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都立大 理学研究科 物理学専攻 物理 2023年度 冬季 院試 過去問 解答例・解説(解説5項目)

解説5項目の分野は数学1項目、電磁気学・回路1項目、熱・統計力学1項目です。解説はすべて、途中式と最終答は大問1問ぶんを公開しています。PDFの収録範囲は商品ページで確認できます。問題本文は含みません。

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第1問 — 数学:固有値問題・行列の指数関数・不定積分

問1 3×33\times3 行列の固有値と固有ベクトル

方針

AA は第2行・第2列に yy 成分しか含まないため、yy 方向と xzxz 平面が完全に分離している。 最初に e⃗2=(0,1,0)T\vec e_2=(0,1,0)^{\mathsf T} が固有値 11 の固有ベクトルだと見抜けば、 残りは (0140)\begin{pmatrix}0&1\\4&0\end{pmatrix} の固有値 ±2\pm2 を求めるだけで済む。 行列式を素直に展開してもよいが、分離構造を指摘しておくと以降の計算が短くなる。

検算

固有値の和はトレースに、積は行列式に一致する。 tr⁡A=0+1+0=1\operatorname{tr}A=0+1+0=1 で −2+1+2=1-2+1+2=1、 det⁡A=1⋅(0⋅0−1⋅4)=−4\det A=1\cdot(0\cdot0-1\cdot4)=-4 で (−2)⋅1⋅2=−4(-2)\cdot1\cdot2=-4。どちらも合う。 固有ベクトルは A(1,0,−2)T=(−2,0,4)T=−2 (1,0,−2)TA(1,0,-2)^{\mathsf T}=(-2,0,4)^{\mathsf T}=-2\,(1,0,-2)^{\mathsf T} で直接確認できる。

失点しやすい点

規格化の指定 ∣v⃗∣=1|\vec v|=1 を読み飛ばして (1,0,−2)T(1,0,-2)^{\mathsf T} のまま答える誤りが多い。 また AA は対称行列ではないので、異なる固有値の固有ベクトルが直交するとは限らない。 実際 λ3=2\lambda_3=2 の固有ベクトルは (1,0,2)T(1,0,2)^{\mathsf T} で、λ1\lambda_1 のものとの内積は 1−4=−3≠01-4=-3\ne0 である。 「実固有値だから直交する」と書くと減点される。

問2 行列の指数関数

方針

行列の指数関数は σ\sigma のべきが何周期で閉じるかを最初に確かめる。 σ2\sigma^2 が II の定数倍になれば、級数は必ず II の係数と σ\sigma の係数の2本にまとまる。 本問は σ2=+I\sigma^2=+I なので三角関数ではなく双曲線関数が現れる。

符号に関する注意

この σ\sigma はパウリ行列 σy\sigma_y そのもので、σy2=I\sigma_y^2=I である。 一方 exp⁡[iθσy]\exp[i\theta\sigma_y] のように純虚数の係数を付けると (iσ)2=−I(i\sigma)^2=-I となり、 exp⁡[iθσy]=cos⁡θ I+isin⁡θ σy\exp[i\theta\sigma_y]=\cos\theta\,I+i\sin\theta\,\sigma_y という三角関数の形になる。 指数の肩が実数 xx か虚数 ixix かで cosh⁡/sinh⁡\cosh/\sinh と cos⁡/sin⁡\cos/\sin が入れ替わる。 量子力学のスピン回転演算子と混同しやすいところである。

検算

x=0x=0 で exp⁡[0]=I\exp[0]=I となるべきで、cosh⁡0=1, sinh⁡0=0\cosh0=1,\ \sinh0=0 なので合う。 また det⁡exp⁡[xσ]=cosh⁡2x−(−isinh⁡x)(isinh⁡x)=cosh⁡2x−sinh⁡2x=1\det\exp[x\sigma]=\cosh^2x-(-i\sinh x)(i\sinh x)=\cosh^2x-\sinh^2x=1 で、 det⁡exp⁡[M]=etr⁡M\det\exp[M]=e^{\operatorname{tr}M} と tr⁡(xσ)=0\operatorname{tr}(x\sigma)=0 とも整合する。 微分して ddxexp⁡[xσ]=sinh⁡x I+cosh⁡x σ=σexp⁡[xσ]\frac{d}{dx}\exp[x\sigma]=\sinh x\,I+\cosh x\,\sigma=\sigma\exp[x\sigma] も確かめられる。

問3 ∫dxcos⁡x\displaystyle\int\frac{dx}{\cos x}

別解(sec⁡x+tan⁡x\sec x+\tan x を掛ける)

置換を使わずに ∫dxcos⁡x=∫cos⁡xcos⁡2x dx=∫cos⁡x1−sin⁡2x dx \int\frac{dx}{\cos x} =\int\frac{\cos x}{\cos^2x}\,dx=\int\frac{\cos x}{1-\sin^2x}\,dx とし、s=sin⁡xs=\sin x と置くと ∫ds1−s2=12log⁡∣1+s1−s∣+C\int\frac{ds}{1-s^2}=\frac12\log\left|\frac{1+s}{1-s}\right|+C となる。 12log⁡1+s1−s=log⁡(1+s)21−s2=log⁡1+sin⁡x∣cos⁡x∣\frac12\log\frac{1+s}{1-s}=\log\sqrt{\frac{(1+s)^2}{1-s^2}}=\log\frac{1+\sin x}{|\cos x|} なので、 上の答えと一致する。試験場ではこちらのほうが速いことが多い。

3つの表示が同じであること

tan⁡ ⁣(x2+π4)=tan⁡x2+11−tan⁡x2\tan\!\left(\frac x2+\frac\pi4\right)=\dfrac{\tan\frac x2+1}{1-\tan\frac x2} は加法定理そのもので、 第1の形と第2の形は同一である。さらに 1+tan⁡x21−tan⁡x2=cos⁡x2+sin⁡x2cos⁡x2−sin⁡x2\dfrac{1+\tan\frac x2}{1-\tan\frac x2} =\dfrac{\cos\frac x2+\sin\frac x2}{\cos\frac x2-\sin\frac x2} の分母分子に cos⁡x2+sin⁡x2\cos\frac x2+\sin\frac x2 を掛けると 分子は 1+sin⁡x1+\sin x、分母は cos⁡x\cos x になり第3の形が出る。 どの形で答えてもよいが、変形の1行を添えておくと同値であることが伝わる。

