大阪大学 院試 過去問 解答例
阪大 情報科学研究科 情報基礎数学専攻 数学 2016年度 院試 過去問 解答例・解説(全5問)
全5問。微分積分・解析2問・線形代数1問。テーマタグは2件(固有値・固有ベクトル・留数定理)。2015年度と共通のテーマは留数定理。
最終更新:
- このページで公開
- 解説5問・解答5問・最終答5問(全5問)
- 公開範囲
- 2016年度は解答・最終答まで全文公開
- 問題本文
- 非収録
阪大 数学 2016年度 院試 過去問の出題内容(全5問)
この5問の分野は微分積分・解析2問・線形代数1問です。
| 大問 | 分野 | 主題 | 解説の小見出し | 最終答 |
|---|---|---|---|---|
| 第1問 | 微分積分・解析 | 円盤上の積分と差分商 | 差分商の見方 / 採点上の注意 | あり |
| 第2問 | — | 数列空間と線形漸化式 | 次元の押さえ方 | あり |
| 第3問 | 微分積分・解析 | 留数定理によるフーリエ型積分 | 弧の評価 / 採点上の注意 | あり |
| 第4問 | — | 二変数多項式の極値 | — | あり |
| 第5問 | 線形代数 | 固有ベクトルと対角化可能性 | 重複固有値の扱い | あり |
この年度の解説には典型ミス3件・採点上の注意2件・検算1件が付いています。
2016年度の出題テーマと、同じテーマを出した他大学・他年度
この年度は2問に2テーマが出ています。
| テーマ | この年度 | 全体の出題実績 | 他大学の直近出題 |
|---|---|---|---|
| 固有値・固有ベクトル | 第5問 | 25大学・544問 | |
| 留数定理 | 第3問 | 18大学・126問 |
前年度(2015年度)との違い
- 大問数
- 2015年度 5問 → 2016年度 5問
- 両年度に出たテーマ
- 留数定理
- 2016年度で新しく出たテーマ
- 固有値・固有ベクトル
第1問 — 円盤上の積分と差分商
方針
円板上で一次関数を積分する問題は,重心を使うと一行で処理できる。 ただし答案では極座標での確認も書けるようにしておくと,図形的な取り違えを防げる。
積分領域は中心が原点でない円板である
差分商の見方
と が別々の速度で に近づくため,単に と置いてはいけない。上の分解により,右差分商と左差分商の 重み付き平均として扱える。微分可能性から両方が同じ に 近づくので,重みがどのように変わっても極限は変わらない。
採点上の注意
積分では円板の中心を と誤認すると答えが になってしまう。 差分商では, と がそれぞれ から の間にあり, 和が であることを書くと,極限の議論が明確になる。
解答
前半の積分領域は である。中心 ,半径 の円板なので,重心の 座標は ,面積は である。したがって
同じ計算は極座標でも確認できる。 とすると 領域は であり,
後半は, として差分商を分ける。 は で微分可能だから,任意の に対して 十分小さい では が成り立つ。上の式はこの2つの差分商の凸結合であるため, よって求める極限は である。
最終答
。また,両側からの差分商の極限は に等しい。
第2問 — 数列空間と線形漸化式
方針
数列全体の空間は,成分ごとの実数計算に帰着する。部分空間の確認では, 漸化式が「線形かつ同次」であることを使えばよい。基底は特性方程式の根から 候補を作るのが標準的である。
3つの基本解が初期値3個分の自由度を張る
次元の押さえ方
3階の漸化式では, を与えると以降の項が順に決まる。 このため解空間の次元は高々 である。3本の一次独立な解を見つければ, それだけで基底だと結論できる。
典型ミス
一次独立性は「見た目が違う」だけでは証明にならない。有限個の添字 を取り出して,係数行列の行列式が非零であることを示すと 短く確実に書ける。
解答
まず は実数列全体であり,和とスカラー倍は成分ごとに定義されている。 零ベクトルは零数列, の加法逆元は である。 結合法則,交換法則,分配法則などは各成分の実数演算に帰着するので, は実ベクトル空間である。
次に3つの数列の一次独立性を示す。実数 が を満たすとする。 を代入すると この係数行列の行列式は である。したがって となり,3つの数列は 一次独立である。
最後に,漸化式で定まる集合 を考える。2つの の元 と実数 について, が成り立つ。零数列も同じ漸化式を満たすため, は の部分空間である。
特性方程式は であり, と因数分解できる。よって はいずれも に属する。これらの における値で作る行列式は だから一次独立である。
一方,漸化式を満たす数列は初期値 により一意に定まる。 したがって の次元は高々 である。上で に属する 一次独立な3本の数列を得たので,これらは の基底である。
最終答
の基底の一例は 。
第3問 — 留数定理によるフーリエ型積分
方針
を直接扱うより, の実部として計算する方が留数定理に乗せやすい。 は上半平面で減衰するため,上半円を閉曲線に選ぶ。
上半平面で閉じると だけを囲む
弧の評価
答案では「Jordan の補題により」と書いてよいが,理由は に対して となるためである。分母はおよそ ,弧長はおよそ なので, 減衰を合わせると半円弧の寄与は消える。
採点上の注意
をそのまま上半円で積分すると, は指数的に増える成分を含む。 を選び,最後に実部を取るのが安全である。
解答
複素関数 を考え,上半平面の半円輪郭で積分する。上半平面にある極は の単純極だけである。留数は したがって留数定理より 上半円弧上の積分は Jordan の補題,または と分母の二次増大により へ収束する。
求める積分は上式の実部であるから,
最終答
