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東京大学 院試 過去問 解答例

東大 情報理工学系研究科 一般教育科目(数学) 2026年度 院試 過去問 解答例・解説(全3問)

全3問。線形代数1問・微分方程式1問。テーマタグは3件(固有値・固有ベクトル・正定値行列・ヒルベルト空間)。2025年度と共通のテーマは固有値・固有ベクトル。

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収録3年度分の解答PDF:東京大学 情報理工学系研究科 一般教育科目(数学)(¥2,880・紙面見本あり)

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解説3問と大問1問の途中式・最終答(全3問)
解答PDFに収録
途中式と最終答(最終答つき3問)
問題本文
非収録

東大 一般教育科目(数学) 2026年度 院試 過去問の出題内容(全3問)

この3問の分野は線形代数1問・微分方程式1問です。

大問分野主題解説の小見出し最終答
第1問線形代数実対称行列と極分解この問題の中心 / 平方根行列の一意性あり
第2問微分方程式常微分方程式前半の見方 / 同次形への変換あり
第3問—単純ランダムウォークと指数評価この問題の流れ / Markov の不等式の使い方あり

2026年度の出題テーマと、同じテーマを出した他大学・他年度

この年度は1問に3テーマが出ています。

前年度(2025年度)との違い

大問数
2025年度 3問 → 2026年度 3問
両年度に出たテーマ
固有値・固有ベクトル
2026年度で新しく出たテーマ
正定値行列・ヒルベルト空間
2025年度のページを見る

第1問 — 実対称行列と極分解

この問題の中心

前半は「実対称行列は直交行列で対角化できる」というスペクトル定理,後半は極分解である。単に公式を知っているだけでなく,正定値平方根の一意性を使って極分解の一意性まで説明できるかが問われている。

平方根行列の一意性

D2=CD^2=C の解は一般には一意でない。たとえば対角行列なら各固有値の平方根に符号を選べる。しかし「正定値実対称」という条件を付けると,各固有空間で正の平方根だけが許されるため一意になる。この条件を答案で明示しないと,一意性の証明として不十分になる。

極分解の見方

F=SU,S=(FFT)1/2 F=SU,\qquad S=(FF^T)^{1/2} は「先に直交変換を行い,次に対称な伸縮を行う」分解である。一方 F=VT,T=(FTF)1/2 F=VT,\qquad T=(F^TF)^{1/2} は「先に対称な伸縮を行い,次に直交変換を行う」分解である。正則性により FFT,FTFFF^T,F^TF が正定値になるため,平方根行列を逆行列つきで安全に扱える。

答案で落としやすい点

直交性を示すときは,UUT=IUU^T=I または UTU=IU^TU=I のどちらかだけで十分であるが,どの行列が正則かを意識して書く必要がある。また,一意性は「平方根が一意だから」とだけ書くのではなく,FFT=S2FF^T=S^2,FTF=T2F^TF=T^2 の形に戻して説明すると明確である。

解答

AA は第1,第2成分だけが結合したブロックと,第3成分のブロックに分かれている。 まず (5−4−45)(xy)=λ(xy) \begin{pmatrix}5&-4\\-4&5\end{pmatrix} \binom{x}{y} = \lambda \binom{x}{y} を解くと, (11)↦(11),(1−1)↦9(1−1) \binom{1}{1}\mapsto \binom{1}{1},\qquad \binom{1}{-1}\mapsto 9\binom{1}{-1} である。また第3成分は固有値 1616 をもつ。したがって AA の固有値と対応する固有ベクトルの一例は λ=1,(110),λ=9,(1−10),λ=16,(001). \lambda=1,\quad \begin{pmatrix}1\\1\\0\end{pmatrix}, \qquad \lambda=9,\quad \begin{pmatrix}1\\-1\\0\end{pmatrix}, \qquad \lambda=16,\quad \begin{pmatrix}0\\0\\1\end{pmatrix}.

正規直交基底 q1=12(110),q2=12(1−10),q3=(001) q_1=\frac{1}{\sqrt2}\begin{pmatrix}1\\1\\0\end{pmatrix}, \quad q_2=\frac{1}{\sqrt2}\begin{pmatrix}1\\-1\\0\end{pmatrix}, \quad q_3=\begin{pmatrix}0\\0\\1\end{pmatrix} を用いれば A=Q(1000900016)QT A=Q \begin{pmatrix} 1&0&0\\ 0&9&0\\ 0&0&16 \end{pmatrix} Q^T である。よって正定値実対称平方根は,固有値の正の平方根をとって B=Q(100030004)QT=(2−10−120004) B= Q \begin{pmatrix} 1&0&0\\ 0&3&0\\ 0&0&4 \end{pmatrix} Q^T = \begin{pmatrix} 2&-1&0\\ -1&2&0\\ 0&0&4 \end{pmatrix} である。実際に B2=AB^2=A であり,固有値は 1,3,41,3,4 なので正定値である。