検算

log⁡∣1+sin⁡xcos⁡x∣\log\left|\frac{1+\sin x}{\cos x}\right| を微分すると cos⁡x⋅cos⁡x+(1+sin⁡x)sin⁡xcos⁡x(1+sin⁡x)=cos⁡2x+sin⁡x+sin⁡2xcos⁡x(1+sin⁡x)=1+sin⁡xcos⁡x(1+sin⁡x)=1cos⁡x \frac{\cos x\cdot\cos x+(1+\sin x)\sin x}{\cos x(1+\sin x)} =\frac{\cos^2x+\sin x+\sin^2x}{\cos x(1+\sin x)} =\frac{1+\sin x}{\cos x(1+\sin x)}=\frac{1}{\cos x} となり、確かに被積分関数に戻る。

失点しやすい点

cos⁡x=0\cos x=0 となる x=π/2+nπx=\pi/2+n\pi で被積分関数は定義されないので、 原始関数は各区間ごとに定まり、積分定数 CC も区間ごとに独立である。 絶対値を外して log⁡1+tan⁡(x/2)1−tan⁡(x/2)\log\frac{1+\tan(x/2)}{1-\tan(x/2)} と書くと、 tan⁡(x/2)>1\tan(x/2)>1 の区間で真数が負になり誤りとなる。

解答

問1 3×33\times3 行列の固有値と固有ベクトル

1-1) 3つの固有値

特性方程式は det⁡(A−λI)=∣−λ0101−λ040−λ∣=0. \det(A-\lambda I) =\begin{vmatrix} -\lambda & 0 & 1\\ 0 & 1-\lambda & 0\\ 4 & 0 & -\lambda \end{vmatrix}=0. 第2行が (0,  1−λ,  0)(0,\;1-\lambda,\;0) なので、第2行に沿って余因子展開すると det⁡(A−λI)=(1−λ)∣−λ14−λ∣=(1−λ)(λ2−4). \det(A-\lambda I) =(1-\lambda)\begin{vmatrix}-\lambda & 1\\ 4 & -\lambda\end{vmatrix} =(1-\lambda)(\lambda^2-4). よって (1−λ)(λ−2)(λ+2)=0(1-\lambda)(\lambda-2)(\lambda+2)=0 であり、固有値は −2, 1, 2-2,\,1,\,2 である。 λ1<λ2<λ3\lambda_1<\lambda_2<\lambda_3 の指定に合わせて番号を付ける。

1-2) λ1=−2\lambda_1=-2 の規格化固有ベクトル

v⃗=(x,y,z)T\vec v=(x,y,z)^{\mathsf T} とおく。(A+2I)v⃗=0⃗(A+2I)\vec v=\vec 0 は (201030402)(xyz)=(000) \begin{pmatrix}2&0&1\\0&3&0\\4&0&2\end{pmatrix} \begin{pmatrix}x\\y\\z\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}0\\0\\0\end{pmatrix} すなわち 2x+z=0,3y=0,4x+2z=0 2x+z=0,\qquad 3y=0,\qquad 4x+2z=0 である。第3式は第1式の2倍なので独立な条件は z=−2xz=-2x と y=0y=0 の2つで、 固有空間は1次元、v⃗∝(1,0,−2)T\vec v\propto(1,0,-2)^{\mathsf T} となる。 ∣v⃗∣=1|\vec v|=1 より 12+02+(−2)2=5\sqrt{1^2+0^2+(-2)^2}=\sqrt5 で割ればよい。

問2 行列の指数関数

2-1) σ2, σ3, σ4\sigma^2,\ \sigma^3,\ \sigma^4

σ=(0−ii0)\sigma=\begin{pmatrix}0&-i\\ i&0\end{pmatrix} を直接2乗すると σ2=(0−ii0)(0−ii0)=((−i)(i)00(i)(−i))=(1001)=I. \sigma^2=\begin{pmatrix}0&-i\\ i&0\end{pmatrix}\begin{pmatrix}0&-i\\ i&0\end{pmatrix} =\begin{pmatrix}(-i)(i)&0\\ 0&(i)(-i)\end{pmatrix} =\begin{pmatrix}1&0\\0&1\end{pmatrix}=I. よって σ3=σ2σ=σ,σ4=(σ2)2=I. \sigma^3=\sigma^2\sigma=\sigma,\qquad \sigma^4=(\sigma^2)^2=I.

2-2) exp⁡[xσ]=f(x)I+g(x)σ\exp[x\sigma]=f(x)I+g(x)\sigma

2-1) より σ2n=I\sigma^{2n}=I、σ2n+1=σ\sigma^{2n+1}=\sigma である。定義級数を偶数項と奇数項に分けると exp⁡[xσ]=∑n=0∞xnn!σn=(∑n=0∞x2n(2n)!)I+(∑n=0∞x2n+1(2n+1)!)σ. \exp[x\sigma]=\sum_{n=0}^{\infty}\frac{x^n}{n!}\sigma^n =\left(\sum_{n=0}^{\infty}\frac{x^{2n}}{(2n)!}\right)I +\left(\sum_{n=0}^{\infty}\frac{x^{2n+1}}{(2n+1)!}\right)\sigma. 右辺の2つの級数はそれぞれ cosh⁡x\cosh x、sinh⁡x\sinh x の定義級数そのものである。 xx は実数なので両級数は絶対収束し、項の並べ替えは正当化される。したがって exp⁡[xσ]=f(x)I+g(x)σ\exp[x\sigma]=f(x)I+g(x)\sigma の形に書けて f(x)=cosh⁡x,g(x)=sinh⁡x. f(x)=\cosh x,\qquad g(x)=\sinh x. 成分で書けば exp⁡[xσ]=(cosh⁡x−isinh⁡xisinh⁡xcosh⁡x). \exp[x\sigma]=\begin{pmatrix}\cosh x & -i\sinh x\\ i\sinh x & \cosh x\end{pmatrix}.

問3 ∫dxcos⁡x\displaystyle\int\frac{dx}{\cos x}

ワイエルシュトラス置換

u=tan⁡x2u=\tan\dfrac{x}{2} とおく。与えられた関係式 cos⁡x=1−u21+u2\cos x=\dfrac{1-u^2}{1+u^2} に加えて dudx=12(1+tan⁡2x2)=1+u22⟹dx=2 du1+u2 \frac{du}{dx}=\frac12\left(1+\tan^2\frac x2\right)=\frac{1+u^2}{2} \quad\Longrightarrow\quad dx=\frac{2\,du}{1+u^2} である。よって ∫dxcos⁡x=∫1+u21−u2⋅2 du1+u2=∫2 du1−u2. \int\frac{dx}{\cos x} =\int\frac{1+u^2}{1-u^2}\cdot\frac{2\,du}{1+u^2} =\int\frac{2\,du}{1-u^2}.

