院試hub

東京科学大学 院試 過去問 解答例

東京科学大 情報理工学院 数理・計算科学系 専門科目(数理・計算科学) 2025年度 院試 過去問 解答例・解説(全12問)

全12問。情報1問・線形代数1問・複素解析1問。テーマタグは8件(固有値・固有ベクトル・重積分と極座標・正定値行列)。2024年度と共通のテーマは固有値・固有ベクトル・重積分と極座標・一様収束。

最終更新:

このページで公開
解説12問と大問1問の途中式・最終答(全12問)
解答PDFに収録
途中式と最終答(最終答つき12問)
問題本文
非収録

東京科学大 専門科目(数理・計算科学) 2025年度 院試 過去問の出題内容(全12問)

この12問の分野は情報1問・線形代数1問・複素解析1問です。

大問分野主題解説の小見出し最終答
第1問線形代数核と固有値核は方程式を減らして見る / 直交補空間の求め方あり
第2問—三次曲線と極値対称性は式の不変性で確認する / 極値判定あり
第3問—論理和標準形真理値表からの標準形 / シングル型が弱い理由あり
第4問複素解析複素数体の環表示見えている構造 / 商環の元は一次式で代表できるあり
第5問—Diniの定理Diniの定理そのもの / 増大する開被覆を使う理由あり
第6問—減衰波動方程式エネルギー法の核心 / 境界項が消える理由あり
第7問—線形計画法双対の符号規則 / 相補性を使うと計算が短いあり
第8問—幾何分布と指数分布幾何分布の取り方 / ランダム和は母関数に代入するあり
第9問—対数正規分布の推定対数を取れば正規分布 / 最尤推定量あり
第10問情報有限オートマトン二の補数は下位ビットから読む / ポンピング補題の文字列選びあり
第11問—フィボナッチ数の計算量値の大きさも計算量に入れる / 再帰版は呼び出し木で指数的あり
第12問—OSとスケジューリング用語問題の書き方 / 非プリエンプティブの影響あり

この年度の解説には典型ミス2件が付いています。

2025年度の出題テーマと、同じテーマを出した他大学・他年度

この年度は5問に8テーマが出ています。

前年度(2024年度)との違い

大問数
2024年度 12問 → 2025年度 12問
2024年度のページを見る

第1問 — 核と固有値

核は方程式を減らして見る

この行列は行が強く従属しているため、最初から4本の方程式を全部扱う必要はない。独立な条件は 実質的に x4=0x_4=0 と x1−x2+x3=0x_1-x_2+x_3=0 の二つであり、ここから核の次元が2であることも同時に分かる。

直交補空間の求め方

ker⁡A\ker A が線形方程式 u1⋅x=0,u2⋅x=0 u_1\cdot x=0,\qquad u_2\cdot x=0 で表されるとき、(ker⁡A)⊥(\ker A)^\perp は u1,u2u_1,u_2 が張る空間になる。この問題では (1,−1,1,0)(1,-1,1,0) と (0,0,0,1)(0,0,0,1) がそのまま直交しているため、正規化だけで済む。

典型ミス

A2A^2 の固有値を求める場面で、AA の固有値をそのまま二乗する方針自体は正しいが、 AA の固有構造を先に求めるよりも、ker⁡A\ker A とその直交補に分けて A2A^2 を二次元化する方が計算ミスが少ない。 また、固有値 00 の固有空間は ker⁡A2\ker A^2 であり、ここでは ker⁡A\ker A と一致することを明示してから基底を選ぶ必要がある。

解答

行列を A=(1−112−11−1−21−1122−222) A=\begin{pmatrix} 1&-1&1&2\\ -1&1&-1&-2\\ 1&-1&1&2\\ 2&-2&2&2 \end{pmatrix} とおく。第1行を r=(1,−1,1,2)r=(1,-1,1,2)、第4行を s=(2,−2,2,2)s=(2,-2,2,2) とすると、第2行は −r-r、第3行は rr である。したがって Ax=0⟺x1−x2+x3+2x4=0,2x1−2x2+2x3+2x4=0 Ax=0 \quad\Longleftrightarrow\quad x_1-x_2+x_3+2x_4=0,\quad 2x_1-2x_2+2x_3+2x_4=0 である。差を取ると x4=0x_4=0、さらに x1−x2+x3=0x_1-x_2+x_3=0 であるから ker⁡A={(s−t,s,t,0)T∣s,t∈R}. \ker A=\{(s-t,s,t,0)^T\mid s,t\in\mathbb R\}. 例えば v1=(1,1,0,0)T,v2=(−1,0,1,0)T v_1=(1,1,0,0)^T,\qquad v_2=(-1,0,1,0)^T が基底である。グラム・シュミットの直交化を行うと e1=12(1,1,0,0)T,e2=16(−1,1,2,0)T e_1=\frac{1}{\sqrt2}(1,1,0,0)^T,\qquad e_2=\frac{1}{\sqrt6}(-1,1,2,0)^T を得る。これが ker⁡A\ker A の正規直交基底である。

