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東北大学 院試 過去問 解答例

東北大 理学研究科 物理学専攻 物理学(基礎数学・力学・電磁気学・量子力学・熱統計力学) 2021年度 院試 解答例・解説

東北大学 理学研究科 物理学専攻 物理学(基礎数学・力学・電磁気学・量子力学・熱統計力学) 2021年度の院試 過去問について、設問ごとの解法方針と確認点を解説。全5問収録の解答・解説PDFと併用できます。問題本文は含みません。

最終更新:

設問ごとの解法方針と確認点を公開しています。

続きの途中式・最終答は解答・解説PDFに収録しています。問題本文は含まれません。

1 — 問題1 基礎数学

ガウス積分の採点ポイント

二重積分は極座標に変換したときのヤコビアン rr が本体である。ここを落とすと 0ear2dr\int_0^\infty e^{-ar^2}\,dr の形になり,初等的に閉じない計算へ進んでしまう。 一変数の積分は,二重積分を「同じ一変数積分の二乗」と見てから正の平方根を取る。 積分値そのものが正であるため,符号の曖昧さはない。

フーリエ係数で符号を間違えない

展開の指数が e2πinxe^{2\pi i n x} なので,係数を取り出す側では e2πinxe^{-2\pi i n x} を掛ける。この符号を逆にすると,f(x)=xf(x)=x の係数の符号が反転する。 また,区間を [1/2,1/2][-1/2,1/2] に取ると端点で eπin=eπin=(1)ne^{\pi i n}=e^{-\pi i n}=(-1)^n となるため,部分積分の境界項だけが残る。

ポアソン和公式の意味

デルタ列のフーリエ係数がすべて 11 であることは, 「整数点でサンプルする操作」と「整数波数の指数関数を足す操作」が同じ分布を表すことを意味する。 この答案では係数計算と同じく e2πikxe^{2\pi i kx} 側を展開関数に置いたため, 変換 G(k)G(k) の指数は +2πikx+2\pi i kx で書いている。 物理でよく使う e2πikxe^{-2\pi i kx} の変換記法を採る場合でも,整数 kk の和は kkk\mapsto -k で同じ値を与える。 厳密には gg に十分な減衰や滑らかさを仮定して,和と積分の交換が正当化できる範囲で使う。 試験答案では,デルタ関数を含む等式を通常の関数等式として扱わず,分布として積分に掛けて使う姿勢を示すとよい。

パウリ行列型の処理

A,B,CA,B,C はパウリ行列と同じ代数を持つ。特に M2=(x2+y2+z2)E=r2E M^2=(x^2+y^2+z^2)E=r^2E が成り立つため,固有値は直ちに ±r\pm r と分かる。答案では特性方程式から示してもよいが, この二乗の関係を使うと eiMe^{iM}eiM=(cosr)E+isinrrM e^{iM}=(\cos r)E+i\frac{\sin r}{r}M と一行で求まる。この形からも,固有値 e±ire^{\pm ir},行列式 11,トレース 2cosr2\cos r が確認できる。 交差項が消えるのは AB+BA=BC+CB=CA+AC=0AB+BA=BC+CB=CA+AC=0 型の反交換関係による。 ここを書いておくと,単に各行列の二乗だけを見て M2=r2EM^2=r^2E としてしまった答案より説得力が出る。

固有ベクトルの例外処理

(xiy, rz)T(x-iy,\ r-z)^T のような便利な形は,多くの場合に使えるが,成分が同時に 00 になる特殊場合がある。 本問では r>0r>0 なので x=y=0x=y=0 のときは z0z\ne0 であり,行列は対角行列になる。 この場合だけ標準基底で書き分ければ,零ベクトルを固有ベクトルとして提出する誤りを避けられる。

続きの解答(途中式・最終答)はPDFに収録

2 — 問題2 力学

極座標の運動エネルギー

この問題の出発点は,極座標で速度を正しく分解することである。 r˙\dot{\boldsymbol{r}} は単に r˙er\dot{r}\boldsymbol{e}_r ではなく,単位ベクトルの向きが回るため rϕ˙eϕr\dot{\phi}\boldsymbol{e}_\phi を含む。この項を落とすと遠心項 mrϕ˙2mr\dot{\phi}^{\,2} も角運動量 mr2ϕ˙mr^2\dot{\phi} も出てこない。