部分分数分解

21−u2=11−u+11+u\dfrac{2}{1-u^2}=\dfrac{1}{1-u}+\dfrac{1}{1+u} であるから ∫2 du1−u2=−log⁡∣1−u∣+log⁡∣1+u∣+C=log⁡∣1+u1−u∣+C. \int\frac{2\,du}{1-u^2} =-\log|1-u|+\log|1+u|+C =\log\left|\frac{1+u}{1-u}\right|+C. u=tan⁡(x/2)u=\tan(x/2) を戻して ∫dxcos⁡x=log⁡∣1+tan⁡x21−tan⁡x2∣+C. \int\frac{dx}{\cos x}=\log\left|\frac{1+\tan\frac x2}{1-\tan\frac x2}\right|+C.

最終答

λ1=−2,λ2=1,λ3=2\lambda_1=-2,\quad \lambda_2=1,\quad \lambda_3=2

v⃗=±15(10−2)\displaystyle \vec v=\pm\frac{1}{\sqrt5}\begin{pmatrix}1\\0\\-2\end{pmatrix} (規格化条件だけでは符号は決まらない)

σ2=I,σ3=σ=(0−ii0),σ4=I\sigma^2=I,\quad \sigma^3=\sigma=\begin{pmatrix}0&-i\\ i&0\end{pmatrix},\quad \sigma^4=I

f(x)=cosh⁡x,g(x)=sinh⁡xf(x)=\cosh x,\quad g(x)=\sinh x

∫dxcos⁡x=log⁡∣1+tan⁡x21−tan⁡x2∣+C=log⁡∣tan⁡ ⁣(x2+π4)∣+C=log⁡∣1+sin⁡xcos⁡x∣+C\displaystyle \int\frac{dx}{\cos x} =\log\left|\frac{1+\tan\frac x2}{1-\tan\frac x2}\right|+C =\log\left|\tan\!\left(\frac x2+\frac\pi4\right)\right|+C =\log\left|\frac{1+\sin x}{\cos x}\right|+C

第2問 — 力学:一様棒の物理振り子と回転軸の移動

問1 端 O まわりの慣性モーメント

方針

定義 I=∫r2 dmI=\int r^2\,dm に戻り、dm=λ drdm=\lambda\,dr と積分区間 [0,L][0,L] を明示するだけでよい。 「示せ」という設問なので、線密度の定義と積分区間の端点を書かずに結果だけ書くと不十分になる。

別の導き方

重心まわりの IG=ML2/12I_G=ML^2/12 を既知として、平行軸の定理 I=IG+M(L/2)2=ML2/12+ML2/4=ML2/3I=I_G+M(L/2)^2=ML^2/12+ML^2/4=ML^2/3 としてもよい。 ただし IGI_G 自体を導出なしに使うと循環になりかねないので、 本問では定義からの積分で示すほうが安全である。

次元と極限による確認

[I]=kg m2[I]=\mathrm{kg\,m^2} で ML2ML^2 と合う。また質量がすべて端 O の反対側の1点 (r=Lr=L)に集中していれば I=ML2I=ML^2、逆に O に集中していれば I=0I=0 である。 一様分布の ML2/3ML^2/3 はこの間に収まり、係数 1/31/3 は ∫01u2du\int_0^1u^2du に由来する。

問2 θ\theta 方向の運動方程式

腕の長さの取り方

トルクは「力 ×\times 軸から作用線までの距離」である。 重力は鉛直下向きなので、O から重力の作用線までの距離は OGsin⁡θ=(L/2)sin⁡θ\mathrm{OG}\sin\theta=(L/2)\sin\theta である。 OG\mathrm{OG} をそのまま掛けて Mg L/2Mg\,L/2 としてしまう誤りが多い。

符号

θ>0\theta>0 のとき重力は棒を鉛直に戻す向き、すなわち θ\theta を減らす向きに働くので 右辺は負でなければならない。符号を落とすと問3で振動解にならず発散解になる。

この設問が試していること

質点の振り子と剛体の振り子の違いを理解しているかどうかである。 質点なら mℓ2θ¨=−mgℓsin⁡θm\ell^2\ddot\theta=-mg\ell\sin\theta で質量が消えるが、 剛体では II と MhMh の比が残り、質量分布が周期に効く。 問6の伏線でもあるので、II と腕 h=L/2h=L/2 を別々に書き分けておくとよい。

問3 微小振動の解

「静かに放す」の意味

初速度ゼロを意味する。この一言を初期条件 θ˙(0)=0\dot\theta(0)=0 に翻訳して書くことが採点対象になる。 sin⁡\sin の項を残したまま一般解で終えると失点する。

周期

TO=2πω=2π2L3gT_{\mathrm O}=\dfrac{2\pi}{\omega}=2\pi\sqrt{\dfrac{2L}{3g}} である。 同じ長さの単振り子(質点が端にある)の周期 2πL/g2\pi\sqrt{L/g} より短い。 質量が軸の近くにも分布している分、実効的な振り子の長さ ℓeff=I/(Mh)=2L/3\ell_{\mathrm{eff}}=I/(M h)=2L/3 が LL より短くなるためである。

近似の妥当性

sin⁡θ=θ−θ3/6+⋯\sin\theta=\theta-\theta^3/6+\cdots なので、θ0=0.1 rad\theta_0=0.1\,\mathrm{rad} 程度なら 相対誤差は θ02/6≃0.17%\theta_0^2/6\simeq0.17\% にとどまる。 振幅が大きくなると周期は T≃T0(1+θ02/16)T\simeq T_0\left(1+\theta_0^2/16\right) と伸び、 単振動の近似は成り立たなくなる。「θ\theta が十分に小さい」という条件が どこで効いたかを答案に明示すること。

問4 θ=0\theta=0 における回転の運動エネルギー

方針

剛体の固定軸まわりの回転の運動エネルギーは K=12Iθ˙2K=\frac12I\dot\theta^2 である。 問3で θ(t)\theta(t) が求まっているので、θ=0\theta=0 となる時刻での θ˙\dot\theta を 代入するだけでよい。θ=0\theta=0 は振り子が最下点を通る瞬間で、速さが最大になる。

