東京科学大学 院試 過去問 解答例
東京科学大 理学院 化学系 化学系 専門科目 2025年度 院試 解答例・解説
東京科学大学 理学院 化学系 化学系 専門科目 2025年度の院試 過去問について、設問ごとの解法方針と確認点を解説。全11問収録の解答・解説PDFと併用できます。問題本文は含みません。
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設問ごとの解法方針と確認点を公開しています。
続きの途中式・最終答は解答・解説PDFに収録しています。問題本文は含まれません。
第1問 — 原子・分子構造と錯体
有効核電荷の見方
同じ主量子数・同じ種類の軌道を比べるときは、核電荷の増加が効きやすい。一方で Na や Li のような外殻電子は、内側の閉殻電子によって強く遮蔽される。したがって「原子番号が大きい方」と機械的に答えるのではなく、電子がどの殻にいるかを同時に見る必要がある。
VSEPR の典型ミス
は三つの結合だけを見ると平面三角形と誤りやすいが、中心 Cl の周りには孤立電子対が二つある。三方両錐型の電子対配置で孤立電子対が赤道位を占めるため、分子形は T 字形になる。
錯体の色と分裂幅
は なので、スピン対形成や複数電子項の複雑さを考えず、吸収エネルギーをそのまま と扱える。単位換算では とし、最後に から へ直す。
第2問 — 有機化学の基礎反応
キラリティ判定
A のように不斉炭素が複数あっても、内部対称面をもつ場合はメソ体でありキラルではない。逆に B は環反転しても同一分子内に対称面が現れず、鏡像と重ね合わせられない。D は , , , の四置換炭素をもつため典型的なキラルアミンである。
エステルのけん化
酸触媒加水分解は、カルボン酸とアルコールからエステルが再生する経路も酸で触媒されるため可逆である。塩基性では最後にカルボン酸塩を作る点が決定的で、カルボン酸塩のカルボニル炭素はエステルより求電子性が低い。答案では「四面体中間体」と「脱プロトン化による平衡の駆動」の二点を書くとよい。
立体選択性
水素化も OsO 酸化も、アルケンの同一面に二つの結合を作る syn 付加である。Diels--Alder 反応では二次軌道相互作用により endo 付加体が速度論的に優先する。芳香族臭素化では、活性化基と不活性化基の配向性が一致する位置を探すと置換位置を決めやすい。
第3問 — 熱力学・量子化学・速度論
仕事の符号
本問は「気体が外界にした仕事」を としているため、膨張で である。化学熱力学の教科書によっては「外界が系にした仕事」を正にとることがあるので、第一法則の符号を問題文の定義に合わせることが重要である。
水素原子の縮退
水素原子ではクーロンポテンシャルだけを考えるため、エネルギーは のみに依存する。多電子原子では同じ でも で遮蔽と貫入が異なるが、この設問では水素原子なので と のエネルギー差は 0 とする。
定常状態近似の書き方
中間体 は生成も消費も速く、濃度が小さくほぼ一定とみなす。答案では、まず の生成項と二つの消費項をすべて書き、その後 と置く。消費項の和 を落とすと、見かけ速度定数の分母を誤る。
第4問 — 固体化学と状態図
岩塩型構造
NaCl 型では、一方のイオンが面心立方格子を作り、他方が八面体孔をすべて占有している。各イオンの最近接相手は正八面体の 6 頂点方向にあるため、配位数は両方とも 6 になる。単位格子の辺に沿って陽イオンと陰イオンが交互に並ぶので、最近接距離は である。
真性半導体の輸率
真性半導体では であることを明記する。輸率は「電荷を運ぶ全寄与のうち、そのキャリアが担う割合」なので、濃度が等しい場合は移動度の比だけで決まる。
格子エネルギーの端効果
一次元に 個を開いた鎖として並べると最近接結合数は である。ただし結晶の格子エネルギーでは通常、表面の端効果を無視して に比例する量として扱う。答案で と書く場合は、この近似を一言添えるとよい。
共晶線
EF は液相が二つの固相へ同時に変わる共晶温度である。圧力一定なら相律に を用い、三相が共存すると自由度が 0 になる。ここで を使うのは、圧力も独立変数に含める場合である。
第5問 — 錯体の構造・反応・金属間結合
Cu(II) 錯体の安定構造
は で、八面体場では 軌道の反結合性占有により Jahn--Teller 歪みが大きい。伸びる軸上には弱い配位子が来る方が安定で、en はキレート効果もあるため赤道面に置くのが合理的である。
内圏型電子移動の採点点
この反応は、単に「電子移動が起こる」だけでは不十分である。置換活性な が Cl に結合できること、Cl が架橋配位子として電子移動経路になること、生成後に Co(II) は配位子交換しやすく Cr(III) は Cl を保持しやすいことを結びつけて説明する。
金属間四重結合
金属間結合では、結合軸を としたとき、 の対称性で軌道を分類する。 は二重縮退した 結合、 は 結合を作る。全 電子数が 8 のとき となり、結合次数 4 の四重結合になる。
第6問 — 芳香族性と反応選択性
芳香族性の判定
芳香族性は「環状、平面、連続共役、 個の 電子」を同時に満たすかで判定する。シクロオクタテトラエンは 電子系だが非平面になって反芳香族性を避ける。シクロプロペニルアニオンは 電子で、対応するカチオンとは異なり芳香族ではない。
NMR と時間スケール