次に,CC を正定値実対称行列とする。スペクトル定理より,ある直交行列 QQ と正の実数 λ1,…,λn\lambda_1,\ldots,\lambda_n が存在して C=Qdiag⁡(λ1,…,λn)QT C=Q\operatorname{diag}(\lambda_1,\ldots,\lambda_n)Q^T と書ける。そこで D=Qdiag⁡(λ1,…,λn)QT D=Q\operatorname{diag}(\sqrt{\lambda_1},\ldots,\sqrt{\lambda_n})Q^T とおくと,DD は実対称かつ正定値であり,D2=CD^2=C を満たす。

一意性を示す。EE を E2=CE^2=C を満たす正定値実対称行列とする。このとき EC=E3=CE EC=E^3=CE だから,EE は CC と可換である。したがって CC の各固有空間は EE で不変である。固有値 λ\lambda に対応する CC の固有空間上では E2=λIE^2=\lambda I である。さらに EE は正定値実対称なので,その固有値はすべて正であり,この固有空間上の EE の固有値は λ\sqrt{\lambda} に限られる。ゆえにその固有空間上で E=λIE=\sqrt{\lambda}I である。全固有空間を合わせると E=DE=D となり,一意性が従う。

最後に,正則実正方行列 FF について考える。まず S=(FFT)1/2,T=(FTF)1/2 S=(FF^T)^{1/2},\qquad T=(F^TF)^{1/2} と定める。FF は正則なので FFT,FTFFF^T,F^TF は正定値実対称行列であり,直前に示した一意な正定値実対称平方根をもつ。 さらに U=S−1F,V=FT−1 U=S^{-1}F,\qquad V=FT^{-1} とおく。すると F=SU=VT F=SU=VT である。また UUT=S−1FFTS−1=S−1S2S−1=I UU^T = S^{-1}FF^TS^{-1} = S^{-1}S^2S^{-1} = I であるから UU は直交行列である。同様に VTV=T−1FTFT−1=I V^TV = T^{-1}F^TFT^{-1} = I であるから VV は直交行列である。

存在だけでなく一意性も確認する。もし F=S1U1F=S_1U_1 と書け,S1S_1 が正定値実対称,U1U_1 が直交行列なら FFT=S1U1U1TS1=S12. FF^T=S_1U_1U_1^TS_1=S_1^2. 正定値実対称平方根の一意性により S1=(FFT)1/2=SS_1=(FF^T)^{1/2}=S であり,U1=S−1F=UU_1=S^{-1}F=U である。したがって S,US,U は一意である。F=V1T1F=V_1T_1 についても FTF=T1V1TV1T1=T12 F^TF=T_1V_1^TV_1T_1=T_1^2 より T1=TT_1=T,V1=FT−1=VV_1=FT^{-1}=V となり,一意である。

次に T=F−1SFT=F^{-1}SF を示す。G=F−1SFG=F^{-1}SF とおく。極分解 F=SUF=SU を用いると G=F−1SF=(SU)−1S(SU)=UTSU G = F^{-1}SF = (SU)^{-1}S(SU) = U^TSU である。したがって GG は実対称正定値である。また G2=UTSUUTSU=UTS2U=(SU)T(SU)=FTF. G^2 = U^TSUU^TSU = U^TS^2U = (SU)^T(SU) = F^TF. よって GG は FTFF^TF の正定値実対称平方根である。正定値実対称平方根の一意性から T=G=F−1SF T=G=F^{-1}SF である。

最後に U=VU=V を示す。T=F−1SFT=F^{-1}SF を用いると FT−1=F(F−1SF)−1=FF−1S−1F=S−1F. FT^{-1} = F(F^{-1}SF)^{-1} = FF^{-1}S^{-1}F = S^{-1}F. 左辺は VV,右辺は UU であるから U=VU=V である。

最終答

Spec⁡(A)={1,9,16},B=(2−10−120004). \operatorname{Spec}(A)=\{1,9,16\},\qquad B= \begin{pmatrix} 2&-1&0\\ -1&2&0\\ 0&0&4 \end{pmatrix}. また,任意の正定値実対称行列は一意な正定値実対称平方根をもち,任意の正則実行列 FF は一意に F=SU=VT F=SU=VT と極分解される。ここで S,TS,T は正定値実対称,U,VU,V は直交行列であり, T=F−1SF,U=V. T=F^{-1}SF,\qquad U=V.

