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都立大 理学研究科 物理学専攻 物理 2018年度 冬季 院試 過去問 解答例・解説(解説5項目)

解説5項目の分野は数学1項目、電磁気学・回路1項目、熱・統計力学1項目です。解説はすべて、途中式と最終答は大問1問ぶんを公開しています。PDFの収録範囲は商品ページで確認できます。問題本文は含みません。

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第1問 — 数学:極座標変換によるガウス積分と拡散方程式の変数分離

設問1 極座標変換とガウス積分

方針

1次元のガウス積分は初等関数の範囲で不定積分できない。そこで同じ積分を2つ掛けて2次元積分に直し、極座標に移すと動径部分に r drr\,dr が現れて e−r2e^{-r^2} の原始関数が書ける、という筋道である。1-1) から 1-4) は、この古典的な技法を順に分解した誘導になっている。

検算

θ\theta の範囲を 0≤θ<π0\le\theta<\pi と誤ると I2=π/2I_2=\pi/2 となり、∫e−x2dx=π/2\int e^{-x^2}dx=\sqrt{\pi/2} を得る。これは x=0x=0 付近で被積分関数がほぼ1、幅がおよそ2であることから積分値が2弱と見積もられることと合わない。π=1.77\sqrt{\pi}=1.77 のほうが妥当である。

失点しやすい点

面積要素に現れるのは行列式そのものではなく絶対値 ∣J∣|J| である。今回は r≥0r\ge0 なので符号の心配はないが、答案では dx dy=∣J∣ dr dθdx\,dy=|J|\,dr\,d\theta と書いておくとよい。また 1-4) では平方根の符号を決める根拠、すなわち被積分関数が正であることを一言添える。

設問2 1次元拡散方程式の変数分離

分離定数の符号を決める根拠

「拡散方程式だから減衰するはず」と決めつけるのではなく、境界条件から λ>0\lambda>0(および λ=0\lambda=0)しか許されないことを示すのが答案の要点である。λ<0\lambda<0 を捨てる計算は3行で済むので必ず書く。符号を −λ-\lambda と置いておくと、X′′=−λXX''=-\lambda X が三角関数になる側が正の λ\lambda に対応し、後の議論が読みやすい。

検算

両端で流れが0なので、全体の量 ∫0Lp(x,t) dx \int_0^{L}p(x,t)\,dx は時間に依らず一定でなければならない。実際 ddt∫0Lp dx=a2[∂p∂x]0L=0 \frac{d}{dt}\int_0^L p\,dx =a^2\left[\frac{\partial p}{\partial x}\right]_0^L=0 であり、得られた解でも ∫0Lcos⁡(πx/L) dx=0\int_0^L\cos(\pi x/L)\,dx=0 だから、この保存量は常に0である。左半分の積分が正で右半分の積分がその符号を反転したものになることとも整合する。

さらに 2-3) の結果は t=0t=0 で L/π≈0.318LL/\pi\approx0.318L となり、cos⁡(πx/L)\cos(\pi x/L) を 0≤x≤L/20\le x\le L/2 で積分した値として妥当である。t→∞t\to\infty では0に近づき、平坦化して両側の量が等しくなる描像と合う。

典型ミス

境界条件をディリクレ型(両端で p=0p=0)と取り違えると X=sin⁡(nπx/L)X=\sin(n\pi x/L) になり、初期条件と結び付かなくなる。ここでは xx 微分が両端で0、すなわち端から流れ出さない条件なので余弦が固有関数である。また n=1n=1 に決まる根拠は境界条件ではなく初期条件であり、一般には固有関数の重ね合わせが必要になる点も押さえておく。

この設問が試していること

偏微分方程式を解く技術そのものより、境界条件が固有値を、初期条件が展開係数を決めるという役割分担を理解しているかどうかを見ている。答案では、この2段階を分けて書くと筋が通る。

解答

設問1 極座標変換とガウス積分

1-1) 新しい変数のとる範囲

写像 x=rcos⁡θ,y=rsin⁡θ x=r\cos\theta,\qquad y=r\sin\theta が xyxy 平面全体を過不足なく1回覆うようにとる。rr は原点からの距離だから 0≤r<∞, 0\le r<\infty , θ\theta は方位角で、2π2\pi の周期をもつから1周期分だけとって 0≤θ<2π 0\le\theta<2\pi とすればよい。なお r=0r=0 では θ\theta が定まらないが、これは面積0の集合なので二重積分の値には影響しない。

