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熊本大学 院試 過去問 解答例

熊本大 自然科学教育部 理学専攻 数学コース 数学 2026年度第1期 専門 院試 過去問 解答例・解説(全4問)

全4問。微分積分・解析1問。テーマタグは3件(留数定理・群論・環論・テイラー展開)。

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解説4問と大問1問の途中式・最終答(全4問)
解答PDFに収録
途中式と最終答(最終答つき4問)
問題本文
非収録

熊本大 数学 2026年度第1期 専門 院試 過去問の出題内容(全4問)

この4問の分野は微分積分・解析1問です。

大問分野主題解説の小見出し最終答
第1問—対称群の中心化群位数の検算 / シロー部分群の見つけ方あり
第2問—トーラスの基本群と被覆空間被覆空間の作り方 / 部分群との対応あり
第3問—ルーシェの定理と留数計算ルーシェの使いどころ / 零点の個数の読み方あり
第4問微分積分・解析可測性と優収束定理可測性の確認 / 有限測度の役割あり

2026年度第1期 専門の出題テーマと、同じテーマを出した他大学・他年度

この年度は2問に3テーマが出ています。

第1問 — 対称群の中心化群

方針

中心化群の問題では,共役が巡回置換の文字を置き換える操作であることを使う。今回の σ\sigma は3本の互換の積なので,中心化群は「各組の中を入れ替える操作」と「3つの組そのものを入れ替える操作」からなる。

位数の検算

中心化群は構造的には (C2)3⋊S3(C_2)^3\rtimes S_3 と見られる。したがって位数は 23⋅3!=48 2^3\cdot 3! = 48 となり,共役類サイズから得た値と一致する。

シロー部分群の見つけ方

3の部分は,3つの組を巡回させる操作から出る。組の中の入れ替えだけでは2べき位数しか作れないため,(1 3 5)(2 4 6)(1\,3\,5)(2\,4\,6) のように,組 {1,2}→{3,4}→{5,6}→{1,2} \{1,2\}\to\{3,4\}\to\{5,6\}\to\{1,2\} を保ちながら回す元を探すとよい。

正規性の書き方

正規性は「生成元が共役で生成元集合の中に戻る」と示すのが最短である。各互換がどれか別の互換へ移ることを書けば,生成された部分群全体が共役で保たれることが従う。 ただし,正規性を示す相手は S6S_6 全体ではなく ZS6(σ)Z_{S_6}(\sigma) である。中心化群の元だけが3つの組を組として保存するので,この限定を答案で落とさないようにする。

解答

ρ∈S6\rho\in S_6 と巡回置換 c=(k1 k2 ⋯ kr)c=(k_1\,k_2\,\cdots\,k_r) を取る。任意の jj について ρcρ−1(ρ(kj))=ρc(kj)={ρ(kj+1)(1≤j<r),ρ(k1)(j=r) \rho c\rho^{-1}\bigl(\rho(k_j)\bigr) =\rho c(k_j) = \begin{cases} \rho(k_{j+1}) & (1\le j<r),\\ \rho(k_1) & (j=r) \end{cases} であり,ρ(k1),…,ρ(kr)\rho(k_1),\ldots,\rho(k_r) 以外の点は固定される。したがって ρ(k1 k2 ⋯ kr)ρ−1=(ρ(k1) ρ(k2) ⋯ ρ(kr)). \rho(k_1\,k_2\,\cdots\,k_r)\rho^{-1} = \bigl(\rho(k_1)\,\rho(k_2)\,\cdots\,\rho(k_r)\bigr).

σ=(1 2)(3 4)(5 6)\sigma=(1\,2)(3\,4)(5\,6) の共役類は,互いに交わらない3個の互換の積,すなわち型 (2,2,2)(2,2,2) の元全体である。6個の文字を2個ずつ3組に分け,各組内の順序と3組の順序を無視すればよいから,共役類の元の個数は 6!(2!)3 3!=15 \frac{6!}{(2!)^3\,3!}=15 である。

軌道安定化定理を共役作用に適用すると, ∣S6∣=∣Cl⁡(σ)∣⋅∣ZS6(σ)∣ |S_6|=|\operatorname{Cl}(\sigma)|\cdot |Z_{S_6}(\sigma)| である。よって ∣ZS6(σ)∣=6!15=48. |Z_{S_6}(\sigma)|=\frac{6!}{15}=48.

この中心化群の位数は 48=24⋅3 48=2^4\cdot3 であるから,シロー 33 部分群の位数は 33 である。例えば τ=(1 3 5)(2 4 6) \tau=(1\,3\,5)(2\,4\,6) とおくと,τ\tau は3つの組 {1,2},{3,4},{5,6} \{1,2\},\quad \{3,4\},\quad \{5,6\} を巡回的に入れ替える。したがって τ(1 2)τ−1=(3 4),τ(3 4)τ−1=(5 6),τ(5 6)τ−1=(1 2), \tau(1\,2)\tau^{-1}=(3\,4),\quad \tau(3\,4)\tau^{-1}=(5\,6),\quad \tau(5\,6)\tau^{-1}=(1\,2), となり,積としては τστ−1=σ\tau\sigma\tau^{-1}=\sigma である。ゆえに ⟨(1 3 5)(2 4 6)⟩ \langle (1\,3\,5)(2\,4\,6)\rangle は ZS6(σ)Z_{S_6}(\sigma) のシロー 33 部分群の1つである。 実際,この元の3乗は恒等置換で,1乗と2乗は恒等置換ではない。中心化群の位数に含まれる3のべきは 313^1 だけなので,位数3の部分群を1つ示せばシロー 33 部分群になっている。

