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東京都立大学 院試 過去問 解答例

都立大 理学研究科 物理学専攻 物理 2019年度 夏季 院試 過去問 解答例・解説(全5問)

全5問。数学1問・電磁気学・回路1問・熱・統計力学1問。

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解説5問/全5問(15,174字)
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都立大 物理 2019年度 夏季 院試 過去問の出題内容(全5問)

この5問の分野は数学1問・電磁気学・回路1問・熱・統計力学1問・量子力学1問・力学1問です。

大問分野主題解説の小見出し最終答
1数学ラゲール多項式とパウリ行列の指数関数母関数展開の手際 / 直交性という背景あり
2力学斜面を転がり落ちる剛体球摩擦力の向き / 仕事を2つに分ける理由あり
3電磁気学・回路一様帯電球の静電エネルギーと円電流にはたらく力電位の連続性で検算 / 別解による検算あり
4量子力学一次元散乱の共鳴透過と一様磁場中のスピンド・ブロイ波長による見方 / 歳差運動としての解釈あり
5熱・統計力学スピン1の三準位系と二次元自由フェルミ気体基底状態の縮退 / 熱容量の極限による検算あり

この年度の解説には検算5件・失点しやすい点4件・答案の書き方1件が付いています。

前年度(2018年度 冬季)との違い

大問数
2018年度 冬季 5問 → 2019年度 夏季 5
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1 — 数学:ラゲール多項式とパウリ行列の指数関数

方針

1-1) と 1-2) は同じ多項式を二通りの定義から出すだけなので、片方を計算してもう片方は「一致した」と書けば足りる。ただし出題の意図は「母関数を tt で展開できるか」にあるので、1-2) では 1/(1t)1/(1-t) と指数関数を別々に展開して掛ける手順を必ず書く。1-3) は数値がきれいに 00 になるので、途中の多項式の展開を落とさないことが唯一の関門である。

母関数展開の手際

exp[tx/(1t)]\exp[-tx/(1-t)] をいきなり tt で展開しようとすると煩雑になる。指数の中身を先に tx1t=xtxt2xt3 \frac{-tx}{1-t}=-xt-xt^2-xt^3-\cdots と展開してから exp\exp の級数に入れるのが最短である。t2t^2 の係数には、指数の1次項の2乗から出る x2/2x^2/2 と、指数の2次項から出る x-x の両方が寄与する。この二つのうち片方を落とすのが最も多い誤りである。

直交性という背景

LnL_n は区間 [0,)[0,\infty) で重み exe^{-x} に関する直交多項式であり、 0exLm(x)Ln(x)dx=δmn \int_0^{\infty}e^{-x}L_m(x)L_n(x)\,dx=\delta_{mn} が成り立つ。したがって m=1m=1n=2n=2 の 1-3) は計算するまでもなく 00 である。答案では、多項式を展開して 00 を出したうえで「一般に直交する」と一言添えると、設問の意図に答えたことが伝わる。水素原子の動径波動関数やレーザーのモード展開に現れる多項式がこれである。

検算

x=0x=0 を代入すると、定義式でも母関数でも Ln(0)=1L_n(0)=1 が読み取れる。実際 L1(0)=L2(0)=1L_1(0)=L_2(0)=1 である。また母関数で x=0x=0 とおくと G(0,t)=1/(1t)=m0tmG(0,t)=1/(1-t)=\sum_{m\ge0}t^m となり、すべての mmLm(0)=1L_m(0)=1 であることが一度に確認できる。1-3) の積分は x3x^3 の項の係数 1/2-1/23!=63!=6 が掛かるので、ここを 1/23=3/2-1/2\cdot 3=-3/2 と誤ると 00 にならない。答えが 00 にならなければ展開のどこかが誤っている、という強い検算になっている。