エネルギー保存による検算

θ=θ0\theta=\theta_0 で静止しているときの重心の高さは、θ=0\theta=0 のときより L2(1−cos⁡θ0)\dfrac L2(1-\cos\theta_0) だけ高い。微小振動では 1−cos⁡θ0≃θ02/21-\cos\theta_0\simeq\theta_0^2/2 なので位置エネルギーの差は Mg⋅L2⋅θ022=MgLθ024 Mg\cdot\frac L2\cdot\frac{\theta_0^2}{2}=\frac{MgL\theta_0^2}{4} となり、上の KK と一致する。

失点しやすい点

K=12Mv2K=\frac12 Mv^2 と重心速度で書くと、棒の回転による分を落として 12M(Lθ˙/2)2=ML2θ˙28\frac12 M(L\dot\theta/2)^2=\frac{ML^2\dot\theta^2}{8} となり過小評価になる。 剛体の運動エネルギーは重心の並進分 12MvG2\frac12Mv_G^2 と重心まわりの回転分 12IGθ˙2\frac12 I_G\dot\theta^2 の和であって、固定軸まわりでは 12Iθ˙2\frac12 I\dot\theta^2 にまとまる。

問5 点 P まわりの慣性モーメント

定義からの確認

P を原点に取り、棒は −L/4≤s≤3L/4-L/4\le s\le 3L/4 を占める。 ∫−L/43L/4s2ML ds=ML[s33]−L/43L/4=M3L(27L364+L364)=M3L⋅28L364=7ML248. \int_{-L/4}^{3L/4}s^2\frac ML\,ds =\frac ML\left[\frac{s^3}{3}\right]_{-L/4}^{3L/4} =\frac{M}{3L}\left(\frac{27L^3}{64}+\frac{L^3}{64}\right) =\frac{M}{3L}\cdot\frac{28L^3}{64} =\frac{7ML^2}{48}. 平行軸の定理の結果と一致する。

平行軸の定理を使う理由

点 P は棒の端ではないので、定義の積分では区間が [−L/4, 3L/4][-L/4,\,3L/4] と 原点をまたぐ形になり符号の扱いを誤りやすい。 重心を基準にした IGI_G から平行軸の定理で移すほうが安全である。 定理の dd は「重心と新しい軸の距離」であって、端からの距離ではない。

失点しやすい点

dd を O から P までの距離 L/4L/4 と取り違えても偶然同じ値 L/4L/4 になるが、 これは P が O と G の中点だからにすぎない。 たとえば P を O から L/3L/3 の点に取れば d=∣L/2−L/3∣=L/6d=|L/2-L/3|=L/6 であって L/3L/3 ではない。 定理の意味を確認せずに数値が合ったことで済ませないこと。

問6 回転軸を O から P に変えたときの周期

何が効いているか

軸を重心に近づけると、慣性モーメント II は ML2/3→7ML2/48ML^2/3\to7ML^2/48 と 7/481/3=716\dfrac{7/48}{1/3}=\dfrac{7}{16} 倍に減る一方、復元トルクの腕 hh も L/2→L/4L/2\to L/4 と 1/21/2 倍に減る。周期は I/h\sqrt{I/h} に比例するので、 (7/16)/(1/2)=7/8<1\sqrt{(7/16)/(1/2)}=\sqrt{7/8}<1 となって周期はわずかに短くなる。 II の減り方が hh の減り方より緩やかであれば周期は逆に長くなるので、 両方の変化を比べる議論が必要である。

極限での挙動

軸を重心 G そのもの(h→0h\to0)に置くと復元トルクが消え、T→∞T\to\infty で振動しなくなる。 逆に軸 O からさらに離すことはできない。実効長 ℓeff=I/(Mh)\ell_{\mathrm{eff}}=I/(Mh) を 軸位置 aa(G からの距離)の関数として書くと ℓeff(a)=L2/12+a2a\ell_{\mathrm{eff}}(a)=\dfrac{L^2/12+a^2}{a} で、 a=L/12≃0.289La=L/\sqrt{12}\simeq0.289L で最小値 L/3L/\sqrt3 を取る。 本問の a=L/4=0.25La=L/4=0.25L はこの最小点のすぐ手前にあり、 a=L/2a=L/2(軸 O)より ℓeff\ell_{\mathrm{eff}} が小さいので周期が短くなる。

検算

ℓeff\ell_{\mathrm{eff}} で確かめる。軸 O では L2/12+L2/4L/2=L2/3L/2=2L3\dfrac{L^2/12+L^2/4}{L/2}=\dfrac{L^2/3}{L/2}=\dfrac{2L}{3}。 軸 P では L2/12+L2/16L/4=7L2/48L/4=7L12\dfrac{L^2/12+L^2/16}{L/4}=\dfrac{7L^2/48}{L/4}=\dfrac{7L}{12}。 比は 7/122/3=78\dfrac{7/12}{2/3}=\dfrac78 で、周期比の2乗と一致する。

失点しやすい点

「軸を重心に近づけたので慣性モーメントが減り、周期が短くなる」とだけ書くと、 腕 hh の減少を無視した議論になり不十分である。 また問5の IPI_{\mathrm P} を求めたあと、hh を L/2L/2 のまま使ってしまう取り違えも多い。

力学:一様棒の物理振り子と回転軸の移動の途中式・最終答をPDFで見る

第3問 — 電磁気学:直交電磁場中の荷電粒子とサイクロイド運動

問1 速度に関する運動方程式

磁場は仕事をしない

v×B\bm v\times\bm B は v\bm v に垂直なので、磁場は運動エネルギーを変えない。 実際 ddt(12mv2)=mv⋅v˙=qv⋅E\dfrac{d}{dt}\left(\frac12 mv^2\right)=m\bm v\cdot\dot{\bm v} =q\bm v\cdot\bm E となり、電場だけがエネルギーを与える。 後の問5でエネルギーが周期的に増減することの理由がここにある。

ベクトルのまま書くこと

設問は「ベクトルの式で示せ」と指定している。 成分に分けるのは問2以降なので、ここでは E\bm E、B\bm B の具体形を代入せず、 一般の場に対する式のまま答えるのが正しい。重力や輻射反作用は無視する前提である。

この設問が試していること

ローレンツ力の形を正しく書けるか、という確認である。 qv×Bq\bm v\times\bm B の順序を qB×vq\bm B\times\bm v と取り違えると符号が反転し、 問5の軌跡の回転の向きが逆になる。外積の順序は定義どおりに保つ。