1-2) ヤコビアン

偏微分を計算すると ∂x∂r=cos⁡θ,∂x∂θ=−rsin⁡θ,∂y∂r=sin⁡θ,∂y∂θ=rcos⁡θ \frac{\partial x}{\partial r}=\cos\theta,\qquad \frac{\partial x}{\partial \theta}=-r\sin\theta,\qquad \frac{\partial y}{\partial r}=\sin\theta,\qquad \frac{\partial y}{\partial \theta}=r\cos\theta である。したがって J=∣cos⁡θ−rsin⁡θsin⁡θ−rcos⁡θ∣=rcos⁡2θ+rsin⁡2θ=r. J= \begin{vmatrix} \cos\theta & -r\sin\theta\\[2pt] \sin\theta & \phantom{-}r\cos\theta \end{vmatrix} =r\cos^2\theta+r\sin^2\theta =r . r≥0r\ge0 なので ∣J∣=r|J|=r であり、面積要素は dx dy=r dr dθdx\,dy=r\,dr\,d\theta となる。

1-3) 2次元ガウス積分

x2+y2=r2x^2+y^2=r^2 だから、極座標に移すと被積分関数は θ\theta によらない。 I2=∫−∞∞ ⁣ ⁣dx∫−∞∞ ⁣ ⁣dy  e−x2−y2=∫02π ⁣ ⁣dθ∫0∞ ⁣ ⁣dr  r e−r2. I_2 =\int_{-\infty}^{\infty}\!\!dx\int_{-\infty}^{\infty}\!\!dy\;e^{-x^2-y^2} =\int_0^{2\pi}\!\!d\theta\int_0^{\infty}\!\!dr\;r\,e^{-r^2}. θ\theta 積分は 2π2\pi を与える。rr 積分は u=r2u=r^2、du=2r drdu=2r\,dr と置換して ∫0∞r e−r2 dr=12∫0∞e−u du=12. \int_0^{\infty}r\,e^{-r^2}\,dr =\frac12\int_0^{\infty}e^{-u}\,du =\frac12 . よって I2=2π⋅12=π. I_2=2\pi\cdot\frac12=\pi .

1-4) 1次元ガウス積分

被積分関数は e−x2e−y2e^{-x^2}e^{-y^2} と変数分離するので I2=(∫−∞∞e−x2 dx)(∫−∞∞e−y2 dy)=(∫−∞∞e−x2 dx)2. I_2 =\left(\int_{-\infty}^{\infty}e^{-x^2}\,dx\right) \left(\int_{-\infty}^{\infty}e^{-y^2}\,dy\right) =\left(\int_{-\infty}^{\infty}e^{-x^2}\,dx\right)^{2}. 左辺は 1-3) より π\pi であり、また被積分関数が正なので積分値も正である。したがって ∫−∞∞e−x2 dx=π. \int_{-\infty}^{\infty}e^{-x^2}\,dx=\sqrt{\pi}.

設問2 1次元拡散方程式の変数分離

以下、区間を 0≤x≤L0\le x\le L、拡散係数にあたる正の定数を aa とし、境界では両端で xx 微分が0、初期分布は cos⁡(πx/L)\cos(\pi x/L) とする。

2-1) 変数分離

p(x,t)=T(t)X(x)p(x,t)=T(t)X(x) を方程式に代入すると T′(t)X(x)=a2 T(t)X′′(x). T'(t)X(x)=a^2\,T(t)X''(x). T(t)X(x)≠0T(t)X(x)\neq0 となる領域で両辺を a2T(t)X(x)a^2T(t)X(x) で割ると T′(t)a2T(t)=X′′(x)X(x). \frac{T'(t)}{a^2T(t)}=\frac{X''(x)}{X(x)} . 左辺は tt だけの、右辺は xx だけの関数である。xx を固定して tt を動かすと右辺は変わらないので左辺も変わらない。逆も同様だから、両辺は共通の定数に等しい。その定数を −λ-\lambda と書くと T′(t)=−λa2 T(t),X′′(x)=−λ X(x) T'(t)=-\lambda a^2\,T(t),\qquad X''(x)=-\lambda\,X(x) の2本の常微分方程式に分離される。

2-2) 固有値と解

境界条件は X′(0)=X′(L)=0X'(0)=X'(L)=0 である。λ\lambda の符号で場合分けする。

λ=−k2<0\lambda=-k^2<0 のとき X=Acosh⁡kx+Bsinh⁡kxX=A\cosh kx+B\sinh kx で、X′(0)=Bk=0X'(0)=Bk=0 より B=0B=0、X′(L)=Aksinh⁡kL=0X'(L)=Ak\sinh kL=0 と sinh⁡kL≠0\sinh kL\neq0 より A=0A=0 となり自明解しかない。

