院試hub

京都大学 院試 過去問 解答例

京大 工学研究科 機械工学群 数学・機械力学・専門科目 2026年度 院試 解答例・解説

京都大学 工学研究科 機械工学群 数学・機械力学・専門科目 2026年度の院試 過去問について、設問ごとの解法方針・部分点の置き所を解説。全8問収録の解答・解説PDFと併用できます。問題本文は含みません。

最終更新:

設問ごとの解法方針・部分点の置き所を無料で公開しています。

完全な途中式・最終答は解答・解説PDFに収録しています。問題本文は含まれません。

1 — 最小二乗法と制約付き最小化

方針

最小二乗問題では,目的関数そのものを展開し切るよりも,残差ベクトル r=Axbr=Ax-b を使って h=rTr=xTATAx2xTATb+bTb h=r^{\mathsf T}r =x^{\mathsf T}A^{\mathsf T}Ax-2x^{\mathsf T}A^{\mathsf T}b+b^{\mathsf T}b と見るのが安定である。微分すると hx=2ATAx2ATb \frac{\partial h}{\partial x} = 2A^{\mathsf T}Ax-2A^{\mathsf T}b となるため,最小点は正規方程式で決まる。今回 ATAA^{\mathsf T}A は正則なので,停留点はただ一つであり,それが大域的最小点である。

途中式の見せ方

行列計算では ATAA^{\mathsf T}AATbA^{\mathsf T}b を先に出すと採点者が追いやすい。制約付きの場合も同じで,制約を満たす形 x=x0+Cxx=x_0+Cx' に置き換えた後,未知量を xx' だけに減らしてから正規方程式を作る。ラグランジュ未定乗数法でも解けるが,この問題では x0,Cx_0,C を求めさせているので,置換法の方が設問の流れに合っている。

検算

制約なし解では残差が Axb=[1601613] Ax-b= \begin{bmatrix} \frac16\\0\\\frac16\\-\frac13 \end{bmatrix} となり,AT(Axb)=0A^{\mathsf T}(Ax-b)=0 が成り立つ。制約付き解では 2535+65=1 \frac25-\frac35+\frac65=1 で制約を満たし,残差平方和は 02+02+(15)2+(25)2=15 0^2+0^2+\left(\frac15\right)^2+\left(-\frac25\right)^2=\frac15 である。制約なしの最小値 1/61/6 より大きいことも自然である。

典型ミス

h=Axb2h=\|Ax-b\|^2 の微分で係数 22 を落としても停留方程式は同じだが,偏微分そのものを問われている箇所では減点される。また,制約付き問題で制約なし解をそのまま答える誤りが多い。実際, 1213+1=76 \frac12-\frac13+1=\frac76 であり,制約を満たしていない。

試験で書くべきポイント

正則性を問われている箇所では,単に「逆行列がある」と書かず,det(ATA)=60\det(A^{\mathsf T}A)=6\ne0 まで示す。制約付き最小化では,x0x_0CC が制約を恒等的に満たすこと,および最小化対象が xx' の二次関数になることを書くと答案として強い。

完全な解答(途中式・最終答)はPDFに収録

2 — 留数定理と半円積分

方針

複素積分の問題では,まず「どの係数が積分に残るか」と「閉曲線の内部にどの極があるか」を分けて考える。ローラン展開では c1c_{-1} が留数であり,半円積分では上半平面にある極 ibib だけを拾う。

途中式の意味

(zz0)ndz\oint (z-z_0)^n dzn=1n=-1 のときだけ残るのは,指数関数 ei(n+1)θe^{i(n+1)\theta} の一周期積分が n+1=0n+1=0 のときだけ非零になるためである。これは留数定理の最小単位であり,暗記だけでなく一度パラメータ表示で確認しておくと符号を間違えにくい。

検算

求めた実積分は bb\to\infty00 に近づく。分母が大きくなり,さらに極 ibib が実軸から遠ざかるので ebe^{-b} が現れるのは自然である。また b>0b>0 で答えは正であり,cosx\cos x は符号変化するものの既知のフーリエ型積分としても整合している。

典型ミス

上半円を使うときに,下半平面の極 ib-ib まで留数に含める誤りが多い。また,実部をとる前に eixx2+b2dx \int_{-\infty}^{\infty}\frac{e^{ix}}{x^2+b^2}\,dx をそのまま求めた値と,半区間の実積分を混同しやすい。最後に偶関数性を使って 1/21/2 を掛ける必要がある。

