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東大 新領域創成科学研究科 物質系専攻 専門科目 2024年度 院試 過去問 解答例・解説(解説10項目)

解説10項目です。固有値・固有ベクトル、調和振動子、分配関数などが出ています。2023年度と共通するテーマは調和振動子、結晶構造、転位です。解説は2問、途中式と最終答は大問1問ぶんを公開しています。PDFの収録範囲は商品ページで確認できます。原題の条件だけでは答えが一つに決まらないため、確定答案を収録していない箇所が1項目あります。各項目に対象の小問と収録範囲を記載しています。問題本文は含みません。

最終更新:

第1問 — 逆二乗の中心力による円運動・脱出と束縛軌道

逆二乗の中心力による円運動・脱出と束縛軌道の途中式・最終答をPDFで見る

第2問 — 球対称な電荷の静電エネルギーと回転による磁場

球対称な電荷の静電エネルギーと回転による磁場の途中式・最終答をPDFで見る

第3問 — 二次元調和振動子の摂動と角運動量による縮退の分裂

二次元調和振動子の摂動と角運動量による縮退の分裂の途中式・最終答をPDFで見る

第4問 — 独立スピンの断熱消磁と一次元 Ising 鎖のエントロピー

(1) 独立スピンの自由エネルギー

正準分布では状態 ii の確率は pi=e−βEi/Zp_i=e^{-\beta E_i}/Z である。 エントロピーの定義 Stot=−kB∑ipiln⁡piS_{\mathrm{tot}}=-k_{\mathrm B}\sum_i p_i\ln p_i に代入すれば、 Stot=kBln⁡Z+U/TS_{\mathrm{tot}}=k_{\mathrm B}\ln Z+U/T となり、F=U−TStot=−kBTln⁡ZF=U-TS_{\mathrm{tot}}=-k_{\mathrm B}T\ln Z を得る。 従って分配関数から自由エネルギーを求められる。 NN 個が独立ならエネルギーの和の指数は積になり、各スピンの和も分離することが Z=zNZ=z^N の理由である。

H=0H=0 なら Z=2NZ=2^N、F=−NkBTln⁡2F=-Nk_{\mathrm B}T\ln2 となり、全ての向きの組合せが同じエネルギーを持つ場合へ戻る。 一つのスピンの分配関数を NN 倍して Z=NzZ=Nz とすると、独立な二択を NN 回掛ける数え方を誤り、状態数を 2N2N 個にしてしまう。

(2) スピン1個当たりのエントロピー

二準位の確率は p−=eu/(2cosh⁡u)p_-=e^u/(2\cosh u)、p+=e−u/(2cosh⁡u)p_+=e^{-u}/(2\cosh u) である。 平均エネルギーは U/N=(−μH)p−+(μH)p+=−μHtanh⁡uU/N=(-\mu H)p_-+(\mu H)p_+=-\mu H\tanh u となる。 前問の FF と合わせ、S=(U−F)/(NT)S=(U-F)/(NT) としても同じ式を確認できる。 また −kB(p−ln⁡p−+p+ln⁡p+)-k_{\mathrm B}(p_-\ln p_-+p_+\ln p_+) という二択の情報量にも一致する。

u→0u\to0 では二つの確率が 1/21/2 になり、S→kBln⁡2S\to k_{\mathrm B}\ln2 となる。 一方、磁場で一方の確率が優勢になるほどエントロピーは小さい。 温度微分で uu を定数として扱うと、−utanh⁡u-u\tanh u の項を落とし、低温でも不正な大きなエントロピーを残す。 またここで答えるのは1個当たりなので、最後に NN 倍したままにしない。

(3) 固定した磁場での低温極限

ln⁡(2cosh⁡u)=u+ln⁡(1+e−2u)\ln(2\cosh u)=u+\ln(1+e^{-2u})、 tanh⁡u=(1−e−2u)/(1+e−2u)\tanh u=(1-e^{-2u})/(1+e^{-2u}) を前問の式へ代入すると、上の有限な差の式を得る。 ue−2u→0u e^{-2u}\to0 なので、対数の項も残りの項もゼロになる。 高い準位と低い準位のエネルギー差は 2μH2\mu H であり、その確率比が e−2μH/(kBT)e^{-2\mu H/(k_{\mathrm B}T)} となることとも対応する。

