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都立大 理学研究科 物理学専攻 物理 2021年度 冬季 院試 過去問 解答例・解説(解説5項目)

解説5項目の分野は数学1項目、電磁気学・回路1項目、熱・統計力学1項目です。解説はすべて、途中式と最終答は大問1問ぶんを公開しています。PDFの収録範囲は商品ページで確認できます。問題本文は含みません。

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第1問 — 数学:複素数の方程式 sin z=2 と実対称行列の指数関数

問1 sin⁡z=2\sin z=2 を満たす複素数

検算

z=π2+iyz=\dfrac\pi2+iy のとき、加法定理から sin⁡z=sin⁡π2cos⁡(iy)+cos⁡π2sin⁡(iy)=cos⁡(iy)=cosh⁡y. \sin z=\sin\frac\pi2\cos(iy)+\cos\frac\pi2\sin(iy)=\cos(iy)=\cosh y . cosh⁡y=2\cosh y=2 を解くと ey+e−y=4e^y+e^{-y}=4、すなわち e2y−4ey+1=0e^{2y}-4e^y+1=0 から ey=2±3e^y=2\pm\sqrt3、y=±log⁡(2+3)y=\pm\log(2+\sqrt3) となり一致する。

∣sin⁡z∣|\sin z| は 11 を超えること

実変数では ∣sin⁡x∣≤1|\sin x|\le1 だが、複素数では sin⁡z\sin z は ±1\pm1 を含むあらゆる複素数値を取る(sin⁡\sin は整関数で、 定数でないからピカールの定理により高々1点を除くすべての値を取る)。 sin⁡z=2\sin z=2 に解があるのはそのためである。実軸から離れた方向に ∣sin⁡z∣≃12e∣Imz∣|\sin z|\simeq\frac12e^{|{\rm Im}z|} と指数的に増大する。

失点しやすい点

0≤Re⁡(z)<2π0\le\operatorname{Re}(z)<2\pi の指定を読み落として一般解 π2+2nπ\frac\pi2+2n\pi のまま答えたり、 x=3π2x=\frac{3\pi}{2}(sin⁡\sin が負になる分枝)を混ぜたりする誤りがある。 tt の偏角が +π/2+\pi/2 であることを確かめてから絞ること。

問2 実対称行列の対角化と指数関数

方針

「級数展開しない形で」と指定されているので、 MM を対角化して exp⁡\exp を固有値に作用させるのが正攻法である。 射影行列を使うと UU を明示的に掛け直す手間が省ける。 exp⁡(M)=Udiag⁡(eλ1,eλ2)UT\exp(M)=U\operatorname{diag}\left(e^{\lambda_1},e^{\lambda_2}\right)U^{\mathsf T} を 直接計算しても同じ結果になる。

別解:cosh⁡,sinh⁡\cosh,\sinh で書く

M=aI+bN′M=aI+bN'(N′=N/2N'=N/2 は N′2=IN'^2=I)なので、aIaI と bN′bN' は交換し exp⁡(M)=eaexp⁡(bN′)=ea(cosh⁡b I+sinh⁡b N′) \exp(M)=e^{a}\exp(bN')=e^{a}\left(\cosh b\,I+\sinh b\,N'\right) となる。成分に直せば上の結果と一致する。N′2=IN'^2=I が使えるところは 2023年度冬季の「数学」問2(σ2=I\sigma^2=I)と同じ構造である。

検算

b→0b\to0 で exp⁡(M)→eaI\exp(M)\to e^aI。実際に上の行列で e±b→1e^{\pm b}\to1 とすると 対角成分が eae^a、非対角成分が 00 になる。 また det⁡exp⁡(M)=eλ1+λ2=e2a\det\exp(M)=e^{\lambda_1+\lambda_2}=e^{2a} で、 det⁡exp⁡(M)=etr⁡M=e2a\det\exp(M)=e^{\operatorname{tr}M}=e^{2a} と整合する。

失点しやすい点

UU の列の順序と対角成分の順序を対応させること。 また a>b>0a>b>0 という条件から λ1=a−b>0\lambda_1=a-b>0 で、 2つの固有値はどちらも正である。順序 λ1<λ2\lambda_1<\lambda_2 の指定に従うこと。

解答

問1 sin⁡z=2\sin z=2 を満たす複素数

1-1) tt の2次方程式

t=eizt=e^{iz} とおくと e−iz=t−1e^{-iz}=t^{-1} である。与式は 12i(t−1t)=2 ⟹ t−1t=4i ⟹ t2−4it−1=0. \frac{1}{2i}\left(t-\frac1t\right)=2 \ \Longrightarrow\ t-\frac1t=4i \ \Longrightarrow\ t^{2}-4it-1=0 .