第4問 — 二変数多項式の極値
方針
この関数は と が分離しているので,停留点の候補は一変数の条件を 2回使えば出る。閉領域上の絶対最大・最小では, を新しい変数にすると 三角形領域の問題に変わる。
閉円板は 平面で三角形になる
検算
と平方完成できるので, である。これにより全平面での最小値が であることは直ちに確認できる。
典型ミス
停留点の値だけを調べて閉領域上の最大値を答えると,境界の値 を落とす。 閉領域の最大・最小では「内部」と「境界」を必ず分ける。
解答
関数を とおく。偏微分は である。したがって停留点では となる。
Hessian は である。 では なので局所最大で, また の4点では なので局所最小で, 一方,片方だけが ,もう片方が の点では Hessian が不定符号になり, 鞍点である。よって極大値は ,極小値は である。
次に閉円板 上の最大・最小を求める。 と置くと,条件は であり, となる。この二変数関数の内部の停留点は から であり,値は である。
最大値は三角形領域の境界を見ればよい。辺 では で,最大値は のとき である。辺 でも同様に最大値は のとき である。辺 では であり,最大値は端点で である。
したがって閉円板上の最小値は ,最大値は である。 最小値は で,最大値は で達成される。
最終答
局所最大値は ,局所最小値は 。閉円板上では最大値 ,最小値 。
第5問 — 固有ベクトルと対角化可能性
方針
前半は線形代数の基本定理だが,答案では「よく知られている」で済ませず, 一次関係に を作用させて項数を減らす議論を書くと確実である。 後半は特性多項式だけで終わらず,重複固有値の固有空間の次元まで確認する。
重複固有値の扱い
固有値がすべて相異なるなら,自動的に固有ベクトルが3本そろう。 今回は が重複しているので,ここだけが判定の焦点である。 固有空間が2次元なら対角化可能だが,実際には1次元であるため失敗する。
重複固有値では幾何的重複度を確認する
典型ミス
と出た時点で「固有値があるから対角化可能」と 判断してはいけない。対角化可能性には,固有値の個数ではなく,固有ベクトルで 空間全体を張れるかが必要である。
解答
まず,相異なる固有値に属する固有ベクトルが一次独立であることを示す。 固有値 が相異なり,それぞれに対応する 固有ベクトルを とする。もし という非自明な一次関係があるなら,その中から項数が最小のものを取る。 項数を としてよい。両辺に を作用させると 一方,最初の関係式に を掛けると これらを引くと を得る。固有値は相異なるため,少なくとも元の非零係数に対応する項は残る。 これはより少ない項数の一次関係であり,最小性に反する。したがって 最初から非自明な一次関係は存在せず, は一次独立である。
次に行列 を調べる。特性多項式は したがって 固有値 の代数的重複度は である。
の固有空間を計算すると から となるので,固有空間は で1次元である。代数的重複度 に対して固有空間の次元が しかないため, 固有ベクトルを3本そろえることはできない。よってこの行列は対角化可能でない。
最終答
相異なる固有値に属する固有ベクトルは一次独立。与えられた行列は対角化可能でない。
阪大 数学 院試 過去問の収録21年度
階数と連立一次方程式の整合条件 / 2つの放物線上の点の距離 / 二点境界条件付き線形常微分方程式
楕円体と円柱条件の共通部分 / 二変数関数の極値判定 / 単調列と指数型列
主値積分 / 二次曲線上の積の極値 / 冪級数の収束半径
一次微分方程式 / 4次元球の体積 / 導関数の極限と微分可能性
三角関数の定積分 / 定数係数線形微分方程式 / 凸関数の導関数の極限
有理関数の広義積分 / 二変数関数の極値 / 正則行列の開性と行列冪の極限
パラメータ付き有理型積分 / 偏導関数が消える関数 / 行列の冪と作用素ノルム
三角置換と周期積分 / 行列の核と階数1行列 / 制約付き極値
二重積分と球・円柱の共通部分 / 二次形式の最大値と固有値 / 漸化式と収束半径
2016年度(このページ・全5問)解答・最終答まで全文公開
円盤上の積分と差分商 / 数列空間と線形漸化式 / 留数定理によるフーリエ型積分
2015年度(全5問)解答・最終答まで全文公開
重積分と広義積分 / 階段型行列の行列式 / Rodrigues型多項式と直交性
2014年度(全5問)解答・最終答まで全文公開
変数変換とベータ積分 / 多項式の零点と三角格子 / 直交行列のCayley変換
2013年度(全5問)解答・最終答まで全文公開
多項式空間上の線形変換 / 積分剰余と凸性 / 巡回行列の固有値
2012年度(全5問)解答・最終答まで全文公開
積分の変数変換 / 実数連立方程式 / 指数型母関数と3周期列
2011年度(全5問)解答・最終答まで全文公開
積分評価 / 線形部分空間 / 正則関数と調和共役
2010年度(全5問)解答・最終答まで全文公開
広義積分と留数計算 / 行列の核の次元 / 複素数列の周期性
2009年度(全5問)解答・最終答まで全文公開
制約付き最大化 / 歪対称行列と非対角化性 / 単位円上の留数計算
2008年度(全5問)解答・最終答まで全文公開
球と円柱の共通部分の体積 / 同伴行列の固有多項式と対角化 / 有界正則関数の係数評価
2007年度(全5問)解答・最終答まで全文公開
左右から近づく微分商 / 楕円体の体積 / 留数による有理関数積分
2006年度(全5問)解答・最終答まで全文公開
漸化式と階乗正規化 / 二変数関数の極値 / 単位円上の留数計算
2005年度(全5問)解答・最終答まで全文公開
可積分条件と無限遠での極限 / 極座標でのラプラシアン / フーリエ型積分と留数