な符号付け」の保存量が活きているため. これは「全粒子数」のような量とは別の対称性.

Bose-Hubbard 二量体としての解釈

本問は Bose-Hubbard 二量体 (M=2M=2 サイト, N=2N=2 粒子) の最小モデル. 一般の Bose-Hubbard ハミルトニアンは H^=Ki,j(b^ib^j+h.c.)+U2in^i(n^i1). \hat H = -K\sum_{\langle i,j\rangle}(\hat b_{i}^{\dagger}\hat b_{j}+\text{h.c.}) + \frac{U}{2}\sum_{i}\hat n_{i}(\hat n_{i}-1). 本問の UU は同サイト 2 粒子の オンサイト相互作用エネルギー で, n^(n^1)/2n=2=1n=2\hat n(\hat n-1)/2|n=2\rangle = 1\cdot|n=2\rangle から A,B|A\rangle,|B\rangleUU, C|C\rangle00.

冷却原子の光格子の Mott 絶縁体-超流動転移の最小例で, U/KU/K が小さい(超流動相)と C|C\rangle 系の混合が大きい delocalized 状態, U/KU/K が大きい(Mott 相)と A,B|A\rangle,|B\rangle への分布が小さい localized 状態.

典型ミス

  • (2) で固有ベクトルの符号を間違える. K>0K>0 の符号と H^\hat H の非対角要素 K-K の関係から, 結合(対称)が の状態.
  • (4) で時間発展に係数 ii を忘れる. R|R\rangle の振幅は isin(Kt/)i\sin(Kt/\hbar). これは ge|g\rangle-|e\rangle の差から sin\sinR|R\rangle の係数として出る符号に注意.
  • (5) でフェルミ統計の反対称化と取り違え. ボソンは粒子交換 対称++, フェルミオンは反対称で -.
  • (6) の非対角要素の係数 2\sqrt 2 を忘れる. C|C\rangle の規格化定数 1/21/\sqrt 2 に由来. 計算は丁寧に.
  • (7) で D|D\rangle の分離を見落とし 3×33\times 3 を直接固有値計算. 対称性で先に D|D\rangle を分離すると 2×22\times 2 で済んで楽.

検算 — U=0U=0 極限

無相互作用なら, 2 粒子ボーズ凝縮は両粒子を 1 粒子基底 g|g\rangle に詰めるだけ: g1g2|g\rangle_{1}|g\rangle_{2}. エネルギー 2(E0K)=2E02K2(E_{0}-K)=2E_{0}-2K.

(7) の式に U=0U=0 を代入: 2E0+0(1/2)0+16K2=2E02K2E_{0}+0-(1/2)\sqrt{0+16K^{2}}=2E_{0}-2K ✓.

g1g2|g\rangle_{1}|g\rangle_{2}{A,B,C}\{|A\rangle,|B\rangle,|C\rangle\} で展開すると g1g2=(L+R)1(L+R)2/2=(A+B+2C)/2|g\rangle_{1}|g\rangle_{2}=(|L\rangle+|R\rangle)_{1}(|L\rangle+|R\rangle)_{2}/2 = (|A\rangle+|B\rangle+\sqrt 2|C\rangle)/2. 規格化, S=(A+B)/2|S\rangle=(|A\rangle+|B\rangle)/\sqrt 2 を使うと g1g2=(S+C)/2|g\rangle_{1}|g\rangle_{2}=(|S\rangle+|C\rangle)/\sqrt 2, ちょうど S|S\rangle-C|C\rangle ブロックの低エネルギー固有状態.

背景 — Mott 転移と Hubbard 模型

本問は 2 サイト Bose-Hubbard で, KUK\gg U(運動エネルギー支配)→ 超流動的, UKU\gg K(オンサイト相互作用支配)→ Mott 絶縁的. 2 サイトでは「相転移」は起こらないが, 多サイト化した光格子で Greiner らによって観測された Mott-superfluid 転移(2002 年)の本質的物理は, この 2 サイトモデルにすでに含まれている.

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7 — II-3 実験(熱容量計の解析)

方針 — 熱容量計は 1 次系 (LPF)

熱容量計の応答関数は 1 次の低域通過フィルタ. ヒーター発熱 P(t)P(t) が入力, 試料温度 T(t)T(t) が出力で, 伝達関数は H(ω)=T0P0/C=1ω2+ω02  ,    ω0=Λ/C. H(\omega) = \frac{T_{0}}{P_{0}/C} = \frac{1}{\sqrt{\omega^{2}+\omega_{0}^{2}}}\;,\;\;\omega_{0}=\Lambda/C. カットオフ周波数 ω0\omega_{0} より低周波では T0P0/ΛT_{0}\to P_{0}/\Lambda で一定(熱浴に逃げる), 高周波では T01/(Cω)T_{0}\propto 1/(C\omega) で減衰(試料の熱容量が応答を決める). 「熱容量を測りたいなら, 熱浴への漏れより速く揺らせ」が要点.

なぜ振動電流 IH0cos(ωt/2)I_{H0}\cos(\omega t/2) なのか

電流が cos(ωt/2)\cos(\omega t/2) なら発熱は cos2(ωt/2)=(1+cosωt)/2\cos^{2}(\omega t/2) = (1+\cos\omega t)/2 で角周波数 ω\omega の振動成分が綺麗に出る. 直接 cos(ωt)\cos(\omega t) の電流を流すと発熱は cos2(ωt)=(1+cos2ωt)/2\cos^{2}(\omega t) = (1+\cos 2\omega t)/2 で角周波数 2ω2\omega になり, 周波数解析が混乱する. 「測定したい角周波数を電流の 2 倍にする」のは AC 熱容量計測の定石.

