京都大学 院試 過去問 解答例
京大 理学研究科 物理学・宇宙物理学専攻 専門科目(物理学) 2022年度 院試 解答例・解説
京都大学 理学研究科 物理学・宇宙物理学専攻 専門科目(物理学) 2022年度の院試 過去問について、設問ごとの解法方針・部分点の置き所を解説。全12問収録の解答・解説PDFと併用できます。問題本文は含みません。
最終更新:
設問ごとの解法方針・部分点の置き所を無料で公開しています。
完全な途中式・最終答は解答・解説PDFに収録しています。問題本文は含まれません。
第1問 — I-1 量子力学(2 次元等方調和振動子と一様磁場)
方針 — は「左右回り励起」の生成子
2 次元等方調和振動子は, 方向の独立な調和振動子として量子化するか, あるいは「右回り(角運動量 )」「左回り(角運動量 )」の独立な 2 モードに分解するかで等価. 後者のモードは で定義され, . すなわち は左回り励起( の角運動量), は右回り励起(). この見方をすると (3) の交換関係が「 は を 上げ, を 上げる」という記述で透けて見える.
なぜ の固有値が 2 つの独立振動子の和になるか
は, 2 次元等方調和振動子の 置換 補正. は の対角化基底でも対角なので, 2 つは同時に対角化できる. 結局 ここで . 強磁場極限 では となり, モードがランダウ準位の縮退方向(各ランダウ準位内の状態を指定する)を担うことが分かる.
ベクトルポテンシャルの選び方とゲージ
(B) は対称ゲージ に他ならず, この選択は問題設定の中心力 の対称性(回転対称)と相性が良い. ランダウゲージ を選ぶと並進対称性が一方向で簡単化される代わりに との関係が見えにくくなる. 「 を保存量にする」目的で対称ゲージを選んだ問題と理解できる.
典型ミス
- (2) で零点エネルギー を忘れる. 各方向に ずつあり合計 .
- (3) を昇降演算子で書く際の符号. から始めて, 中点で などが出るが, モードが独立なので . 慎重に.
- (5) で ではなく になる. の符号を確認すること( の定義).
- (7) で の最大値を ではなく と勘違い. で .
- (8) で「(b) は で水平」と書く. (a) のみ水平で, (b) は線形傾き が残る. となるのは か の場合だけ.
検算 — 角運動量保存と縮退度
(3) で になることは, ハミルトニアンが回転対称(中心力ポテンシャル + ベクトルポテンシャル無し)である事実の言い換え. 一方, が保存量であることから, エネルギー準位の縮退は の固有値の数で説明できて .
(7) を , で評価すると , . 後者は粒子無しなのでゼロが正しい. 前者は 個の状態すべてのエネルギーの和で, の総和がゼロ()になるので から も整合する.
背景 — Fock-Darwin スペクトルとランダウ準位
このハミルトニアンは Fock-Darwin スペクトルとして知られ, 量子ドットの低エネルギー物理の標準モデル. 強磁場極限でランダウ準位( または )に, 弱磁場極限で 2 次元調和振動子(ゼーマン分裂のみ)に連続的に補間する. (8) のグラフは, 半導体量子ドットでの磁気光学スペクトルの実測パターン(Aufbau 原理 + Hund 則の競合)の出発点.
第2問 — I-2A 電磁気学(電気双極子・四重極子)
方針 — 多重極展開を「打ち消し合いの順序」で見る
電荷分布を遠方から見るときの 展開:
- (単極子): 全電荷.
- (双極子): 電気双極子モーメント .
- (四重極子): 電気四重極子テンソル.
本問の (2 電荷の双極子)は全電荷 なので単極子項が消え, 双極子項が先頭. は全電荷 かつ双極子モーメント なので, 四重極子項が先頭. は全電荷 なので単極子項が先頭になる. これを見抜けると, 計算前から「先頭の落ち方」が予測できる.
展開の使いどころ
を の小さい場合に展開するときは, 中身を完全平方の形 に整理してから (A) を使う. このとき注意すべきは「次数」:
- の 1 次 のみ取れば双極子レベル(問 (2)).
- 2 次 まで取れば四重極子レベル(問 (4),(6)).
