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東大 新領域創成科学研究科 専門基礎科目(複雑理工学) 2025年度 院試 過去問 解答例・解説(解説5項目)

解説5項目の分野は確率・統計1項目、線形代数1項目、電磁気学・回路1項目です。固有値・固有ベクトル、留数定理、剛体の回転運動などが出ています。2024年度と共通するテーマは固有値・固有ベクトル、正定値行列、ヒルベルト空間です。解説はすべて、途中式と最終答は大問1問ぶんを公開しています。PDFの収録範囲は商品ページで確認できます。問題本文は含みません。

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Problem No. 1 — 微分積分

上端や下端が変数の積分は、原始関数を合成関数として微分すると端点の微分係数が現れます。積分区間が縮む極限では、被積分関数のTaylor展開と区間の長さをともに追います。線形微分方程式の解は同次解と一つの特解の和です。周期的な外力でも、初期条件に依存する過渡項と定常的な応答を分けて考えます。曲線で囲まれる面積は上下の位置関係を確かめて積分し、回転体では半径となる長さを先に決めます。曲面上の量を最大化する場合、勾配の計算だけでは極大・大域最大の区別がつきません。定義域の端や無限遠での挙動も同時に調べます。

微分積分の途中式・最終答をPDFで見る

Problem No. 2.1 — 線形代数

問1(1) 定数成分と和が0の成分への分解

固有値 λ\lambda と固有ベクトル v≠0\boldsymbol v\ne0 は,Av=λvA\boldsymbol v=\lambda\boldsymbol v を満たす数とベクトルである。全成分が1の行列 JJ は,入力の成分和を三つの出力成分へ同じように入れる。そのため定数ベクトルの方向と,成分和が0の二次元部分空間で作用が異なる。前者で AA は0倍,後者では3倍となる。

三次元のうち一次元と二次元を尽くしたので,他の固有値はない。跡は tr⁡A=6=0+3+3\operatorname{tr}A=6=0+3+3,行列式は0で,固有値の和と積による確認もできる。ただし跡と行列式の二条件だけで三つの固有値を決めるのは不十分であり,固有空間の次元を実際に確認したことが必要である。対角成分が全て2だから固有値も全て2とするのは,非対角成分の作用を無視した計算になる。

問1(2) 固有ベクトルによる直交対角化

実対称行列は正規直交な固有ベクトルを基底に取れる。前小問の固有値0に対して e/3\boldsymbol e/\sqrt3 を取り,和が0の平面内で (1,−1,0)T(1,-1,0)^{\mathsf T} と (1,1,−2)T(1,1,-2)^{\mathsf T} を選ぶ。二つの内積は 1−1+0=01-1+0=0,長さはそれぞれ 2,6\sqrt2,\sqrt6 なので,規格化すれば答案の第二・第三列となる。

列を pj\boldsymbol p_j とすれば,AP=Pdiag⁡(0,3,3)AP=P\operatorname{diag}(0,3,3) である。また正規直交性から PTP=IP^{\mathsf T}P=I だから,左から PTP^{\mathsf T} を掛けると目的の対角化が得られる。固有値3が重複していても,その平面内で別の正規直交基底を選べば正答になる。規格化をせず同じ列を並べ,その逆行列を転置と置くと PTP=diag⁡(3,2,6)P^{\mathsf T}P=\operatorname{diag}(3,2,6) となり,直交行列の条件を満たさない。

問1(3) 特異な行列の連立方程式

行列の像は,実際に AA を掛けて得られるベクトル全体である。本問では eTA=0\boldsymbol e^{\mathsf T}A=0 なので,像のベクトルは必ず成分和が0になる。一方,和が0の任意の b\boldsymbol b に対して A(b/3)=bA(\boldsymbol b/3)=\boldsymbol b だから,この必要条件は十分でもある。可解条件を一つ得ただけでなく,解を構成することで十分性まで示せる。

一つの解に核のベクトルを加えても右辺は変わらない。核は前問の固有値0の空間 span⁡{e}\operatorname{span}\{\boldsymbol e\} なので,全解が答案の形になる。ss を加えた各成分へ AA を掛ければ ss の項が消え,右辺だけが残ることを確認できる。det⁡A=0\det A=0 だから解が存在しないという結論は誤りであり,存在しない右辺と,無限個の解を持つ右辺を区別しなければならない。

問1(4) 行列指数の長時間極限

射影 QQ は Q2=QQ^2=Q を満たし,QvQ\boldsymbol v は入力の三成分の平均を全成分へ入れる。一方 (I−Q)v(I-Q)\boldsymbol v は和が0の成分である。e−Ate^{-At} は,固有値0の方向に e0=1e^0=1,固有値3の方向に e−3te^{-3t} を掛けるので,平均成分だけが残る。これは行列指数の級数 ∑n=0∞(−tA)n/n!\sum_{n=0}^\infty(-tA)^n/n! を,二つの固有空間で計算しても導ける。