1-2) 実部と虚部

解の公式より t=4i±(4i)2+42=4i±−122=4i±23 i2=(2±3)i. t=\frac{4i\pm\sqrt{(4i)^2+4}}{2}=\frac{4i\pm\sqrt{-12}}{2} =\frac{4i\pm2\sqrt3\,i}{2}=\left(2\pm\sqrt3\right)i . 2±3>02\pm\sqrt3>0 なので、極形式では t=(2±3)eiπ/2t=\left(2\pm\sqrt3\right)e^{i\pi/2} である。一方 z=x+iyz=x+iy(x,yx,y 実数)とおくと t=eiz=ei(x+iy)=e−yeix t=e^{iz}=e^{i(x+iy)}=e^{-y}e^{ix} であるから、絶対値と偏角を比べて e−y=2±3,x=π2+2nπ(n∈Z). e^{-y}=2\pm\sqrt3, \qquad x=\frac\pi2+2n\pi\quad(n\in\mathbb Z). 0≤x<2π0\le x<2\pi の指定から x=π2x=\dfrac\pi2 である。また 2−3=12+32-\sqrt3=\dfrac{1}{2+\sqrt3} に注意すると y=−log⁡(2+3)またはy=log⁡(2+3) y=-\log\left(2+\sqrt3\right)\quad\text{または}\quad y=\log\left(2+\sqrt3\right) の2つが得られる。

問2 実対称行列の対角化と指数関数

2-1) 固有値

MM を分解すると M=aI+b2(133−1) M=aI+\frac b2\begin{pmatrix}1&\sqrt3\\ \sqrt3&-1\end{pmatrix} である。第2項の行列 NN は N2=(1+3)I=4IN^2=\left(1+3\right)I=4I を満たすので固有値は ±2\pm2、 したがって MM の固有値は a±ba\pm b である。b>0b>0 より

2-2) 対角化する直交行列 UU

λ2=a+b\lambda_2=a+b に対しては (M−(a+b)I)v⃗=0⃗\left(M-(a+b)I\right)\vec v=\vec 0 が −b2v1+32bv2=0-\frac b2v_1+\frac{\sqrt3}{2}bv_2=0、すなわち v1=3 v2v_1=\sqrt3\,v_2 を与えるので u⃗2=12(31)\vec u_2=\dfrac12\begin{pmatrix}\sqrt3\\ 1\end{pmatrix}(規格化済み)。 λ1=a−b\lambda_1=a-b に対しては 32bv1+32bv2=0\frac32bv_1+\frac{\sqrt3}{2}bv_2=0、 すなわち v2=−3 v1v_2=-\sqrt3\,v_1 から u⃗1=12(1−3)\vec u_1=\dfrac12\begin{pmatrix}1\\ -\sqrt3\end{pmatrix}。 これらを列に並べて U=(u⃗1, u⃗2)=12(13−31)=(cos⁡π3sin⁡π3−sin⁡π3cos⁡π3) U=\left(\vec u_1,\ \vec u_2\right) =\frac12\begin{pmatrix}1&\sqrt3\\ -\sqrt3&1\end{pmatrix} =\begin{pmatrix}\cos\frac\pi3&\sin\frac\pi3\\ -\sin\frac\pi3&\cos\frac\pi3\end{pmatrix} とすれば UU は直交行列(60∘60^{\circ} の回転)で U−1MU=diag⁡(λ1,λ2)U^{-1}MU=\operatorname{diag}(\lambda_1,\lambda_2) となる。

2-3) exp⁡(M)\exp(M) の成分

M=λ1P1+λ2P2M=\lambda_1P_1+\lambda_2P_2(Pi=u⃗iu⃗iTP_i=\vec u_i\vec u_i^{\mathsf T} は射影行列で P1+P2=IP_1+P_2=I、PiPj=δijPiP_iP_j=\delta_{ij}P_i)と分解すると、 級数の各項が Mn=λ1nP1+λ2nP2M^n=\lambda_1^nP_1+\lambda_2^nP_2 となるので exp⁡(M)=eλ1P1+eλ2P2=ea−bP1+ea+bP2. \exp(M)=e^{\lambda_1}P_1+e^{\lambda_2}P_2 =e^{a-b}P_1+e^{a+b}P_2 . ここで P1=14(1−3−33),P2=14(3331) P_1=\frac14\begin{pmatrix}1&-\sqrt3\\ -\sqrt3&3\end{pmatrix}, \qquad P_2=\frac14\begin{pmatrix}3&\sqrt3\\ \sqrt3&1\end{pmatrix} であるから、ea±b=eae±be^{a\pm b}=e^{a}e^{\pm b} を使って exp⁡(M)=ea4(e−b+3eb3(eb−e−b)3(eb−e−b)3e−b+eb). \exp(M)=\frac{e^{a}}{4} \begin{pmatrix} e^{-b}+3e^{b} & \sqrt3\left(e^{b}-e^{-b}\right)\\[1mm] \sqrt3\left(e^{b}-e^{-b}\right) & 3e^{-b}+e^{b} \end{pmatrix}.