で そのものに の寄与もある(問 (4) の 項)ので, から出る も忘れないこと.
典型ミス
- (1) の概略図で原点でゼロにし忘れる. .
- (2) で の項を残す. 全電荷 なので は完全に打ち消し合う. 計算結果が の形になるなら符号ミス.
- (3) で電場を だけにしてしまう. 微分の連鎖則で から出る の項を忘れない.
- (4) で 展開の係数 を にする. の 2 次係数は .
- (5) の で の冪を間違える. なのに なので になる().
- (6) で の先頭を と書く. 全電荷 なので単極子項 が先頭.
検算 — 双極子モーメントのチェック
(2) の結果は, 双極子モーメント定義から導いた一般公式 そのもの. 双極子の方向 で確認すると , よって が我々の式と一致.
(4) の極限を確認. (極軸方向)で , . (赤道面)で , . 物理的には, 極軸近傍は に近く, 赤道面は の影響が相対的に大きいので符号は妥当.
背景 — Legendre 多項式と多重極子
の展開係数は本質的にルジャンドル多項式 で, 一般に 四重極子の角度依存 はこの展開の 成分. (5) の に現れる も, から自然に出てくる結果.
第3問 — I-2B 物理数学(1 次元波動方程式の初期値問題)
方針 — d'Alembert 解の物理的解釈
1 次元波動方程式 (A) の特性曲線(波が進む直線)は で, この線に沿って位相情報が保存される. 変数変換 はこの特性曲線を新しい座標軸に取ったもので, 方程式が という最も単純な形になる. 解は「左進行波 」と「右進行波 」の重ね合わせ.
初期速度ゼロ条件と「半分ずつ分裂」
初期速度がゼロのとき, から ( 定数)となり, 初期波形が左右にちょうど半分ずつ分裂する形で進む. これが (6) の式 ( は初期波形)の意味. 一般の(初期速度 )場合は d'Alembert の公式 で表され, 第 2 項が初期速度 の寄与を担う.
典型ミス
- (2) で と符号を取り違える. なので , なので . したがって .
- (4) で を ではなく と書く. 連鎖則で外側微分 .
- (5)(6) の積分定数を最終解に残す. は かつ が の形でしか効かないので消える. 任意定数を残すと初期条件と矛盾(無限大に発散しないため で抑えても定数のみ残るのは不合理).
- (7) で のピーク位置を などにする. で なら . 単位の整合性に注意.
検算 — 波動方程式の直接代入
(6) の解が (A) を満たすかを確認: このように と一致する. 簡単にチェックするには「左進行と右進行のそれぞれが波動方程式を満たす」ことだけ確かめれば線形性で十分.
背景 — Cauchy 問題の well-posedness
本問の初期値問題は, と の 2 つの初期データから一意な解を構成する Cauchy 問題. 1 次元波動方程式は典型的な双曲型方程式で, 任意の連続な初期値に対して d'Alembert 解が古典解を与える. これが熱方程式や波動方程式 + 散逸など他の PDE の解析の出発点.
第4問 — I-3A 力学(回転系・コリオリ力・ラーモア定理)
方針 — 「ベクトルの時間微分公式」を 2 度使う
(A) はベクトル一般に対する公式で, 回転系で見た時間微分 と慣性系の の関係. (1) でやるべきことは「 への適用 → 」を出発点に, さらに「 という ベクトル に同じ公式を適用する」こと. 公式を 2 段階で用いる感覚さえ掴めば, 加速度が「真の加速度 2 倍コリオリ 遠心」の 3 項に分解されるのは機械的.
Larmor 定理の意味
(3) の結論は ラーモアの定理: 弱い磁場のもとで, ラーモア角速度 で回転する系を取ると, 磁場が までは消え去って見える. これは原子物理での「ゼーマン効果は磁場 1 次に比例」「反磁性は磁場 2 次」という階層構造の力学的根拠. 第 1 問 (5)(6) の Fock-Darwin スペクトルでも, の項としてこの定理が顔を出している.
典型ミス
- (1) の係数 2 を忘れる. コリオリ項に という 倍 が現れるのは, の時間微分から 1 つ, さらに (A) を 2 度目に当てる際にもう 1 つ, 同じ が出るため.