λ=0\lambda=0 のとき X=A+BxX=A+Bx で、X′=B=0X'=B=0 より XX は定数となる。これは空間的に一様なモードである。

λ=k2>0 (k>0)\lambda=k^2>0\ (k>0) のとき X(x)=Acos⁡kx+Bsin⁡kx,X′(x)=−Aksin⁡kx+Bkcos⁡kx. X(x)=A\cos kx+B\sin kx,\qquad X'(x)=-Ak\sin kx+Bk\cos kx . X′(0)=Bk=0X'(0)=Bk=0 より B=0B=0。X′(L)=−Aksin⁡kL=0X'(L)=-Ak\sin kL=0 で A≠0A\neq0 を求めるので sin⁡kL=0⟹k=nπL(n=1,2,… ). \sin kL=0 \quad\Longrightarrow\quad k=\frac{n\pi}{L}\quad(n=1,2,\dots). 初期条件が cos⁡(πx/L)\cos(\pi x/L) そのものなので、一様モードの係数は0であり、n=1n=1 のモードだけが残る。規格化を X(x)=cos⁡(πx/L)X(x)=\cos(\pi x/L)、T(0)=1T(0)=1 にとると T′(t)=−a2(πL)2T(t)⟹T(t)=exp⁡ ⁣(−a2π2L2 t). T'(t)=-a^2\left(\frac{\pi}{L}\right)^{2}T(t) \quad\Longrightarrow\quad T(t)=\exp\!\left(-\frac{a^2\pi^2}{L^2}\,t\right). したがって p(x,t)=exp⁡ ⁣(−a2π2tL2)cos⁡πxL. p(x,t)=\exp\!\left(-\frac{a^2\pi^2t}{L^2}\right)\cos\frac{\pi x}{L}.

2-3) 左半分の積分

時間依存部分は xx 積分の外に出せるので ∫0L/2p(x,t) dx=exp⁡ ⁣(−a2π2tL2)∫0L/2cos⁡πxL dx=exp⁡ ⁣(−a2π2tL2)[Lπsin⁡πxL]0L/2. \int_0^{L/2}p(x,t)\,dx =\exp\!\left(-\frac{a^2\pi^2t}{L^2}\right) \int_0^{L/2}\cos\frac{\pi x}{L}\,dx =\exp\!\left(-\frac{a^2\pi^2t}{L^2}\right) \left[\frac{L}{\pi}\sin\frac{\pi x}{L}\right]_0^{L/2}. sin⁡(π/2)=1\sin(\pi/2)=1 だから ∫0L/2p(x,t) dx=Lπexp⁡ ⁣(−a2π2tL2). \int_0^{L/2}p(x,t)\,dx=\frac{L}{\pi}\exp\!\left(-\frac{a^2\pi^2t}{L^2}\right).

最終答

0≤r<∞, 0≤θ<2π0\le r<\infty,\ 0\le\theta<2\pi。J=rJ=r。∬e−x2−y2 dx dy=π\displaystyle\iint e^{-x^2-y^2}\,dx\,dy=\pi、∫−∞∞e−x2dx=π\displaystyle\int_{-\infty}^{\infty}e^{-x^2}dx=\sqrt{\pi}。

T′=−λa2T, X′′=−λXT'=-\lambda a^2T,\ X''=-\lambda X。p(x,t)=e−a2π2t/L2cos⁡πxL\displaystyle p(x,t)=e^{-a^2\pi^2t/L^2}\cos\frac{\pi x}{L}。∫0L/2p dx=Lπe−a2π2t/L2\displaystyle\int_0^{L/2}p\,dx=\frac{L}{\pi}e^{-a^2\pi^2t/L^2}。

第2問 — 力学:完全非弾性衝突後の単振動と斜面を転がる剛体

設問1 完全非弾性衝突とその後の単振動

方針

衝突とその後の運動は別々の物理で扱う。衝突は運動量保存(力学的エネルギーは保存しない)、衝突後はばねの単振動である。この切り替えを明示しないと、衝突でもエネルギーを保存させる誤りに直結する。