最終答

t2−4it−1=0t^{2}-4it-1=0

Re⁡(z)=π2,Im⁡(z)=±log⁡(2+3)≃±1.317\displaystyle \operatorname{Re}(z)=\frac\pi2, \qquad \operatorname{Im}(z)=\pm\log\left(2+\sqrt3\right)\simeq\pm1.317

λ1=a−b,λ2=a+b\lambda_1=a-b,\qquad \lambda_2=a+b

U=12(13−31)\displaystyle U=\frac12\begin{pmatrix}1&\sqrt3\\ -\sqrt3&1\end{pmatrix}

exp⁡(M)=exp⁡(a)4(3exp⁡(b)+exp⁡(−b)3{exp⁡(b)−exp⁡(−b)}3{exp⁡(b)−exp⁡(−b)}exp⁡(b)+3exp⁡(−b))\displaystyle \exp(M)=\frac{\exp(a)}{4} \begin{pmatrix} 3\exp(b)+\exp(-b) & \sqrt3\left\{\exp(b)-\exp(-b)\right\}\\[1mm] \sqrt3\left\{\exp(b)-\exp(-b)\right\} & \exp(b)+3\exp(-b) \end{pmatrix}

第2問 — 力学:あらい斜面上を転がる円柱と滑りから転がりへの移行

問1 中心軸まわりの慣性モーメント

「充分に長い」の意味

円柱が長いことは、運動が斜面方向の1次元に限られ、 倒れたり首を振ったりしないことを保証している。 慣性モーメント自体は長さによらない。

極限での確認

質量が軸に集中すれば I=0I=0、薄い円筒殻なら I=MR2I=MR^2 である。 一様円柱の MR2/2MR^2/2 はその中間で、係数 1/21/2 は ∫012u3du\int_0^12u^3du に由来する。

他の形状との比較

同じ質量・半径で、球なら 25MR2\frac25MR^2、円筒殻なら MR2MR^2 である。 II が小さいほど転がりやすく、問2の加速度が大きくなる。

問2 初速ゼロで滑らずに転がる場合

2/32/3 の意味

滑らずに転がる物体の加速度は a=gsin⁡α1+I/(MR2)a=\dfrac{g\sin\alpha}{1+I/(MR^2)} である。 円柱は I/(MR2)=1/2I/(MR^2)=1/2 なので a=23gsin⁡αa=\frac23g\sin\alpha、 球なら 57gsin⁡α\frac57g\sin\alpha、円筒殻なら 12gsin⁡α\frac12g\sin\alpha になる。 慣性モーメントが大きいほど遅い。

摩擦は仕事をしない

滑らずに転がるとき接触点の速度は 00 なので、静止摩擦力は仕事をしない。 力学的エネルギーは保存し、Mgh=12Mv2+12Iω2=34Mv2Mgh=\frac12Mv^2+\frac12I\omega^2=\frac34Mv^2 から v2=43ghv^2=\frac43gh、h=12at2sin⁡αh=\frac12 a t^2\sin\alpha を使うと同じ結果が得られる。

必要な静止摩擦係数

f=Ma2=13Mgsin⁡αf=\frac{Ma}{2}=\frac13Mg\sin\alpha で、 垂直抗力は Mgcos⁡αMg\cos\alpha である。滑らないためには 13Mgsin⁡α≤μsMgcos⁡α\frac13Mg\sin\alpha\le\mu_{\rm s}Mg\cos\alpha、 すなわち μs≥13tan⁡α\mu_{\rm s}\ge\frac13\tan\alpha が要る。 問3の条件と同じ形になるのは偶然ではない。

問3 滑らずに転がるための条件

方針

「滑らずに転がるようになる」ためには、 滑り速度 v−Rωv-R\omega が減少して 00 に到達しなければならない。 ddt(v−Rω)=gsin⁡α−3μ′gcos⁡α\dfrac{d}{dt}(v-R\omega)=g\sin\alpha-3\mu'g\cos\alpha が負であることが条件で、 これが上の不等式にあたる。

条件が破れる場合

μ′<13tan⁡α\mu'<\frac13\tan\alpha なら滑り速度は増え続け、円柱は永久に滑りながら加速する。 斜面が急なほど、また摩擦が小さいほどこの状況になりやすい。