- (2) で と取り違える. Lorentz 力は 慣性系での 速度 に依存. 回転系の速度 ではない.
- (3) で と書く(2 で割らない). これはサイクロトロン振動数で, Larmor 振動数の倍. Larmor 振動数は .
- (3) で符号を逆にする. , が 方向のとき, ラーモア角速度は 方向(粒子の磁気力による旋回方向と逆向きの 半分). 物理的に, 磁場による旋回の半分速度で逆方向に回ると, 系から見て磁場効果が消える.
検算 — 単位と次元
の次元: . 確かに角速度の次元(rad/s).
(1) の関係式 を地球の自転(東京で北を見て)に適用すると, 地球表面で右(東向き)に投げた物体は北半球で右側にずれる. これがコリオリ力の有名な台風や貿易風の説明.
背景 — Larmor 定理と磁気力学
ラーモア定理は弱磁場での近似的な等価性で, 中心力ポテンシャル下での電子の運動を, 磁場無し問題に「ラーモア回転」を加えただけのもので近似できる. これが原子の磁気モーメントの計算で, 「軌道角運動量と磁場が結合して のゼーマン項を生む」ことの古典的根拠. 反磁性()を生む遠心力ポテンシャルの 項からは, 磁場 2 次の補正として Langevin の反磁性公式が導かれる.
第5問 — I-3B 熱力学(熱力学的考察によるシュテファン・ボルツマン則)
方針 — 熱力学だけで温度依存性を絞り込む
光子気体の状態方程式について必要な情報は次の 2 点だけ.
- 圧力とエネルギー密度の比例関係 (電磁場の Maxwell 応力テンソルから).
- ( に依存しない. 強度パラメータが温度のみ).
これと熱力学関係式 を組み合わせると, の温度依存性が「変数分離型 ODE」 で決まり, 解 が出る. 微視的物理(光子の 2 偏光自由度 ボーズ統計 分散 )無しで 依存性が決まるのが熱力学の威力.
なぜ となるか
これは「電磁波が真空中で速さ で進む」「3 次元等方的に運動量を運ぶ」ことと相対論から導かれる. ざっくり言うと, 光子気体の応力テンソル の対角成分が (, 各方向に等しく等方圧). 物質粒子(非相対論的理想気体)では (粒子 1 個あたりエネルギー , 圧力 から ). 一般に超相対論極限で になる.
典型ミス
- (1) で に化学ポテンシャル項 を含めない. 光子気体では (光子は数が保存しない)から本問では問題にしないが, 一般の系では含める必要がある.
- (2) で Maxwell 関係を間違える. から導く式は . や から導く別の Maxwell 式と取り違えない.
- (3) で と書いて 依存性を残す. 光子気体の特殊性として は強度量で, 体積を変えても変わらない. これは「化学ポテンシャル かつ 1 種類の素粒子のみ」という条件から従う.
- 微分方程式の符号. から で . 「3 と 4」を混同しないこと.
検算 — 古典理想気体での同じ手続き
古典理想気体は , すなわち . . 理想気体の内部エネルギーが に依存せず温度のみで決まる, という有名な事実が同じ Maxwell 関係から従う. (3) と同じ手順を「光子気体に対する状態方程式 で動かす」のが本問の構図.
背景 — Stefan-Boltzmann 定数とランプの色温度
から「単位面積あたりの放射エネルギー流」 () が出る. これは恒星のスペクトルや黒体放射, 太陽電池の効率(Shockley-Queisser 限界)の計算で繰り返し使われる基本式. (1)-(3) のように 1 ページで導けるのが熱力学の力.
第6問 — I-3C 物理数学(ベクトル解析・連立 ODE・無限積分)
方針 — 「テンソル成分」と「ベクトル形」を行き来する
(1) は典型的な「レビ・チビタ記号 + 縮約公式 」のパターン. ベクトル恒等式は丸暗記より, 成分で 3 行で導けるようにしておくと圧倒的にロバスト. 中央の縮約 さえ覚えればよい.
連立 ODE は固有値問題に帰着
線形定数係数の連立 ODE は, 行列 を作ってその固有値・固有ベクトルを求めれば終わり. 解は . 本問は 行列で固有値が異なる(対角化可能)ケース. 重根や複素固有値があれば Jordan 標準形や への変換が必要だが, 本問は素直.