循環座標と保存量

ばねのポテンシャルは原点からの距離 rr だけで決まり,角度 ϕ\phi には依存しない。 そのため ϕ\phi は循環座標であり,共役運動量 Pϕ=mr2ϕ˙ P_\phi=mr^2\dot{\phi} が保存する。これは原点まわりの角運動量そのものである。以後の微小振動では ϕ˙\dot{\phi} を一定とみなすのではなく,この PϕP_\phi を一定に保つ点が重要である。

円運動のつり合い

等速円運動では半径が一定なので,動径方向の加速度はゼロとおいてよい。ただし 極座標の運動方程式には遠心項 mrϕ˙2mr\dot{\phi}^{\,2} が現れるため, mr0ω02=k(r0) mr_0\omega_0^2=k(r_0-\ell) となる。右辺はばねの復元力の大きさであり,円運動にはばねが伸びていること, すなわち r0>r_0>\ell が必要である。

固定するのは角速度ではなく角運動量

微小振動の設問では PϕP_\phi を一定に保つと指定されている。したがって ϕ˙=Pϕmr2 \dot{\phi}=\frac{P_\phi}{mr^2} であり,rr が少し大きくなると角速度は小さくなる。この効果を入れると, 有効ポテンシャル Ueff(r)=Pϕ22mr2+k2(r)2 U_{\mathrm{eff}}(r)=\frac{P_\phi^2}{2mr^2}+\frac{k}{2}(r-\ell)^2 の曲率から同じ結果 ωr2=1mUeff(r0)=k(4r03)mr0 \omega_r^2=\frac{1}{m}U_{\mathrm{eff}}''(r_0) =\frac{k(4r_0-3\ell)}{mr_0} を得る。角速度を誤って ω0\omega_0 に固定して展開すると,この係数が変わってしまう。

周期の比較

一回の動径振動の後には sinωrTr=0\sin\omega_rT_r=0 であるため,角度の微小補正は消え, ϕ(Tr)=2πω0ωr \phi(T_r)=2\pi\frac{\omega_0}{\omega_r} だけ進む。円運動の条件 r0>r_0>\ell のもとでは ωr2ω02=k(3r02)mr0>0 \omega_r^2-\omega_0^2=\frac{k(3r_0-2\ell)}{mr_0}>0 なので,動径振動の方が角運動より速い。したがって「一回転につき一回振動」は ωr=ω0\omega_r=\omega_0 を要求するが,この系では実現しない。 なお,角速度と動径振動数はいずれも次元が 1/s1/\mathrm{s} であり, ωr2\omega_r^2 の係数は k/mk/m に無次元因子 (4r03)/r0(4r_0-3\ell)/r_0 が掛かった形になっている。 この次元確認は,展開で r0r_0 の次数を一つ落とす典型的なミスを見つけるのに有効である。

採点上の注意

この問題で点を落としやすい箇所は三つある。第一に,ばねのポテンシャルを 12kr2\frac{1}{2}kr^2 として自然長 \ell を消してしまうこと。第二に,動径方程式の 遠心項の符号を逆にすること。第三に,微小振動で PϕP_\phi 一定ではなく ϕ˙\dot{\phi} 一定としてしまうことである。答案では,保存量 Pϕ=mr2ϕ˙P_\phi=mr^2\dot{\phi} を明示してから展開に入ると,これらの誤りを避けやすい。

続きの解答(途中式・最終答)はPDFに収録

3 — 問題3 電磁気学

ビオ・サバールで落としやすい向き

大きさだけならアンペールの法則で即座に出るが、この設問ではビオ・サバールの法則を 使う指定がある。積分で重要なのは d×R=Rdzy^d\boldsymbol{\ell}\times\boldsymbol{R}=R\,dz\,\hat{\boldsymbol{y}} となる向きである。 電流が +z+z 向きで、観測点が +x+x 側なら、右ねじの向きは +y^+\hat{\boldsymbol{y}} である。

中空球は重ね合わせで処理する

中空球の電位は、電場を各領域で積分してもよいが、半径 bb の一様球から半径 aa の 一様球を差し引く方が符号ミスが少ない。空洞内の電位が一定になること、r=a,br=a,b で 電位が連続になることを確認すると、答えの検算になる。

エネルギーは場のある領域だけ積分する

中空部では E=0E=0 なのでエネルギー密度も 00 である。積分範囲は a<r<ba<r<br>br>b の二つに分ける。a=0a=0 と置くと一様帯電球の結果 U=4πρ2b5/(15ε0)U=4\pi\rho^2b^5/(15\varepsilon_0) に戻るため、係数の検算にも使える。 また aba\to b の極限で電荷をもつ領域の厚みが消えると,エネルギーも 00 に近づく。この二つの極限確認は,外側領域の積分 br2dr=1/b\int_b^\infty r^{-2}\,dr=1/b の係数ミスを見つけるのに有効である。