設問2 パウリ行列の作る行列指数関数

方針

2-1) は成分計算でも反交換関係でもよいが、n=1|\vec n|=1 をどこで使ったかを明示することが重要である。2-2) は S2=IS^2=I だけから級数が二つに割れる、という一点に尽きる。指数関数の級数を書き、mm の偶奇で分け、cos\cossin\sin の級数に読み替える、の三段で答案が完成する。

行列の指数関数を扱うときの注意

行列の指数関数は級数で定義されているので、SS の固有値が ±1\pm1 であることを先に言ってしまえば「対角化して e±iϕe^{\pm i\phi}」で済むように見える。しかし設問は「2-1) で示した関係式を用いて」と指定しているので、対角化ではなく S2=IS^2=I による級数の分割で書くのが指示に沿う。なお SS の固有値が ±1\pm1 であることは S2=IS^2=ItrS=0\operatorname{tr}S=0 から従う。

検算

ϕ=0\phi=0 では cos0=1\cos0=1sin0=0\sin0=0 なので exp[0]=I\exp[0]=I となり定義と合う。トレースを比べると、trS=0\operatorname{tr}S=0 より右辺は 2cosϕ2\cos\phi である。一方 SS の固有値 ±1\pm1 から exp[iϕS]\exp[i\phi S] の固有値は e±iϕe^{\pm i\phi} なので、そのトレースも 2cosϕ2\cos\phi で一致する。行列式も両辺で 11 になる。さらに SS はエルミートなので exp[iϕS]\exp[i\phi S] はユニタリであるはずで、実際 (cosϕI+isinϕS)(cosϕI+isinϕS)=cos2ϕI+sin2ϕS2=I \left(\cos\phi\,I+i\sin\phi\,S\right)^{\dagger} \left(\cos\phi\,I+i\sin\phi\,S\right) =\cos^2\phi\,I+\sin^2\phi\,S^2=I となる(交差項は S=SS^{\dagger}=S より相殺する)。

物理的な意味

スピン 1/21/2 の回転演算子は exp[iθnσ/2]\exp\left[-i\theta\,\vec n\cdot\vec\sigma/2\right] で与えられ、これは軸 n\vec n のまわりの角 θ\theta の回転を表す。本問の exp[iϕS]\exp[i\phi S]θ=2ϕ\theta=-2\phi に当たるので、ϕ\phiπ\pi 変わると回転角は 2π2\pi 変わり、行列は I-I になる。空間を一周させてもスピノルが元に戻らず符号が変わる、というスピノルの性質がこの式から直ちに読める。この構造は、S2=IS^2=I を満たす任意の行列に対して同じ形で成り立つ。

数学:ラゲール多項式とパウリ行列の指数関数の途中式・最終答をPDFで見る

2 — 力学:斜面を転がり落ちる剛体球

方針

転がり運動は「並進の運動方程式」「重心まわりの回転の運動方程式」「拘束条件」の3本を並べれば必ず解ける。摩擦力 FF は未知数であって μN\mu N ではない、という点が最初の分岐である。μ\mu が出てくるのは 1-4) の不等式のときだけで、1-2) と 1-3) では μ\mu を使ってはいけない。

摩擦力の向き

静止摩擦力を斜面上向きにとった。これが正しいことは結果 F>0F>0 から確かめられる。向きを下向きにとっても答えは符号込みで同じになるが、1-4) で FμN|F|\le\mu N とする際に絶対値を忘れやすい。回転を起こすトルクを与えているのは摩擦力だけであり、垂直抗力と重力は重心まわりにトルクをもたないことも一言書いておくとよい。

検算

b0b\to0(質量が中心に集まった極限)では v˙gsinθ\dot v\to g\sin\theta となり、摩擦のない質点の滑降に一致する。同じ極限で 1-3) の F0F\to0、1-4) の μmin0\mu_{\min}\to0 となるのも整合的である。逆に bb\to\infty では v˙0\dot v\to0 で、回転させにくい物体は転がり落ちにくい。θ0\theta\to0 では μmin0\mu_{\min}\to0θπ/2\theta\to\pi/2 では μmin\mu_{\min}\to\infty となり、鉛直な壁では転がりが成立しないことを表す。