典型ミス
- (1) で縮約 の符号. で, 添字の対応は「1 番目同士・2 番目同士」.
- (2) で と符号を逆にする. 正しくは . これは多くの教科書で間違えやすい点.
- (3) で の取り方を にして固有値・固有ベクトルを誤る. の順を一貫させること.
- (4) で項別積分の正当化を忘れる. テイラー級数 は でしか収束しないが, までの広義積分が収束(被積分関数 が で可積分: が積分可能な特異点)するので Abel の定理(あるいは単調収束)で項別積分が正当化される.
検算 — Spence 関数(ジロサインドラー積分)
は二重対数関数(dilogarithm). 本問の積分は そのもの. これは Euler によって 1735 年に解決された有名な「バーゼル問題」 の積分表示.
背景 — Helmholtz 分解と (B) 式
(B) は流体力学の Bernoulli 則の出発点. 非粘性流体の Euler 方程式 で, と (B) の符号反転を使うと「定常で渦無しの流れでは 一定」が出る. (1) は単なる代数的恒等式に見えて, 流体力学・磁場の MHD まで波及する基本ツール.
第7問 — I-3D 量子力学(角運動量の合成)
方針 — 「最高ウェイト + 降下」で Clebsch-Gordan 展開を作る
角運動量合成の Clebsch-Gordan 係数を導くアルゴリズム:
- 合成系で最高の を持つ状態は 1 通りに決まる(両側で最高ウェイトを取った積状態).
- これに を順に作用させて, 同じ 多重項の他の状態を得る.
- 異なる の最高ウェイト状態は, 与えられた の部分空間内で既に得た に直交するように構成する.
- ステップ 2 と 3 を繰り返して, すべての を生成.
本問 (1)–(3) はまさにこの手順. (4) では (i) のステップで, スピン の最高 から を 1 回適用して を出している.
なぜ は反対称か
(3) の が「2 粒子交換について反対称」なのは, スピン の合成系は シングレット(回転対称な唯一の状態)であり, スピン部分の対称性は粒子交換について反対称になる. これは 2 電子の場合「スピン反対称 → 軌道対称(空間に対称)」となり, 化学結合の covalent 結合(分子軌道のシグマ)と整合する.
逆に の トリプレット () は対称な部分空間, 軌道反対称となるので Hund 則(同じスピンで電子が並ぶ方が安定)を理解する基礎.
典型ミス
- (2) で規格化定数 を にする. 2 つの規格化された直交状態の和の規格化は . 「2 つあるから 1/2 で割る」と勘違いしないこと.
- (3) で の符号を逆にする. 規約的には を正にとる(Condon–Shortley 規約)のが標準. 全体に絶対値の符号は物理に効かないが, テキスト間で食い違いが出やすい.
- (4) で の係数 を取り違える. 上昇演算子は で対比的. 公式自体を覚えるか, の対角化から導けるようにしておく.
- (4) で全状態 を だけで終わらせる. も足し合わせるのが正しい(両者とも の部分空間に居る).
検算 — 規格化と直交性
(2) と (3) を内積で確認: ✓. ✓ (符号差で打ち消し). ✓.
(4) も同様に で規格化されている.
背景 — Clebsch-Gordan 表と既約分解
スピン の合成は次のように既約分解される: 本問の (3) は の構成, (4) は の構成. Clebsch-Gordan 係数表(-symbol や -symbol)はこれを系統的にまとめたもの. 多体系のスピンや原子の項記号(例 )を扱う場合に必須の道具.
第8問
この設問は図表を含むため、解説はPDF版でご確認いただけます。
完全な解答(途中式・最終答)はPDFに収録第9問
この設問は図表を含むため、解説はPDF版でご確認いただけます。
完全な解答(途中式・最終答)はPDFに収録第10問
この設問は図表を含むため、解説はPDF版でご確認いただけます。
完全な解答(途中式・最終答)はPDFに収録第11問
この設問は図表を含むため、解説はPDF版でご確認いただけます。
完全な解答(途中式・最終答)はPDFに収録第12問
この設問は図表を含むため、解説はPDF版でご確認いただけます。
完全な解答(途中式・最終答)はPDFに収録