北海道大学 院試 過去問 解答例
北大 理学院 自然史科学専攻 専門科目(地球惑星科学) 2026年度夏期募集 院試 解答例・解説
北海道大学 理学院 自然史科学専攻 専門科目(地球惑星科学) 2026年度夏期募集の院試 過去問について、設問ごとの解法方針と確認点を解説。全11問収録の解答・解説PDFと併用できます。問題本文は含みません。
最終更新:
設問ごとの解法方針と確認点を公開しています。
続きの途中式・最終答は解答・解説PDFに収録しています。問題本文は含まれません。
第1問 — I-1 線形最小二乗
方針
連立方程式が過剰決定になっているため,問題の中心は通常の逆行列ではなく 最小二乗法である。二次形式 を使うと,展開と最小化を同じ計算で確認できる。
検算
は対称行列でなければならない。上の行列は対称で, 固有値もすべて正である。したがって は狭義凸の二次関数であり, 正規方程式の解が一意の最小点になる。
典型ミス
固有ベクトルは大きさ 1 に正規化する必要がある。 また, は原点を通るので,法線は曲面の式そのものではなく から求める。最後の単位法線は符号を反転しても同じ法線方向を表す。
試験で書くべきポイント
係数行列,正規方程式,二次式の展開を省かずに書く。 特に最小値を求める問いでは または のどちらかを明示すると, 導出過程として十分に伝わる。
第2問 — I-2 複素数と留数
方針
前半はオイラーの公式をそのまま使う。 後半は分母を と平方完成してから一次因子に分解する。 半円輪郭が上半平面を正向きに回るので,内側の極は だけである。
途中式
単純極 における留数は でも求められる。この問題では なので, となり,同じく留数 が得られる。
検算
実積分は変数変換 により となる。これは であり, 留数計算と一致する。
典型ミス
下半平面の極 を足してしまうと答えが 0 になる。 輪郭がどちらの半平面を囲むかを図で確認してから,留数を取る極を選ぶ。
第3問 — I-3 マクローリン展開
方針
は微分すると有理関数になり,係数の規則がすぐ見える。 一方,最後の級数は直接和を取るより, を部分分数分解して に戻すのが最短である。
収束半径
比の判定法では,項全体を比較する。 係数だけを見るのではなく のように の因子を残すことが重要である。 この極限が なので,中心 0 から最も近い特異点 までの距離とも一致する。
典型ミス
の定数項を忘れやすい。 不定積分だけを書くと定数がずれるので, が で 0 になることを確認する。
試験で書くべきポイント
級数の形だけでなく,収束半径を比の判定法で明示する。 また,展開前の表現を求める問題では,最後に を代入して 級数と閉じた形の定数項が一致することを確認すると答案が安定する。
第4問 — II-1 慣性モーメントと転がり運動
方針
慣性モーメントの積分では,面積要素ではなく体積要素 を使うため,被積分関数は になる。 転がり運動では,並進の運動エネルギーと回転の運動エネルギーを足してから 拘束条件 を代入する。
検算
円柱Aについて となる。これは既知の一様円柱の転がり加速度と一致する。
典型ミス
液体入り円筒Cでは,液体の幾何学的な質量分布だけを見て としてしまうと,摩擦が無視できるという条件を使っていない。 ここで比較しているのは,斜面での転がりに実際に結合する有効な回転慣性である。
試験で書くべきポイント
空欄問題でも, と を明記する。 この 2 つを書いておけば,係数の を取り違えたときにも検算しやすい。
第5問 — II-2 理想気体のサイクル
方針
理想気体では内部エネルギーが温度だけで決まる。 したがって,準静的か自由膨張かにかかわらず, は始状態と終状態の温度差から決まる。 ただし仕事 と熱 は過程に依存する。
途中式
断熱式は 一定でも書けるが,本問では を示す形が求められている。 途中で に変形することが,最終形へつなぐ要点である。
