東京大学 院試 過去問 解答例
東大 数理科学研究科 数理科学専攻 専門科目B 2024年度 院試 解答例・解説
東京大学 数理科学研究科 数理科学専攻 専門科目B 2024年度の院試 過去問について、設問ごとの解法方針と確認点を解説。全18問収録の解答・解説PDFと併用できます。問題本文は含みません。
最終更新:
設問ごとの解法方針と確認点を公開しています。
続きの途中式・最終答は解答・解説PDFに収録しています。問題本文は含まれません。
第1問 — 冪零行列のSL共役類
分裂判定の見方
共役を 共役へ直すには,既に得た共役行列の行列式を中心化群の元で補正できればよい。補正に必要なのは「負の行列式をもつ中心化元があるか」である。
型 の注意
2つの Jordan ブロックを交換する行列は存在するが,2次元ブロック同士の交換なので行列式は である。ここを1次元の交換と同じように見てしまうと,分裂数を誤る。
第2問 — 曲線特異点とHom加群
正規化で見る
この問題は という平面曲線特異点を で正規化して見ると計算が急に短くなる。イデアル商は「どの指数の単項式が残るか」という半群計算に変わる。
よくある誤り
を単に や と同一視してはいけない。重要なのは で割った後に を保つ元全体であり,その結果として という別の cusp 型の環が現れる。
第3問 — 切断された次数付き加群
局所環的な構造
自己準同型環が のように「体 + 冪零イデアル」になっていることが本質である。このような環は局所環であり,局所環上の冪等元は と しかない。
答案で書くべき点
直既約性は「射影が自明」と言い換えるのが最短である。直和分解から射影が出ること,逆に非自明な射影があれば直和分解が出ることを明記すると論理が閉じる。
第4問 — 有理関数体上の分解体
指数で考える
は , は を要求する。したがって合成体では を同時に見ることになり,最小公倍数として が現れる。
2次部分体の数え方
2次部分体を直接列挙するより,Galois 群から への指標を数える方が安全である。最後に「 に含まれない」という条件を, を固定する部分群で指標が非自明になることとして処理する。
第5問 — Hopf 写像と球面上の円
射影直線として見る
Hopf 写像は と見ると分かりやすい。実2次元部分空間は の中の実射影直線、つまり円を与える。
反例の作り方
閉曲線上の積分をすべて0にしたいときは,完全形式 を使うのが最も簡単である。 は非零でも,閉曲線に沿う積分は常に0になる。
第6問 — 円板上の共形計量と測地線
計量の読み替え
与えられた計量は Poincare 円板計量と定数倍だけ違う。したがって測地線の形は同じで,原点からの測地線は半径線分である。
穴を避けるときの注意
穴を避ける曲線列で長さの下限には近づけるが,穴を通る測地線そのものは使えない。したがって「下限がある」ことと「最小値がある」ことを区別する必要がある。
第7問 — 球面上の距離型関数
内積だけに落とす
と変形すると,問題は球面積上の内積関数の臨界点に帰着される。最小は ,最大は である。
正則値部分のパラメータ
では, は 方向の成分と接空間方向の単位ベクトルで一意に表せる。この分解が を与える。
第8問 — 有限群作用の商空間とホモロジー
作用の分解
直接 で割るより,まず ,次に で割ると見通しがよい。偶置換は に何もしないので,残りは「反射の写像トーラス」になる。
向き反転が を生む
反射は の基本類に 倍で作用する。そのため となり, が に現れる。
第9問 — 測度収束と二重極限
支配収束との違い
で でも, なら定数 の部分は可積分支配にならない。反例ではこの「小さい定数が無限個ある」効果を使っている。
二重極限は単調性で処理する
両方向に減少なら反復極限は共通の下限になる。一方,片方が増大,片方が減少の場合は順序交換ができず,数え上げ測度の例で差が出る。
第10問 — Young の不等式の等号条件
畳み込みを掛け算にする
畳み込み作用素の ノルムは Fourier 側で による掛け算作用素のノルムになる。したがって本質は の等号条件である。
等号条件
積分の三角不等式 で等号が成り立つのは, の偏角がほとんど至るところ一定のときである。この一点を明確に書くと答案が締まる。
第11問 — 半線形熱方程式の爆発判定
空間平均に落とす
Neumann 条件により Laplacian の積分が境界で消えるため,偏微分方程式は空間平均についての微分不等式に落ちる。凸性は Jensen の不等式として使う。
爆発時刻の比較
の解は で評価される。積分が有限なら,平均値は有限時刻で無限大に到達せざるを得ず,古典解の存在と矛盾する。
第12問 — 多重対数関数の解析接続
微分方程式で帰納する
多重対数型関数は という関係でつながっている。 の対数から出発し,積分で上の次数へ進むのが自然である。
最後の落とし穴
では を避けるため問題がない。しかし では曲線が に到達できる。 周りのモノドロミー後には 型の項が出るため, で正則に続かなくなる。
第13問 — q対数型関数
-Pochhammer 記号
は と見ると一気に扱いやすくなる。関係式 も,積の最初の因子が外れるだけで説明できる。
符号確認
である。最後の式は になるので,符号を逆にしないよう注意する。
第14問 — 調和振動子のコヒーレント状態
状態の意味
は消滅演算子の固有状態、すなわち調和振動子のコヒーレント状態を表している。実数 の場合,位置の平均だけが だけずれ,運動量の平均は0である。
Heisenberg 表示
演算子を時間発展させると,古典的な調和振動と同じ方程式 を満たす。したがって期待値も同じ余弦運動をする。
第15問 — Newton 法の収束評価
2次収束の意味
は誤差の指数が毎回ほぼ2倍になることを意味する。そのため のような二重指数スケールで補正しても有界になる。
凸な場合
凸性があると Newton の接線の根は常に真の根 へ向かう側に現れる。関数値があまり減らない段階では導関数が大きく下がるため,同じ現象は何度も続けて起こらない。このつり合いが の二乗和を抑える。
第16問 — Craig 補間定理と無矛盾性
補間定理の使いどころ
矛盾を「 側がある文を強制し, 側がその否定を強制する」という形に分解するのが Craig 補間定理である。共通言語が小さいほど強い制約になる。
等号だけの文
等号だけの閉論理式は,有限濃度についての条件しか表せない。無限モデル同士を区別できないため,片方で真,片方で偽という補間文は作れない。
第17問 — 隣接依存をもつ指数分布列
依存は隣だけ
は だけから作られる。そのため と が共有する乱数を持つのは の場合だけである。
相乗平均への変換
は相乗平均なので,対数を取ると算術平均 になる。確率収束は連続写像定理でそのまま移せる。
第18問 — 分散パラメータの最尤推定
条件付きで見る
が観測されているので,まず を固定した正規分布として扱うのが自然である。すると となり,最尤推定量の平均と分散がすぐ出る。
分散比較
は をそのまま平均してから補正するため,ばらつきの大きい に余計な重みを与える。Cauchy--Schwarz によって,この重み付き推定量の分散が最尤推定量以上になることが分かる。