最大変位はエネルギーでも出せる

12(M+m)V2=12kxmax⁡2\frac12(M+m)V^2=\frac12kx_{\max}^2 から直ちに xmax⁡=VM+mk=mvk(M+m) x_{\max}=V\sqrt{\frac{M+m}{k}}=\frac{mv}{\sqrt{k(M+m)}} が得られる。ただし到達時刻はエネルギーだけでは出ないので、結局は x(t)x(t) を書く必要がある。答案では x(t)x(t) を先に書き、最大値と時刻を同時に読む方が短い。

検算

ΔE\Delta E は換算質量を用いて 12μv2\frac12\mu v^2 と書ける。m≪Mm\ll M では μ→m\mu\to m となり ΔE→12mv2=E0\Delta E\to\frac12mv^2=E_0、すなわち運動エネルギーがほぼ全部失われる。壁に粘土を投げつける極限に対応し、グラフの u→0u\to0 で1に近づく振る舞いと一致する。逆に m≫Mm\gg M では μ→M\mu\to M で ΔE/E0→0\Delta E/E_0\to0 となり、重い物体が軽い物体を押しのけて進む描像に合う。

xmax⁡x_{\max} は M→0M\to0 の極限で vm/kv\sqrt{m/k} となり、質量 mm の物体をそのままばねに当てた場合の振幅に一致する。

典型ミス

1-4) で「エネルギー保存より 12mv2=12kxmax⁡2\frac12mv^2=\frac12kx_{\max}^2」としてしまう誤りが多い。使うべきは衝突後の運動エネルギーであり、衝突で失われた分を差し引いてから振動に渡す。また到達時刻を 2π/ω2\pi/\omega の 1/41/4 と考えるのは正しいが、ω\omega に M+mM+m ではなく MM を入れる取り違えに注意する。

設問2 斜面を滑らずに転がる球と円柱

方針

転がり落ちる剛体の問題は、並進・回転・拘束の3本を書いてから未知の摩擦力を消去する、という手順が固定されている。摩擦力は静止摩擦であり、最大摩擦力 μN\mu N と等しいとは限らない。その値は運動方程式から決まる従属変数であって、あらかじめ与えられる量ではない。

別解(エネルギー保存)

斜面を距離 dd 下ったときの重力の仕事は Mgdsin⁡ϕMgd\sin\phi で、滑らない摩擦は仕事をしない。よって Mgdsin⁡ϕ=12(M+Ir2)x˙2. Mgd\sin\phi=\frac12\left(M+\frac{I}{r^2}\right)\dot{x}^2 . 両辺を tt で微分し d˙=x˙\dot{d}=\dot{x} を使えば 2-2) と同じ加速度が出る。この見方をすると、M+I/r2M+I/r^2 が「転がる剛体の実効的な慣性」であることがはっきりする。

検算

加速度の式は I→0I\to0 で gsin⁡ϕg\sin\phi、すなわち滑らかな斜面を滑り落ちる質点の値に戻る。また慣性モーメントが大きいほど加速度が小さいので、Ic/(Mr2)=1/2>2/5=Is/(Mr2)I_{\mathrm c}/(Mr^2)=1/2>2/5=I_{\mathrm s}/(Mr^2) より円柱の方が遅い。得られた比 14/15<114/15<1 はこれと整合する。

Ic=12Mr2I_{\mathrm c}=\frac12Mr^2 は長さ ℓ\ell に依らない。回転軸からの距離が ℓ\ell に無関係だからで、次元も kg m2\mathrm{kg\,m^2} で正しい。

典型ミス

(ii) の回転の式で、重心まわりではなく接触点まわりのモーメントを使いながら慣性モーメントは重心まわりの IsI_{\mathrm s} のまま、という混在が起きやすい。接触点まわりで書くなら平行軸の定理により Is+Mr2I_{\mathrm s}+Mr^2 を使い、右辺は重力のモーメント Mgrsin⁡ϕMgr\sin\phi になる(このとき摩擦力は現れず、1本で 2-2) が出る)。どちらの軸で立てたかを答案に明記する。

2-4) で「積分により」と指定されているので、12Mr2\frac12Mr^2 を暗記で書くだけでは不足である。円筒殻に分ける、あるいは極座標で ∫0r ⁣∫02πs2ρ ℓ s ds dφ\int_0^r\!\int_0^{2\pi}s^2\rho\,\ell\,s\,ds\,d\varphi と書く、のいずれかの積分を必ず示す。

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第3問 — 電磁気学:電気双極子と鏡像法、円電流と磁気双極子

設問1 電気双極子の電位・電場と半無限導体

検算(誘導電荷の総量)