最後に H=⟨(1 2),(3 4),(5 6)⟩ H=\langle (1\,2),(3\,4),(5\,6)\rangle とおく。任意の α∈ZS6(σ)\alpha\in Z_{S_6}(\sigma) について ασα−1=σ \alpha\sigma\alpha^{-1}=\sigma である。一方,互換の積の共役は (α(1) α(2))(α(3) α(4))(α(5) α(6)) (\alpha(1)\,\alpha(2))(\alpha(3)\,\alpha(4))(\alpha(5)\,\alpha(6)) である。互いに交わらない互換への分解は,順序を除いて一意なので, α\alpha は3つの組 {1,2},{3,4},{5,6} \{1,2\},\quad \{3,4\},\quad \{5,6\} を互いに入れ替える。したがって α(1 2)α−1,α(3 4)α−1,α(5 6)α−1 \alpha(1\,2)\alpha^{-1},\quad \alpha(3\,4)\alpha^{-1},\quad \alpha(5\,6)\alpha^{-1} はいずれも (1 2),(3 4),(5 6)(1\,2),(3\,4),(5\,6) のいずれかである。つまり αHα−1=H \alpha H\alpha^{-1}=H であり,HH は ZS6(σ)Z_{S_6}(\sigma) の正規部分群である。 ここで αHα−1⊂H\alpha H\alpha^{-1}\subset H だけでなく等号が成り立つのは,共役写像 h↦αhα−1h\mapsto \alpha h\alpha^{-1} が群 HH からその像への同型であり,逆写像も α−1\alpha^{-1} による共役で与えられるからである。

最終答

共役類の元の個数は 1515,中心化群の位数は 4848。シロー 33 部分群の例は ⟨(1 3 5)(2 4 6)⟩\langle(1\,3\,5)(2\,4\,6)\rangle。また H=⟨(1 2),(3 4),(5 6)⟩H=\langle(1\,2),(3\,4),(5\,6)\rangle は中心化群内で正規である。

第2問 — トーラスの基本群と被覆空間

方針

トーラスは S1S^1 の直積なので,基本群も被覆空間も直積で考えるのが自然である。普遍被覆は円周の普遍被覆 R→S1\mathbb{R}\to S^1 を2本並べたものになる。

被覆空間の作り方

トーラスの被覆空間は,普遍被覆 R2\mathbb{R}^2 を Z2\mathbb{Z}^2 の部分群で割ると作れる。今回の S1×RS^1\times\mathbb{R} は,R2\mathbb{R}^2 を片方の整数平行移動だけで割ったものと見てもよい。

部分群との対応

連結被覆は,基点を固定すれば π1(S1×S1)≃Z2\pi_1(S^1\times S^1)\simeq\mathbb{Z}^2 の部分群と対応する。基本群が Z\mathbb{Z} になる例を作りたいなら,部分群 Z×{0}\mathbb{Z}\times\{0\} または {0}×Z\{0\}\times\mathbb{Z} に対応する被覆を考えるのが自然である。

答案上の注意

「R2\mathbb{R}^2 からトーラスへ指数写像で写す」とだけ書くと,被覆性と単連結性の確認が抜けやすい。局所的に小さい弧の積へ同相に写ること,そして R2\mathbb{R}^2 が単連結であることを明記する。 第3問では「基本群が Z\mathbb{Z} の空間」を答えるだけでは不十分で,それがトーラスへの被覆写像を持つことまで具体式で示す必要がある。

トーラスの基本群と被覆空間の途中式・最終答をPDFで見る

第3問 — ルーシェの定理と留数計算

方針

分母の零点を調べてから留数を計算する。単位円上では z2/2z^2/2 を主項として,残りをルーシェの定理で評価するのが定石である。

ルーシェの使いどころ

評価で必要なのは ∣g(z)−z2/2∣<∣z2/2∣ |g(z)-z^2/2|<|z^2/2| という厳密な不等式である。与えられた ee の評価により e−5/2<1/2e-5/2<1/2 が出るため,境界上に余分な零点がないことも同時に保証される。

零点の個数の読み方

ルーシェの定理で数える零点は重複度込みである。z2/2z^2/2 は原点に2位の零点を持つので,gg も単位円内に合計2個の零点を持つ。問1で原点がすでに2位と分かっているため,これだけで他の零点が排除できる。

留数の検算

分母は2位の零点,分子は1位の零点を持つので,ff は単純極を持つ。主部の先頭だけ見れば zz2/2=2z \frac{z}{z^2/2}=\frac{2}{z} であり,留数 22 はこの形からすぐ検算できる。 積分路の向きが反時計回りなので係数は +2πi+2\pi i である。向きの確認を落とすと符号だけを誤る典型的な失点になる。

ルーシェの定理と留数計算の途中式・最終答をPDFで見る

第4問 — 可測性と優収束定理

方針

可測性,ほとんど至る所収束,積分極限の3段階を順に確認する問題である。最後の積分極限は,有限測度集合上で有界関数に支配されるため,優収束定理を使う。

可測性の確認

合成関数の可測性は「開集合の逆像」を分解して示す。連続写像の逆像で開集合が開集合になり,可測関数の逆像でボレル集合が可測集合になる,という2段階である。

有限測度の役割

有界性だけでは,Rd\mathbb{R}^d 全体で支配関数 MM は可積分とは限らない。ここで ∣E∣<∞|E|<\infty があるため,M1EM\mathbf{1}_E が可積分になり,優収束定理を適用できる。

よくある誤り

GG が一様連続である必要はない。各点ごとの収束を GG の連続性で移すだけなので,点wiseな連続性で十分である。一方,積分極限では点wise収束だけでは不足し,有限測度集合上での有界支配を明記する必要がある。

可測性と優収束定理の途中式・最終答をPDFで見る