失点しやすい点

動摩擦力の向きを「運動と逆向き」と機械的に決めると誤る。 基準になるのは重心の速度ではなく接触点の相対速度である。 本問では重心が下向きに動き、かつ回転していないので接触点は下向きに滑り、 摩擦は上向きになる。

問4 滑りが止まる時刻 t′t'

検算:水平面の場合

α=0\alpha=0 とすると t′=V03μ′gt'=\dfrac{V_0}{3\mu'g}、 そのときの速度は v=V0−μ′gt′=23V0v=V_0-\mu'g t'=\dfrac23V_0 である。 水平面で初速 V0V_0 を与えて滑らせた円柱が転がり始めるときの速度が 23V0\frac23V_0 になる、というよく知られた結果と一致する。

極限での挙動

μ′→13tan⁡α\mu'\to\frac13\tan\alpha(条件の境界)では分母が 00 に近づき t′→∞t'\to\infty となる。 摩擦がぎりぎりだといつまでも滑り続けるという直観と合う。 逆に μ′\mu' が大きいほど早く転がりに移る。

t>t′t>t' の運動

転がりに移ったあとは静止摩擦に切り替わり、問2と同じ a=23gsin⁡αa=\frac23g\sin\alpha で加速する。 t′t' の前後で加速度が g(sin⁡α−μ′cos⁡α)g(\sin\alpha-\mu'\cos\alpha) から 23gsin⁡α\frac23g\sin\alpha へ 不連続に変わる点も述べておくとよい。

失点しやすい点

問3の条件を書かずに t′t' だけ答えると、分母の符号を確かめていないことになる。 3μ′cos⁡α−sin⁡α>03\mu'\cos\alpha-\sin\alpha>0 を明記すること。

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第3問 — 電磁気学:平行板コンデンサの電荷配置と各領域の電場

問1 導体 A の電荷が作る電場

σ/ε0\sigma/\varepsilon_0 ではない

「コンデンサ内部の電場 σ/ε0\sigma/\varepsilon_0」を暗記していると ここで2倍にしてしまう。σ/ε0\sigma/\varepsilon_0 は2枚の板の寄与を足した値であり、 1枚あたりは σ/2ε0\sigma/2\varepsilon_0 である。設問は「導体 B の電荷が作る電場は含めない」と 明示しているので、必ず 1/21/2 が付く。

端の効果

無限平面の近似が使えるのは、板の大きさ S\sqrt S に比べて 考えている点までの距離が十分小さいときである。 問題文の「導体の端の効果は考えなくてよい」がこの近似を指している。

向きの扱い

以降の重ね合わせでは向きが本質的になる。 「板から遠ざかる向き(正電荷の場合)」と覚えておき、 上下で符号が反転することを図に描いてから足すと間違えにくい。

問2 導体 B に与えた電荷

方針

「上側の電場がゼロ」という条件が QBQ_{\mathrm B} を決める。 上側では2枚とも観測点より下にあるので、どちらの寄与も同じ向き(上向き)になる。 この点を押さえれば足し算の符号で迷わない。

別の見方

外部の電場がゼロになるのは、系全体の正味の電荷が 00 のときである。 無限平面の対からの電場は、外側では総電荷 Q+QBQ+Q_{\mathrm B} にのみ依存し Q+QB2ε0S\dfrac{Q+Q_{\mathrm B}}{2\varepsilon_0S} となる。これが 00 ということである。

失点しやすい点

QB=+QQ_{\mathrm B}=+Q としてしまうと上側の電場が2倍になり、条件と逆になる。 また「コンデンサだから自動的に ±Q\pm Q」と結論だけ書くのは、 本問では QBQ_{\mathrm B} を与えた設定なので導出が必要である。

問3 導体間の電場

なぜ内側だけ強め合うか

+Q+Q と −Q-Q の対では、外側で2つの寄与が逆向きになって打ち消し、 内側で同じ向きになって2倍になる。 これがコンデンサが電場を内部に閉じ込める仕組みである。

導体表面の境界条件との整合

導体表面のすぐ外側では E=σ/ε0E=\sigma/\varepsilon_0 が成り立つ。 導体 A の下面の面電荷密度は Q/SQ/S(上面には電荷が残らない)なので E=Q/(ε0S)E=Q/(\varepsilon_0S) となり、上の結果と一致する。

失点しやすい点

問1で求めた Q/(2ε0S)Q/(2\varepsilon_0S) をそのまま答えると、B の寄与を落としたことになる。 2枚ぶんを足すこと。

問4 導体間の電位差

静電容量

C=QV=ε0SdC=\dfrac QV=\dfrac{\varepsilon_0S}{d} となり、 平行板コンデンサの静電容量の公式が再現される。 問3・問4の答えが正しいことの最も手早い確認になる。