導体表面全体で σ\sigma を積分すると ∫0∞σ(ρ) 2πρ dρ=−qa∫0∞ρ dρ(ρ2+a2)3/2=−qa[−1ρ2+a2]0∞=−qa⋅1a=−q. \int_0^{\infty}\sigma(\rho)\,2\pi\rho\,d\rho =-qa\int_0^{\infty}\frac{\rho\,d\rho}{(\rho^2+a^2)^{3/2}} =-qa\left[-\frac{1}{\sqrt{\rho^2+a^2}}\right]_0^{\infty} =-qa\cdot\frac1a=-q . 点電荷 +q+q から出た電気力線がすべて導体に吸い込まれることに対応し、鏡像電荷 −q-q と同じ総量になる。ここが計算の正しさをいちばん手早く確認できる場所である。

遠方展開の次数

1-2) で a2/r2a^2/r^2 の項を残すと、1/r1/r の項に a2a^2 の補正が付く。これは四重極項に対応する量で、双極子項 pz/r3pz/r^3 より a/ra/r だけ小さい。設問は1次の近似式を与えているので双極子項までで打ち切ってよいが、答案では「a/ra/r の1次まで」と明記しておくと、落としたのではなく意図して切ったことが伝わる。

典型ミス

1-3) で EzE_z を計算するとき、rr が zz を含むことを忘れて ∂(zr−3)/∂z=r−3\partial(zr^{-3})/\partial z=r^{-3} としてしまう誤りが多い。積の微分を最後まで書く。1-4) では、表面電荷密度の符号を落として大きさだけ答える答案が目立つ。誘導電荷は負であり、σ=ε0En\sigma=\varepsilon_0E_n(EnE_n は真空側外向き成分)の関係から符号まで決まる。

設問2 円電流の磁束密度と磁気双極子との対応

方針

2-1) は外積を成分で書き切るのが最短である。対称性から垂直成分が消えることは 2-2) で使うので、2-1) の段階では消さずに両成分を残しておく。2-3) は「遠方で同じ場をつくる」という条件だけを使うので、RR が消えることが確認できれば計算は終わりである。

検算

2-2) の結果は h=0h=0 で B=μ0I/(2a)B=\mu_0I/(2a) となり、円電流の中心での既知の値に一致する。また h≫ah\gg a では B≃μ0Ia2/(2h3)B\simeq\mu_0Ia^2/(2h^3) で、双極子場らしく h−3h^{-3} で減衰する。dBzdB_z は h=0h=0 でも残り dBrdB_r は消えるが、これは円の中心では場が軸方向しか持たないことと合う。

磁力線が原点付近で異なる理由

円電流は磁荷をもたないので磁力線は途切れず閉じる。磁極対は仮想的な磁荷を端点にもつので、そこで磁力線が始まり終わる。したがって原点付近では、コイルは内側を貫く連続した線が zz の正の向き、磁極対は磁極の間で zz の負の向きとなり、向きが逆になる。遠方の形が同じでも近傍が違う、という点が 2-4) の要求である。実在の磁石では磁化された物質の内部で B⃗\vec{B} は S から N へ向かい線は閉じるが、点磁荷の対として理想化した場合には上のように端点をもつ。

答案で書くべき点

2-3) はモーメントの定義の流儀で μ0\mu_0 の有無が変わる。答案では自分がどちらの定義を使ったかを1行で宣言してから計算する。宣言があれば、係数が μ0\mu_0 だけずれても筋は通る。

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第4問 — 量子力学:無限井戸の基底状態と磁場中のスピン歳差

設問1 1次元無限井戸の基底状態

検算

厳密値は E1=π2ℏ2/(2mL2)≈9.87 ℏ2/(2mL2)E_1=\pi^2\hbar^2/(2mL^2)\approx9.87\,\hbar^2/(2mL^2) である。1-3) の見積り 15 ℏ2/(2mL2)15\,\hbar^2/(2mL^2) はこれの約1.5倍で、桁が合っている。逆向きに確かめると、Δp\Delta p の厳密値は 2mE1=πℏ/L\sqrt{2mE_1}=\pi\hbar/L だから Δx Δp=0.181L⋅πℏL≈0.57 ℏ, \Delta x\,\Delta p=0.181L\cdot\frac{\pi\hbar}{L}\approx0.57\,\hbar, であり、ℏ/2\hbar/2 をわずかに超える。設問が「ほぼ満たす」と述べていることと整合する。