この極限では全スピンの最低状態は一つなので、統計的な数え方でも kBln⁡1=0k_{\mathrm B}\ln1=0 になる。 磁場まで先にゼロにした場合は事情が異なる。独立スピンの模型で H=0H=0 なら全ての向きが縮退し、S=kBln⁡2S=k_{\mathrm B}\ln2 のままである。 従って「低温ならどの経路でも同じ」とはせず、原題が指定した kBT≪μHk_{\mathrm B}T\ll\mu H の条件を保つ必要がある。

(4) 可逆な断熱消磁の終温度

磁場を弱めると、二準位の間隔 2μH2\mu H が縮まる。 両準位の占有比 e−2ue^{-2u} を同じに保つには、熱エネルギー kBTk_{\mathrm B}T も同じ比率で小さくなる必要がある。 磁場がエネルギー準位そのものを変えるため、断熱でも温度は変わる。 この模型の内部エネルギーは U=−NμHtanh⁡uU=-N\mu H\tanh u であり、uu 一定で磁場を減らすと、温度は下がる一方、UU は負の値から増加する。磁場源との仕事のやり取りがあるので、内部エネルギーを一定と置く過程ではない。

断熱という条件だけで、全ての操作をエントロピー一定とすることはできない。 不可逆性があれば S1≥S0S_1\ge S_0 となり、上の単調性から H1>0H_1>0 では T1≥T0H1/H0T_1\ge T_0H_1/H_0 である。等号はエントロピーを生成しない理想過程に対応する。 また H=0H=0 の独立スピンだけの模型は全準位が縮退し、この比から温度を一意に読むことができなくなる。 絶対零度の到達を、この形式的な比例式だけで結論せず、後半で残る相互作用を考える。

(5) 開いた Ising 鎖の分配関数

端のスピンから和を取っても導ける。 sN−1=±1s_{N-1}=\pm1 のどちらについても ∑sN=±1exsN−1sN=ex+e−x\sum_{s_N=\pm1}e^{x s_{N-1}s_N}=e^x+e^{-x} となり、残る鎖からこの因子を一つ取り出せる。 これを端から N−1N-1 回繰り返し、最後の s1s_1 の和が2になる。 原題の相互作用は i=1i=1 から N−1N-1 であり、端どうしを結ぶ項はない。

N=1N=1 なら結合がなく Z=2Z=2、高温の x→0x\to0 なら Z→2NZ\to2^N となる。 低温では Z≃2e(N−1)xZ\simeq2e^{(N-1)x} で、エネルギー −J(N−1)-J(N-1) の全上向き・全下向きの二状態に対応する。 周期境界の鎖として端の結合まで加えると、結合変数の積に制約が入り、上の独立な積の証明をそのまま使えない。

(6) 相互作用がある鎖のエントロピー

有限な NN のままでは S=kBln⁡2N+(1−1N)kB{ln⁡(2cosh⁡x)−xtanh⁡x}. S=\frac{k_{\mathrm B}\ln2}{N} +\left(1-\frac1N\right) k_{\mathrm B}\{\ln(2\cosh x)-x\tanh x\}. 最初の項は鎖全体を反転させる二択の寄与であり、1個当たりでは N→∞N\to\infty で消える。 残りは各結合の ti=±1t_i=\pm1 の二択によるエントロピーで、独立スピンの式の μH\mu H を JJ に置き換えた形になる。 これはスピン自体を独立として数え直したのではなく、開いた鎖の結合変数が独立になるためである。

平行な結合のエネルギーは −J-J、反平行なら +J+J なので、反平行の結合が出る確率は pwall=1/(1+e2x)p_{\mathrm{wall}}=1/(1+e^{2x}) である。 有限な正の温度ではこの確率がゼロでなく、結合の二択のエントロピーも正となる。 T→0T\to0 ではこれが消え、十分大きい NN の1個当たりの SS はゼロへ近づく。 鎖全体の二重縮退を各スピンの独立な二重縮退と混同し、低温でも1個当たり kBln⁡2k_{\mathrm B}\ln2 が残るとしない。

(7) 相互作用を含めた絶対零度の到達

独立スピンだけなら、外部磁場を弱めることで準位間隔そのものをゼロにする形式的な比例式が得られた。 しかし相互作用を含む鎖では、磁場がなくても反平行の結合を作るのに 2J2J のエネルギーが必要である。 前問の S(T,J)S(T,J) は有限な T>0T>0 で正、T→0T\to0 でゼロとなるため、初期のエントロピーと等しい終状態は正の温度にある。 外部磁場だけで決まる H/TH/T の尺度を、そのままゼロ磁場まで使い続けることはできない。