NMR は観測時間内で速く交換する環境を平均して見る。したがって「室温で 1 本、低温で 2 本」という情報から、低温で凍結される動的過程、ここでは椅子形反転を答えるのが自然である。
ジアゾ化転位
脂肪族アミンのジアゾ化では、 脱離により強い駆動力でカチオン性中間体が生じる。隣接するアルコールがある場合、C--C 結合の 1,2-移動とカルボニル形成が協奏的に進むセミピナコール転位として整理すると、どの結合が移動するかを説明しやすい。
速度論支配と熱力学支配
共役ジエンへの HX 付加では、低温では戻り反応が遅いため、より低い遷移状態を通る 1,2-付加物が主生成物になる。高温では可逆化して、より安定な内部アルケンをもつ 1,4-付加物が主生成物になる。
第7問 — 天然物合成の反応設計
保護基選択
A から B は、二つの隣接 OH を同時に保護する典型的なアセトニド化である。2,2-dimethoxypropane は酸存在下でアセトン等価体として働き、cis-ジオールから五員環アセタールを作る。塩基性条件やエポキシ化剤を選ぶ選択肢は、この変換と合わない。
ラクトールへの Grignard 付加
環状ヘミアセタールは閉じた形だけでなく、開いたアルデヒド形との平衡をもつ。強い炭素求核剤は開環アルデヒドを捕捉するため、結果として C--C 結合形成が進む。機構を書くときは「開環、カルボニル付加、酸処理」の順に分けると見通しがよい。
Johnson--Claisen 転位
オルトエステルと弱酸性加熱条件から、アリルアルコールの Claisen 転位を判断する。生成物は単なるエステル化体ではなく、C--C 結合形成を伴って一炭素伸長された -不飽和エステルである。
位置選択的アジド化
NaN/DMSO は を強く示唆する組合せである。二つの脱離基があるときは、立体障害の小さい一次炭素が優先的に置換される。問題文の語句を使うなら「 反応」「立体障害」「 反応や E1/E2 反応が不利」を明示する。
J から K の環化
K では窒素が環骨格に組み込まれ、同時にラクトンがラクタムへ変わっている。したがって、アミンによるアシル置換と、メシラートを使った分子内置換の二段階を考える。二級メシラートでの閉環は なので、a 位の立体化学は反転として説明する。
第8問 — 理想気体の状態量と混合
圧力一定での
ギブズエネルギーの基本式 を使うと、圧力一定では積分すべき量がすぐに決まる。与えられた は対数を含むので、 を部分積分または既知公式で処理する。
図1の落とし穴
容器イの全圧は だが、混合物中の各成分の分圧は である。理想気体混合物では、各成分の化学ポテンシャルやエントロピーは分圧で表される。したがって「全圧が違うからエントロピーも違う」と判断すると誤りになる。
混合エントロピー
混合では各成分が自分の初期体積から全体積へ広がると見ればよい。 では なので、, となる。この符号確認は答案の検算として有効である。
第9問 — 円環上の自由電子モデル
周期的境界条件
円環上の波動関数は、角度を だけ進めても同じ点を表すため一価でなければならない。この条件が量子数 を整数に制限する。井戸型ポテンシャルの境界条件と同じく、ここが量子化の出発点である。
縮退の意味
は だけに依存するので、 と は同じエネルギーをもつ。これは時計回りと反時計回りの運動が同じ運動エネルギーをもつことに対応する。スピンまで含めると、 には 2 個、 の組には合計 4 個の電子が入る。
選択則の導き方
を指数関数に直すと、相互作用演算子が角運動量量子数を または だけ変えることが見える。積分そのものを最後まで計算しなくても、指数関数の直交性から が分かる。
第10問 — タンパク質と核酸
ペプチド結合の平面性
アミドの C--N 結合は単結合として描かれることが多いが、窒素の孤立電子対がカルボニルへ非局在化するため部分二重結合性をもつ。回転障壁が大きいこと、通常 trans 配置が優先することも、この共鳴で説明できる。
疎水性アミノ酸
疎水性側鎖は炭化水素部分が大きく、水素結合性や電荷をもたない側鎖である。Val, Leu, Ile, Phe, Met, Ala などが典型例である。構造を描く設問では、 炭素の立体化学を省略しないことが重要である。
DTT が強い還元剤である理由
DTT は二つのチオールを同一分子内にもつため、ジスルフィド交換の後に安定な環状ジスルフィドを形成できる。この分子内環化が反応を生成物側へ引く。機構では、二回の求核攻撃と二つのタンパク質チオール生成を順に書く。
RNA と DNA の安定性
RNA のアルカリ加水分解は、外部の水酸化物が直接リン酸を攻撃するだけではなく、-OH 由来の分子内攻撃が速い点が本質である。DNA は -デオキシであるため、この近接した求核基を欠き、同じ条件で主鎖切断が著しく遅い。
第11問 — 力学と電気双極子
棒のつり合い
力のつり合いだけでは と は決まらないため、モーメントのつり合いを必ず使う。床との接点まわりにモーメントを取ると、床からの垂直抗力と摩擦力はモーメントを作らないので式が最も簡単になる。
角度の定義
本問の は棒と壁、つまり鉛直方向との角である。床との角を使って式を立てると と が入れ替わる。導出中で力の腕を , と明示すると、角度の取り違えを防げる。
双極子モーメントの原点依存性
全電荷がゼロでない系では、原点をずらすと の項が残るため、双極子モーメントは原点に依存する。中性分子で双極子モーメントを分子固有の量として扱えるのは、この項が消えるからである。