⟨x⟩=L/2\langle x\rangle=L/2 は積分せずとも、∣ψ1∣2|\psi_1|^2 が x=L/2x=L/2 に関して対称であることから直ちに言える。積分公式が与えられているので答案では計算するが、対称性による確認を一言添えると安心である。

分散が L2/12L^2/12 より小さい理由

区間 [0,L][0,L] の一様分布の分散は L2/12≈0.083L2L^2/12\approx0.083L^2 である。基底状態では確率密度が中央に山をもち端で0になるので、一様分布より広がりが小さい。得られた 0.0327L20.0327L^2 はこの予想と合う。この比較は答案でも短く書ける良い検算になる。

典型ミス

規格化定数を落として ⟨x⟩\langle x\rangle が L/2L/2 にならない、という失点が多い。2/L2/L を掛け忘れると ⟨x⟩=L3/(4⋅何か)\langle x\rangle=L^3/(4\cdot\text{何か}) のように次元がずれるので、次元で気付ける。1-3) では Δx\Delta x に LL をそのまま代入して E1≃ℏ2/(2mL2)E_1\simeq\hbar^2/(2mL^2) とするのも許容範囲だが、1-2) の結果を使えという流れなので、分散の平方根を用いる方が誘導に沿う。

設問2 一様磁場中のスピン 1/21/2 の時間発展

検算

まず規格化 ∣χ1∣2+∣χ2∣2=1|\chi_1|^2+|\chi_2|^2=1 が全時刻で保たれている。次に期待値の大きさは ⟨σx⟩2+⟨σy⟩2+⟨σz⟩2=cos⁡2ωt+sin⁡2ωt=1 \langle\sigma_x\rangle^2+\langle\sigma_y\rangle^2+\langle\sigma_z\rangle^2 =\cos^2\omega t+\sin^2\omega t=1 で一定であり、純粋状態のスピン 1/21/2 がブロッホ球面上を動くことと合う。さらに σz\sigma_z は HH と可換なので ⟨σz⟩\langle\sigma_z\rangle は保存量であり、初期値が0であることと計算結果が一致する。ω=μB/ℏ\omega=\mu B/\hbar の次元も、μB\mu B がエネルギーであることから確かめられる。

位相の全体因子は落とせない

χ1\chi_1 と χ2\chi_2 にかかる位相は符号が逆なので、共通因子としてくくり出せない。この相対位相 eiωte^{i\omega t} が ⟨σx⟩,⟨σy⟩\langle\sigma_x\rangle,\langle\sigma_y\rangle の時間変化そのものである。片方の位相だけを書いて「全体位相は物理に効かない」と処理すると、歳差運動が消えてしまう。

回転の向き

t=0t=0 で期待値は xx 軸の正の向き、微小時間後は ⟨σy⟩≃ωt>0\langle\sigma_y\rangle\simeq\omega t>0 なので、zz 軸の正の側から見て反時計回りに回る。答案では「zz 軸まわりに角振動数 μB/ℏ\mu B/\hbar」だけでなく、この向きまで書くと 2-3) の「運動を述べよ」に十分応えられる。

この設問が試していること

2準位系の時間発展という、量子力学でもっとも基本的な設定を、行列の対角化・指数関数解・期待値計算という3段階で最後まで実行できるかどうかを見ている。核磁気共鳴や量子ビットの回転操作は、すべてこの計算の延長にある。

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第5問 — 統計力学:3準位系の高温展開と古典1次元系の分配関数

設問1 3準位系の分配関数と高温展開

A=2/3A=2/3 の意味

T→∞T\to\infty では3つの状態が等確率 1/31/3 で占められるので E→0+Δ+Δ3=23Δ. E\to\frac{0+\Delta+\Delta}{3}=\frac{2}{3}\Delta . これが定数項 AΔA\Delta にほかならない。展開の0次だけなら計算せずに書けるので、AA の検算に使える。

検算(低温側と比熱)

逆の極限 kBT≪Δk_{\mathrm B}T\ll\Delta では E≃2Δe−βΔ→0E\simeq2\Delta e^{-\beta\Delta}\to0 となり、基底状態に凍結する描像と合う。高温側の比熱は C=∂E∂T=∂E∂βdβdT=(−29Δ2)(−1kBT2)=2Δ29kBT2 C=\frac{\partial E}{\partial T} =\frac{\partial E}{\partial\beta}\frac{d\beta}{dT} =\left(-\frac29\Delta^2\right)\left(-\frac{1}{k_{\mathrm B}T^2}\right) =\frac{2\Delta^2}{9k_{\mathrm B}T^2} であり、正で、T−2T^{-2} で減衰する。2準位・多準位系に共通するショットキー比熱の高温側の裾の形であり、符号と冪の両方が妥当である。