次に、ker⁡A\ker A は条件 x4=0, x1−x2+x3=0x_4=0,\ x_1-x_2+x_3=0 で表されるので、その直交補空間は (ker⁡A)⊥=span⁡{(1,−1,1,0)T, (0,0,0,1)T}. (\ker A)^\perp=\operatorname{span}\{(1,-1,1,0)^T,\ (0,0,0,1)^T\}. これらはすでに直交しているため、正規化して f1=13(1,−1,1,0)T,f2=(0,0,0,1)T f_1=\frac{1}{\sqrt3}(1,-1,1,0)^T,\qquad f_2=(0,0,0,1)^T が (ker⁡A)⊥(\ker A)^\perp の正規直交基底である。

また A2=(7−7710−77−7−107−771010−101016). A^2= \begin{pmatrix} 7&-7&7&10\\ -7&7&-7&-10\\ 7&-7&7&10\\ 10&-10&10&16 \end{pmatrix}. A2x=0A^2x=0 なら Ax∈ker⁡AAx\in\ker A である。一方で Ax∈Im⁡AAx\in\operatorname{Im}A でもある。 Im⁡A\operatorname{Im}A は p=(1,−1,1,0)T,q=(0,0,0,1)T p=(1,-1,1,0)^T,\qquad q=(0,0,0,1)^T の張る空間であり、ker⁡A∩span⁡{p,q}={0}\ker A\cap\operatorname{span}\{p,q\}=\{0\} である。よって Ax=0Ax=0 となり、ker⁡A2⊂ker⁡A\ker A^2\subset\ker A が従う。逆包含は自明なので ker⁡A=ker⁡A2 \ker A=\ker A^2 である。

A2A^2 は ker⁡A\ker A 上では固有値 00 を持つ。残る二次元空間 span⁡{p,q}\operatorname{span}\{p,q\} 上で A2p=21p+30q,A2q=10p+16q A^2p=21p+30q,\qquad A^2q=10p+16q であるから、この基底に関する表現行列は (21103016) \begin{pmatrix}21&10\\30&16\end{pmatrix} である。固有多項式は (λ−36)(λ−1) (\lambda-36)(\lambda-1) である。対応する固有ベクトルは、例えば λ=36: 2p+3q=(2,−2,2,3)T,λ=1: p−2q=(1,−1,1,−2)T \lambda=36:\ 2p+3q=(2,-2,2,3)^T,\qquad \lambda=1:\ p-2q=(1,-1,1,-2)^T と取れる。固有値 00 には ker⁡A\ker A の基底 (1,1,0,0)T, (−1,0,1,0)T(1,1,0,0)^T,\ (-1,0,1,0)^T を対応させれば、4本で R4\mathbb R^4 の基底をなす。

最終答

ker⁡A\ker A の正規直交基底は {12(1,1,0,0)T, 16(−1,1,2,0)T}. \left\{\frac{1}{\sqrt2}(1,1,0,0)^T,\ \frac{1}{\sqrt6}(-1,1,2,0)^T\right\}. (ker⁡A)⊥(\ker A)^\perp の正規直交基底は {13(1,−1,1,0)T, (0,0,0,1)T}. \left\{\frac{1}{\sqrt3}(1,-1,1,0)^T,\ (0,0,0,1)^T\right\}. ker⁡A=ker⁡A2\ker A=\ker A^2。A2A^2 の固有値と基底をなす固有ベクトルの一例は 36:(2,−2,2,3)T,1:(1,−1,1,−2)T,0:(1,1,0,0)T, (−1,0,1,0)T. 36:(2,-2,2,3)^T,\quad 1:(1,-1,1,-2)^T,\quad 0:(1,1,0,0)^T,\ (-1,0,1,0)^T .