本問では平均が (3+2+1)/3=2(3+2+1)/3=2,平均からのずれは (1,0,−1)T(1,0,-1)^{\mathsf T} なので,有限時刻の解まで e−Atc=(2+e−3t,2,2−e−3t)Te^{-At}\boldsymbol c=(2+e^{-3t},2,2-e^{-3t})^{\mathsf T} と書ける。三成分の和6は常に保存され,初期値も復元する。負号が付いた指数だから全て0へ行くと判断すると,固有値0の減衰しない方向を落とす。極限の和が0になってしまう点でも,保存される和との矛盾を確認できる。

問2(1) 転置しても特性多項式が変わらない理由

特性多項式の根が固有値になるのは,det⁡(λI−B)=0\det(\lambda I-B)=0 と,λI−B\lambda I-B が非零の核を持つことが同値だからである。転置で行列式が変わらないことは,行列式の置換和で行と列の添字を入れ替え,置換を逆置換へ置き直すことで証明できる。逆置換の符号が元と等しいため,各項を対応させられる。

この証明は BB が対称であることや,対角化できることを仮定しない。例えば (1101)\left(\begin{smallmatrix}1&1\\0&1\end{smallmatrix}\right) とその転置は対角化できないが,どちらの特性多項式も (λ−1)2(\lambda-1)^2 である。ただし固有ベクトルまで同じとは限らない。転置したら固有値も逆数になるという規則はなく,逆数が現れるのは可逆行列の逆行列に対する別の性質である。

問2(2) 左右の固有ベクトルの直交関係

転置側の固有ベクトルは,元の行列を左側から評価するために使える。この関係が成り立つのは,二つの固有値の差が非零だからであり,同じ固有値どうしについて積が0になるとは主張していない。対称行列なら左右の固有ベクトルを一致させられ,異なる固有空間の直交性という既知の性質を含む。

ここでの T\mathsf T は複素共役を取らない転置である。複素固有値の場合にも λj\lambda_j はそのまま外へ出る。Hermite内積の記号 †\dagger に置き換えると共役が生じるため,同じ証明にはならない。具体的に B=(0−110),ui=vj=(1−i) B=\begin{pmatrix}0&-1\\1&0\end{pmatrix},\qquad \boldsymbol u_i=\boldsymbol v_j=\begin{pmatrix}1\\-i\end{pmatrix} とすれば,BB 側の固有値は ii,BTB^{\mathsf T} 側は −i-i で異なる。しかし vjTui=1+(−i)2=0\boldsymbol v_j^{\mathsf T}\boldsymbol u_i=1+(-i)^2=0 に対し,vj†ui=2\boldsymbol v_j^\dagger\boldsymbol u_i=2 である。この例で,求められた双線形な積と正定値の内積を区別できる。

解答

問1(1) 定数成分と和が0の成分への分解

e=(1,1,1)T\boldsymbol e=(1,1,1)^{\mathsf T},J=eeTJ=\boldsymbol e\boldsymbol e^{\mathsf T} とすると,A=3I−JA=3I-J である。 Je=3eJ\boldsymbol e=3\boldsymbol e,eTv=0\boldsymbol e^{\mathsf T}\boldsymbol v=0 のとき Jv=0J\boldsymbol v=0 なので

問1(3) 特異な行列の連立方程式

Ax=(1,1,β)TA\boldsymbol x=(1,1,\beta)^{\mathsf T} に左から eT\boldsymbol e^{\mathsf T} を掛けると 0=2+β0=2+\beta。β=−2\beta=-2 のとき右辺の成分和は0なので,その三分の一が特解となる。

問1(4) 行列指数の長時間極限

Q=J/3Q=J/3 は定数ベクトルへの射影で,A=3(I−Q)A=3(I-Q) である。従って e−At=Q+e−3t(I−Q). e^{-At}=Q+e^{-3t}(I-Q). c=(3,2,1)T\boldsymbol c=(3,2,1)^{\mathsf T} に作用させると

問2(1) 転置しても特性多項式が変わらない理由

任意の λ∈C\lambda\in\mathbb C に対し,行列式の転置不変性から det⁡(λI−BT)=det⁡{(λI−B)T}=det⁡(λI−B). \det(\lambda I-B^{\mathsf T}) =\det\{(\lambda I-B)^{\mathsf T}\} =\det(\lambda I-B). 従って BB と BTB^{\mathsf T} の特性多項式は等しく,固有値は代数的重複度を含めて一致する。