導体球殻で内外を混同しない

導体の内側空洞にある電荷は,外側導体の内面に総量 Q1-Q_1 を誘起する。 外側導体自身の総電荷が Q2Q_2 なら,外面には残りの Q1+Q2Q_1+Q_2 が載る。 ガウス面を導体内部に置いたときに囲む電荷が 00 にならなければならない,という順に考えると符号を間違えにくい。 内側導体をずらしても変わらないのは外部電場であり,空洞内の電場や内面電荷分布まで同心の場合と同じになるわけではない。

ずれた内側導体と一意性定理

内側導体をずらすと、外側導体の内面電荷は偏る。しかし外側導体の外面は依然として 半径 bb の等電位球面であり、外部領域には電荷がない。ラプラス方程式の一意性から、 外部解は全電荷 Q1+Q2Q_1+Q_2 をもつ中心点電荷型に限られる。内面の偏りをそのまま 外部の双極子場にしてしまうのが典型的な誤りである。

マクスウェル方程式からの導出

連続の式では、(×B)=0\nabla\cdot(\nabla\times\boldsymbol{B})=0E=ρ/ε0\nabla\cdot\boldsymbol{E}=\rho/\varepsilon_0 を組み合わせる。波動方程式では 真空条件から E=0\nabla\cdot\boldsymbol{E}=0 が使える点を明記する。ポインティング定理では ベクトル公式 (E×B)=B(×E)E(×B)\nabla\cdot(\boldsymbol{E}\times\boldsymbol{B}) =\boldsymbol{B}\cdot(\nabla\times\boldsymbol{E}) -\boldsymbol{E}\cdot(\nabla\times\boldsymbol{B}) の符号が得点差になりやすい。 アンペールの法則に変位電流項 μ0ε0E/t\mu_0\varepsilon_0\partial\boldsymbol{E}/\partial t がないと,発散を取ったときに i=0\nabla\cdot\boldsymbol{i}=0 しか出ず,時間変化する電荷密度を扱えない。 この項があるためガウスの法則の時間微分と合わさり,局所的な電荷保存 ρ/t+i=0\partial\rho/\partial t+\nabla\cdot\boldsymbol{i}=0 が出る。 ポインティング定理では,BtB\boldsymbol{B}\cdot\partial_t\boldsymbol{B}EtE\boldsymbol{E}\cdot\partial_t\boldsymbol{E} をそれぞれ二乗の時間微分へ直す最後の一手まで書くと, エネルギー密度の係数 ε0/2\varepsilon_0/21/(2μ0)1/(2\mu_0) を落としにくい。

続きの解答(途中式・最終答)はPDFに収録

4 — 問題4 量子力学

調和振動子の採点ポイント

この問題では、交換子の符号を落とさずに [a,a]=1[a,a^\dagger]=1 を出すことが最初の関門である。 aaa^\dagger a を展開すると i[x,p]=i[x,p]=-\hbar が現れるため、零点エネルギーの 1/21/2 が残る。ここを aaa a^\dagger と混同すると符号が逆になる。

摂動計算の要点

一次摂動では波動関数の一次補正は不要で、必要なのは非摂動基底状態での期待値だけである。 x4x^4 を完全に正規順序に直してもよいが、ここでは 0x40=x202\langle0|x^4|0\rangle=\|x^2|0\rangle\|^2 と見ると計算が短い。 x20x^2|0\rangle0|0\rangle 成分と 2|2\rangle 成分の両方が出るため、 係数の二乗和から因子 33 が生じる。

スピン期待値の見方

Sz\langle S_z\rangle は上下成分の確率差で決まる。一方、Sx\langle S_x\rangleSy\langle S_y\rangle は二成分の相対位相に依存する。静磁場中では確率 ψ±2|\psi_\pm|^2 は変わらないが、相対位相が ω0t\omega_0 t だけ進むので、 横方向のスピン期待値が歳差運動する。

回転磁場と共鳴

回転磁場の式では、上成分と下成分を結ぶ非対角成分に e±iωte^{\pm i\omega t} が現れる。初期状態 |-\rangle から +|+\rangle への遷移確率は 振幅因子 ω02(ωω0)2+ω02 \frac{\omega_0^2}{(\omega-\omega_0)^2+\omega_0^2} をもつ。離調 ωω0\omega-\omega_0 があると最大値が 11 より小さくなり、完全反転しない。 共鳴時には離調が消え、回転座標系で横磁場が有効に一定となるため、スピンは最大振幅で ラビ振動を行う。

