東京大学 院試 過去問 解答例
東大 理学系研究科 化学 2025年度 院試 解答例・解説
東京大学 理学系研究科 化学 2025年度の院試 過去問について、設問ごとの解法方針と確認点を解説。全6問収録の解答・解説PDFと併用できます。問題本文は含みません。
最終更新:
設問ごとの解法方針と確認点を公開しています。
続きの途中式・最終答は解答・解説PDFに収録しています。問題本文は含まれません。
第1問 — 物理化学基礎
分子軌道の検算
第2周期二原子分子では,酸素・フッ素側とホウ素・炭素・窒素側で と の順序が入れ替わる。これは単なる暗記ではなく, 2s--2p 混合の強さで決まる。原子番号が小さいほど 2s と 2p が近く,混合による 反発が大きい,と説明できると記述問題で強い。
速度式の定義
総括反応の速度 と,反応物 の消費速度 は係数 2 だけ異なる。 答案ではどちらを速度と呼んだかを一言添えると,量論係数による減点を避けやすい。
圧力効果
ダイヤモンドの方がモル体積が小さいため,高圧で が負に働く。 この符号を物理的に確認しておくと,必要圧を負にしてしまう典型ミスを防げる。
第2問 — 物理化学標準
力の定数の符号
第二次摂動項は通常の基底状態安定化と同じで,分母が負になる。したがって 励起状態が近いほどエネルギー面は柔らかくなる。ここを正にしてしまうと 「混合が強いほど硬くなる」という物理的に逆の結論になる。
擬 Jahn--Teller 的な見方
この問題は,構造変形によって電子基底状態に励起状態が混ざり,ポテンシャル面の曲率が 下がるという擬 Jahn--Teller 効果の最小模型として読める。縮退がなくても,近接準位と 対称性の合う振動があれば結合は弱くなる。
対称性選択則
では全対称表現は である。直積に が含まれるかだけを見ればよい。 軌道図の矢印やエネルギー順序に目を奪われるより,HOMO と LUMO の既約表現を拾い, 必要な を直積で決めるのが最短である。
第3問 — 有機化学基礎
カルボニルの比較
IR の 伸縮は「共鳴供与が強いほど低い,電子求引性置換基が強いほど高い」 と整理する。酸塩化物,カルボン酸,アミドを個別暗記するより,結合次数で説明する方が 他の酸誘導体にも応用できる。
アセト酢酸エステル合成
活性メチレンのアルキル化後に,けん化・酸性加熱で脱炭酸する。このとき 部分は最終生成物から消え,残るのはメチルケトンである。 アルキル基がどちら側へ残るかを -ケト酸の形で一度書くと誤りにくい。
立体化学の採点
Mitsunobu 反応は「反転」,ヒドロホウ素化は「syn 付加かつ anti-Markovnikov」, benzylic racemization は「平面カチオン」を明記する。生成物名だけでは立体化学の点が 落ちやすい。
第4問 — 有機化学標準
Cope 転位の描き方
Cope 転位は結合の付け替えだけでなく,遷移状態の椅子型・舟型で立体化学が変わる。 置換基を擬エクアトリアルに置いた椅子型を先に描き,そこから生成物の を読むと,可能な異性体を機械的に列挙できる。
原子効率
原子効率の議論では,触媒は分母に入れないが,量論酸化剤や脱炭酸で捨てる原子は無視できない。 「短工程だから必ず原子効率が高い」とは限らない点がこの設問の狙いである。
ペリ環状反応の符号規則
熱的電子環状反応では 電子が共旋, 電子が逆旋である。光反応では逆になる。 この問題では熱条件が明示されているので,まず電子数を数え,次に置換基の相対配置を追う。
第5問 — 無機・分析化学基礎
Latimer 図
隣り合う電位を単純平均してはいけない。移動電子数を掛けた を足し合わせるので,電子数重み付き平均になる。
EDTA 滴定
EDTA の全濃度と,実際に錯形成へ効く 濃度は違う。 pH が下がると が急減し,見かけの安定度定数も同じ割合で下がる。 酸性で Ca の EDTA 滴定が難しい理由はこの点に集約される。
当量点の近似
当量点では遊離 Ca と遊離 EDTA が同じ量 だけ生じるので と置ける。過剰 EDTA 側では,余った EDTA 濃度で割る形に変わる。
第6問 — 無機・分析化学標準
18電子則
金属--金属結合がある場合は,各金属に 1 電子ずつ寄与すると数える。 を単核錯体のように数えると 17 電子で止まるので, Mn--Mn 結合を忘れない。
磁気モーメント
スピンのみの近似では である。 なら 0, なら約 1.7 から 2 程度, なら約 5.9 であり, 観測値と不対電子数を対応させると錯体の同定が速い。
色の説明
「配位子が変わったから色が変わる」だけでは弱い。NCS 錯体では LMCT が可視域に強く, F 錯体では LMCT が高エネルギーへ移り,残る -- 遷移が弱い,という二段階で説明する。