失点しやすい点

1-5) で「重いほうが速い」「大きいほうが速い」と答える誤りが多い。加速度は MM にも RR にも依存せず、形状で決まる無次元量 bb だけで決まる。b=2/5b=2/5b=2/3b=2/3 の値は覚えていることが前提だが、覚えていなくても「質量が軸から遠いほど bb が大きい」ことから球殻のほうが大きいと述べれば結論は導ける。

問1後半 滑りながら転がり落ちる球(1-6〜1-7)

方針

滑る場合は拘束が外れるので、未知の摩擦力 FF は現れず、代わりに μN\mu'N という既知の力が与えられる。1-6) は2本の運動方程式を独立に積分するだけである。1-7) は「力が仕事をする」だけでなく「トルクも仕事をする」ことを見落とさないかが問われている。

仕事を2つに分ける理由

剛体に加わる力がする仕事は、作用点(ここでは接触点にある球の物質点)の速度を用いて Fv接触点dt\int\vec F\cdot\vec v_{\text{接触点}}\,dt で定義される。接触点の速度は vRωv-R\omega なので、これを分解すると重心の並進に対する仕事と重心まわりの回転に対する仕事の和になる。並進だけを数えると 1-6) で ω\omega を求めさせた意味がなくなるので、両方を書くのが出題の意図に沿う。

検算

仕事とエネルギーの関係で確かめる。高さ hh 落ちたときの運動エネルギーは 12Mv2=Mgh(1μcotθ),12Iω2=μ2Mghcos2θbsinθ(sinθμcosθ) \frac12Mv^2=Mgh\left(1-\mu'\cot\theta\right), \qquad \frac12I\omega^2 =\frac{\mu'^2Mgh\cos^2\theta} {b\sin\theta\left(\sin\theta-\mu'\cos\theta\right)} であり、その和は Mgh+WMgh+W に一致する。すなわち重力の仕事 MghMgh と摩擦の仕事 WW の和が運動エネルギーの増加になっている。垂直抗力は変位に垂直なので仕事をしない。

符号が負であること

W<0W<0 となるのは μcosθb(sinθμcosθ)<1μ<b1+btanθ \frac{\mu'\cos\theta}{b\left(\sin\theta-\mu'\cos\theta\right)}<1 \quad\Longleftrightarrow\quad \mu'<\frac{b}{1+b}\tan\theta のときである。これは 1-4) で求めた「滑らない条件」の否定、すなわち「滑り続ける条件」そのものである。もし μ\mu' がこの値を超えると vvRωR\omega が途中で一致して転がりに移行してしまい、1-6) の式が成り立たなくなる。答案では「1-6)、1-7) は μ<btanθ/(1+b)\mu'<b\tan\theta/(1+b) の範囲で成り立つ」と一言添えると安全である。

発生する熱との関係

接触面で発生する熱は、動摩擦力の大きさに相対滑り距離を掛けたもの Q=μMgcosθ0t(vRω)dt=W Q=\mu'Mg\cos\theta\int_0^t\left(v-R\omega\right)dt'=-W であり、上で求めた WW の符号を変えたものに等しい。「摩擦がした仕事」と「発生した熱」は符号が逆で大きさが等しい、という関係を書いておくと、結果の妥当性が伝わる。

力学:斜面を転がり落ちる剛体球の途中式・最終答をPDFで見る

3 — 電磁気学:一様帯電球の静電エネルギーと円電流にはたらく力

方針

1-1)、1-2) は球対称のガウスの法則の標準問題である。1-3) が本設問の山場で、「殻を1枚運ぶときの相手は、すでに積み上がった内側の球だけである」という点を押さえる。外側にまだ電荷がないので、そのときの表面電位は半径 rr の球の外部電位の値になる。

