東京大学 院試 過去問 解答例
東大 数理科学研究科 数理科学専攻 専門科目A 2010年度 院試 過去問 解答例・解説(全7問)
全7問。微分積分・解析4問・線形代数1問。テーマタグは4件(固有値・固有ベクトル・線形空間・基底・留数定理)。2007年度と共通のテーマは固有値・固有ベクトル・線形空間・基底・留数定理。
最終更新:
- このページで公開
- 解説7問・解答7問・最終答7問(全7問)
- 公開範囲
- 2010年度は解答・最終答まで全文公開
- 問題本文
- 非収録
東大 専門科目A 2010年度 院試 過去問の出題内容(全7問)
この7問の分野は微分積分・解析4問・線形代数1問です。
| 大問 | 分野 | 主題 | 解説の小見出し | 最終答 |
|---|---|---|---|---|
| 第1問 | 線形代数 | 階数低下と零固有値 | 階数が下がる理由 / 第2段階の見方 | あり |
| 第2問 | 微分積分・解析 | コーシー型核の積分と畳み込み | 畳み込みで幅が足される | あり |
| 第3問 | 微分積分・解析 | 有界列空間と収束列の閉性 | sup ノルムでの議論 / 閉性はコーシー性で示す | あり |
| 第4問 | — | シルベスター型写像のジョルダン形 | 固有値は差で出る / 可換条件は線形方程式 | あり |
| 第5問 | 微分積分・解析 | 偶関数を平方根で合成した滑らかさ | 偶関数なので奇数次が消える / 原点だけを丁寧に見る | あり |
| 第6問 | 微分積分・解析 | 正弦関数の零点と留数の相殺 | 上下の零点を対で見る / 境界上の確認 | あり |
| 第7問 | — | 一次分数変換と対数距離 | 対数距離では比だけを見る / 最良定数は対数座標の微分で出る | あり |
2010年度の出題テーマと、同じテーマを出した他大学・他年度
この年度は4問に4テーマが出ています。
| テーマ | この年度 | 全体の出題実績 | 他大学の直近出題 |
|---|---|---|---|
| 固有値・固有ベクトル | 第1・4問 | 25大学・544問 | |
| 線形空間・基底 | 第1問 | 21大学・152問 | |
| 留数定理 | 第6問 | 18大学・126問 | |
| フーリエ変換 | 第2問 | 14大学・91問 |
前年度(2007年度)との違い
- 大問数
- 2007年度 7問 → 2010年度 7問
- 両年度に出たテーマ
- 固有値・固有ベクトル・線形空間・基底・留数定理
- 2010年度で新しく出たテーマ
- フーリエ変換
第1問 — 階数低下と零固有値
階数が下がる理由
から へ移ったときに階数が下がるのは,単に が特異である だけでは足りない。零固有値の方向に長さ 以上のジョルダン鎖がある, という条件が必要である。三次行列では,この条件が 「特性多項式で が少なくとも重根」という計算条件に反映される。
第2段階の見方
(1) の条件下では は階数 で固定される。したがって を調べる問題は, が零行列になるかどうかだけを見る問題に変わる。
解答
(1) 特性多項式を とおく。直接計算すると
なら,ある に対して となる。したがって に対応するジョルダン鎖の長さが少なくとも であり, は特性多項式の重根である。よって これを解くと
逆に とすると この行列は零行列でなく階数 である。一方, であり,例えば第 行,第 列の小行列式は であるから 。したがって となる。これで (1) の条件は必要十分である。
(2) さらに のもとでは,特性多項式は であり,実際に が成り立つ。したがって なら である。 一方 のときは かつ なので
最終答
第2問 — コーシー型核の積分と畳み込み
の符号を落とさない
分母には が現れるため幅は で決まる。一方,関数全体の符号は で決まるので,最初の積分は とは限らない。
畳み込みで幅が足される
コーシー核は畳み込みに対して閉じており,幅 と幅 の 畳み込みは幅 の核になる。ここでは同じ幅 を二回 畳み込むので,幅は になる。
解答
(1) まず である。したがって
(2) 次に畳み込み積分を求める。標準的なコーシー核 を用いると,今回の関数は である。フーリエ変換 を使えば よって 符号係数は二つ掛けると になるので,
最終答
第3問 — 有界列空間と収束列の閉性
sup ノルムでの議論
この問題の距離は各項の差を一様に抑える距離である。したがって,極限値の差も 同じ上界で抑えられる。これが (1) の本質である。
閉性はコーシー性で示す
極限列の極限値を先に推測する必要はない。近い収束列を一つ固定し,その列の 後半がコーシーであることを使えば,極限として得られた列もコーシーであると 分かる。
解答
(1) とする。このとき したがって はリプシッツ定数 の写像であり,特に連続である。
(2) の列 が の距離で に収束するとする。ここで と書く。任意の に対し,ある を選んで とできる。また なので,ある が存在して である。すると について よって はコーシー列であり,実数列なので収束する。したがって である。つまり は の閉集合である。
最終答
であるから は連続である。
第4問 — シルベスター型写像のジョルダン形
固有値は差で出る
は左から ,右から を作用させる写像である。したがって の固有値 と の固有値 から が出る。ジョルダンブロックの大きさは,対角化できない側の ブロックを反映する。
可換条件は線形方程式
(2) では の成分が未知数で,条件はすべて一次式である。 最後まで抽象論で押し切るより,行列表現に直して解空間の次元を読む方が 計算ミスが少ない。
解答
(1) 与えられた二つの行列について である。さらに は対角化可能で, は固有値 に対して 大きさ のジョルダンブロックを一つ持つ。