典型ミス

縮退を落として Z=1+e−βΔZ=1+e^{-\beta\Delta} としてしまうと A=1/2, B=1/4A=1/2,\ B=1/4 になる。状態1つずつを数えるのが分配関数の定義であり、同じエネルギーの状態が2つあれば係数2が付く。もう一つの頻出ミスは、展開を e−x≃1−xe^{-x}\simeq1-x だけで済ませて分母の展開を忘れることである。分子と分母を同じ次数まで展開してから割る。

設問2 古典1次元系の分配関数と内部エネルギー

方針

ZZ は「速度積分 ×\times 位置積分」に分解し、どちらも β\beta のべきになる。内部エネルギーはそのべきの指数で決まるので、係数(h,m,ω,a,b,ch,m,\omega,a,b,c やガンマ関数の値)を正確に出す必要は実はない。設問が ZZ を「具体的に求めよ」と言っている場合は係数まで書くが、UU の答え合わせは指数だけを見ればよい。

一般化された等分配則

エネルギーに λ∣x∣s\lambda|x|^{s} の形の項が1つ現れるたびに、その項の熱平均は kBT/sk_{\mathrm B}T/s になる。運動エネルギーは s=2s=2 なので 12kBT\frac12k_{\mathrm B}T、片側線形項は s=1s=1 なので kBTk_{\mathrm B}T、4次項は s=4s=4 なので 14kBT\frac14k_{\mathrm B}T である。合計すると 12+1=32,12+14=34,12+12n=n+12n \frac12+1=\frac32,\qquad \frac12+\frac14=\frac34,\qquad \frac12+\frac{1}{2n}=\frac{n+1}{2n} となり、2-3) から 2-5) の答えがすべて再現される。この規則を検算に使うと計算ミスをその場で見つけられる。

検算(極限)

2-5) で n=1n=1 とすると U=kBTU=k_{\mathrm B}T で、調和型の 2-2) に戻る。n→∞n\to\infty では U→12kBTU\to\frac12k_{\mathrm B}T となり、これは無限に硬い壁で囲まれた箱の中の自由粒子(運動の自由度1つ分だけ)に対応する。ポテンシャルが急峻になるほど位置の自由度がエネルギーを蓄えなくなる、という物理と合っている。

典型ミス

2-3) で積分区間を −∞-\infty から ∞\infty にとると発散する。x<0x<0 ではポテンシャルが無限大なので、位置積分は 0≤x<∞0\le x<\infty に限られる。片側であることが UU を 32kBT\frac32k_{\mathrm B}T にする鍵ではないが(片側でも両側でも β\beta の冪は同じ)、積分そのものは有限にならない。 また、ZZ の前に付く m/hm/h は β\beta を含まないので UU には効かない。この因子は位相空間の体積を hh 単位で数えるための規格化で、無次元の ZZ を作る役割をもつ。

統計力学:3準位系の高温展開と古典1次元系の分配関数の途中式・最終答をPDFで見る

物理の解答・解説PDF

2016〜2026年度・19回 · ¥3,200

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年度別の解答例(19年度)

  • 2026年冬季(解説4項目)

    解析力学 / 電磁気学 / 量子力学

  • 2026年夏季(解説4項目)

    力学 / 電磁気学 / 量子力学

  • 2025年冬季(解説5項目)

    線形代数・微積分 / 強制振動 / 電磁気

  • 2025年夏季(解説5項目)

    複素積分 / ばね振動と波動 / 電磁気

  • 2024年冬季(解説5項目)

    数学 / 剛体の転がり / 静電ポテンシャル

  • 2024年夏季(解説5項目)

    偏微分方程式・留数積分 / 力学 / 電磁気学

  • 2023年度 冬季(解説5項目)

    数学:固有値問題・行列の指数関数・不定積分 / 力学:一様棒の物理振り子と回転軸の移動 / 電磁気学:直交電磁場中の荷電粒子とサイクロイド運動

  • 2023年度 夏季(解説5項目)

    数学:演算子の指数関数と留数定理による実積分 / 力学:ばねで連結された2質点と中空円板の制動 / 電磁気学:電流間の力・電磁波の横波性・点電荷系の遠方展開

  • 2022年度 冬季(解説5項目)