電位の連続性で検算

1-2) の2つの式に r=ar=a を入れると、どちらも ϕ(a)=ρa23ε0 \phi(a)=\frac{\rho a^2}{3\varepsilon_0} となり連続である。電場は r=ar=aρa/3ε0\rho a/3\varepsilon_0 となりやはり連続で、これは表面に面電荷がないことに対応する。一方 EE の傾きは r=ar=a で不連続になる。rr\to\infty では総電荷 Q=43πa3ρQ=\frac43\pi a^3\rho を用いて ϕQ4πε0r,EQ4πε0r2 \phi\to\frac{Q}{4\pi\varepsilon_0r},\qquad E\to\frac{Q}{4\pi\varepsilon_0r^2} となり、点電荷の式に一致する。

別解による検算

静電エネルギーは電場のエネルギー密度からも計算できる。 U=ε02E2dV=ε02[0a(ρr3ε0)24πr2dr+a(ρa33ε0r2)24πr2dr] U=\frac{\varepsilon_0}{2}\int E^2\,dV =\frac{\varepsilon_0}{2}\left[ \int_0^a\left(\frac{\rho r}{3\varepsilon_0}\right)^2 4\pi r^2dr +\int_a^{\infty}\left(\frac{\rho a^3}{3\varepsilon_0r^2}\right)^2 4\pi r^2dr \right] であり、第1項が 2πρ2a545ε0\dfrac{2\pi\rho^2a^5}{45\varepsilon_0}、第2項が 2πρ2a59ε0\dfrac{2\pi\rho^2a^5}{9\varepsilon_0} なので合計は 2πρ2a545ε0+10πρ2a545ε0=12πρ2a545ε0=4πρ2a515ε0 \frac{2\pi\rho^2a^5}{45\varepsilon_0}+\frac{10\pi\rho^2a^5}{45\varepsilon_0} =\frac{12\pi\rho^2a^5}{45\varepsilon_0} =\frac{4\pi\rho^2a^5}{15\varepsilon_0} となって一致する。総電荷で書き直すと U=3Q220πε0aU=\dfrac{3Q^2}{20\pi\varepsilon_0a} という教科書の形になる。

失点しやすい点

1-3) で「表面電位」ではなく「中心の電位」や「完成後の球の表面電位 ρa2/3ε0\rho a^2/3\varepsilon_0」を使うと係数が変わる。積み上げの途中では球の半径は rr であって aa ではない。また dqdq に体積 4πr2dr4\pi r^2dr を使うべきところを 4πr24\pi r^2 とだけ書いて drdr を落とす誤りも多い。

設問2 円形電流がつくる磁束密度

方針

ビオ・サバールの法則の適用では、(i) dsd\vec sr\vec r を成分で書く、(ii) 外積を取る、(iii) 対称性で消える成分を落とす、の3段を明示する。ρ^\hat\rho の成分が消えることを「対称性より」と一言で済ませてもよいが、02πcosφdφ=02πsinφdφ=0\int_0^{2\pi}\cos\varphi\,d\varphi=\int_0^{2\pi}\sin\varphi\,d\varphi=0 と書けば確実である。

検算

2-2) で z=0z=0 とおくと μ0Ia22a3=μ0I2a\dfrac{\mu_0Ia^2}{2a^3}=\dfrac{\mu_0I}{2a} となり 2-1) に一致する。za|z|\gg a では Bμ0Ia22z3=μ04π2mz3,m=Iπa2 \left|\vec B\right|\simeq\frac{\mu_0Ia^2}{2|z|^3} =\frac{\mu_0}{4\pi}\frac{2m}{|z|^3}, \qquad m=I\pi a^2 となり、磁気モーメント mm をもつ磁気双極子が軸上につくる磁場の式に一致する。この2つの極限が合えば、係数の取り違えはほぼない。

向きの決め方

電流の向きに右手の親指以外の指を回すと、親指が磁場の向きを指す。反時計回り(zz 軸正方向から見て)なので +z+z である。答案では「大きさを求めよ」とあっても、向きを1行添えておくと設問3で使うときに混乱しない。