有限個の鎖では最低状態が二つあり、全体の残留エントロピーは kBln⁡2k_{\mathrm B}\ln2 となるが、有限温度には反平行結合の寄与が加わる。 原題の N≫1N\gg1 では残留分は1個当たり無視でき、同じ結論になる。 不可逆な断熱操作ではエントロピーは増えるので、絶対零度へ近づけるためのエントロピー低下を代わりに実現することもできない。 「磁場をゼロにしたから温度も必ずゼロ」とする答えは、外部磁場以外のエネルギー差を落としている。

解答

(1) 独立スピンの自由エネルギー

β=1/(kBT)\beta=1/(k_{\mathrm B}T)、u=βμHu=\beta\mu H と置く。 1個のスピンはエネルギー −μH,+μH-\mu H,+\mu H を取り、その分配関数は z=eu+e−u=2cosh⁡u. z=e^u+e^{-u}=2\cosh u. 相互作用がないので各スピンの重みを独立に掛け、全体は Z=zNZ=z^N となる。

(2) スピン1個当たりのエントロピー

磁場を固定して NS=−(∂F/∂T)N,HNS=-(\partial F/\partial T)_{N,H} を計算する。 ∂u/∂T=−u/T\partial u/\partial T=-u/T に注意すれば ∂F∂T=−NkBln⁡(2cosh⁡u)+NkButanh⁡u. \frac{\partial F}{\partial T} =-Nk_{\mathrm B}\ln(2\cosh u) +Nk_{\mathrm B}u\tanh u.

(3) 固定した磁場での低温極限

H>0H>0 を固定して T→0T\to0 とすると u→∞u\to\infty となる。 二つの大きい項の差を直接計算せず、q=e−2uq=e^{-2u} を使って SkB=ln⁡(1+q)+2uq1+q≃(1+2u)e−2u \frac{S}{k_{\mathrm B}} =\ln(1+q)+\frac{2u q}{1+q} \simeq(1+2u)e^{-2u} と書き直す。

(4) 可逆な断熱消磁の終温度

通常の準静的で可逆な断熱消磁を考えると、熱の出入りとエントロピー生成がなく、SS が一定である。 前問までの関数の u>0u>0 での微分は dSdu=−kBu sech⁡2u<0 \frac{dS}{du}=-k_{\mathrm B}u\,\operatorname{sech}^2u<0 なので、エントロピー一定は uu 一定と同値である。 従って H0/T0=H1/T1H_0/T_0=H_1/T_1 となる。

(5) 開いた Ising 鎖の分配関数

結合ごとに ti=sisi+1t_i=s_i s_{i+1} と置くと、ti=±1t_i=\pm1 である。 最初の s1s_1 と N−1N-1 個の tit_i を与えれば、si+1=tisis_{i+1}=t_i s_i により全スピンが一意に決まる。 従って結合変数には独立な二択を使え、最初のスピンには2通りある。 x=J/(kBT)x=J/(k_{\mathrm B}T) として

(6) 相互作用がある鎖のエントロピー

前問から F=−kBT{ln⁡2+(N−1)ln⁡(2cosh⁡x)}. F=-k_{\mathrm B}T\{\ln2+(N-1)\ln(2\cosh x)\}. xx の温度微分も含め、S=−(1/N)(∂F/∂T)S=-(1/N)(\partial F/\partial T) とする。

(7) 相互作用を含めた絶対零度の到達

有限な温度から出発する系は、通常、正のエントロピーを持つ。 可逆断熱でこれを保ったまま、ゼロ磁場の鎖が持つ T→0T\to0 のエントロピー0へ移ることはできない。

最終答

(1) 独立スピンの自由エネルギー

F(N,T,H)=−NkBTln⁡ ⁣[2cosh⁡ ⁣(μHkBT)]. F(N,T,H)=-Nk_{\mathrm B}T\ln\!\left[2\cosh\!\left(\frac{\mu H}{k_{\mathrm B}T}\right)\right].

(2) スピン1個当たりのエントロピー

S=kB{ln⁡(2cosh⁡u)−utanh⁡u},u=μHkBT. S=k_{\mathrm B}\{\ln(2\cosh u)-u\tanh u\},\qquad u=\frac{\mu H}{k_{\mathrm B}T}.