検算
自由膨張では温度一定なので,圧力は体積比に反比例する。 これに対し,可逆断熱膨張では気体が仕事をするため温度が下がり, 同じ体積 に達したときの圧力はより低い。 この物理的説明は という不等式と一致する。
典型ミス
自由膨張を準静的断熱変化と同じ式で扱ってはいけない。 自由膨張では途中の圧力が熱力学的な平衡圧として定義できず, 一定は使えない。
第6問 — II-3 平板コンデンサーと変位電流
方針
前半は無限平板近似でよい。 孤立した 1 枚の導体板では全電荷 が両面に分かれるが, 平板コンデンサーでは内側の面に が現れるため,板間の電場は になる。
検算
コンデンサー容量は である。したがって となり,直接積分で得た結果と一致する。
典型ミス
アンペールの法則の矛盾は,境界線 が同じなのに選ぶ曲面によって 貫く伝導電流が変わることから生じる。 変位電流項は「導線以外にも電流が流れている」という意味ではなく, 時間変化する電束が磁場を作ることを表す項である。
試験で書くべきポイント
問2では電場の向きを符号付きで答える。 問3では, と のどちらを取っても同じ になることを最後に確認する。
第7問 — III-1 地質図学と堆積構造
方針
地質図学の計算では,水平移動を傾斜方向成分に射影してから, で標高差へ変換する。走向方向の成分は同一層準上で標高を変えない。
途中式
走向 に直交する北西方向は真北となす角が である。 したがって,真北への移動はそのまま傾斜方向ではなく, 倍だけが傾斜方向成分になる。 この射影を忘れると,地点Bの深さを過大評価する。
検算
地点Bでは地表の標高もAより低いが,X面は北西へ傾斜するためさらに低くなる。 その差として正の深さが得られるので,符号は整合している。 地点C,D付近ではDのYがX面より低い位置にあるため,YはXの下位と判断できる。
典型ミス
「上位・下位」の距離を鉛直差のまま答えない。 層厚は層理面に垂直な距離なので,鉛直差から真の層厚に直すには を掛ける。逆に,同じ真の層厚を別の傾斜角の場所に移すときは で割って鉛直差に戻す。
試験で書くべきポイント
図から読んだ標高値を最初に書き,次に射影と三角比の計算を書く。 最後に「上位か下位か」を必ず言葉で添える。 堆積物の説明問題では,形成過程と識別に使う堆積構造を短く具体的に述べる。
第8問 — III-2 大気酸素化と生命進化
方針
この問題は,酸素発生型光合成,縞状鉄鉱床,全球凍結,カンブリア紀の化石記録を 時間順に結びつけて答える。単語だけでなく,なぜその証拠がそのイベントを示すのかを 1 文で補うと答案の説得力が上がる。
鉄と酸素
初期海洋には二価鉄が多く溶けていた。 酸素が供給されても,まず海水中の鉄の酸化に消費され,三価鉄の酸化物・水酸化物として 沈殿した。鉄が酸化され尽くした後に,大気中の酸素濃度が大きく上がったと考えると, 縞状鉄鉱床と大酸化イベントを一続きで説明できる。
典型ミス
縞状鉄鉱床とストロマトライトを混同しない。 縞状鉄鉱床は鉄の酸化沈殿が作る化学堆積物であり, ストロマトライトは微生物マットが作るラミナ状の生物堆積構造である。
試験で書くべきポイント
記述問題では指定語句を必ず本文中に入れる。 キャップカーボネートの説明なら 「氷床」「二酸化炭素」「炭酸塩」の 3 語を別々に並べるだけでなく, 氷床消失へ向かう因果関係としてつなぐ。
第9問 — III-3 恒星進化と元素合成
方針
質量欠損からエネルギーを求める問題では,反応式を全体として足し合わせてから 始状態と終状態の質量差を取る。個々の中間反応を別々に計算してもよいが, 最終的には同じ正味反応にまとめるとミスが少ない。
原子質量を使う理由
表の値は原子質量であり,原子核だけの質量ではない。 pp チェインの正味反応で と を比べると,電子質量の扱いが原子質量の中で整合するため, 標準的な が得られる。
検算