第2問 — 常微分方程式

前半の見方

一次式の比で表された微分方程式は,定数項を消せるかどうかで場合分けする。係数行列の行列式が ac−1ac-1 であり,これが 0 でないときは平行移動で同次形にできる。一方 ac=1ac=1 のときは平行移動で同時に定数項を消せないため,分子と分母に共通して現れる一次式 x+cyx+cy を新しい変数にする。

同次形への変換

dYdX=aX+YX+cY \frac{dY}{dX}=\frac{aX+Y}{X+cY} は,右辺が Y/XY/X の関数だけで表される。実際 Y=vXY=vX とおけば dY/dX=v+Xdv/dXdY/dX=v+Xdv/dX なので,vv と XX の分離形に帰着する。答案では「同次形にした」だけでよい設問だが,この一手まで書くと変換の意味が明確になる。

定数解の取りこぼし

変数分離では,両辺を割る操作の前後で解の枝が失われることがある。今回も ac=1ac=1 の場合に dx/dudx/du へ移ると du/dx=0du/dx=0 の枝を別確認する必要があり,Riccati の具体例では z=0z=0 と z=−1z=-1 を割っている。試験答案では,一度「割った量が 0 になる場合」を横に置いてから計算を進め,最後に戻して確認すると漏れにくい。

Riccati 方程式の標準手順

Riccati 方程式 y′+P+Qy+Ry2=0 y'+P+Qy+Ry^2=0 は一般には初等的に解けない。しかし特殊な条件があると一次線形方程式へ落とせる。R=0R=0 なら最初から一次線形,P=0P=0 なら w=1/yw=1/y,特殊解 y1y_1 があるなら z=y−y1z=y-y_1 で P=0P=0 型になる。この流れを覚えておくと,最後の具体例も機械的に解ける。

最後の具体例の発見

具体例では P=x2+x+1P=x^2+x+1,Q=2x+1Q=2x+1,R=1R=1 である。y=−xy=-x を試すと二次式がきれいに消えて特殊解になる。これは偶然ではなく,y2+(2x+1)y+x2+x+1y^2+(2x+1)y+x^2+x+1 の y=−xy=-x での値が 11 になり,y′=−1y'=-1 と打ち消し合うように設計されている。

解の定義区間

微分方程式の一般解は,式が書ける全実数上で自動的に一つの解になるとは限らない。たとえば y=−x+1Cex−1 y=-x+\frac{1}{Ce^x-1} は Cex−1=0Ce^x-1=0 となる点をまたいでは定義できない。したがって答案では「分母が 0 にならない区間で」と添えると,局所解としての扱いが明確になる。

常微分方程式の途中式・最終答をPDFで見る

第3問 — 単純ランダムウォークと指数評価

この問題の流れ

前半は期待値と分散の基本計算,後半は指数モーメントを用いた Chernoff 型評価である。Chebyshev の不等式だけを使うと Pr⁡(∣Pn∣≥106)≤10101012=10−2 \Pr(|P_n|\ge 10^6)\le \frac{10^{10}}{10^{12}}=10^{-2} までしか出ない。最後の 10−410^{-4} 未満という強い評価には,指数関数を使った片側確率評価が必要である。

Markov の不等式の使い方

Markov の不等式は非負確率変数 ZZ に対して Pr⁡(Z≥a)≤E(Z)a \Pr(Z\ge a)\le \frac{E(Z)}{a} を与える。問 (3)(3) では Z=Pn2Z=P_n^2,問 (4)(4) では Z=etPnZ=e^{tP_n} と選ぶ。この「何を非負確率変数にするか」が確率評価問題の核心である。

指数モーメントの意味

E(etPn)E(e^{tP_n}) は PnP_n が大きな正の値を取るほど大きくなる量である。そのため,Pn≥kP_n\ge k の確率を上から押さえるのに向いている。独立性により E(etPn)=∏i=1nE(etXi) E(e^{tP_n})=\prod_{i=1}^n E(e^{tX_i}) と分解できる点が決定的である。

最適な tt を選ぶ理由

問 (4)(4) の不等式は任意の t>0t>0 で成り立つ。したがって,最も強い上界を得るには右辺を最小にする tt を選べばよい。指数部が二次式 nt22−kt \frac{nt^2}{2}-kt になるため,最小点 t=k/nt=k/n が自然に現れる。これは Chernoff bound の基本形である。

両側評価への戻し方

指数評価はまず片側確率 Pr⁡(Pn≥k)\Pr(P_n\ge k) を評価する。両側確率 Pr⁡(∣Pn∣≥k)\Pr(|P_n|\ge k) に戻すときは,分布の対称性を使って 2 倍する。ここで対称性を書かずにいきなり 2 倍すると,答案としては根拠が不足する。

単純ランダムウォークと指数評価の途中式・最終答をPDFで見る

東大 一般教育科目(数学) 院試 過去問の収録3年度

  • 2026年度(このページ・全3問)

    実対称行列と極分解 / 常微分方程式 / 単純ランダムウォークと指数評価

  • 2025年度(全3問)

    直線の係数ベクトルと鏡映 / 周期係数の微分方程式 / 連続する表の出現確率

  • 2024年度(全3問)

    空間ベクトルと最小二乗 / ガンマ関数と対数分散 / 停止時刻付きの格子上ランダムウォーク