東京大学 院試 過去問 解答例
東大 数理科学研究科 数理科学専攻 専門科目A 2012年度 院試 解答例・解説
東京大学 数理科学研究科 数理科学専攻 専門科目A 2012年度の院試 過去問について、設問ごとの解法方針・部分点の置き所を解説。全7問収録の解答・解説PDFと併用できます。問題本文は含みません。
最終更新:
第1問 — 交換子と対角化可能性
階数条件は行ベクトルで見る
この問題では交換子を出した後,すぐに行列式を何個も計算するより,非零になりうる 行が二つしかないことを見るのが速い。第一成分から が強制され,残りは だけになる。
対角化では重複固有値だけを見る
三つの固有値が相異なる場合は自動的に対角化可能である。したがって調べるべき ところは固有値が重なる場合だけである。特に では ジョルダンブロックが現れるので,階数条件を満たしていても対角化可能にはならない。
2012年度は公開から時間が経過しているため、解答・最終答まで全文公開しています
(1) 与えられた二つの行列について直接計算すると である。この行列の階数が 以下であるためには,上の二つの行ベクトルが 一次従属であればよい。
第1成分を見ると,第二行の第1成分は常に なので,一次従属のためには まず が必要である。 とすると となる。したがって階数が 以下である条件は である。よって が第1小問の答である。
(2) 次にこの条件のもとで の対角化可能性を調べる。
の場合, であり,固有値は である。 なら, と重なる可能性が あるのは ,すなわち の場合だけである。このときも なので,固有値 の固有空間は2次元であり,対角化可能である。 一方 のときは,左上の ブロックが となるため対角化できない。
の場合は によらず であり,固有値 に対する固有空間は1次元である。代数的重複度は2だから, この場合も対角化できない。
最終答
第2問 — 二変数関数の最大値
境界確認を省かない
コンパクト領域上の最大値問題では,内部臨界点だけでは答案として不足する。 この問題では境界の最大値が より小さいことを短く示せば十分である。
平面全体では無限遠を見る
で であることを先に書くと,平面全体でも 臨界点の比較に帰着できる。負の臨界点は最小側なので,最大値には影響しない。
2012年度は公開から時間が経過しているため、解答・最終答まで全文公開しています
関数を とおく。偏微分すると
(1) まず正方形 で考える。内部の臨界点では である。差を取ると であり,正方形内部では となる。 したがって である。この点で
境界も確認する。例えば では である。 も同様である。 では であり,導関数の符号から最大点は である。この値は である。 も対称性により同じである。よって正方形上の最大値は である。
(2) 次に平面全体で考える。関数は で に近づくので, 正の値を取る点を含む十分大きな閉円板上で最大値を持つ。したがって内部臨界点を 調べればよい。上と同じ連立方程式から を得る。 の場合は となり実解を持たない。したがって である。正の点では値が ,負の点ではその反数であるから, 平面全体での最大値も である。
最終答
いずれも で達成される。
第3問 — フーリエ積分
分母を二つの標準形に分ける
この積分は留数計算でも処理できるが, と分けると,ディリクレ積分と指数減衰付きフーリエ積分だけで済む。
収束の見方
原点付近では なので特異性は消える。無限遠では 分母が 程度であり,積分は十分よく収束する。答案では,公式を使う前に この程度の収束確認を書いておくと減点されにくい。
2012年度は公開から時間が経過しているため、解答・最終答まで全文公開しています
を使うと,求める積分は である。また だから
よく知られたディリクレ積分より また を で微分すると ここで として したがって
最終答
第4問 — 行列の生成する部分空間
生成空間の次元は最小多項式の次数
の次元を直接行列の列として調べるより, 最小多項式を見る方が構造がはっきりする。今回は固有値 側の ジョルダンの長さが の消え方で変わる。
固有ベクトルは射影子に近い形で出る
は固有値 側だけを残し, は固有値 側だけを残す。多項式の割り切り条件で書くと, 「すべての固有ベクトル」を漏れなく記述できる。
2012年度は公開から時間が経過しているため、解答・最終答まで全文公開しています
(1) 基底のうち で張られる部分空間を とおく。 は で不変であり,基底 に関する は である。ここで したがって 上での最小多項式は である。
一方,商空間 では は 倍写像として働く。従って 全体の最小多項式は,この と上の多項式の最小公倍である。 の次元は最小多項式の次数に等しいので,