問2 運動が xyxy 平面に限られること

構造的な理由

E\bm E と B\bm B の張る面に垂直な方向には力の成分が現れない。 E\bm E は zz 成分を持たず、v×B\bm v\times\bm B は B∥ez\bm B\parallel\bm e_z より 必ず ez\bm e_z に垂直だからである。初速度が zz 方向を持たないという条件が そろって初めて平面運動になる点を明示するとよい。

失点しやすい点

dvz/dt=0dv_z/dt=0 だけを示して終える答案が多いが、それでは 「vzv_z が一定」までしか言えない。vz(0)=0v_z(0)=0 と z(0)=0z(0)=0 の両方を使って z(t)≡0z(t)\equiv0 まで述べる必要がある。

初期条件が効くところ

vzv_z が定数であることだけでは平面運動と言えない。 vz(0)=0v_z(0)=0 は「原点に初速ゼロで置く」という設定から読み取る。 zz 方向に初速があれば、軌跡は zz 方向に一様に進むらせん(トロコイド的な螺旋)になる。

問3 vyv_y に対する微分方程式

方針

連立1階方程式から片方を消すには、片方を微分してもう一方を代入する。 定数項 qE/mqE/m は微分で消えるので、vyv_y の方程式は非斉次項を持たない きれいな単振動になる。vxv_x について同じことをすると v¨x+ω2vx=ωqE/m\ddot v_x+\omega^2v_x=\omega qE/m となり非斉次項が残るので、 問題が vyv_y を選んでいるのは計算が短くなるからである。

複素表示による別解

w=vx+ivyw=v_x+iv_y とおくと (∗)(\ast) は w˙=i qE/m−iωw\dot w=i\,qE/m-i\omega w の1本にまとまり、 w(t)=EB(1−e−iωt)w(t)=\dfrac{E}{B}\left(1-e^{-i\omega t}\right) と一気に解ける。 実部・虚部が問4・問5の答えになる。

失点しやすい点

ω=qB/m\omega=qB/m と置くよう指示があるので、vxv_x を消す前に ω\omega を導入しておく。 v¨y=−ωv˙x\ddot v_y=-\omega\dot v_x の段で v˙x\dot v_x に第1式を入れ忘れ、 v¨y=−ω2vy+定数\ddot v_y=-\omega^2v_y+\text{定数} としてしまう誤りが多い。定数項は微分で消えている。

問4 vy(t)v_y(t)

初期加速度の使い方

v˙y(0)\dot v_y(0) は与えられていないので、運動方程式そのものから読み取る。 t=0t=0 では速度がゼロなので磁気力は働かず、電場による加速 qE/mqE/m だけが残る。 この物理的な読み替えを一言添えると、式だけの答案より伝わる。

振幅の意味

振幅 E/BE/B は E×B\bm E\times\bm B ドリフト速度の大きさに等しい。 ∣E×B∣/B2=E/B|\bm E\times\bm B|/B^2=E/B である。ここに現れる E/BE/B が問5の サイクロイドの平均速度になる。

検算

B→0B\to0 の極限では ω→0\omega\to0、vy=EBsin⁡ωt→qEmtv_y=\dfrac EB\sin\omega t\to\dfrac{qE}{m}t となり、 磁場がないときの等加速度運動に戻る。sin⁡ωt≃ωt\sin\omega t\simeq\omega t を使えばよい。

問5 x(t), y(t)x(t),\ y(t) と軌跡

ドリフトと円運動への分解

vx=EB−EBcos⁡ωtv_x=\dfrac EB-\dfrac EB\cos\omega t、vy=EBsin⁡ωtv_y=\dfrac EB\sin\omega t は 一定速度 (EB,0)\left(\dfrac EB,0\right) と、大きさ E/BE/B で角速度 ω\omega の 円運動の重ね合わせである。前者が E×B\bm E\times\bm B ドリフト、 後者がサイクロトロン運動である。 ドリフト速度で動く系に移れば運動は等速円運動になり、電場は見かけ上消える。

エネルギーの出入り

速さは ∣v∣=EB(1−cos⁡ωt)2+sin⁡2ωt=2EB∣sin⁡ωt2∣|\bm v|=\dfrac EB\sqrt{(1-\cos\omega t)^2+\sin^2\omega t} =\dfrac{2E}{B}\left|\sin\dfrac{\omega t}{2}\right| で、 yy が最大 2a2a のとき最大 2E/B2E/B、y=0y=0 のときゼロになる。 電場は +y+y 方向なので q>0q>0 の粒子は yy が増えるとき仕事をされ、 戻るときに同じだけ仕事を返す。1周期で正味の仕事はゼロである。

検算

t→0t\to0 の極限で x≃Eω2t36Bωx\simeq\dfrac{E\omega^2t^3}{6B\omega}、 y≃Eωt22B=qE2mt2y\simeq\dfrac{E\omega t^2}{2B}=\dfrac{qE}{2m}t^2 となる。 後者は電場だけによる等加速度運動 y=12qEmt2y=\frac12\frac{qE}{m}t^2 に一致し、 初期には磁場が効かないことと整合する。

失点しやすい点

x(t)x(t) の積分定数を落として x=EBt−EBωsin⁡ωtx=\dfrac EB t-\dfrac{E}{B\omega}\sin\omega t の 定数項を誤ると出発点が原点にならない。また「円運動になる」とだけ答えると ドリフト項を見落としたことになる。q<0q<0 の場合は ω<0\omega<0 となって 回転の向きが逆になるが、本問は q>0q>0 の指定があるので図は上に凸のカスプで描く。

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第4問 — 量子力学:矩形ポテンシャル障壁の透過と共鳴

問1 波数と入射波・反射波

向きの判定

進行方向は「空間位相と時間位相の符号が逆」かどうかで判定する。 ei(kx−ωt)e^{i(kx-\omega t)} は位相一定の点が x=ωt/kx=\omega t/k で +x+x に動く。 定常波動関数だけを見て「eikxe^{ikx} は右向き」と暗記していると、 時間因子の符号を変えた流儀で誤る。確率流 j=ℏmIm⁡(ψ∗ψ′)j=\dfrac{\hbar}{m}\operatorname{Im}(\psi^*\psi') を計算して ∣A∣2ℏk1/m>0|A|^2\hbar k_1/m>0、−∣B∣2ℏk1/m<0-|B|^2\hbar k_1/m<0 と示すのが確実である。