試験で書くべきポイント

弧上積分が消えることは,単に「ジョルダンの補題より」と書くだけでもよいが,今回の分母は R2R^2 で大きくなるので,弧長評価だけで十分に示せる。評価式 CRf(z)dzπRR2b2 \left|\int_{C_R}f(z)\,dz\right| \le \frac{\pi R}{R^2-b^2} まで書けば,答案として説得力がある。

完全な解答(途中式・最終答)はPDFに収録

3 — 段差を上がる剛体球

方針

PP で滑らないという条件があるので,接触中は「球が点 PP まわりに回る」と考えるのが最短である。接触点の力は仕事をしないため,接触中の上昇条件はエネルギー保存だけで決められる。

途中式の意味

上がり切る条件では,最上部での位置エネルギーが初期より mghmgh だけ大きいことに注目する。したがって必要な初期回転エネルギーは mghmgh を上回る分であり, 1275ma2ω02>mgh \frac12\cdot\frac75ma^2\omega_0^2>mgh という形にすぐ落ちる。

検算

離脱しない条件の上限 ω02g(ah)a2 \omega_0^2\le \frac{g(a-h)}{a^2} は,初期位置で半径方向の向心加速度を重力の POPO 方向成分でまかなえるという条件になっている。角速度が大きすぎると,必要な向心力が大きくなり,段差の角は球を引っ張れないため離れてしまう。

典型ミス

上がるためには ω0\omega_0 が大きいほどよいが,接触を保つには大きすぎてもいけない。この二つを混同して,下限だけを書く答案は不十分である。また,衝突問題では力学的エネルギーは保存されない。使うべきなのは点 PP まわりの角運動量保存である。

試験で書くべきポイント

慣性モーメントは必ず平行軸の定理で IP=IO+ma2I_P=I_O+ma^2 と示す。接触力 RR の式では,正方向を PP から OO へ向かう方向と明記してから,半径方向の運動方程式を書くと符号の説明が通る。

完全な解答(途中式・最終答)はPDFに収録

4 — 円板と剛体棒の連成振動

方針

この系の難所は,棒の重心速度に円板の回転と棒の相対回転の両方が入る点である。点 AA の速度と,点 AA から見た重心の相対速度のなす角が θ\theta になるため,速度二乗に cosθ\cos\theta の交差項が現れる。

途中式の意味

mr26(ϕ˙+θ˙)2 \frac{mr^2}{6}(\dot\phi+\dot\theta)^2 は,棒の重心移動の一部と重心まわりの回転エネルギーを合算した結果である。ここを 12IG(ϕ˙+θ˙)2\frac12 I_G(\dot\phi+\dot\theta)^2 だけにしてしまうと,棒全体が点 AA まわりに回る効果を落としてしまう。

検算

k=0k=0 とすると非零の固有角振動数は 00 になる。ばねがなければ相対角を戻す力がないため,これは物理的に正しい。また II が非常に大きい場合には円板がほぼ固定され, ω23kmr2 \omega^2\to \frac{3k}{mr^2} となる。これは点 AA まわりの棒の慣性モーメント 13mr2\frac13mr^2 に対するねじり振動の結果と一致する。

典型ミス

棒の角速度を θ˙\dot\theta としてしまう誤りが多い。棒の絶対角は ϕ+θ\phi+\theta なので,棒の自転角速度は ϕ˙+θ˙\dot\phi+\dot\theta である。また,ϕ\phi はポテンシャルに現れないため,固有値には剛体回転のゼロモードが含まれる。

試験で書くべきポイント

座標 xG,yGx_G,y_G を最初に明示すると,運動エネルギーの導出が採点しやすい。非線形運動方程式を出した後,微小近似では「sinθθ\sin\theta\simeq\theta, cosθ1\cos\theta\simeq1, 高次小量を無視」と一言添えると,どの項を落としたかが明確になる。

完全な解答(途中式・最終答)はPDFに収録

5 — 平板の突然運動による非定常粘性流れ

方針

急に動き出した平板の影響は,粘性によって yy 方向へ拡散する。したがって速度は熱伝導方程式と同じ形の拡散方程式に従い,拡散厚さは νt,ν=μρ \sqrt{\nu t},\qquad \nu=\frac{\mu}{\rho} のオーダーになる。

途中式の意味

運動量収支で対流項が消えるのは,流体が xx 方向に動いていても uuxx に依存しないからである。入口面と出口面の運動量流束が同じなので,微小要素内の運動量を変えるのはせん断応力の差だけになる。