符号と向き

電位は電場の向きに沿って下がる。 V=−∫ABE⋅dsV=-\int_{\mathrm A}^{\mathrm B}\bm E\cdot d\bm s の符号に迷ったら、 「正電荷は電位の高いほうから低いほうへ力を受ける」という描像に戻すとよい。

失点しやすい点

問3で Q/(2ε0S)Q/(2\varepsilon_0S) を使ってしまうと VV も半分になり、 静電容量が 2ε0S/d2\varepsilon_0S/d という誤った値になる。 公式との照合で気づける。

問5 導体 B の下側の電場

上下対称であること

問2で「上側の電場がゼロ」という条件を課したが、 その結果として下側の電場も自動的にゼロになる。 +Q+Q と −Q-Q の対が作る電場は、平板の外側では総電荷にしか依存しないからである。

全体像

まとめると、電場は導体間の領域だけに Q/(ε0S)Q/(\varepsilon_0S) の大きさで存在し、 上側・下側はともにゼロである。 静電エネルギーも導体間の体積 SdSd にのみ蓄えられ、 U=ε02E2⋅Sd=Q2d2ε0S=Q22CU=\frac{\varepsilon_0}{2}E^2\cdot Sd=\frac{Q^2d}{2\varepsilon_0S}=\frac{Q^2}{2C} となる。

失点しやすい点

「上側がゼロなのだから下側もゼロ」と対称性だけで済ませず、 A と B それぞれの寄与の向きを書いて打ち消し合うことを示すこと。 設問が独立に問うている以上、導出を省くと減点対象になる。

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第4問 — 量子力学:周期境界条件下の自由粒子とパリティ・状態の展開

問1 ϕ(−x)\phi(-x) が固有状態であること

パリティ演算子による言い換え

P^ψ(x)=ψ(−x)\hat P\psi(x)=\psi(-x) とすると、上の計算は [P^,H]=0\left[\hat P,\mathcal H\right]=0 を意味する。 交換する2つの演算子の一方の固有状態に他方を作用させても固有値は変わらない。 H\mathcal H が2階微分だけからなる(奇数階の微分を含まない)ことが交換の根拠である。

縮退との関係

ϕ\phi と ϕ(−x)\phi(-x) が独立なら、同じ ϵ\epsilon に2つの状態があることになり縮退が生じる。 問2・問3で k≠0k\ne0 の準位が2重縮退するのはこの理由による。 ϕ\phi が偶関数または奇関数なら ϕ(−x)=±ϕ(x)\phi(-x)=\pm\phi(x) で独立にならず、縮退は生じない。

失点しやすい点

「対称だから明らか」と書くだけでは不十分で、 d2/dx2d^2/dx^2 が x→−xx\to-x で不変であることを式で示す必要がある。 さらに境界条件も対称であることに触れておくと完全になる。

問2 許される波数とエネルギー固有値

縮退の構造

sin⁡(kL/2)=0\sin(kL/2)=0 さえ満たせば AkA_k と BkB_k はどちらも自由なので、 n≥1n\ge1 の各 kk に対して cos⁡kx\cos kx と sin⁡kx\sin kx の2つの独立な固有状態がある。 すなわち第1励起準位以上はすべて2重縮退である。 n=0n=0 では sin⁡0⋅x≡0\sin0\cdot x\equiv0 なので定数関数の1つだけで、縮退しない。

固定端との違い

無限井戸(固定端)なら k=nπ/Lk=n\pi/L で刻みが半分になり、縮退もない。 周期境界条件では進行波 e±ikxe^{\pm ikx} が自然な基底で、 ±k\pm k の縮退が cos⁡,sin⁡\cos,\sin の2重縮退に対応する。

失点しやすい点

2本の境界条件から sin⁡(kL/2)=0\sin(kL/2)=0 という1本の条件しか出ないことを きちんと示すこと。Bk=0B_k=0 と Ak=0A_k=0 を別々に結論すると自明解しか残らない。

問3 ϵ≤1m(2πℏL)2\epsilon\le\frac1m\left(\frac{2\pi\hbar}{L}\right)^2 を満たす固有状態

n=2n=2 を除く理由

n=2n=2 では ϵ2=2⋅1m(2πℏL)2\epsilon_2=2\cdot\dfrac1m\left(\dfrac{2\pi\hbar}{L}\right)^2 となり、 与えられた上限のちょうど2倍で条件を満たさない。 n2≤2n^2\le2 の不等式を書いてから整数解を拾うと確実である。