E0>V0E_0>V_0 であることの意味

E0<V0E_0<V_0 なら k2k_2 が純虚数になり、障壁内は指数関数的に減衰する トンネル効果の問題になる。その場合 sin⁡k2→isinh⁡∣k2∣\sin k_2\to i\sinh|k_2| と読み替えれば 問2の公式はそのまま使えるが、sinh⁡\sinh は零点を持たないので問4の共鳴は起こらない。 本問が E0>V0>0E_0>V_0>0 を課しているのは、共鳴透過を扱うためである。

C,DC,D の意味

障壁内の Ceik2xCe^{ik_2x}、De−ik2xDe^{-ik_2x} も、それぞれ右向き・左向きに進む波である。 古典的には E0>V0E_0>V_0 なら粒子は減速するだけで戻らないが、 量子論ではポテンシャルの不連続そのものが反射を生むので D≠0D\ne0 になる。 この違いが問3・問4の主題である。

問2 透過率の公式の導出

方針

未知数は A,B,C,D,EA,B,C,D,E の5つ、接続条件は4本なので、比だけが決まる。 求めたいのは E/AE/A だけなので、透過側 x=1/2x=1/2 から入射側 x=−1/2x=-1/2 へ 逆向きに解いて BB を足し算で消すのが最短である。 BB を先に求めようとすると計算量が倍になる。

検算

V0→0V_0\to0 すなわち k2→k1k_2\to k_1 では (k22−k12)2→0(k_2^2-k_1^2)^2\to0 となり T→1T\to1。 障壁がないので当然である。 また k2→0k_2\to0(E0→V0E_0\to V_0)では sin⁡k2≃k2\sin k_2\simeq k_2 より 分母の第2項が k14k22k_1^4k_2^2 に近づき、T≃4k22k12→0T\simeq\dfrac{4k_2^2}{k_1^2}\to0 となる。 障壁の頂上すれすれでは透過しにくいという直観と合う。

位相の情報

A/EA/E の絶対値だけでなく偏角も求まっている。 arg⁡(E/A)=−k1−arg⁡ ⁣(cos⁡k2−is2sin⁡k2)\arg(E/A)=-k_1-\arg\!\left(\cos k_2-\tfrac{is}{2}\sin k_2\right) であり、 これが障壁を通過するときの位相のずれ(遅延)を与える。 透過率だけを問われていても、導出の途中でこの情報が得られていることは意識しておくとよい。

問3 T≤1T\le1 の証明

物理的な意味

T≤1T\le1 は確率の保存そのもので、R+T=1R+T=1(R=∣B/A∣2R=|B/A|^2)から従う。 入射した粒子は反射されるか透過するかのいずれかで、 障壁で消えたり増えたりしない。定常状態では確率流 jj が xx によらず一定であり、 ∣A∣2−∣B∣2=∣E∣2|A|^2-|B|^2=|E|^2 が成り立つ。

失点しやすい点

「分母が分子より大きいから」とだけ書くと、分母が正であること、 および分子が正であることの確認が抜ける。k1,k2>0k_1,k_2>0 を明示すること。 また等号成立条件を問われていなくても、問4への橋渡しになるので書いておくとよい。

古典との対比

古典力学では E0>V0E_0>V_0 ならば粒子は必ず障壁を越えるので T=1T=1 である。 量子論で一般に T<1T<1 になるのは、ポテンシャルが不連続に変化する点で 波が部分反射するためで、粒子像ではなく波動像に由来する。 この設問はその差を式で確認させている。

問4 T=1T=1 の条件と ψ(±1/2)\psi(\pm1/2) の関係

共鳴の描像

k2⋅1=nπk_2\cdot1=n\pi は「障壁の幅が障壁内の半波長の整数倍」という条件である。 2つの境界からの反射波が打ち消し合い、正味の反射がゼロになる。 薄膜の無反射コーティングや、電子散乱のラムザウアー・タウンゼント効果と 同じ機構である。

関係式の読み方

nn が偶数なら両端で波動関数が一致し、奇数なら符号が反転する。 振幅は等しいので ∣ψ(−1/2)∣=∣ψ(1/2)∣|\psi(-1/2)|=|\psi(1/2)| であり、 問5で ∣ψ∣2|\psi|^2 が両端で同じ値を取ることの根拠になる。

n=0n=0 を除く理由

k2=0k_2=0 は E0=V0E_0=V_0 を意味し、障壁内で波数が消えて解の形が変わる。 また k2>0k_2>0 の定義に反する。したがって nn は 11 以上の整数とする。

問5 T=1T=1 のときの ∣ψ(x)∣2|\psi(x)|^2

なぜ障壁内だけ振動するか

振動は同じ波数の右向き波と左向き波の干渉から生まれる。 T=1T=1 では入射側の左向き波(反射波)が消えるので干渉が起きず一定値になる。 一方、障壁内は2つの境界の間を往復するため C,DC,D が両方とも残り、 定在波成分ができる。透過側にはもともと左向き波がない。

振幅が障壁内で大きくなること

障壁内で ∣ψ∣2|\psi|^2 の最大値が外側より大きいのは、 運動量が小さい(k2<k1k_2<k_1)ぶん粒子がその領域に長く留まるからである。 確率流 jj は一定でも、j∼∣ψ∣2vj\sim|\psi|^2 v の関係から速度が小さい領域では 密度が大きくなる。共鳴とはこの領域に粒子が「溜まる」状態である。

描くときに落としてはいけない点

設問は「端点 x=±1/2x=\pm1/2 を図中に明記せよ」と指定している。 外側の一定値と障壁内の最小値が一致すること、障壁内の最大値が外側より高いこと、 山の個数が nn であることの3点を図と本文の両方で対応させる。

問6 T≠1T\ne1 のときの ∣ψ∣2|\psi|^2 の波長の比較

ド・ブロイ波長と ∣ψ∣2|\psi|^2 の周期

波動関数そのものの波長は λ=2π/k\lambda=2\pi/k だが、 ∣ψ∣2|\psi|^2 の振動周期はその半分の π/k\pi/k である。 どちらで答えても比は同じなので結論は変わらないが、 「∣ψ∣2|\psi|^2 の波長」と問われているので π/k\pi/k で答えるほうが正確である。

失点しやすい点

V0>0V_0>0 で k2<k1k_2<k_1 という不等号を確認せずに答えると、 符号を取り違えて「障壁内のほうが短い」と誤る。 k1,k2k_1,k_2 の定義式に戻り E0>E0−V0>0E_0>E_0-V_0>0 を明示すること。 また、透過側 x>1/2x>1/2 には左向き波がないので ∣ψ∣2|\psi|^2 は振動しない。 問6が x<−1/2x<-1/2 と ∣x∣≤1/2|x|\le1/2 だけを比べているのはそのためである。