    数学:実対称行列の直交対角化と留数定理による実積分 / 力学:円板の物理振り子と周期を最小にする支点 / 電磁気学:点電荷の電場と接地導体面の鏡像法

  • 2022年度 夏季(解説5項目)

    数学:ベクトル解析・複素積分・行列の対角化と偏微分方程式 / 力学:単振り子と巻取り軸つき円板の落下 / 電磁気学:3点電荷の釣り合い・電流回路の磁場・RC回路の過渡応答

  • 2021年度 冬季(解説5項目)

    数学:複素数の方程式 sin z=2 と実対称行列の指数関数 / 力学:あらい斜面上を転がる円柱と滑りから転がりへの移行 / 電磁気学:平行板コンデンサの電荷配置と各領域の電場

  • 2019年度 冬季(解説5項目)

    数学:固有値・ベクトル解析・フーリエ余弦級数 / 力学:一様密度球の重力場と質点の運動 / 電磁気学:同軸ケーブルの静電容量と自己インダクタンス

  • 2019年度 夏季(解説5項目)

    数学:ラゲール多項式とパウリ行列の指数関数 / 力学:斜面を転がり落ちる剛体球 / 電磁気学:一様帯電球の静電エネルギーと円電流にはたらく力

  • 2018年度 冬季(このページ・解説5項目)

    数学:極座標変換によるガウス積分と拡散方程式の変数分離 / 力学:完全非弾性衝突後の単振動と斜面を転がる剛体 / 電磁気学:電気双極子と鏡像法、円電流と磁気双極子

  • 2018年度 夏季(解説5項目)

    数学:留数定理による定積分とパウリ行列の指数関数 / 力学:有効ポテンシャルによる円軌道の安定性と、強制振動・臨界減衰 / 電磁気学:一様磁場を出入りするループの落下と、球対称電荷分布の静電場

  • 2017年度 冬季(解説5項目)

    数学:複素積分と巡回行列の指数関数 / 力学:3質点・4ばね系の基準振動 / 電磁気学:導体球殻の静電場と円柱電流の磁場

  • 2017年度 夏季(解説5項目)

    数学:母関数・行列の固有値・定積分・微分方程式 / 力学:剛体の制動回転と円すい面上の質点 / 電磁気学:帯電円環板の静電場とRLC共振回路

  • 2016年度 冬季(解説5項目)最終答まで公開

    数学:母関数・行列の固有値・本質的特異点まわりの積分 / 力学:バネにつながれた物体への衝突と、二軸に拘束された棒の運動 / 電磁気学:一様帯電球の電場と電位、回転する帯電球の磁束密度

  • 2016年度 夏季(解説5項目)最終答まで公開

    数学:母関数・行列指数関数・境界値問題 / 力学:連結ばね・斜面の摩擦・滑車の回転 / 電磁気学:変位電流と共焦点回転楕円体導体

2018年度 冬季の出題内容

解説5項目

この5問の分野は数学1問・電磁気学・回路1問・熱・統計力学1問・量子力学1問・力学1問です。

大問分野主題解説の小見出し最終答
第1問数学極座標変換によるガウス積分と拡散方程式の変数分離分離定数の符号を決める根拠 / この設問が試していることあり
第2問力学完全非弾性衝突後の単振動と斜面を転がる剛体最大変位はエネルギーでも出せる / 別解(エネルギー保存)あり
第3問電磁気学・回路電気双極子と鏡像法、円電流と磁気双極子検算(誘導電荷の総量) / 遠方展開の次数あり
第4問量子力学無限井戸の基底状態と磁場中のスピン歳差分散が L^2/12 より小さい理由 / 位相の全体因子は落とせないあり
第5問熱・統計力学3準位系の高温展開と古典1次元系の分配関数A=2/3 の意味 / 検算(低温側と比熱)あり

2018年度 冬季の解説には典型ミス5件・検算4件・失点しやすい点1件が付いています。

前年度(2018年度 夏季)との違い

大問数
2018年度 夏季 5問 → 2018年度 冬季 5問
2018年度 夏季の解答例

東京都立大学の公式過去問

公開年度範囲
2024〜2026(夏季・冬季)
公式の解答例
解答例の掲載なし
英語の扱い
物理の公式過去問ページではTOEIC公開テスト・TOEFL-iBT・IELTS Academicのスコア評価を案内。出願年度の条件は募集要項を確認。
院試hubの最終確認
2026-10-17
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