典型ミス

  • (1) で断面積 A=πd2A=\pi d^{2} と書く. 正しくは A=π(d/2)2=πd2/4A=\pi (d/2)^{2}=\pi d^{2}/4. 直径と半径の混同に注意.
  • (2) で半角公式を使い忘れ P0=IH02RHP_{0}=I_{H0}^{2}R_{H} とする. cos2\cos^{2} の平均は 1/21/2, 正しくは P0=IH02RH/2P_{0}=I_{H0}^{2}R_{H}/2.
  • (4) で位相 δ\delta00 と仮定. 入力 cosωt\cos\omega t と出力 T0sin(ωt+δ)T_{0}\sin(\omega t+\delta)π/2\pi/2 程度位相がずれる. これを δ=φ=arctan(Λ/(Cω))\delta=\varphi=\arctan(\Lambda/(C\omega)) で正確に決める. ωω0\omega\gg\omega_{0} では φ0\varphi\to 0, ωω0\omega\ll\omega_{0} では φπ/2\varphi\to\pi/2.
  • (5) で「低周波で CC が決まる」と勘違い. 低周波極限 T0P0/ΛT_{0}\to P_{0}/\Lambda には CC が現れない. 必ず高周波(短周期)を使う.
  • (6) で 1 つの ω\omega だけで CC を決める. 誤差の小さい複数のデータ点で確認するのが実験の定石.

検算 — ω0\omega_{0} と低周波値

ω0=Λ/C=1.0×105/6.9×1050.145  s1\omega_{0}=\Lambda/C = 1.0\times 10^{-5}/6.9\times 10^{-5}\approx 0.145\;\text{s}^{-1}. これより低周波(例 ω=0.1\omega=0.1)で T0P0/Λ=2.0×105/1.0×105=2.0  KT_{0}\to P_{0}/\Lambda = 2.0\times 10^{-5}/1.0\times 10^{-5} = 2.0\;\text{K}. 表の ω=0.1\omega=0.1 では T0=1.6454T_{0}=1.6454. ちょうど低周波極限近く(完全には到達せず, ωω0\omega\sim\omega_{0} を経る途中)で, 値の傾向と整合.

逆に ω=0.5\omega = 0.5T0=0.556T_{0}=0.556. (B) で ω2+ω02=0.25+0.0210.271\omega^{2}+\omega_{0}^{2}=0.25+0.021\approx 0.271, 0.520\sqrt{}\approx 0.520. T0=P0/(C)=2.0×105/(6.9×1050.520)0.557T_{0}=P_{0}/(C\cdot\sqrt{}) = 2.0\times 10^{-5}/(6.9\times 10^{-5}\cdot 0.520) \approx 0.557. 観測値と一致.

背景 — AC 熱容量法とリラクゼーション法

実験室の熱容量測定には主に 2 法:

  • AC 法(本問): ヒーターを正弦的に駆動して試料温度の AC 振幅から CC を出す. 速い熱容量変化を追える.
  • 緩和法 (Quantum Design 社の PPMS など): ヒーターをパルス的に切り, 試料温度の指数的緩和から Λ\LambdaCC を別々に決める.

両者の使い分けは, 試料の熱結合度合い・測定したい温度範囲・要求精度などによる. 本問の AC 法では (5) の解析からも分かるように ω0\omega_{0} 周辺で位相 φ=π/4\varphi=\pi/4 の特徴が出るので, ロックインアンプで振幅と位相を分離測定するのが標準.

完全な解答(途中式・最終答)はPDFに収録

8 — II-4 英語(公開版で本文省略)

この設問を一般対策に置き換えない

本問の問題点は英語力そのものではなく, 公開PDFに解答決定に必要な英文が残っていない点にある. したがって, 単なる「英文読解のコツ」を並べても年度別解答にはならない. 年度別資料としては, どの小問がどの欠落情報に依存しているか, どこまでなら公開版から検証できるかを明示する必要がある.

部分点の置き所

原文が手元にある受験生なら, (a),(c),(d) では候補語を選ぶだけでなく, 下線語の周辺文脈を1行メモしておくと誤読を減らせる. (b) は冠詞の規則を暗記するより, 各名詞句について「可算単数か」「既出か」「一意か」の順で判定する方が安定する. (h) は選択肢ごとに本文の根拠行を付けると, 自分の意見で選んでしまうミスを防げる.

自由英作文で落としやすい点

(i) は30語以上という条件だけを満たしても, ``this'' の指示対象が不明確だと答案として弱い. 原文中の出来事・制度・傾向を1文目で具体的に言い直し, 2文目以降で日本にとっての利益または不利益を述べる. 反対側の懸念を1つ入れると, 本文を踏まえたバランスのよい答案に見えやすい.

公開版PDFでの限界

公開PDFに空白化された英文や選択肢を, 推測で補って「正解」として載せるのは危険である. 本資料では, 不明箇所を不明として扱い, 原文確認ができる場合に答案化するための設問別の判定手順を示した. これにより, 少なくとも公開PDFと照合したときに「実在しない本文に基づく断定」を避けられる.

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