直交性の確認

∫−L/2L/2ψ0ψ1cdx∝∫cos⁡2πxLdx=0\int_{-L/2}^{L/2}\psi_0\psi_{1{\rm c}}dx\propto\int\cos\frac{2\pi x}{L}dx=0、 ∫ψ1cψ1sdx∝∫sin⁡4πxLdx=0\int\psi_{1{\rm c}}\psi_{1{\rm s}}dx\propto\int\sin\frac{4\pi x}{L}dx=0、 ψ0\psi_0 と ψ1s\psi_{1{\rm s}} は偶関数と奇関数の積なので 00。 設問が「互いに直交する」と明示しているので、この確認を1行入れておくとよい。

失点しやすい点

n=1n=1 の状態を1つしか挙げない答案が多い。 周期境界条件では cos⁡\cos と sin⁡\sin の両方が独立な固有状態であり、 2重縮退していることを漏らさないこと。

問4 基底状態成分の振幅の二乗

方針

cos⁡2\cos^2 のままでは固有関数の重ね合わせに見えないので、 半角の公式で 11 と cos⁡(2πx/L)\cos(2\pi x/L) の和に直すのが第一歩である。 そうすれば ψ0\psi_0 と ψ1c\psi_{1{\rm c}} の2成分だけからなることが一目でわかる。

検算:規格化と確率の和

ψ1c\psi_{1{\rm c}} 成分は c1c=2L23L∫cos⁡2πxL(1+cos⁡2πxL)dx=2L3⋅L2=13c_{1{\rm c}}=\sqrt{\frac2L}\sqrt{\frac{2}{3L}}\int\cos\frac{2\pi x}{L} \left(1+\cos\frac{2\pi x}{L}\right)dx =\frac{2}{L\sqrt3}\cdot\frac L2=\frac{1}{\sqrt3} で ∣c1c∣2=13|c_{1{\rm c}}|^2=\frac13。合計 23+13=1\frac23+\frac13=1 となり、 ψ\psi が規格化されていることと整合する。 実際 ∫∣ψ∣2dx=23L(L+0+L2)=1\int|\psi|^2dx=\frac{2}{3L}\left(L+0+\frac L2\right)=1 である。

物理的な意味

∣c0∣2=2/3|c_0|^2=2/3 は、この状態でエネルギーを測ったときに ϵ=0\epsilon=0 が得られる確率である。 残りの 1/31/3 は ϵ1\epsilon_1 が得られる確率で、 測定されるのはこの2値だけである。エネルギーの期待値は 13ϵ1=2π2ℏ23mL2\frac13\epsilon_1=\frac{2\pi^2\hbar^2}{3mL^2} となる。

失点しやすい点

「振幅の二乗」を問われているので ∣c0∣2|c_0|^2 を答える。 c0=2/3c_0=\sqrt{2/3} のまま答えると設問に答えていない。 また ψ1s\psi_{1{\rm s}} 成分は ψ\psi が偶関数なので 00 である。

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第5問 — 統計力学:2準位系 N 個の熱力学量とショットキー型の比熱

問1 分配関数

N!N! で割らない理由

気体分子のように空間を動き回る同種粒子なら N!N! で割る必要があるが、 本問の「原子」は結晶中の格子点などに固定されていて位置で区別できる。 区別できる粒子の集まりでは単純に zNz^N でよい。

e−βEe^{-\beta E} を括り出す意味

共通因子 e−βEe^{-\beta E} は自由エネルギーに NENE という定数を足すだけで、 内部エネルギーには NENE のずれ、熱容量には何の寄与もしない。 物理的に効くのは準位差 ε\varepsilon だけである。

失点しやすい点

1個の分配関数 zz と系全体の ZZ を混同しないこと。 設問は「系の分配関数」なので NN 乗まで書く。

問2 ヘルムホルツの自由エネルギー

極限での確認

T→0T\to0 では e−ε/kT→0e^{-\varepsilon/kT}\to0 なので F→NEF\to NE、 すなわち全原子が下の準位にいる状態のエネルギーになる。 T→∞T\to\infty では log⁡2\log2 が残り F≃NE−NkTlog⁡2F\simeq NE-NkT\log2 で、 S=Nklog⁡2S=Nk\log2(2状態が等確率)に対応する。

エントロピー

S=−∂F/∂TS=-\partial F/\partial T を計算すると S=Nklog⁡(1+e−ε/kT)+NεTe−ε/kT1+e−ε/kTS=Nk\log\left(1+e^{-\varepsilon/kT}\right)+\dfrac{N\varepsilon}{T} \dfrac{e^{-\varepsilon/kT}}{1+e^{-\varepsilon/kT}} となる。 T→0T\to0 で 00、T→∞T\to\infty で Nklog⁡2Nk\log2 に近づき、第三法則とも整合する。