数値でみる

V0=0.5E0V_0=0.5E_0 とすると k2/k1=1−V0/E0=1/2≃0.707k_2/k_1=\sqrt{1-V_0/E_0}=1/\sqrt2\simeq0.707 で、 ∣ψ∣2|\psi|^2 の振動周期の比は k1/k2=2≃1.41k_1/k_2=\sqrt2\simeq1.41 倍である。 障壁内の波長のほうが約4割長い。

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第5問 — 統計力学:一次元ランダムウォークと拡散方程式

問1 NN ステップ後の位置の期待値

分散との違い

期待値は 00 だが広がりは 00 ではない。 ⟨Δi2⟩=ξ2\langle\Delta_i^2\rangle=\xi^2 かつ異なるステップは独立なので ⟨xN2⟩=Nξ2\langle x_N^2\rangle=N\xi^2、標準偏差は N ξ\sqrt N\,\xi である。 この N\sqrt N 則が問5のガウス分布の幅、問6の拡散係数に直結する。

失点しやすい点

「対称性を考慮して」という指示があるので、 1ステップの期待値がゼロであることと、W(N,m)=W(N,−m)W(N,m)=W(N,-m) の対称性のどちらかを 根拠として明示する。⟨x⟩=0\langle x\rangle=0 という結果だけでは説明になっていない。

独立性の仮定

各ステップの向きが互いに独立で、過去の履歴によらないことを使っている。 この仮定が崩れる(自己回避ウォークなど)と、⟨x⟩=0\langle x\rangle=0 は 対称性から言えても ⟨x2⟩=Nξ2\langle x^2\rangle=N\xi^2 は成り立たなくなる。

問2 W(N+1,m)W(N+1,m) の漸化式

方針

「最後の1歩で場合分け」が漸化式を作る定石である。 「最初の1歩で場合分け」しても同じ式が得られるが、 連続極限を取る問6では最後の1歩で分けるほうが W(N+1,m)−W(N,m)W(N+1,m)-W(N,m) の形に直結する。

パリティの保存

NN と mm の偶奇は必ず一致する。m−1m-1 と m+1m+1 は mm と偶奇が逆で、 NN と N+1N+1 も偶奇が逆なので、この漸化式はパリティの規則と矛盾しない。

初期条件

この漸化式は W(0,m)=δm,0W(0,m)=\delta_{m,0} から出発してすべての W(N,m)W(N,m) を決める。 問3・問4はこの漸化式を解いた結果と一致していなければならない。

問3 W(4,2)W(4,2)

検算

N=4N=4 での分布は m=−4,−2,0,2,4m=-4,-2,0,2,4 に対して 116,416,616,416,116\dfrac1{16},\dfrac4{16},\dfrac6{16},\dfrac4{16},\dfrac1{16} であり、 和は 11、期待値は対称性から 00 である。 問2の漸化式でも確かめられる。W(3,1)=3/8W(3,1)=3/8、W(3,3)=1/8W(3,3)=1/8 なので W(4,2)=12(38+18)=14W(4,2)=\frac12\left(\frac38+\frac18\right)=\frac14 で一致する。

別の数え方

44 ステップの経路 1616 通りを列挙して m=2m=2 になるものを数えてもよい。 (+,+,+,−)(+,+,+,-) の並べ替え 44 通りである。 NN が小さいうちは列挙が確実で、問4の一般式の検算にも使える。

失点しやすい点

m=2m=2 に到達する経路のうち、途中で m=2m=2 を通るものを重複して数えないこと。 問われているのは「N=4N=4 の時点での位置」であり、途中経過は問わない。 最初に n+,n−n_+,n_- を決めてから並べ方を数えるのが安全である。

問4 W(N,m)W(N,m) の一般形

失点しやすい点

偶奇条件を書かずに二項係数だけを答えると、 W(4,1)=0W(4,1)=0 のような場合を取りこぼす。 mm の刻み幅が 22 であることは問5の規格化定数にも効いてくる。

方針

NN ステップのうち ++ に進んだ回数だけで位置が決まるので、 n+n_+ についての二項分布に帰着する。位置 mm と回数 n+n_+ の対応 m=2n+−Nm=2n_+-N を最初に書いておくと、以降の変数変換で迷わない。

和が1になること

∑mW(N,m)=12N∑k=0N(Nk)=2N2N=1\sum_{m}W(N,m)=\dfrac{1}{2^N}\sum_{k=0}^{N}\binom Nk=\dfrac{2^N}{2^N}=1 である (k=n+k=n_+、m=2k−Nm=2k-N)。一般形を書いたら必ずこの確認をしておく。

問5 スターリングの公式によるガウス近似

どこで近似が効いているか

ln⁡n!≃nln⁡n−n\ln n!\simeq n\ln n-n は 2πn\sqrt{2\pi n} の因子を落とした形なので、 指数の肩は正しく出るが前係数は出ない。問題文が「正規分布になることを示せ」と 求めているのはこの肩の部分である。前係数まで欲しければ ln⁡n!≃nln⁡n−n+12ln⁡(2πn)\ln n!\simeq n\ln n-n+\frac12\ln(2\pi n) を使い、 2/(πN)\sqrt{2/(\pi N)} が得られる。

検算

分散は ⟨m2⟩=N\langle m^2\rangle=N で、問1の補足で求めた ⟨x2⟩=Nξ2\langle x^2\rangle=N\xi^2(x=mξx=m\xi)と一致する。 N=4N=4 で近似式を試すと W≃2/(4π)e−4/8=0.399×0.607=0.242W\simeq\sqrt{2/(4\pi)}e^{-4/8}=0.399\times0.607=0.242 で、 厳密値 0.250.25 に近い。

この設問が試していること

独立同分布な多数の和がガウス分布に近づくという中心極限定理を、 二項分布の具体形から手で確かめる作業である。 x3x^3 の項が偶奇の非対称性なしに消えることが、分布の対称性の帰結になっている。

問6 連続極限と偏微分方程式

極限の取り方

τ→0\tau\to0、ξ→0\xi\to0 を独立に取ると DD が 00 か発散してしまう。 D=ξ2/(2τ)D=\xi^2/(2\tau) を有限に保ったまま両者を 00 に近づける (拡散スケーリング ξ∝τ\xi\propto\sqrt\tau)という約束が必要である。 これは問1の補足の N\sqrt N 則と同じことを言っている。