は,列ベクトル化すれば で表される。したがって固有値は として現れる。 の固有値 の部分が二次のジョルダンブロックで あるため,対応する差の固有値にも二次ブロックが残る。よって である。
(2) 一般の について を成分比較する。線形方程式を整理すると,解は五つの実数 を用いて と書ける。したがって自由度は であり,
最終答
第5問 — 偶関数を平方根で合成した滑らかさ
偶関数なので奇数次が消える
を代入すると一見すると原点で特異に見える。しかし偶関数の Taylor 展開には奇数次項が出ないため,実際には の滑らかな関数に なっている。
原点だけを丁寧に見る
上では通常の合成関数なので問題はない。採点上重要なのは, で右微分が存在し,導関数が右連続になることを明示する点である。
解答
偶関数 が 級なら, で定める関数 も 級の偶関数である。実際, と書けるので,右辺は でも滑らかに延長される。
(1) とおくと であり, 上の事実から は まで連続に延長される。したがって であり, は 上 級である。
(2) 同様に では も 級の偶関数なので, は まで連続に 延長される。特に であり, は 上 級である。
(3) 帰納的に, で が成り立つ。上で見たように は 級の偶関数を再び 級の偶関数へ送るから,すべての は まで連続に 延長される。よって任意階の右導関数が存在し連続であり, は 上 級である。
最終答
第6問 — 正弦関数の零点と留数の相殺
上下の零点を対で見る
この積分では,零点を一つずつ数えるよりも,上下に共役な二点の留数が 打ち消すことを見るのが速い。正方形が原点対称なので,内部に入るときは この二点が同時に入る。
境界上の確認
留数定理を使うときは,極が積分路上にないことも確認する。ここでは 実部が ,虚部が であり,どちらも 正整数の境界値と一致しない。
解答
(1) と書くと は実数方程式なので が必要である。実数 では だから は不可能である。 よって であり, このとき なので, となるのは が偶数で のときである。したがって とおけば,零点は である。また,これらの点で であり零でない。したがってすべて単純零点である。
(2) 留数定理を用いる。零点 における留数は したがって上下に対になって入る零点の留数和は である。
のときは であるため零点は内部にない。 のとき, 内部に入る零点は必ず の対で入る。境界上に零点が来ることは ない。よって留数の総和は常に であり, である。
最終答
第7問 — 一次分数変換と対数距離
対数距離では比だけを見る
は通常の差ではなく比の対数である。したがって一次分数変換の値域の 両端比を見ると,(1) の評価がすぐに得られる。
最良定数は対数座標の微分で出る
(2) は対数座標でのリプシッツ評価である。最大値は が最小になる点,つまり で生じる。ここで平方根を使った 定数が自然に現れる。
解答
とおく。係数はすべて正なので, に対して である。
(1) を動かすと, は の間の値を取る。したがって任意の について, は二つの端点比で挟まれる。すなわち これで (1) が示された。
(2) 対数座標に移す。 とし, とおく。このとき 平均値の定理を使うために を評価する。 とすれば よって 分母は相加相乗平均より だから したがって平均値の定理により
最終答
東大 専門科目A 院試 過去問の収録20年度
円板上の重積分 / 像と核の直和分解 / べき級数とタウバー型定理
広義積分と漸近展開 / 射影された線形写像 / 反復正弦と log-sum-exp
巡回型行列 / 斉次関数の臨界点 / 負内積ベクトル族
交互成分行列 / 細い領域の二重積分 / 外積表現と対角化
線型写像の対角化 / 極座標による重積分 / ディリクレ積分
上三角行列の対角化条件 / 極座標領域上の対数積分 / 半円と補間二次関数の面積漸近
関数の極限と展開 / 直交行列と上三角分解 / 冪零行列の可換行列
平均値の極限 / 二次多項式空間上の線形変換 / 極座標と平面領域の積分
多項式空間の線形変換 / 反復正弦と級数 / 原点での連続性と全微分可能性
2016年度(全7問)解答・最終答まで全文公開
核空間と直和分解 / 奇数冪積分と一様収束 / 二乗根をもつ実行列
2015年度(全7問)解答・最終答まで全文公開
剰余で定まる線形写像 / 円板上の平均値 / 同相写像の軌道空間
2014年度(全7問)解答・最終答まで全文公開
線形写像と正定値性 / 乗法的Cauchy方程式 / 距離関数の微分
2013年度(全7問)解答・最終答まで全文公開
ハウスホルダー変換と回転 / 調和級数と奇偶部分和 / 交代形式への合同変換
2012年度(全7問)解答・最終答まで全文公開
交換子と対角化可能性 / 二変数関数の最大値 / フーリエ積分
2011年度(全7問)解答・最終答まで全文公開
対角化可能性と相似条件 / 特異積分の極限 / コンパクト開位相の基本閉性
2010年度(このページ・全7問)解答・最終答まで全文公開
階数低下と零固有値 / コーシー型核の積分と畳み込み / 有界列空間と収束列の閉性
2007年度(全7問)解答・最終答まで全文公開
広義固有空間と交換関係 / 偏微分可能性と極座標積分 / コンパクト集合の直積近傍
2006年度(全7問)解答・最終答まで全文公開
行基本変形と列空間 / 余弦積分と一様収束 / 双対空間と直和分解
2005年度(全7問)解答・最終答まで全文公開
実対称行列の固有条件 / 平坦関数と積分剰余 / 単調関数が誘導する距離
2004年度(全7問)解答・最終答まで全文公開
行列ノルムとスペクトル半径 / 同次性と極座標表示 / グラフ距離とコンパクト性