検算

求めた解は y=0y=0u(t,0)=U(1erf0)=U u(t,0)=U(1-\operatorname{erf}0)=U を満たす。また yy\to\infty では erf()=1\operatorname{erf}(\infty)=1 より u0u\to0 となる。さらに t0t\downarrow0 で固定された y>0y>0 に対して相似変数は無限大に発散するため,初期条件 u=0u=0 とも整合する。

典型ミス

相似変数の分母に 22 を入れるかどうかで混乱しやすい。本問の定義では η=yμt/ρ \eta=\frac{y}{\sqrt{\mu t/\rho}} なので,誤差関数の中身は η/2\eta/2 である。最終解を erfc(y/(2νt))\operatorname{erfc}(y/(2\sqrt{\nu t})) と覚えている場合でも,ν=μ/ρ\nu=\mu/\rho を戻す必要がある。

試験で書くべきポイント

境界条件は平板上の u(t,0)=Uu(t,0)=U だけでなく,半無限領域の u0u\to0 と初期条件も使って初めて定数が決まる。微小要素から式を導く箇所では,せん断応力の差を 2u/y2\partial^2u/\partial y^2 に結びつける一行を省かないことが重要である。

完全な解答(途中式・最終答)はPDFに収録

6 — 熱力学関係式と冷凍サイクル

方針

熱力学関係式では符号規約が最重要である。本問は「系が外界へする仕事」を正にしているので,可逆仕事は pdvpdv,第一法則は du=Tdspdvdu=Tds-pdv となる。この符号がずれると,後の偏微分関係も逆になる。

自由膨張の考え方

自由膨張は不可逆であるため,途中の過程を可逆式で追ってはいけない。ただしエントロピーは状態量なので,同じ初期状態と終状態を結ぶ可逆等温膨張を仮想して ΔS=MRln(V2/V1) \Delta S=MR\ln(V_2/V_1) と計算できる。

冷凍サイクルの図

逆カルノーサイクルでは,TT-ss 図上で等温過程が水平線,断熱可逆過程が鉛直線になる。膨張弁を使うサイクルでは,状態5が状態4より高エンタルピー側に来る。

検算

逆カルノー冷凍機のCOPは TLTHTL=240320240=3 \frac{T_L}{T_H-T_L} = \frac{240}{320-240}=3 であり,計算結果と一致する。膨張弁サイクルでは吸熱量が 120120 から 96 kJkg196\ \mathrm{kJ\,kg^{-1}} に減る一方,圧縮機仕事は 64 kJkg164\ \mathrm{kJ\,kg^{-1}} のままなのでCOPが低下する。

典型ミス

表に乾き飽和蒸気の比エンタルピーが直接載っていないため,hg=hf+T(sgsf)h_g=h_f+T(s_g-s_f) を使って補う必要がある。単位は KkJkg1K1=kJkg1K\cdot\mathrm{kJ\,kg^{-1}K^{-1}}=\mathrm{kJ\,kg^{-1}} で整合する。

試験で書くべきポイント

ノズルでは,圧力比が臨界圧力比より大きい場合だけ出口圧力が背圧に等しく,等エントロピー関係で出口温度を決められる。臨界以下では出口マッハ数が 11 に固定されるため,同じ式を無条件に使わないこと。

完全な解答(途中式・最終答)はPDFに収録

7 — はりと組合せはり

符号の整理

この問題で点を落としやすいのは,通常の「固定端から xx を測る」公式をそのまま使ってしまうことです。ここでは x=0x=0 が自由端,x=Lx=L が固定端です。したがって,等分布荷重による自由端たわみ角は負になります。これは,左端から右へ見た接線が反時計回りに傾くためです。

また,ばねのモーメントは「たわみ角に比例」しますが,向きは回転を妨げる向きです。したがって MA=kTθAM_A=k_T\theta_A ではなく MA=kTθA M_A=-k_T\theta_A と置く必要があります。この符号を間違えると,kTk_T\to\inftyθA0\theta_A\to0 にならず,物理的にも不自然な答になります。

はりの式の検算

等分布荷重の場合, θ(L)=0,δ(L)=0 \theta(L)=0,\qquad \delta(L)=0 が成り立つだけでなく,自由端ではせん断力と曲げモーメントが消えるため,曲率が x=0x=000 になります。実際, dθdx=wx22EI \frac{d\theta}{dx}=\frac{w x^2}{2EI} なのでこの条件を満たしています。