第2問 — 三次曲線と極値

対称性は式の不変性で確認する

図形が y=xy=x に関して対称であることは、(x,y)(x,y) を入れ替えても方程式が変わらないことから従う。 図を描かなくても、f(y,x)=f(x,y)f(y,x)=f(x,y) と一行書けば十分である。

極値判定

(0,0)(0,0) は停留点だが極値ではない。ヘッセ行列の固有値は 3,−33,-3 なので不定であり、 原点近くで増える方向と減る方向がある。停留点をすべて列挙しただけで極値と判定しないことが重要である。

領域 DD の確認

DD は f≤0f\le0 で切り取った第一象限部分であるから、最大値は境界値 00 を超えられない。 最小値は内部停留点か境界で生じる。境界では f=0f=0 であり、内部停留点では −1-1 なので、最小値は −1-1 である。

三次曲線と極値の途中式・最終答をPDFで見る

第3問 — 論理和標準形

真理値表からの標準形

真理値表で 11 になる行だけを取り出し、その行で真になるリテラルの積を作って論理和を取ればよい。 例えば p=1,q=1,r=0p=1,q=1,r=0 の行からは p∧q∧¬rp\wedge q\wedge\neg r が出る。

シングル型が弱い理由

シングル型では同じ変数の正負を混在させられない。したがって矛盾を作ることができず、恒偽式を表せない。 ここを見落として、通常の論理和標準形の存在定理をそのまま使うと誤答になる。

ダブル型は恒偽項を足して調整できる

p∧¬pp\wedge\neg p は常に偽なので、論理和に追加しても元の論理式を変えない。 この「値を変えない項」で不足している極性を補うのが、ダブル型の存在を示す簡潔な方法である。

論理和標準形の途中式・最終答をPDFで見る

第4問 — 複素数体の環表示

見えている構造

この問題の NN は複素数 a+bia+bi を実 2×22\times2 行列で表したものである。 ただし行列は標準的な (a−bba)\begin{pmatrix}a&-b\\b&a\end{pmatrix} ではなく、ii を (01−10)\begin{pmatrix}0&1\\-1&0\end{pmatrix} に対応させているだけで、本質は同じである。

商環の元は一次式で代表できる

X2+1X^2+1 で割った商では、X2=−1X^2=-1 と見なせる。したがって任意の元は a+bXa+bX の形に直せる。この代表元の一意性を使うと、同型写像の核も簡単に確認できる。

体であることの直接確認

既約多項式と極大イデアルの一般論を使ってよいが、逆元を直接書く方法も有効である。 (a+bX)−1=a−bXa2+b2 (a+bX)^{-1}=\frac{a-bX}{a^2+b^2} と書けることを示せば、零でない元がすべて逆元を持つことが分かる。

複素数体の環表示の途中式・最終答をPDFで見る

第5問 — Diniの定理

Diniの定理そのもの

これはコンパクト空間上の単調収束が、極限関数の連続性と合わせて一様収束を与えるという Diniの定理の典型的な証明である。ポイントは、点ごとの収束を開被覆に変換することである。

増大する開被覆を使う理由

有限部分被覆が取れても、一般には一つの OkO_k だけで全体を覆えるとは限らない。 しかし今回は O1⊂O2⊂⋯O_1\subset O_2\subset\cdots という増大性があるので、有限個の最大添字だけを残せばよい。

逆向きは一様極限の定理

問題文の条件は一見 fkf_k の一つだけを評価しているように見えるが、単調性によりそれ以降のすべての fnf_n に同じ評価が伝わる。したがって通常の一様収束の定義になる。

Diniの定理の途中式・最終答をPDFで見る

第6問 — 減衰波動方程式

エネルギー法の核心

波動方程式のエネルギーでは、∫utuxx\int u_tu_{xx} を部分積分して ∫uxuxt\int u_xu_{xt} と打ち消すのが標準手順である。この問題では減衰項 utu_t があるため、 最後に −∫∣ut∣2-\int |u_t|^2 が残り、エネルギーが減少する。

境界項が消える理由

[utux]01[u_tu_x]_0^1 が消えるのは、境界条件を時間微分して ut(t,0)=ut(t,1)=0u_t(t,0)=u_t(t,1)=0 が分かるからである。 ここを書かないと、部分積分の正当化が不十分になる。

等号成立条件

エネルギーが少しも減らないためには、減衰で失われる量 ∫∣ut∣2\int |u_t|^2 が全時間で 00 でなければならない。 そこから ut=0u_t=0、さらに方程式と境界条件から u=0u=0 と進むのが自然な流れである。

減衰波動方程式の途中式・最終答をPDFで見る

第7問 — 線形計画法

双対の符号規則

最大化問題で制約が ≤\le、変数が非負なら、双対は最小化問題で、双対変数は非負、双対制約は ≥\ge になる。目的関数と制約行列を転置して並べればよい。

相補性を使うと計算が短い

与えられた双対最適解では y2,y4y_2,y_4 が正であるため、主問題の第2・第4制約は等号になる。 この二本から解を一次元の直線に落とし、残りの不等式で区間を切るのが最短である。