設問3 円形導線が直線電流から受ける力

方針

「電流素片が磁場から受ける力」は Ids×BI\,d\vec s\times\vec B であって、B\vec B相手の電流がつくる磁場である。自分自身の円電流がつくる磁場は力の計算に入れない。3-2) では θ^×z^=eR\hat\theta\times\hat z=\vec e_{\mathrm R} という円柱座標の関係だけが必要で、成分に展開しなくても答えが出る。

向きの物理的な確認

θ=π\theta=\pi(直線導線に最も近い点)では、円電流の向きは θ^=(0,1,0)\hat\theta=(0,-1,0)I2I_2 と逆向きである。逆向きの平行電流は反発するので、この点の力は +x+x 向き、すなわち eR-\vec e_{\mathrm R} 向きになる。θ=0\theta=0(最も遠い点)では θ^=(0,1,0)\hat\theta=(0,1,0)I2I_2 と同じ向きだから引き合い、力は x-x 向き、これも eR-\vec e_{\mathrm R} 向きである。どちらも 3-2) の「中心向き」に合っている。全体としては、近い側の反発のほうが磁場が強いぶん勝つので、正味の力は導線から離れる向きになる。

遠方極限による検算

dad\gg a では dd2a2=(1a2d2)1/21+a22d2 \frac{d}{\sqrt{d^2-a^2}} =\left(1-\frac{a^2}{d^2}\right)^{-1/2} \simeq1+\frac{a^2}{2d^2} なので Fμ0I1I2a22d2\left|\vec F\right|\simeq\dfrac{\mu_0I_1I_2a^2}{2d^2} である。一方、磁気モーメント m=I1πa2z^\vec m=I_1\pi a^2\hat z をもつ磁気双極子が受ける力は F=(mB2)\vec F=\nabla\left(\vec m\cdot\vec B_2\right) で、B2z=μ0I22π(x+d)B_{2z}=-\dfrac{\mu_0I_2}{2\pi(x+d)}xx で微分して x=0x=0 とおくと Fx=I1πa2μ0I22πd2=μ0I1I2a22d2 F_x=I_1\pi a^2\cdot\frac{\mu_0I_2}{2\pi d^2} =\frac{\mu_0I_1I_2a^2}{2d^2} となり一致する。da+d\to a^{+} では F\vec F が発散するが、これは円が直線に接して距離が 00 になるためで、物理的に妥当である。

答案の書き方

設問は「積分を残したままで良い」と明記しているので、yy 成分が対称性で消えることを示し、xx 成分を積分の形で書いた時点で満点である。ただし、力の向きも問われているので、被積分関数の符号を評価して「+x+x 向き」と結論するところまでは必要になる。cosθ\cos\theta を含む積分の符号は一目では分からないので、上のように 1dd+acosθ1-\dfrac{d}{d+a\cos\theta} に分解して評価するか、近い側と遠い側の寄与の比較で説明する。

電磁気学:一様帯電球の静電エネルギーと円電流にはたらく力の途中式・最終答をPDFで見る

4 — 量子力学:一次元散乱の共鳴透過と一様磁場中のスピン

方針

1-1) は接続条件4本を機械的に解くだけだが、透過振幅 tt を先に消去してから t2|t|^2 を作ると計算量が半分になる。1-2)、1-3) は sin(qa)=0\sin(qa)=0 という一行の条件に落ちるので、V0=2E0V_0=2E_0 という換算を最初に済ませておくと数値が見通しよくなる。

TT の表式の共通性

障壁と井戸は V0V_0 の符号だけが違うので、透過率の式は T=[1+V02sin2(qa)4E(EV0)]1 T=\left[1+\frac{V_0^2\sin^2\left(qa\right)}{4E\left(E\mp V_0\right)}\right]^{-1} と一つにまとめられる(上が障壁、下が井戸)。V02V_0^2 は符号を変えても同じなので、分母の EV0E\mp V_0 だけを取り替えればよい。1-3) を独立に解き直す必要はなく、この対応を書けば十分である。