問5との整合

拡散方程式の初期条件 W(0,x)=δ(x)W(0,x)=\delta(x) に対する解は W(t,x)=14πDte−x2/(4Dt)W(t,x)=\dfrac{1}{\sqrt{4\pi Dt}}e^{-x^2/(4Dt)} である。 D=ξ2/2τD=\xi^2/2\tau、t=Nτt=N\tau、x=mξx=m\xi を入れると e−m2/(2N)e^{-m^2/(2N)} となり、問5のガウス分布と指数の肩が一致する。 離散の計算と連続の計算が同じ答えを与えることの確認になる。

失点しやすい点

1階の差分と2階の差分でスケールが異なる(τ\tau の1次と ξ\xi の2次)ことを 見落とすと係数を落とす。また対称なランダムウォークなので移流項 ∂W/∂x\partial W/\partial x は現れない。左右の確率が p≠1/2p\ne1/2 にずれると ∂tW=−v∂xW+D∂x2W\partial_tW=-v\partial_xW+D\partial_x^2W の形になり、ドリフト項が加わる。

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物理の解答・解説PDF

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年度別の解答例(19年度)

  • 2026年冬季(解説4項目)

    解析力学 / 電磁気学 / 量子力学

  • 2026年夏季(解説4項目)

    力学 / 電磁気学 / 量子力学

  • 2025年冬季(解説5項目)

    線形代数・微積分 / 強制振動 / 電磁気

  • 2025年夏季(解説5項目)

    複素積分 / ばね振動と波動 / 電磁気

  • 2024年冬季(解説5項目)

    数学 / 剛体の転がり / 静電ポテンシャル

  • 2024年夏季(解説5項目)

    偏微分方程式・留数積分 / 力学 / 電磁気学

  • 2023年度 冬季(このページ・解説5項目)

    数学:固有値問題・行列の指数関数・不定積分 / 力学:一様棒の物理振り子と回転軸の移動 / 電磁気学:直交電磁場中の荷電粒子とサイクロイド運動

  • 2023年度 夏季(解説5項目)

    数学:演算子の指数関数と留数定理による実積分 / 力学:ばねで連結された2質点と中空円板の制動 / 電磁気学:電流間の力・電磁波の横波性・点電荷系の遠方展開

  • 2022年度 冬季(解説5項目)

    数学:実対称行列の直交対角化と留数定理による実積分 / 力学:円板の物理振り子と周期を最小にする支点 / 電磁気学:点電荷の電場と接地導体面の鏡像法

  • 2022年度 夏季(解説5項目)

    数学:ベクトル解析・複素積分・行列の対角化と偏微分方程式 / 力学:単振り子と巻取り軸つき円板の落下 / 電磁気学:3点電荷の釣り合い・電流回路の磁場・RC回路の過渡応答

  • 2021年度 冬季(解説5項目)

    数学:複素数の方程式 sin z=2 と実対称行列の指数関数 / 力学:あらい斜面上を転がる円柱と滑りから転がりへの移行 / 電磁気学:平行板コンデンサの電荷配置と各領域の電場

  • 2019年度 冬季(解説5項目)

    数学:固有値・ベクトル解析・フーリエ余弦級数 / 力学:一様密度球の重力場と質点の運動 / 電磁気学:同軸ケーブルの静電容量と自己インダクタンス

  • 2019年度 夏季(解説5項目)

    数学:ラゲール多項式とパウリ行列の指数関数 / 力学:斜面を転がり落ちる剛体球 / 電磁気学:一様帯電球の静電エネルギーと円電流にはたらく力

  • 2018年度 冬季(解説5項目)

    数学:極座標変換によるガウス積分と拡散方程式の変数分離 / 力学:完全非弾性衝突後の単振動と斜面を転がる剛体 / 電磁気学:電気双極子と鏡像法、円電流と磁気双極子

  • 2018年度 夏季(解説5項目)

    数学:留数定理による定積分とパウリ行列の指数関数 / 力学:有効ポテンシャルによる円軌道の安定性と、強制振動・臨界減衰 / 電磁気学:一様磁場を出入りするループの落下と、球対称電荷分布の静電場

  • 2017年度 冬季(解説5項目)

    数学:複素積分と巡回行列の指数関数 / 力学:3質点・4ばね系の基準振動 / 電磁気学:導体球殻の静電場と円柱電流の磁場

  • 2017年度 夏季(解説5項目)

    数学:母関数・行列の固有値・定積分・微分方程式 / 力学:剛体の制動回転と円すい面上の質点 / 電磁気学:帯電円環板の静電場とRLC共振回路

  • 2016年度 冬季(解説5項目)最終答まで公開

    数学:母関数・行列の固有値・本質的特異点まわりの積分 / 力学:バネにつながれた物体への衝突と、二軸に拘束された棒の運動 / 電磁気学:一様帯電球の電場と電位、回転する帯電球の磁束密度

  • 2016年度 夏季(解説5項目)最終答まで公開

    数学:母関数・行列指数関数・境界値問題 / 力学:連結ばね・斜面の摩擦・滑車の回転 / 電磁気学:変位電流と共焦点回転楕円体導体

2023年度 冬季の出題内容

解説5項目

この5問の分野は数学1問・電磁気学・回路1問・熱・統計力学1問・量子力学1問・力学1問です。

大問分野主題解説の小見出し最終答
第1問数学固有値問題・行列の指数関数・不定積分符号に関する注意 / 別解(\sec x+tan x を掛ける)あり
第2問力学一様棒の物理振り子と回転軸の移動別の導き方 / 次元と極限による確認あり
第3問電磁気学・回路直交電磁場中の荷電粒子とサイクロイド運動磁場は仕事をしない / ベクトルのまま書くことあり
第4問量子力学矩形ポテンシャル障壁の透過と共鳴向きの判定 / E_0>V_0 であることの意味あり
第5問熱・統計力学一次元ランダムウォークと拡散方程式分散との違い / 独立性の仮定あり

2023年度 冬季の解説には検算5件・失点しやすい点5件が付いています。

前年度(2023年度 夏季)との違い

大問数
2023年度 夏季 5問 → 2023年度 冬季 5問
2023年度 夏季の解答例

東京都立大学の公式過去問

公開年度範囲
2024〜2026(夏季・冬季)
公式の解答例
解答例の掲載なし
英語の扱い
物理の公式過去問ページではTOEIC公開テスト・TOEFL-iBT・IELTS Academicのスコア評価を案内。出願年度の条件は募集要項を確認。
院試hubの最終確認
2026-10-17
東京都立大学の公式過去問PDF