典型ミス

最適解を一つだけ求めて終わると、最後の集合表示を落とす。双対制約が三つとも等号であるため、 主変数が正であること自体は相補性に反しないが、主制約の残り二本が区間端点を決める点に注意する。

線形計画法の途中式・最終答をPDFで見る

第8問 — 幾何分布と指数分布

幾何分布の取り方

ここでの幾何分布は 1,2,…1,2,\ldots 上の分布である。そのため確率母関数の先頭は psps であり、 pp ではない。支持が 0,1,…0,1,\ldots の型と混同しないようにする。

ランダム和は母関数に代入する

NN 個の独立同分布な和では、条件付きで見ると E[etS∣N]=MX(t)N E[e^{tS}\mid N]=M_X(t)^N である。したがって最後は GN(MX(t))G_N(M_X(t)) と計算できる。

分布の解釈

指数分布の和を幾何回数で止めると、再び指数分布になる。これは指数分布の無記憶性とも整合している。

幾何分布と指数分布の途中式・最終答をPDFで見る

第9問 — 対数正規分布の推定

対数を取れば正規分布

密度に 1/x1/x が現れているのは、変数変換 Z=log⁡XZ=\log X のヤコビアンによるものである。 この問題は対数を取ると通常の正規分布の推定問題になる。

最尤推定量

σ0\sigma_0 が既知なら、μ\mu については log⁡Xi\log X_i の二乗和を最小にする問題である。 したがって標本平均 1n∑log⁡Xi\frac1n\sum\log X_i が最尤推定量になる。

最小分散不偏線形推定

最後の係数は、分散が小さい観測値に大きい重みを与える逆分散重みである。 σi2\sigma_i^2 ではなく σi−2\sigma_i^{-2} に比例する点が典型的な確認ポイントである。

対数正規分布の推定の途中式・最終答をPDFで見る

第10問 — 有限オートマトン

二の補数は下位ビットから読む

二の補数は「反転して1を足す」操作である。右から読むと、繰上りが残っている間は特別な処理をし、 最初の 11 を越えた後は単なるビット反転になる。このため ARA^R は少数状態で認識できる。

0101 と 1010 の差

二進列を左から見ると、値が 00 から 11 に変わる回数と 11 から 00 に変わる回数の差は、 端点のビットだけで決まる。内部の往復は相殺されるため、最初と最後のビットだけ記憶すればよい。

ポンピング補題の文字列選び

(01)p\binom01^p のように一文字が両方の個数に同時に寄与する列を選ぶと、ポンプしても等式が保たれてしまう。 片方の個数だけが変わるように、前半を (00)\binom00、後半を (11)\binom11 に分けるのが要点である。

有限オートマトンの途中式・最終答をPDFで見る

第11問 — フィボナッチ数の計算量

値の大きさも計算量に入れる

単純な疑似コードだけを見ると Algo2 は nn 回のループに見えるが、扱う整数のビット長が増える。 各加算が定数時間ではなく Θ(i)\Theta(i) 時間かかるため、全体は Θ(n2)\Theta(n^2) になる。

再帰版は呼び出し木で指数的

Algo1 は同じ値を何度も再計算する。加算コストを無視しても呼び出し数は指数的であり、加算コストを入れても 上界 O(2n)O(2^n) は保たれる。

高速化の本質

行列累乗に直すと、再帰的な依存を二分累乗でまとめられる。行列サイズが固定なので、計算量の主因は 「何回掛けるか」と「整数のビット長」であり、それぞれ O(log⁡n)O(\log n)、O(n)O(n) である。

フィボナッチ数の計算量の途中式・最終答をPDFで見る

第12問 — OSとスケジューリング

用語問題の書き方

指定キーワードを羅列するだけでは説明にならない。割込みでは「誰が発生させるか」、デッドロックでは 「何を待って進まないか」、ラウンドロビンでは「どのタイミングで交代するか」を入れると採点されやすい。

非プリエンプティブの影響

高優先度のプログラムが途中で実行可能になっても、現在のCPU処理は横取りされない。 例えば AA は時刻50 msにCPU待ちへ戻るが、時刻40--70 msの CC のCPU処理は継続する。

独立した入出力装置

I/O1 と I/O2 は同時に動ける。CPUだけを追うと誤りやすいので、各プログラムがCPUを離れた時点で どの入出力装置に並ぶかを別々に管理するのが安全である。

OSとスケジューリングの途中式・最終答をPDFで見る

東京科学大 専門科目(数理・計算科学) 院試 過去問の収録5年度