検算

sin(qa)\sin(qa) の因子から、T1T\le1 がつねに成り立つ。V00V_0\to0 では T1T\to1 で自由粒子に戻る。障壁で EV0+E\to V_0^{+} の極限では q0q\to0sin2qaq2a2\sin^2 qa\simeq q^2a^2 となり V02q2a24E2q2/2m=mV02a222E \frac{V_0^2q^2a^2}{4E\cdot\hbar^2q^2/2m}=\frac{mV_0^2a^2}{2\hbar^2E} と有限に残るので TT00 にならず有限値をとる。1-2) の答えを 1-3) の答えと比べると、障壁のほうが EminE_{\min} が高い(1.5V01.5V_0V0V_0)。障壁は古典的にも E>V0E>V_0 が必要なので、これは自然な大小関係である。

ド・ブロイ波長による見方

問題文が「ド・ブロイ波長についての考察から答えてもよい」と許しているとおり、共鳴条件は a=nλ/2a=n\lambda/2 である。井戸の場合、a=a0a=a_0 では n=1n=1 に対応する EE が負になってしまうので n=2n=2 から始まる、という説明で 1-3) は解ける。1-4) も、aa が広がると同じ nn でより長い波長、すなわち低いエネルギーが許されるようになる、と述べれば定性的な説明が完成する。

設問2 一様磁場中の電子スピン

方針

2-1)、2-2) は固有値問題を解くだけである。2-3) は「σx\sigma_x の固有状態を σz\sigma_z の固有状態で展開し、位相因子を付け、σx\sigma_x の固有状態に射影し直す」という定型の3段で、量子力学の時間発展の最も基本的な練習になっている。2-4) は計算ではなく、ΔE=ω\Delta E=\hbar\omega という共鳴条件を書けるかどうかが問われている。

歳差運動としての解釈

sx\left\langle s_x\right\rangle を直接計算すると sx=2cos(2μBt),sy=2sin(2μBt),sz=0 \left\langle s_x\right\rangle=\frac\hbar2\cos\left(\frac{2\mu Bt}{\hbar}\right), \qquad \left\langle s_y\right\rangle=-\frac\hbar2\sin\left(\frac{2\mu Bt}{\hbar}\right), \qquad \left\langle s_z\right\rangle=0 となり、スピン期待値ベクトルが xyxy 面内を一定の角速度で回っていることが分かる。P(t)=12(1+2sx)P(t)=\frac12\left(1+\frac{2}{\hbar}\left\langle s_x\right\rangle\right) という関係も成り立つ。2-3) の結果を歳差運動の言葉で言い換えておくと、2-4) の共鳴条件がそのまま出てくる。

検算

t=0t=0P=1P=1μBt/=π/2\mu Bt/\hbar=\pi/2P=0P=0、すなわち sx=/2s_x=-\hbar/2 の状態に完全に移っている。確率が 0011 の間を往復し、その周期が π/(μB)\pi\hbar/\left(\left|\mu\right|B\right) で歳差周期と一致することも確認できる。B0B\to0 では P1P\to1 となり、磁場がなければ sxs_x が保存する(σx\sigma_xH=0\mathcal H=0 と可換)ことに合う。

失点しやすい点

H\mathcal H の固有値を ±μB\pm\mu B とせずに ±μB/2\pm\mu B/2 としてしまう誤りが多い。本問のハミルトニアンは μσB\mu\vec\sigma\cdot\vec B であって μsB\mu\vec s\cdot\vec B ではないので、/2\hbar/2 の因子は入らない。またエネルギー差は μB\mu B ではなく 2μB2\mu B であり、共鳴角振動数はその \hbar 分の1である。時間発展の位相を e+iEt/e^{+iEt/\hbar} と書くと P(t)P(t) は同じ(cos2\cos^2 は偶関数)だが、sy\left\langle s_y\right\rangle の符号、すなわち歳差の回転向きが反転するので注意する。

