東京大学 院試 過去問 解答例
東大 数理科学研究科 数理科学専攻 専門科目A 2007年度 院試 解答例・解説
東京大学 数理科学研究科 数理科学専攻 専門科目A 2007年度の院試 過去問について、設問ごとの解法方針・部分点の置き所を解説。全7問収録の解答・解説PDFと併用できます。問題本文は含みません。
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第1問 — 広義固有空間と交換関係
固有空間ではなく広義固有空間を見る
は重根だが,通常の固有空間は一次元しかない。そこで まで広げると,空間全体が に分解される。この分解を使うと,交換関係 の意味が 「固有値を 倍する向きに が動く」という形で見える。
nilpotent 性の理由
は から へ移せるが,その次は が存在しないので 必ず消える。したがって実際には まで言える。試験答案では 「広義固有空間を保つ」ではなく「固有値を 倍した広義固有空間へ写す」 と書くことが重要である。
2007年度は公開から時間が経過しているため、解答・最終答まで全文公開しています
(1) 行列を とする。特性多項式は である。したがって固有値は である。
について だから,固有空間は である。また より については であり,固有値 は単根なので広義固有空間もこの一次元空間である。
(2) 次に とする。任意の と正整数 について が成り立つ。よって は の広義固有空間 を に写す。ここで の固有値は だけなので したがって空間全体 上で であり,特に である。
(3) 最後に非零例を作る。,, とおくと 線形写像 を で定めると,基底 上の確認から が従う。 標準基底での行列は であり,これは零行列ではない。
最終答
第2問 — 偏微分可能性と極座標積分
偏微分可能と全微分可能は違う
原点で二つの偏微分係数が存在しても,誤差項が距離に比べて小さくなるとは限らない。 この問題では が方向依存で一次の大きさを残すため,全微分可能性が破れる。
領域判定は符号だけを見る
であり,後ろの因子は で正である。したがって の境界は複雑な曲線ではなく 直線 である。ここを見抜くと積分範囲がすぐに決まる。
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(1) 原点以外では有理関数なので通常の微分計算ができる。原点での連続性は から従う。原点での偏微分係数は である。原点以外では偏微分が存在するので, は全平面で一回偏微分可能である。
(2) 全微分可能性を調べる。もし原点で全微分可能なら,線形主要部は でなければならない。しかし として とすると となり,例えば では に収束しない。よって原点で全微分可能ではない。 原点以外では全微分可能だから,結論として 上では全微分可能ではない。
(3) 積分は極座標で計算する。 とおくと であり, は と同値である。したがって単位円内の領域は で表される。ゆえに
最終答
第3問 — コンパクト集合の直積近傍
コンパクト性が作る余裕
点ごとの開近傍なら が開であることだけで作れる。しかしここでは 一つの直積 をまとめて入れる必要がある。この一様な余裕を与えるのが のコンパクト性である。
距離は最大ノルムが便利
平面の距離として を使うと, 方向と 方向に同じ幅だけ太らせた集合がそのまま 直積近傍になる。ユークリッド距離でも証明できるが,最後に直積へ戻す記述が少し増える。
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空集合を含む場合は自明なので,以下では がともに空でないとしてよい。 はコンパクトであり, は閉集合である。さらに だから,最大値・最小値の存在を使って は正である。ただし のときは任意の正の を取ればよい。
そこで とおく。これは の開集合であり,明らかに である。
任意の を取ると,ある が存在して となる。したがって もし なら であり, の定義に反する。 よって である。したがって が示された。
最終答
と取ればよい。ただし は と の正の距離である。
第4問 — 留数計算と交代二項和
和は留数定理で出る
二項係数を含む交代和は,有限個の整数点に単純極を置くと自然に現れる。 この問題では を加えることで,分母の と の二位の極が同時に作られている。
主要項の分離
和は と因数分解される。前者は の大きさ,後者は の大きさである。したがって問題の という正規化が ちょうど定数を残す。
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(1) とおく。極は である。 では単純極であり,
は二位の極である。 とおくと であるから,留数は である。対数微分により また したがって
(2) 次に とおく。有理関数 は無限遠で なので全留数の和は である。 上の単純極の和は だから よって求める極限は
ここで である。Wallis の公式から が従うので また である。したがって
最終答
第5問 — Lipschitz関数の距離
この距離は値と傾きを測る
関数に限ると である。 つまりこの距離は を別々に測っている。したがって完備性は の完備性に帰着される。
通常の一様収束とは違う
一様収束だけでは 関数列の極限が とは限らない。 ここでは導関数が一様 Cauchy になるため,極限の導関数を先に作ってから積分で 関数を復元できる。
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(1) 関数 に対して, 上で は有界である。 平均値の定理より だから である。
(2) 次に が距離であることを示す。Lipschitz 定数の最小値 は を満たす。また なら は定数である。 したがって ,対称性,三角不等式は直ちに従う。 さらに なら である。よって は定数で,しかも での値が だから である。 これで は 上の距離である。
(3) 最後に の完備性を示す。 関数 については である。したがって の -Cauchy 列 に対して, は実数の Cauchy 列であり, は 連続関数空間 の一様ノルムに関する Cauchy 列である。 よって となる , が存在する。
と定めると であり である。さらに したがって はこの距離について完備である。
最終答
第6問 — Laplace型積分の境界展開
境界点 は別扱い
では指数関数に が現れるため,主要な寄与は の狭い範囲から来る。一方 では が主要範囲になる。 このスケールの違いが という不連続な結果を生む。
展開の読み方
では を に代入するだけで係数が読める。符号を間違えやすいのは で, 一次補正が から来るため負になる。
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(1) まず とおくと
のときは である。したがって
以下 とする。さらに とおくと よって であり, である。
(2) 次に したがって
(3) 最後に で だから,支配収束により
最終答
第7問 — 階数一更新と正則性
階数一更新の判定
は「第 成分を読み取って 方向を足す」階数一の写像である。 階数が増えるには,足す方向 がもとの列空間の外にあり,かつ読み取り が 上で消えないことが必要である。後者は が行空間の外にあることと同値である。
正則行列の場合
正則性の判定では行列式補題が最短である。すべての一成分更新で特異になると仮定すると, の全成分が になってしまう。 ではその行列は階数 なので, 逆行列としてはあり得ない。
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(1) を線形写像と見て,列空間を ,行空間を と書く。標準基底を とする。 階数 の部分空間 は,標準基底ベクトルのうち高々 個しか 含めない。したがって となる は少なくとも 個ある。同様に となる も少なくとも 個ある。
このような を取る。 である。 かつ のとき, を示す。
実際, とする。このとき 左辺は に属する。 だから でなければならず,従って である。よって また なので, は 上で零汎関数ではない。したがって 階数・退化次数の定理より よって条件を満たす組は少なくとも 個存在する。
(2) 次に が正則である場合を考える。行列式補題より もしすべての について が正則でないなら, がすべての で成り立つ。すると は全成分が の行列になる。 しかし ではこの行列の階数は であり,正則ではない。これは が正則であることに反する。したがって正則な が少なくとも一つ 存在する。
最終答