失点しやすい点

log⁡\log の中の e−E/kTe^{-E/kT} を展開し忘れると NENE の項が落ちる。 log⁡(ab)=log⁡a+log⁡b\log(ab)=\log a+\log b で分けること。

問3 内部エネルギー

占有数としての読み方

1eε/kT+1\dfrac{1}{e^{\varepsilon/kT}+1} は上の準位にいる原子の割合である。 T→0T\to0 で 00、T→∞T\to\infty で 1/21/2 に近づく。 上の準位の占有率が 1/21/2 を超えないことが、この系の特徴である (負温度を作らない限り反転分布は起こらない)。

検算

U=F+TSU=F+TS で確かめられる。問2の FF と補足で求めた SS を足すと NE+Nεe−ε/kT1+e−ε/kTNE+\dfrac{N\varepsilon e^{-\varepsilon/kT}}{1+e^{-\varepsilon/kT}} となり一致する。

失点しやすい点

UU を β\beta ではなく TT で微分してしまうと符号と係数がずれる。 U=−∂βlog⁡ZU=-\partial_\beta\log Z の公式を使うか、 U=∂T(−T2∂T(F/T))U=\partial_T\left(-T^2\partial_T(F/T)\right) のように正しい関係式を選ぶこと。

問4 熱容量

EE が効かないこと

UU の第1項 NENE は温度によらないので熱容量には寄与しない。 熱容量に現れるのは準位差 ε\varepsilon だけである。

sech⁡2\operatorname{sech}^2 の形

ex(ex+1)2=1(ex/2+e−x/2)2=14sech⁡2x2\dfrac{e^{x}}{(e^x+1)^2}=\dfrac{1}{\left(e^{x/2}+e^{-x/2}\right)^2} =\dfrac14\operatorname{sech}^2\dfrac x2 である。 この形にすると、CC が x=ε/kTx=\varepsilon/kT の偶関数的なピークを持つことが見やすい。

ピークの位置

C(T)C(T) は ε/kT≃2.40\varepsilon/kT\simeq2.40、すなわち kT≃0.417εkT\simeq0.417\varepsilon で最大となり、 最大値は C≃0.44NkC\simeq0.44Nk である。 このピークをショットキー異常と呼び、実験でスピン系や結晶場分裂の 準位差を読み取る手がかりになる。

問5 低温極限と高温極限の熱容量

両極限で消える理由

低温では kTkT が準位差より小さく、熱ゆらぎでは原子を上の準位へ上げられないので エネルギーを受け取れない(凍結)。 高温では上下の準位がほぼ等確率に占められて飽和し、 それ以上温度を上げてもエネルギーがほとんど増えない。 どちらの側でも「温度を上げてもエネルギーが増えない」ため熱容量が消える。

エネルギー等分配則との対比

調和振動子や理想気体では高温で C→C\to 一定(等分配則)になるが、 2準位系ではエネルギーに上限 N(E+ε)N(E+\varepsilon) があるため C→0C\to0 になる。 上限のある系に特有の振る舞いである。

失点しやすい点

低温極限で (ε/kT)2\left(\varepsilon/kT\right)^2 が発散することに引きずられて 「C→∞C\to\infty」と誤答しないこと。 e−ε/kTe^{-\varepsilon/kT} のほうが速く 00 に向かうので積は 00 になる。 lim⁡x→∞x2e−x=0\lim_{x\to\infty}x^2e^{-x}=0 を明示するとよい。

統計力学:2準位系 N 個の熱力学量とショットキー型の比熱の途中式・最終答をPDFで見る

物理の解答・解説PDF

2016〜2026年度・19回 · ¥3,200

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年度別の解答例(19年度)

  • 2026年冬季(解説4項目)

    解析力学 / 電磁気学 / 量子力学

  • 2026年夏季(解説4項目)

    力学 / 電磁気学 / 量子力学

  • 2025年冬季(解説5項目)

    線形代数・微積分 / 強制振動 / 電磁気

  • 2025年夏季(解説5項目)

    複素積分 / ばね振動と波動 / 電磁気

  • 2024年冬季(解説5項目)

    数学 / 剛体の転がり / 静電ポテンシャル

  • 2024年夏季(解説5項目)

    偏微分方程式・留数積分 / 力学 / 電磁気学

  • 2023年度 冬季(解説5項目)

    数学:固有値問題・行列の指数関数・不定積分 / 力学:一様棒の物理振り子と回転軸の移動 / 電磁気学:直交電磁場中の荷電粒子とサイクロイド運動

  • 2023年度 夏季(解説5項目)