回転座標系での検算

時間依存する指数因子は,スピノルの上下成分に逆向きの位相 ψ+=eiωt/2ψ~+,ψ=eiωt/2ψ~ \psi_+=e^{i\omega t/2}\tilde\psi_+,\qquad \psi_-=e^{-i\omega t/2}\tilde\psi_- を吸収させると消える。この座標系では有効な二準位問題の周波数ベクトルの大きさが Ω=(ωω0)2+ω02 \Omega=\sqrt{(\omega-\omega_0)^2+\omega_0^2} になる。したがって,遷移確率の振動角周波数が Ω\Omega で,最大振幅が ω02/Ω2\omega_0^2/\Omega^2 になることが直観的にも確認できる。 試験答案では与えられた一般解を代入してよいが,この検算を書けると共鳴条件 ω=ω0\omega=\omega_0 の意味が明確になる。

一般解の検算で失点しやすい点

一般解の確認は、任意定数をまとめて扱おうとすると指数因子が見えにくい。 AA の項と BB の項を分け、σ=±1\sigma=\pm1 の一つの式に統一して代入するとよい。 必要な代数恒等式は Ω2=(ωω0)2+ω02\Omega^2=(\omega-\omega_0)^2+\omega_0^2 だけであり、 微分方程式の両成分で同じ指数因子にそろうことを示せば十分である。

続きの解答(途中式・最終答)はPDFに収録

5 — 問題5 熱・統計力学

熱力学ポテンシャルの選び方

断熱・等温・等圧という語は,どの熱力学ポテンシャルの自然変数を固定しているかを見分ける手がかりである。可逆断熱なら dS=0dS=0,等温で外界がする仕事なら dF=pdVdF=-p\,dV,等圧で相転移に出入りする熱ならエンタルピー差,という対応を押さえると空欄は機械的に決まる。等温過程で一定なのは一般には UU ではないが,理想気体では U=U(T)U=U(T) である点がこの設問の条件である。

クラペイロン関係の符号

共存線では「どちらの相が安定か」ではなく「化学ポテンシャルが等しい」ことを使う。1 分子あたりで書けば dμ=sdT+vdpd\mu=-s\,dT+v\,dp となり,差を取るだけで傾きが出る。水の融解曲線の傾きが負になる理由は,融解でエントロピーは増える一方,体積は減るからである。分母を vsvlv_s-v_l と逆に書いてしまうと符号を落としやすい。

ゾンマーフェルト展開で何を XX にするか

内部エネルギーでは X(ε)=εD(ε)X(\varepsilon)=\varepsilon D(\varepsilon) を選ぶ。半充填なので μ=0\mu=0 であり,温度補正は X(0)X'(0) だけで決まる。状態密度の対称性により粒子数は温度で変わらず,化学ポテンシャル補正を考えなくてよいのがこの問題の大きな簡略化である。

磁化率はフェルミ面の状態密度を見る

弱磁場では二つのスピンのフェルミ分布がエネルギー方向にわずかに逆向きにずれる。したがって磁化率は χ=m02D(ε){f(ε)}dε \chi=m_0^2\int D(\varepsilon)\{-f'(\varepsilon)\}\,d\varepsilon となり,T=0T=0 ではフェルミ準位の状態密度 D(0)D(0) だけを拾う。有限温度補正は D(0)D''(0) に比例する。この問題の状態密度は ε=0\varepsilon=0 で上に凸なので D(0)<0D''(0)<0 となり,温度を上げると磁化率は 2 次で減少する。 粒子数を固定する条件から化学ポテンシャルも少し動くが,スピン上向きと下向きのエネルギーずれは ±m0H\pm m_0H で反対向きなので,全粒子数の HH 一次項は相殺される。 したがって μ\mu の補正は H2H^2 以上であり,MMHH で一回微分して H=0H=0 とおく線形磁化率には寄与しない。 また f(ε)-f'(\varepsilon) は幅 kBTk_BT 程度でフェルミ準位の近傍を平均する重みである。 今回の半楕円型状態密度は中心で最大なので,温度で平均範囲が広がるほど中心値より低い両側の状態密度も混ざり, T2T^2 補正が負になると理解できる。

試験で落としやすい点

仕事の符号は「系がする仕事」か「外界が系にする仕事」かで逆になる。磁化の定義にも負号が入っているため,スピン数差の符号を最後まで追う必要がある。また,N0N_0 の積分は半円の面積で一気に計算できるが,半充填の電子数 N0/2N_0/2 と全状態数 N0N_0 を混同しないこと。

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