さらに自由端たわみは δ(0)=wL48EI \delta(0)=\frac{wL^4}{8EI} となり,片持ちはりの標準値と一致します。ただし標準公式は固定端から距離を測る形で記憶していることが多いため,本問では xLxx\mapsto L-x の変換を必ず行います。

組合せはりの方針

組合せはりでは,次の二つを分けて考えると見通しがよくなります。

  1. 軸力は,各材料の自由熱膨張差を打ち消すために生じる。
  2. 曲げモーメントは,各はりを同じ曲率 1/R1/R に曲げるために生じる。

そのうえで,断面全体には外力も外部モーメントも作用しないので,軸力のつり合いとモーメントのつり合いを課します。

中心軸の伸びの差を εˉ2εˉ1=hR \bar\varepsilon_2-\bar\varepsilon_1=\frac{h}{R} と置くところが要点です。左辺は熱膨張差と軸力による伸縮の差であり,右辺は曲がった二本の中心軸の幾何学的な長さの差です。

典型ミスと試験で書くべき点

曲げモーメントのつり合いで M1+M2=0 M_1+M_2=0 としてはいけません。軸力 P1,P2P_1,P_2 は同じ作用線上にないため,この二つは偶力を作ります。その寄与が h2(P1P2) -\frac{h}{2}(P_1-P_2) であり,これを入れて初めて曲率半径が決まります。

また,本問の hh は一枚のはりの高さです。組合せはり全体の高さは 2h2h なので,最後の R=4h3(α2α1)ΔT R=\frac{4h}{3(\alpha_2-\alpha_1)\Delta T} の係数を誤って 2h2h 基準で書かないように注意します。

単位の確認も有効です。kTLk_TL(Nm)×m=Nm2(\mathrm{N\,m})\times\mathrm{m}=\mathrm{N\,m^2} であり,EIEI と同じ次元です。また,(α2α1)ΔT(\alpha_2-\alpha_1)\Delta T は無次元なので,RR は長さの次元をもちます。熱膨張差が 0 に近づけば RR\to\infty となり,曲がらないという極限にも合っています。

完全な解答(途中式・最終答)はPDFに収録

8 — フィードバック制御と位相進み補償

方針

4-1は,まず閉ループ特性多項式を作り,3次のRouth-Hurwitz条件に落とすのが最短である。 その後の伝達関数は,ブロック線図を式 e=ry,y=P(Ke+d) e=r-y,\qquad y=P(Ke+d) に直してから解けば符号を間違えにくい。4-2は,二重積分をもつ制御対象にPD要素を入れた問題であり, 安定条件,ボード線図,最大位相進みを一貫して扱う。

内部安定で見るべき多項式

4-1では,単に 1+P(s)K(s)=01+P(s)K(s)=0 と書くだけでなく,分母を払った Δ(s)=(s+1)(s2+γ)+α(s2+γ)+β \Delta(s)=(s+1)(s^2+\gamma)+\alpha(s^2+\gamma)+\beta を見る必要がある。特に K(s)K(s) の分母 s2+γs^2+\gamma は閉ループの内部モードに関係する。 本問では β0\beta\ne0 なので,s2+γ=0s^2+\gamma=0 の根で Δ(s)=β0\Delta(s)=\beta\ne0 となり, 不安定な隠れモードを分子分母の約分で消してしまう状況は起きない。したがって Δ(s)\Delta(s) にRouth-Hurwitzを適用すればよい。

3次のRouth表を書けば s31γs21+αγ(1+α)+βs1γγ(1+α)+β1+α0s0γ(1+α)+β \begin{array}{c|cc} s^3 & 1 & \gamma\\ s^2 & 1+\alpha & \gamma(1+\alpha)+\beta\\ s^1 & \displaystyle \gamma-\frac{\gamma(1+\alpha)+\beta}{1+\alpha} & 0\\ s^0 & \gamma(1+\alpha)+\beta & \end{array} である。第1列が正であることから,同じ条件 α>1,γ>0,γ(1+α)<β<0 \alpha>-1,\qquad \gamma>0,\qquad -\gamma(1+\alpha)<\beta<0 を得る。試験では,この表または3次Hurwitz条件のどちらかを明示しておくと採点者に根拠が伝わる。