pp チェインは 1 個のヘリウムを作るたびに約 を出す。 トリプルアルファは炭素 1 個につき約 であり, 桁としては pp チェインより小さい。既知の値と照合しても妥当である。
典型ミス
CNO サイクルは「高温なら必ず起こる」と書くと不十分である。 C,N,O は触媒として反応の前後で再生するが,最初に存在していなければ サイクル自体を開始できない。
試験で書くべきポイント
sプロセスとrプロセスの違いは,単に「遅い・速い」ではなく, 何に対して遅い・速いのかを明記する。 基準はベータ崩壊との時間尺度の比較である。
第10問 — IV-1 放射年代・深成岩・火山噴出物
方針
この大問は分野横断型である。 放射年代では閉鎖系と初生比,深成岩ではQAP正規化,火山では図の読み取りと ノルム計算の物質収支をそれぞれ分けて処理する。
QAP分類の注意
黒雲母と角閃石をQAP三角図に入れてはいけない。 Q,A,P の合計だけを 100\% に正規化してから領域を読む。 色指数では逆に,黒雲母と角閃石を足す。
検算
斜長石の一般式はおおよそ であり,酸素 8 に対して陽イオン総数は 5 になる。 計算結果が 5.00 に近いので,酸化物からの換算は整合している。
斜長石の組成として見直すなら,酸素 8 規格化後のアルカリ・アルカリ土類サイトは で,和はほぼ 1 になる。したがって 程度であり,曹長石成分に富む斜長石として読める。陽イオン総数だけで終わらせず, このように鉱物名・組成範囲へ戻して検算すると,数値の桁違いに気づきやすい。
典型ミス
ノルム計算で残った を全て石英に回してはいけない。 まず と を直方輝石・カンラン石として消費する。 この問題ではシリカが不足するため石英は残らない。
物質収支は,直方輝石を ,かんらん石を とおいたときの を先に解くのが安全である。前者は FeO と MgO の合計から決まり, 後者は残った から決まる。ここで と出るので, Mg:Fe 比 を保って と に 振り分ければ,表中の 60 と 20 が同時に決まる。
試験で書くべきポイント
図読み取りを含む問いでは,読んだ値を「約」として明示する。 記述問題では,鉱物名だけでなく,組織を作る過程や観察根拠を一言添えると 採点者が判断しやすい。
第11問 — IV-2 固溶体と相分離
方針
固溶体の安定性は の符号と曲率で判断する。 エントロピー項は混合を常に有利にし,エンタルピー項が正なら低温で相分離が起こりやすい。
輝石の図示
厳密な相平衡図は不要である。 問題文のサイト制約から,Mg-Fe は広く置換するが,Ca は低Ca側とCaに富む側に 分かれる,という2つの固溶領域を描けばよい。
検算
の係数 は, または で 0 になる。 端成分では混合が存在しないので,この性質は必須である。
混合エントロピーも同じ端成分検算が使える。スターリング近似 を に用いると したがって は で正,端成分で 0 である。温度が高いほど が効き,1相固溶体が安定になりやすい。
相図と自由エネルギーの対応
2相分離は,単に という符号だけでは決まらない。 固定温度で自由エネルギー曲線が上に凸な組成範囲をもつと,その範囲では 1つの均一相よりも,Aに富む相とBに富む相を共存させた方が低い自由エネルギーになる。 相図に描くソルバスは,その共存組成を温度ごとにつないだ境界である。 XRDピークの問題では,この境界の外側なら平均組成に対応する1本, 内側なら2つの共存相に対応する2本,という順に判断する。
典型ミス
A-B結合の割合を としてしまうミスが多い。 Aの隣にBが来る場合と,Bの隣にAが来る場合の 2 通りを含めるため, 割合は である。
試験で書くべきポイント
相図では,2相領域を塗るだけでなく,その境界がソルバスであることを書く。 XRDの選択問題では,1相ならピーク1本,2相共存ならピーク2本という原理を 先に述べると,図の選択理由が明確になる。