(2) 次に の場合を考える。このとき であり,最小多項式は である。 は と同一視でき,線形写像 は を掛ける写像に対応する。
固有値 の固有ベクトルを と書くと, である。これは多項式で言えば という条件である。
では でなければならない。従って固有空間は である。
では でなければならない。従って固有空間は である。
最終答
固有ベクトルはそれぞれ である。ただし とする。
第5問 — 連結閉集合の減少列
反例は「つなぎ目を無限遠へ逃がす」
各段階ではつながっているが,共通部分を取ると橋の部分だけが消える,という構成が 典型である。コンパクト性がないと,このように連結性を保っていた部分を無限遠へ 逃がせる。
コンパクト性の使い所
証明の中心は, を含む開集合 に対して,十分大きい で となる点である。これは閉集合の減少列と有限交叉性から出る。 この一手があるため,最後に の連結性へ帰着できる。
2012年度は公開から時間が経過しているため、解答・最終答まで全文公開しています
(1) まず反例を与える。 とし, とおく。各 は閉集合であり,二本の縦の半直線が上方の帯 によってつながれているので連結である。また である。しかし共通部分は であり,これは二つの互いに離れた閉集合の和なので連結ではない。
(2) 次に がコンパクトなハウスドルフ空間である場合を示す。 共通部分を とする。背理法で, が連結でないと仮定する。すると の空でない 互いに交わらない閉集合 が存在し, と書ける。
コンパクトハウスドルフ空間は正規空間であるから,互いに交わらない開集合 を となるように取れる。 とおく。
ここで,ある が存在して となることを示す。もしそうでなければ,すべての で である。 はコンパクトであり, は空でない閉集合の減少列なので,有限交叉性から となる。しかし左辺は であり, に反する。
従って である。しかも なので, は と の両方に交わる。これは の連結性に反する。 よって は連結である。
最終答
一般の位相空間では反例がある。例えば とすれば,各 は閉かつ連結だが,共通部分は二本の半直線の和で連結でない。 一方, がコンパクトハウスドルフなら,閉集合の減少列の有限交叉性と 正規性により,共通部分は連結である。
第6問 — 四つの二次元部分空間
まず二つの補空間で形を決める
と が直和分解を与えているため, はそれぞれから1本ずつ 直線を取ったものに限られる。この段階で自由度は射影直線ひとつ分まで落ちる。
は傾きをそろえる条件
は と を同じ係数で結ぶグラフである。したがって となるには, 側の直線と 側の直線が同じ 傾きを持つ必要がある。最後に が二次方程式 を与える。
2012年度は公開から時間が経過しているため、解答・最終答まで全文公開しています
まず と は互いに補空間になっている。したがって であるような2次元部分空間 は, と書ける。ただし は 内の1次元部分空間, は 内の 1次元部分空間である。
そこで一般に と書く。 は で張られるので, が と1次元で交わるためには, 側と 側の比が同じでなければならない。従って もし なら,この条件から となるが, これは と交わらない。よって としてよく, とおけば 候補は に限られる。
次に との交わりを調べる。 の元は と書ける。一方, の元はある により と書ける。成分を比較すると,非自明解が存在するための条件は である。したがって の二つを得る。
この二つの に対し, は のいずれとも 少なくとも1次元で交わる。また がこれらのどれかと一致することはないので, 交わりの次元はちょうど1である。
最終答
求める は次の二つである。
第7問 — ガウス積分を含む関数
微分すると既知のガウス積分が出る
分母の は,微分後に と分解できる。このため 自身とガウス積分 が現れ,すぐに一階線形微分方程式になる。
平方根オーダーのずれを読む
近くで通常のテイラー展開にならない原因は,右辺の の特異性である。積分因子で解いた後, の主項を読むと,極限値が と決まる。
2012年度は公開から時間が経過しているため、解答・最終答まで全文公開しています
(1) では である。
(2) 次に とする。 を正の一点の近くに固定すれば,微分後の被積分関数は 可積分なガウス型関数で支配できる。したがって積分記号下で微分でき, よって は で微分可能である。
(3) 上の計算から,満たす微分方程式は である。
(4) この微分方程式を初期値 と合わせて用いる。両辺に を 掛けると 従って ここで とすると であるから よって であり,
最終答