外乱除去条件の意味

4-1の外乱伝達関数 Gyd(s)=s2+γΔ(s) G_{yd}(s)=\frac{s^2+\gamma}{\Delta(s)} は,分子に零点をもつ。正弦波外乱の定常応答を消すには,外乱の周波数 jω0j\omega_0 をこの零点に置けばよい。 したがって γ=ω02\gamma=\omega_0^2 が必要になる。ただし零点を置いただけでは不十分であり, 閉ループの極が安定でなければ過渡応答が残ったり発散したりする。したがって安定条件も同時に書くのが完全な答案である。

実際,γ=ω02\gamma=\omega_0^2 のとき D(s)=ω0s2+ω02 D(s)=\frac{\omega_0}{s^2+\omega_0^2} に対して Y(s)=Gyd(s)D(s)=s2+ω02Δ(s)ω0s2+ω02=ω0Δ(s) Y(s)=G_{yd}(s)D(s) = \frac{s^2+\omega_0^2}{\Delta(s)} \frac{\omega_0}{s^2+\omega_0^2} = \frac{\omega_0}{\Delta(s)} となる。安定条件が満たされれば,これは安定極だけをもつ応答なので tt\to\infty00 に収束する。

ボード線図の読み方

4-2の一巡伝達関数は L(s)=KP1+TDss2(1+Ts) L(s)=K_P\frac{1+T_Ds}{s^2(1+Ts)} である。二重積分 1/s21/s^2 が最初から 40dB/dec-40\,\mathrm{dB/dec}180-180^\circ を作る。 安定条件から TD>TT_D>T なので,零点 1/TD1/T_D が極 1/T1/T より低い周波数に現れる。 この零点が位相を進め,後から極がその進みを戻すため,位相線図は 180-180^\circ から持ち上がってまた 180-180^\circ に戻る。

折れ点の順序を逆に描くと,傾きが 406040 -40\to-60\to-40 のようになってしまい,PD要素による位相進み補償の図ではなくなる。ここは典型的な失点箇所である。

最大位相進みと位相余裕

最大位相進みは arctan(TDω)arctan(Tω) \arctan(T_D\omega)-\arctan(T\omega) を最大化する問題である。微分して得た ωM=1TTD \omega_M=\frac{1}{\sqrt{TT_D}} は二つの折れ点 1TD,1T \frac{1}{T_D},\qquad \frac{1}{T} の幾何平均になっている。これはボード線図上の横軸が対数目盛であることと対応しており, 検算として非常に使いやすい。

ゲイン交差周波数を ωM\omega_M に合わせると,二重積分の 180-180^\circ は位相余裕の定義でちょうど打ち消される。 そのため位相余裕は,PD要素と一次遅れ極の差 arctanTDTarctanTTD \arctan\sqrt{\frac{T_D}{T}} - \arctan\sqrt{\frac{T}{T_D}} だけで決まる。たとえば TDTT_D\downarrow T とすると PM0\mathrm{PM}\to0 であり, 零点と極が重なって補償効果が消えるという直感と一致する。また TD/TT_D/T を大きくすると 位相余裕は 9090^\circ に近づくが,理想微分の影響も強くなるため,実装時にはフィルタが必要になる。

近似制御器でのフィルタ時定数

近似制御器の分母 1+TFs1+T_Fs は,高周波ゲインを有限にするための実装上の極である。 設計時に使った K(s)=KP(1+TDs)K(s)=K_P(1+T_Ds) の見通しを保つには,この極を制御帯域より十分高い周波数に置く。 したがって TF=120ωgc T_F=\frac{1}{20\omega_{\mathrm{gc}}} を選ぶ。もし TF=1/ωgcT_F=1/\omega_{\mathrm{gc}} とすると,まさにゲイン交差周波数で追加極が効き始めるので, 位相余裕を約 4545^\circ 低下させる。この差を数値で示せると,理由説明として十分である。

試験で書くべきポイント

この問題で答案に残すべき根拠は次の四つである。第一に,安定条件は特性多項式とRouth-Hurwitz条件から出したこと。 第二に,追従誤差と外乱応答では入力の入り方が異なるため,1/(1+PK)1/(1+PK)P/(1+PK)P/(1+PK) を取り違えないこと。 第三に,4-2の折れ点の順序は内部安定条件 TD>TT_D>T と結びついていること。 第四に,実装用フィルタはゲイン交差周波数より十分高いところに置くため, 1/(20ωgc)1/(20\omega_{\mathrm{gc}}) を選ぶことである。

完全な解答(途中式・最終答)はPDFに収録

京都大学 数学・機械力学・専門科目 — 他の年度