院試hub

東京大学 院試 過去問 解答例

東大 情報理工学系研究科 一般教育科目(数学) 2026年度 院試 解答例・解説

東京大学 情報理工学系研究科 一般教育科目(数学) 2026年度の院試 過去問について、設問ごとの解法方針・部分点の置き所を解説。全3問収録の解答・解説PDFと併用できます。問題本文は含みません。

最終更新:

設問ごとの解法方針・部分点の置き所を無料で公開しています。

完全な途中式・最終答は解答・解説PDFに収録しています。問題本文は含まれません。

1 — 実対称行列と極分解

この問題の中心

前半は「実対称行列は直交行列で対角化できる」というスペクトル定理,後半は極分解である。単に公式を知っているだけでなく,正定値平方根の一意性を使って極分解の一意性まで説明できるかが問われている。

平方根行列の一意性

D2=CD^2=C の解は一般には一意でない。たとえば対角行列なら各固有値の平方根に符号を選べる。しかし「正定値実対称」という条件を付けると,各固有空間で正の平方根だけが許されるため一意になる。この条件を答案で明示しないと,一意性の証明として不十分になる。

極分解の見方

F=SU,S=(FFT)1/2 F=SU,\qquad S=(FF^T)^{1/2} は「先に直交変換を行い,次に対称な伸縮を行う」分解である。一方 F=VT,T=(FTF)1/2 F=VT,\qquad T=(F^TF)^{1/2} は「先に対称な伸縮を行い,次に直交変換を行う」分解である。正則性により FFT,FTFFF^T,F^TF が正定値になるため,平方根行列を逆行列つきで安全に扱える。

答案で落としやすい点

直交性を示すときは,UUT=IUU^T=I または UTU=IU^TU=I のどちらかだけで十分であるが,どの行列が正則かを意識して書く必要がある。また,一意性は「平方根が一意だから」とだけ書くのではなく,FFT=S2FF^T=S^2FTF=T2F^TF=T^2 の形に戻して説明すると明確である。

完全な解答(途中式・最終答)はPDFに収録

2 — 常微分方程式

前半の見方

一次式の比で表された微分方程式は,定数項を消せるかどうかで場合分けする。係数行列の行列式が ac1ac-1 であり,これが 0 でないときは平行移動で同次形にできる。一方 ac=1ac=1 のときは平行移動で同時に定数項を消せないため,分子と分母に共通して現れる一次式 x+cyx+cy を新しい変数にする。

同次形への変換

dYdX=aX+YX+cY \frac{dY}{dX}=\frac{aX+Y}{X+cY} は,右辺が Y/XY/X の関数だけで表される。実際 Y=vXY=vX とおけば dY/dX=v+Xdv/dXdY/dX=v+Xdv/dX なので,vvXX の分離形に帰着する。答案では「同次形にした」だけでよい設問だが,この一手まで書くと変換の意味が明確になる。

定数解の取りこぼし

変数分離では,両辺を割る操作の前後で解の枝が失われることがある。今回も ac=1ac=1 の場合に dx/dudx/du へ移ると du/dx=0du/dx=0 の枝を別確認する必要があり,Riccati の具体例では z=0z=0z=1z=-1 を割っている。試験答案では,一度「割った量が 0 になる場合」を横に置いてから計算を進め,最後に戻して確認すると漏れにくい。

Riccati 方程式の標準手順

Riccati 方程式 y+P+Qy+Ry2=0 y'+P+Qy+Ry^2=0 は一般には初等的に解けない。しかし特殊な条件があると一次線形方程式へ落とせる。R=0R=0 なら最初から一次線形,P=0P=0 なら w=1/yw=1/y,特殊解 y1y_1 があるなら z=yy1z=y-y_1P=0P=0 型になる。この流れを覚えておくと,最後の具体例も機械的に解ける。

最後の具体例の発見

具体例では P=x2+x+1P=x^2+x+1Q=2x+1Q=2x+1R=1R=1 である。y=xy=-x を試すと二次式がきれいに消えて特殊解になる。これは偶然ではなく,y2+(2x+1)y+x2+x+1y^2+(2x+1)y+x^2+x+1y=xy=-x での値が 11 になり,y=1y'=-1 と打ち消し合うように設計されている。

解の定義区間

微分方程式の一般解は,式が書ける全実数上で自動的に一つの解になるとは限らない。たとえば y=x+1Cex1 y=-x+\frac{1}{Ce^x-1} Cex1=0Ce^x-1=0 となる点をまたいでは定義できない。したがって答案では「分母が 0 にならない区間で」と添えると,局所解としての扱いが明確になる。

完全な解答(途中式・最終答)はPDFに収録

3 — 単純ランダムウォークと指数評価

この問題の流れ

前半は期待値と分散の基本計算,後半は指数モーメントを用いた Chernoff 型評価である。Chebyshev の不等式だけを使うと Pr(Pn106)10101012=102 \Pr(|P_n|\ge 10^6)\le \frac{10^{10}}{10^{12}}=10^{-2} までしか出ない。最後の 10410^{-4} 未満という強い評価には,指数関数を使った片側確率評価が必要である。

Markov の不等式の使い方

Markov の不等式は非負確率変数 ZZ に対して Pr(Za)E(Z)a \Pr(Z\ge a)\le \frac{E(Z)}{a} を与える。問 (3)(3) では Z=Pn2Z=P_n^2,問 (4)(4) では Z=etPnZ=e^{tP_n} と選ぶ。この「何を非負確率変数にするか」が確率評価問題の核心である。

指数モーメントの意味

E(etPn)E(e^{tP_n})PnP_n が大きな正の値を取るほど大きくなる量である。そのため,PnkP_n\ge k の確率を上から押さえるのに向いている。独立性により E(etPn)=i=1nE(etXi) E(e^{tP_n})=\prod_{i=1}^n E(e^{tX_i}) と分解できる点が決定的である。

最適な tt を選ぶ理由

(4)(4) の不等式は任意の t>0t>0 で成り立つ。したがって,最も強い上界を得るには右辺を最小にする tt を選べばよい。指数部が二次式 nt22kt \frac{nt^2}{2}-kt になるため,最小点 t=k/nt=k/n が自然に現れる。これは Chernoff bound の基本形である。

両側評価への戻し方

指数評価はまず片側確率 Pr(Pnk)\Pr(P_n\ge k) を評価する。両側確率 Pr(Pnk)\Pr(|P_n|\ge k) に戻すときは,分布の対称性を使って 2 倍する。ここで対称性を書かずにいきなり 2 倍すると,答案としては根拠が不足する。

完全な解答(途中式・最終答)はPDFに収録

東京大学 一般教育科目(数学) — 他の年度