量子力学:一次元散乱の共鳴透過と一様磁場中のスピンの途中式・最終答をPDFで見る

5 — 統計力学:スピン1の三準位系と二次元自由フェルミ気体

方針

「区別できる」「相互作用しない」の2語から Z=Z1NZ=Z_1^N が直ちに書ける。あとは U=βlnZU=-\partial_\beta\ln ZC=dU/dTC=dU/dTS=kB(lnZ+βU)S=k_{\mathrm B}\left(\ln Z+\beta U\right) という定型の流れである。H\mathcal HSz2S_z^2 にしか依存しないという構造が、1-4) の答えが 00 になることと 1-5) が Sz2S_z^2 の応答になっていることの両方を支配している。

基底状態の縮退

T=0T=0 でエントロピーが 00 になると答える誤りが多い。この系は s=+1s=+1s=1s=-1 が同じエネルギーをもつので、T0T\to0 でもその2状態が等確率で残り、1粒子あたり kBln2k_{\mathrm B}\ln2 の残留エントロピーが生じる。エントロピーが ln2\ln2 から ln3\ln3 へ増える差 NkBln(3/2)Nk_{\mathrm B}\ln(3/2) が、C(T)C(T) の山(ショットキー比熱)の下の面積 0CTdT\int_0^\infty \frac{C}{T}dT に対応する。

熱容量の極限による検算

T0T\to0 では uu\to\infty なので 2u(2u+1)212u\dfrac{2u}{(2u+1)^2}\simeq\dfrac1{2u} となり、Cβ2eβqz0C\propto\beta^2e^{-\beta q_z}\to0 と指数的に落ちる。これは基底状態と励起状態の間にエネルギーギャップ qzq_z があることの現れである。TT\to\infty では u1u\to12u(2u+1)229\dfrac{2u}{(2u+1)^2}\to\dfrac29 となり、C2N9kB(qzkBT)20C\simeq\dfrac{2N}{9}k_{\mathrm B}\left(\dfrac{q_z}{k_{\mathrm B}T}\right)^2\to0 である。有限の準位数をもつ系の熱容量は両端で 00 になり、中間に山をもつ。

ゆらぎとの関係

熱容量は1粒子エネルギーの分散を使って C=NkBβ2(ε2ε2) C=Nk_{\mathrm B}\beta^2 \left(\left\langle\varepsilon^2\right\rangle -\left\langle\varepsilon\right\rangle^2\right) とも書ける。実際 ε2ε2=qz22u(2u+1)2\left\langle\varepsilon^2\right\rangle-\left\langle\varepsilon\right\rangle^2 =q_z^2\dfrac{2u}{\left(2u+1\right)^2} となり、1-2) の結果と一致する。同様に χ\chiSz2S_z^2 のゆらぎに比例する量であり、qzq_zSz2S_z^2 に共役な「場」になっていると読める。1-5) の答えが 1/T1/T に比例するのは、常磁性のキュリー則と同じ構造である。

設問2 二次元自由フェルミ粒子系の状態密度

方針

状態密度の計算は、分散関係が変わっても D(E)=12π2pdpdE D(E)=\frac{1}{2\pi\hbar^2}\,p\,\frac{dp}{dE} という一つの式に帰着する。まずこの式を導いておき、2-1) と 2-3) では pdp/dEp\,dp/dE を計算するだけにすると、答案が短くなり計算ミスも減る。次元解析の 2-2) は、根号の中の2項が同じ次元をもつという1行から出る。