問2(2) 左右の固有ベクトルの直交関係

Bui=λiuiB\boldsymbol u_i=\lambda_i\boldsymbol u_i,BTvj=λjvjB^{\mathsf T}\boldsymbol v_j=\lambda_j\boldsymbol v_j とする。同じスカラーを二通りに計算すると λivjTui=vjTBui=(BTvj)Tui=λjvjTui. \lambda_i\boldsymbol v_j^{\mathsf T}\boldsymbol u_i =\boldsymbol v_j^{\mathsf T}B\boldsymbol u_i =(B^{\mathsf T}\boldsymbol v_j)^{\mathsf T}\boldsymbol u_i =\lambda_j\boldsymbol v_j^{\mathsf T}\boldsymbol u_i. λi≠λj\lambda_i\ne\lambda_j だから,vjTui=0\boldsymbol v_j^{\mathsf T}\boldsymbol u_i=0 が従う。

最終答

問1(1) 定数成分と和が0の成分への分解

AA の固有値は 0,3,30,3,3。

問1(2) 固有ベクトルによる直交対角化

P=(1/31/21/61/3−1/21/61/30−2/6),PTAP=diag⁡(0,3,3)\displaystyle P=\begin{pmatrix} 1/\sqrt3&1/\sqrt2&1/\sqrt6\\ 1/\sqrt3&-1/\sqrt2&1/\sqrt6\\ 1/\sqrt3&0&-2/\sqrt6 \end{pmatrix},\qquad P^{\mathsf T}AP=\operatorname{diag}(0,3,3)。

問1(3) 特異な行列の連立方程式

β=−2,x=13(1,1,−2)T+s(1,1,1)T(s∈R)\displaystyle \beta=-2,\qquad \boldsymbol x=\frac13(1,1,-2)^{\mathsf T}+s(1,1,1)^{\mathsf T} \quad(s\in\mathbb R)。

問1(4) 行列指数の長時間極限

lim⁡t→∞e−Atc=(2,2,2)T\displaystyle \lim_{t\to\infty}e^{-At}\boldsymbol c=(2,2,2)^{\mathsf T}。

Problem No. 2.2 — 確率・統計

共分散は Cov⁡(X,Y)=E[XY]−E[X]E[Y]\operatorname{Cov}(X,Y)=E[XY]-E[X]E[Y] です。独立なら積の平均を分解できますが、共分散0だけから独立は導けません。分布関数から密度を求めるときは微分可能な区間を分け、逆関数による乱数変換では単調性と値域を確かめます。Cauchy分布では通常の平均や分散を有限値として使えないため、特性関数で和の分布を扱います。最小二乗法は残差平方和を係数で微分して正規方程式を作る方法です。標本平均を引いた変数に直すと傾きと切片の役割を分けられます。説明変数の平方偏差和が0になる退化例を除いて初めて傾きの一意性が得られます。

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Problem No. 2.3 — 力学

ばねで結ばれた多体系は各質点の運動方程式を行列にまとめ、共通の角振動数を持つ変位を代入して固有値問題へ移します。固有ベクトルは質点間の振幅比を表します。投射運動の到達可能な境界は、着地点の式を投射角で最大化して求められますが、速度や高さの条件も残します。剛体への打撃では重心の運動量変化と重心周りの角運動量変化を同時に使い、接触点の速度で滑りの有無を判定します。地球の自転を含む問題では、局所座標の各軸と自転角速度の成分を先に固定します。Coriolis力の向きは外積から決め、記憶した方角だけで決めません。

力学の途中式・最終答をPDFで見る

Problem No. 2.4 — 電磁気学

回路の抵抗を直列・並列にまとめる前に、どの節点間に同じ電圧がかかるかを確認します。交流回路は抵抗 RR、コイル jωLj\omega L、コンデンサ 1/(jωC)1/(j\omega C) を複素数で表せます。振幅の比と平均電力を求める際は、振幅値と実効値を混同しないことが必要です。Faradayの法則 E=−dΦ/dt\mathcal E=-d\Phi/dt の符号は、磁束の正方向と回路を回る正方向を対応させて定めます。複数の電流ループがある場合、各部分に働く力の和と全体の力を分けて計算します。向かい合う辺の磁場が異なると局所的な圧縮と並進力は一致しません。電力・力の次元も独立な確認に使えます。

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2025年度の出題内容

解説5項目

この5問の分野は確率・統計1問・線形代数1問・電磁気学・回路1問・微分積分・解析1問・力学1問です。

大問分野主題解説の小見出し最終答
Problem No. 1微分積分・解析微分積分—あり
Problem No. 2.1線形代数——あり
Problem No. 2.2確率・統計——あり
Problem No. 2.3力学——あり
Problem No. 2.4電磁気学・回路電磁気学—あり

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