東京大学 院試 過去問 解答例
東大 理学系研究科 化学 2026年度 院試 解答例・解説
東京大学 理学系研究科 化学 2026年度の院試 過去問について、設問ごとの解法方針と確認点を解説。全6問収録の解答・解説PDFと併用できます。問題本文は含みません。
最終更新:
設問ごとの解法方針と確認点を公開しています。
続きの途中式・最終答は解答・解説PDFに収録しています。問題本文は含まれません。
第1問 — 物理化学基礎
分離定数の符号
動径方程式に現れる分離定数は,角運動量演算子の固有値を正に取ると になる。途中で角度項を反対側へ移すと一時的に符号が逆に見えるので, 最後に と照合するのが安全である。
期待値の検算
水素原子の一般公式 に を代入しても になる。積分で計算した値と一致するため,規格化定数や の体積要素を落としていないことが確認できる。
項記号の採点ポイント
一電子状態では が固定される。 はそれぞれ を表し, 添字 は から までを取る。 配置では microstate を数え上げると の三項に分かれる,という対応まで書くと答案が安定する。
第2問 — 物理化学標準
符号の扱い
速度定数は温度が上がると増えるので, なら になるべきである。この検算を使うと の符号を誤りにくい。
活性化エントロピーの読み方
二分子反応だから常に負,単分子反応だから常に正,という機械的な判断は危険である。 溶媒和されたイオンの反応では,遷移状態で溶媒の配向が緩むと全体系のエントロピーが増える。 反応物数の変化と溶媒和の変化を分けて説明すると,短い記述でも説得力が出る。
分配関数から Eyring 式へ
弱い反応座標振動の分配関数を高温近似すると となる。これが遷移状態理論で前因子 が現れる理由である。 指数因子の は活性錯合体と反応物の基底エネルギー差として定義しておくと, 障壁が高いほど速度が小さくなる向きが明確になる。
第3問 — 有機化学基礎
有機構造答案の書き方
この資料では公式の構造図を写さないため,構造は縮合構造式・反応名・立体化学の言葉で示した。 実際の答案では,1,2-付加体と1,4-付加体の二重結合位置,Friedel--Crafts の para 配向, ラクトン開環後の炭素数を図で明示すると採点者に伝わりやすい。
IR の識別
IR は官能基の有無で大半が決まる。ニトリルの鋭い吸収,カルボン酸の広い O--H, ケトンの強い C=O は優先的に拾う。芳香族炭化水素とフェノールを迷った場合は, 3200--3600 付近の広い O--H の有無を確認する。
Claisen 縮合の落とし穴
エステルの求核アシル置換では,アルコキシド脱離後に -ケトエステルの 水素がさらに引き抜かれる。この最後の脱プロトン化が平衡を生成物側へ進めるので, 酸処理の役割は単なる中和ではなく,エノラートを最終生成物へ戻す操作として書く。
第4問 — 有機化学標準
標準有機の答案方針
この型の問題では,構造全体を美しく描くことよりも,どの結合形成・官能基変換が起きたかを 一つずつ外さないことが重要である。Birch 還元,Lewis 酸促進 Diels--Alder,DIBAL 還元, エポキシ化,Mitsunobu 置換,ヒドラジン脱保護を対応させるだけで大部分の得点が決まる。
Step VI の説明
フッ化物による脱シリル化は「保護基を外すだけ」と書くと不足である。ここでは生じた アルコキシドが近接官能基へ分子内反応し,通常の酸性脱保護とは異なる立体経路へ入る。 どの面が立体的に塞がれているかを明記すると,反転生成物が出る理由を説明できる。
Step VIII の機構
ヒドラジンは phthalimide 保護基の切断剤であると同時に,後続のアミン生成を経て分子内 環化を可能にする。脱保護とイミン形成を一つの連続過程として整理し,付加,プロトン移動, 脱水を順に描けば,巻矢印答案として自然につながる。
第5問 — 無機・分析化学基礎
分析法の記述
定量法は「前処理,分離,検出,検量」の四語を入れると答案としてまとまる。HPLC-UV なら 保持時間で同定し,ピーク面積で定量する,という役割分担まで書く。
一次元マーデルング定数
符号交代級数の途中打ち切りである。中心イオンの両側に同じ距離のイオンがあるため係数 2 が 付く。これを忘れると答えが半分になる。
18電子則
二核 Mn 錯体では金属--金属結合の 1 電子寄与を各金属に数える。Fe と Ni の単核カルボニルは 中性金属の価電子数に CO の 2 電子供与を足すだけでよい。
第6問 — 無機・分析化学標準
Nernst 式の向き
ここでは標準還元電位が与えられているので,半反応は必ず還元向きで書く。 では固体 Cd の活量は 1 で,反応商は である。これを整理すると になる。
LFSE とペアリング
LFSE だけなら 一個あたり , 一個あたり を足す。 低スピン では三つの電子対ができるため,ペアリングエネルギーを として併記する。 問題によっては自由イオン基準との差を問う場合があるので,ここでは採点者が追えるように 電子配置を明記した。
スペクトルの理由
長波長は小さな分裂,大きなモル吸光係数は選択則の緩みで判断する。同じ Co(II) でも 配位子場の大きさと対称性が同時に変わるため,二つの問いを別々に説明するのが重要である。