(3) 固定した磁場での低温極限

lim⁡T→0S=0\displaystyle\lim_{T\to0}S=0。正の固定磁場では高い準位の確率が指数関数的に消え、各スピンが低い準位へそろうためである。

(4) 可逆な断熱消磁の終温度

T1=T0H1H0(0<H1<H0, 独立スピンの可逆断熱過程). T_1=T_0\frac{H_1}{H_0} \quad(0<H_1<H_0,\ \text{独立スピンの可逆断熱過程}). 独立スピンの式を形式的に H1→0H_1\to0 へ外挿すれば T1→0T_1\to0 となる。

(5) 開いた Ising 鎖の分配関数

Z=2∏i=1N−1∑ti=±1exti=2(ex+e−x)N−1=2[2cosh⁡x]N−1. Z=2\prod_{i=1}^{N-1}\sum_{t_i=\pm1}e^{xt_i} =2(e^x+e^{-x})^{N-1} =2[2\cosh x]^{N-1}.

(6) 相互作用がある鎖のエントロピー

S≃kB{ln⁡(2cosh⁡x)−xtanh⁡x},x=JkBT(N≫1). S\simeq k_{\mathrm B}\{\ln(2\cosh x)-x\tanh x\},\qquad x=\frac{J}{k_{\mathrm B}T}\quad(N\gg1).

(7) 相互作用を含めた絶対零度の到達

断熱消磁によって絶対零度まで下げることはできない。外部磁場をゼロにしても J>0J>0 の相互作用が残り、零温度の低いエントロピーへ、有限温度の正のエントロピーを断熱的に減らせないためである。

第5問 — 分子の対称性・振動と逐次反応の速度論

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第6問 — 酸塩基平衡・酢酸緩衝液とリン酸の滴定曲線

酸塩基平衡・酢酸緩衝液とリン酸の滴定曲線の途中式・最終答をPDFで見る

第7問 — 置換・付加の立体化学とアセト酢酸エステル合成

一部の確定答案なし

水濃度依存性のみ。Bに一次、背面攻撃・反転・生成物は確定。中性水の直接攻撃なら水一次、OH濃度固定なら零次、塩基平衡により半次となる場合を区別。

反応次数は、他の条件を固定したときに反応速度が濃度の何乗に比例するかを表す。SN2という反応機構の名称だけでは、溶媒である水の見掛けの次数までは決まらない。中性の水が直接攻撃するモデル、水酸化物イオン濃度を固定するモデル、塩基平衡によりその濃度が変わるモデルを区別する必要がある。本書では水濃度への依存性だけを一つに固定せず、Bへの依存性と置換の立体反転は確定した解答として説明している。

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第8問 — 浸透圧・ハーンド電池と電極反応の速度

浸透圧・ハーンド電池と電極反応の速度の途中式・最終答をPDFで見る

第9問 — 二元系状態図・共通接線と析出強化

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第10問 — 蛍石型セリア・酸素空孔とイオン伝導

蛍石型セリア・酸素空孔とイオン伝導の途中式・最終答をPDFで見る

物質系専攻 専門科目の解答・解説PDF

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年度別の解答例(5年度)

  • 2026年度(解説10項目)

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  • 2024年度(このページ・解説10項目)

    逆二乗の中心力による円運動・脱出と束縛軌道 / 球対称な電荷の静電エネルギーと回転による磁場 / 二次元調和振動子の摂動と角運動量による縮退の分裂

  • 2023年度(解説10項目)

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2024年度の出題内容

解説10項目
大問主題解説の小見出し最終答
第1問逆二乗の中心力による円運動・脱出と束縛軌道—あり
第2問球対称な電荷の静電エネルギーと回転による磁場—あり
第3問二次元調和振動子の摂動と角運動量による縮退の分裂—あり
第4問独立スピンの断熱消磁と一次元 Ising 鎖のエントロピー—あり
第5問分子の対称性・振動と逐次反応の速度論—あり
第6問酸塩基平衡・酢酸緩衝液とリン酸の滴定曲線—あり
第7問置換・付加の立体化学とアセト酢酸エステル合成—一部の確定答案なし
第8問浸透圧・ハーンド電池と電極反応の速度—あり
第9問二元系状態図・共通接線と析出強化—あり
第10問蛍石型セリア・酸素空孔とイオン伝導—あり

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9テーマ

前年度(2023年度)との違い

大問数
2023年度 10問 → 2024年度 10問
2024年度で新しく出たテーマ
固有値・固有ベクトル・分配関数・摂動論
2023年度の解答例

東京大学の公式過去問

公開年度範囲
2022〜2026年度(入学年度・直近5回)
公式の解答例
解答例の掲載なし
院試hubの最終確認
2026-10-23
東京大学の公式過去問PDF