    数学:演算子の指数関数と留数定理による実積分 / 力学:ばねで連結された2質点と中空円板の制動 / 電磁気学:電流間の力・電磁波の横波性・点電荷系の遠方展開

  • 2022年度 冬季(解説5項目)

    数学:実対称行列の直交対角化と留数定理による実積分 / 力学:円板の物理振り子と周期を最小にする支点 / 電磁気学:点電荷の電場と接地導体面の鏡像法

  • 2022年度 夏季(解説5項目)

    数学:ベクトル解析・複素積分・行列の対角化と偏微分方程式 / 力学:単振り子と巻取り軸つき円板の落下 / 電磁気学:3点電荷の釣り合い・電流回路の磁場・RC回路の過渡応答

  • 2021年度 冬季(このページ・解説5項目)

    数学:複素数の方程式 sin z=2 と実対称行列の指数関数 / 力学:あらい斜面上を転がる円柱と滑りから転がりへの移行 / 電磁気学:平行板コンデンサの電荷配置と各領域の電場

  • 2019年度 冬季(解説5項目)

    数学:固有値・ベクトル解析・フーリエ余弦級数 / 力学:一様密度球の重力場と質点の運動 / 電磁気学:同軸ケーブルの静電容量と自己インダクタンス

  • 2019年度 夏季(解説5項目)

    数学:ラゲール多項式とパウリ行列の指数関数 / 力学:斜面を転がり落ちる剛体球 / 電磁気学:一様帯電球の静電エネルギーと円電流にはたらく力

  • 2018年度 冬季(解説5項目)

    数学:極座標変換によるガウス積分と拡散方程式の変数分離 / 力学:完全非弾性衝突後の単振動と斜面を転がる剛体 / 電磁気学:電気双極子と鏡像法、円電流と磁気双極子

  • 2018年度 夏季(解説5項目)

    数学:留数定理による定積分とパウリ行列の指数関数 / 力学:有効ポテンシャルによる円軌道の安定性と、強制振動・臨界減衰 / 電磁気学:一様磁場を出入りするループの落下と、球対称電荷分布の静電場

  • 2017年度 冬季(解説5項目)

    数学:複素積分と巡回行列の指数関数 / 力学:3質点・4ばね系の基準振動 / 電磁気学:導体球殻の静電場と円柱電流の磁場

  • 2017年度 夏季(解説5項目)

    数学:母関数・行列の固有値・定積分・微分方程式 / 力学:剛体の制動回転と円すい面上の質点 / 電磁気学:帯電円環板の静電場とRLC共振回路

  • 2016年度 冬季(解説5項目)最終答まで公開

    数学:母関数・行列の固有値・本質的特異点まわりの積分 / 力学:バネにつながれた物体への衝突と、二軸に拘束された棒の運動 / 電磁気学:一様帯電球の電場と電位、回転する帯電球の磁束密度

  • 2016年度 夏季(解説5項目)最終答まで公開

    数学:母関数・行列指数関数・境界値問題 / 力学:連結ばね・斜面の摩擦・滑車の回転 / 電磁気学:変位電流と共焦点回転楕円体導体

2021年度 冬季の出題内容

解説5項目

この5問の分野は数学1問・電磁気学・回路1問・熱・統計力学1問・量子力学1問・力学1問です。

大問分野主題解説の小見出し最終答
第1問数学複素数の方程式 sin z=2 と実対称行列の指数関数|sin z| は 1 を超えること / 別解:\cosh,\sinh で書くあり
第2問力学あらい斜面上を転がる円柱と滑りから転がりへの移行「充分に長い」の意味 / 極限での確認あり
第3問電磁気学・回路平行板コンデンサの電荷配置と各領域の電場σ/ε_0 ではない / 端の効果あり
第4問量子力学周期境界条件下の自由粒子とパリティ・状態の展開パリティ演算子による言い換え / 縮退との関係あり
第5問熱・統計力学2準位系 N 個の熱力学量とショットキー型の比熱N! で割らない理由 / e^-β E を括り出す意味あり

2021年度 冬季の解説には失点しやすい点5件・検算2件が付いています。

前年度(2019年度 冬季)との違い

大問数
2019年度 冬季 5問 → 2021年度 冬季 5問
2019年度 冬季の解答例

東京都立大学の公式過去問

公開年度範囲
2024〜2026(夏季・冬季)
公式の解答例
解答例の掲載なし
英語の扱い
物理の公式過去問ページではTOEIC公開テスト・TOEFL-iBT・IELTS Academicのスコア評価を案内。出願年度の条件は募集要項を確認。
院試hubの最終確認
2026-10-17
東京都立大学の公式過去問PDF