東京大学 院試 過去問 解答例
東大 数理科学研究科 数理科学専攻 専門科目B 2022年度 院試 解答例・解説
東京大学 数理科学研究科 数理科学専攻 専門科目B 2022年度の院試 過去問について、設問ごとの解法方針と確認点を解説。全18問収録の解答・解説PDFと併用できます。問題本文は含みません。
最終更新:
設問ごとの解法方針と確認点を公開しています。
続きの途中式・最終答は解答・解説PDFに収録しています。問題本文は含まれません。
第1問 — 行列成分の軌道
軌道数に直す
この問題の本質は,行列の各成分を独立変数と見て,「同じ軌道に属する成分は 同じ値を取る」と読むことである。軌道ごとに一つずつ自由な複素数を選べるので, 次元は軌道数そのものになる。
交代群での例外
は では二重推移的だが, では非対角順序対の向きが 保存されるため二つに割れる。 では交代群が自明になる。この小さい の 例外を落とすと減点されやすい。
推移群の場合
推移群の orbital の個数は一点安定化群の軌道数で数える,という標準事実を使うと 上限がすぐに出る。上限の達成例として正則作用を出せば十分であり,群は巡回群でよい。
第2問 — 平方零イデアルによる拡大
記号の整理
問題中の は,通常の積ではなく この代数 の極大イデアルを表す記号として読む。 答案では と置き直すと混乱しにくい。
核の見つけ方
関係式は二種類である。第一成分の環 から来る と, 第二成分だけの積が零になる関係である。最後の は, を二通りに作れることを表している。
第3問 — 多項式環の自由性
必要条件の見方
自由 -加群を で割ると,自由アーベル群になる。 したがって の係数が共通因子を持つ場合, に torsion が出ることを示せばよい。
十分条件の見方
重み を入れると,三つの項の重みがすべて になる。 この斉次性により,商 の各重み成分から基底を持ち上げ, の冪を掛けるという標準的な自由基底構成が使える。
第4問 — Artin--Schreier 拡大
変数 が要点
そのまま を見るより, と置くと という Artin--Schreier 型になる。これで二段の次数計算が見える。
Galois 閉包の作り方
を に動かすと,右辺も に変わる。その差を埋めるために を加える,というのが閉包を作る自然な理由である。
第5問 — 階数1射影とシンプレクティック形式
商で見る
は の同時スケーリングを忘れる写像である。 そのため は 3 次元, は 2 次元になり,ファイバーは 型になる。
積分は座標選びで決まる
と置けるチャートで になるため, 最後は単なる平面領域の面積計算になる。条件式が完全平方になるところが この問題の計算上の山である。
第6問 — トーラス上の1形式
どちらの円を切ったか
一点を除いた円は区間と同相なので,その方向の角度 1 形式は完全になる。 逆に,除いていない円の角度 1 形式はコホモロジーを残す。 と で切っている方向が逆であることに注意する。
完全性はコホモロジー類で判定
閉形式の完全性は または の類が零かどうかで判定できる。 この問題では の二つの生成元だけを追えば十分である。
第7問 — 横断的な二重点集合
横断性の使い所
二重点集合は の零点集合である。条件 は,まさにこの零点集合を正則値定理で 扱うための全射性を与えている。
像が部分多様体になる理由
が部分多様体であるだけでは,その射影像が自動的に部分多様体になるわけではない。 ここでは「各二重点の相手が一つ」という仮定により射影が一対一になり, さらにコンパクト性により埋め込みとして扱える。
第8問 — 平面曲線の位相
解析的特異点と位相多様体
の cusp は解析的には特異でも,位相的には と同相である。 ここを混同しないことが重要である。位相多様体でなくなる原因は,枝が複数本あることにある。
ホモロジー
原点を除くと枝同士は分離する。各枝は穴の空いた複素平面なので,0 次と 1 次に が一つずつ出る。
第9問 — 可測関数の分解
生成された -加法族の意味
-可測であるとは,関数の値が の値だけで決まる,という意味である。この直観を厳密化するのが Doob--Dynkin の補題である。
答案で書くべきこと
単に「明らかに分解できる」と書くのではなく, と置いてから 標準 Borel 空間上の可測分解補題を使う,という形にすると十分に厳密である。
第10問 — 実部評価と整関数
実部評価から絶対値評価へ
正則関数の実部だけが上から評価されているときは,Borel--Carathéodory の不等式を使う。 これにより の増大度が に抑えられる。
最後は Cauchy 評価
整関数で なら,三階以上の係数は Cauchy 評価で消える。この流れは Liouville 型の典型的な議論である。
第11問 — エルピー空間の直積型集合
無限次元でのコンパクト性
有界閉集合であるだけでは, ではコンパクトにならない。必要なのは 尾部が一様に消えることである。この問題では という評価により, 尾部条件がそのまま と一致する。
必要性の作り方
有限個の成分だけ に等しくする点を使うと,尾部の -質量を 任意に検出できる。ここが「全有界性」から を引き出す要点である。
第12問 — 錐領域の最大値原理
非有界領域の落とし穴
有界領域なら境界非負と から が従うが,非有界領域では 無限遠での条件が必要である。 はその典型的な反例である。
補助関数の意味
は 上正で調和である。この正の調和関数で割ると, 無限遠での条件を境界条件として扱えるようになる。
第13問 — 周期係数一次方程式
周期部分と指数成長部分を分ける
は「平均 」と「周期関数 」に分かれる。 これが一次元版 Floquet 分解である。
外力の減衰条件
は,積分因子を掛けた後に 程度で可積分になることを保証している。
第14問 — Runge--Kutta 法の誤差
安定性と次数は別
高次の方法は小さい刻み幅では有利だが,刻み幅が大きいと増幅率の振る舞いが支配的になる。 ここでは 3 次法の増幅率が で大きく発散するため,2 次法より悪くなる。
線形方程式では増幅率を計算する
一般論で押すより, では一ステップが単なる掛け算になる。 , を明示するのが最短で確実な解法である。
第15問 — Bessel 型方程式
正規化をそろえる
通常の をそのまま使うと先頭係数が 1 にならない。ここでは と正規化すると,設問の級数形に合う。
漸化式の係数
と は正規化定数が違うので,単に と書くだけでは係数がずれる。 はその正規化差を吸収する係数である。
第16問 — 木上のイジング模型
木では再帰が閉じる
根を固定した状態和の比 だけを追えばよい。これは木構造の枝が独立に 分解されるためである。
相転移的な見方
と の交点が固定点である。交点が複数あると,初期値からの反復が どの安定固定点に落ちるかで極限磁化が変わる。
第17問 — 超フィルターによる順序
超フィルターの役割
二つの関数 は等しい場所が有限個しかないので,ほとんどすべての点で または のどちらかである。超フィルターは,その二つの無限候補のうち 一方を必ず選ぶ装置である。
有限初期区間から可算性へ
(b) は各 の下にある元が有限個しかないことを保証する。線形順序でこの性質を持つ 無限集合は,最小元,次の元,さらに次の元,という形で数え上げられる。
第18問 — Kolmogorov 距離と二乗変換
Kolmogorov 距離はジャンプに敏感
分布関数が不連続な点では,確率変数がわずかにずれるだけで Kolmogorov 距離が 1 のまま残ることがある。(5) はその現象を一点分布で最も簡単に示している。
Taylor 展開の使い所
は 1 の近くにあり,主要項は である。 三次の剰余が になることを (3) で先に示しているため,(4) が自然につながる。