二次元であることの効き方

三次元なら d3p=4πp2dpd^3p=4\pi p^2dp なので放物型分散の状態密度は E\sqrt E に比例するが、二次元では d2p=2πpdpd^2p=2\pi p\,dpppdp/dE1/pdp/dE\propto1/p1/p1/p が打ち消し合って定数になる。二次元自由電子系の状態密度が一定であることは、その系の比熱や磁化を議論するときに何度も使う性質である。

検算

2-3) で Δ0\Delta\to0 とすると E=αpE=\sqrt\alpha\,p という線形分散になり、D(E)=E2π2αD(E)=\dfrac{E}{2\pi\hbar^2\alpha} は原点から立ち上がる直線になる。これは線形分散の二次元系の状態密度が EE に比例するという既知の結果と一致する。逆に EΔE\gg\Delta では 2-3) の式が Δ\Delta に依存しなくなり、やはり線形分散の結果に漸近する。

2-4) はフェルミ運動量からも確かめられる。T=0T=0 では ppFp\le p_{\mathrm F} の状態がすべて詰まっており、 N=AπpF2(2π)2=ApF24π2,pF2=μ02Δ2α \left\langle N\right\rangle =\frac{A\cdot\pi p_{\mathrm F}^2}{\left(2\pi\hbar\right)^2} =\frac{Ap_{\mathrm F}^2}{4\pi\hbar^2}, \qquad p_{\mathrm F}^2=\frac{\mu_0^2-\Delta^2}{\alpha} であり、上の積分の結果と一致する。

失点しやすい点

状態密度を「単位面積あたり」で求めるよう指示されているので、AA を掛けたままにしないことに注意する。逆に 2-4) は「系の全粒子数」なので AA を掛け戻す必要がある。どちらの量なのかを式の前に一言書いておくと取り違えを防げる。また 2-3) の図では、E<ΔE<\DeltaD=0D=0 であること、E=ΔE=\Delta で連続でなく跳ぶことの2点を必ず描く。原点から立ち上がる直線を1本引くだけでは、ギャップ Δ\Delta の存在を示せていない。

統計力学:スピン1の三準位系と二次元自由フェルミ気体の途中式・最終答をPDFで見る

都立大 物理 院試 過去問の収録19年度

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    数学:演算子の指数関数と留数定理による実積分 / 力学:ばねで連結された2質点と中空円板の制動 / 電磁気学:電流間の力・電磁波の横波性・点電荷系の遠方展開

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  • 2022年度 夏季(全5問)

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  • 2021年度 冬季(全5問)

    数学:複素数の方程式 <span class="katex"><span class="katex-mathml"><math xmlns="http://www.w3.org/1998/Math/MathML"><semantics><mrow><mi>sin</mi><mo>⁡</mo><mi>z</mi><mo>=</mo><mn>2</mn></mrow><annotation encoding="application/x-tex">\sin z=2</annotation></semantics></math></span><span class="katex-html" aria-hidden="true"><span class="base"><span class="strut" style="height:0.6679em;"></span><span class="mop">sin</span><span class="mspace" style="margin-right:0.1667em;"></span><span class="mord mathnormal" style="margin-right:0.044em;">z</span><span class="mspace" style="margin-right:0.2778em;"></span><span class="mrel">=</span><span class="mspace" style="margin-right:0.2778em;"></span></span><span class="base"><span class="strut" style="height:0.6444em;"></span><span class="mord">2</span></span></span></span> と実対称行列の指数関数 / 力学:あらい斜面上を転がる円柱と滑りから転がりへの移行 / 電磁気学:平行板コンデンサの電荷配置と各領域の電場

  • 2019年度 冬季(全5問)

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  • 2018年度 冬季(全5問)

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  • 2018年度 夏季(全5問)

    数学:留数定理による定積分とパウリ行列の指数関数 / 力学:有効ポテンシャルによる円軌道の安定性と、強制振動・臨界減衰 / 電磁気学:一様磁場を出入りするループの落下と、球対称電荷分布の静電場

  • 2017年度 冬季(全5問)

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  • 2016年度 夏季(全5問)解答・最終答まで全文公開

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