院試hub

広島大学 院試 過去問 解答例

広島大 先進理工系科学研究科 物理学プログラム 物理 2026年度 一般A 院試 過去問 解答例・解説(全4問)

全4問。電磁気学・回路1問・熱・統計力学1問・量子力学1問。テーマタグは6件(固有値・固有ベクトル・調和振動子・分配関数)。2025年度 一般Aと共通のテーマは固有値・固有ベクトル・調和振動子・分配関数。

最終更新:

このページで公開
解説4問と大問1問の途中式・最終答(全4問)
解答PDFに収録
途中式と最終答(最終答つき4問)
問題本文
非収録

広島大 物理 2026年度 一般A 院試 過去問の出題内容(全4問)

この4問の分野は電磁気学・回路1問・熱・統計力学1問・量子力学1問・力学1問です。

大問分野主題解説の小見出し最終答
第1問力学—規準振動の見方 / 質量行列を落とさないあり
第2問電磁気学・回路電磁気学微分形から積分形への要点 / 直線電流の磁場あり
第3問量子力学—相対運動への分離 / 接続条件の意味あり
第4問熱・統計力学—古典分配関数の規格化 / 高温極限の意味あり

2026年度 一般Aの出題テーマと、同じテーマを出した他大学・他年度

この年度は3問に6テーマが出ています。

前年度(2025年度 一般A)との違い

大問数
2025年度 一般A 4問 → 2026年度 一般A 4問
2026年度 一般Aで新しく出たテーマ
井戸型ポテンシャル
2025年度 一般Aのページを見る

第1問 — 力学

規準振動の見方

この系のばねポテンシャルは、座標の絶対値ではなく隣り合う質点の相対変位だけに依存する。 したがって三つの質点が同じだけ動く (A1,A2,A3)∝(1,1,1) (A_1,A_2,A_3)\propto (1,1,1) はばねを伸び縮みさせない。このため ω=0\omega=0 の並進モードが現れる。 ただし、重心を並進運動させない条件を課すと、このモードの振幅は物理的にはゼロに取られる。

質量行列を落とさない

よくある誤りは、すべての行で同じ質量を使ってしまうことである。 運動方程式では x1x_1 の慣性項だけが Mx¨1M\ddot{x}_1、残りが mx¨2,mx¨3m\ddot{x}_2,m\ddot{x}_3 になる。 この違いが、ω32=k/m+2k/M\omega_3^2=k/m+2k/M の 2k/M2k/M に直接反映される。

モードの物理像

ω22=3k/m\omega_2^2=3k/m のモードでは A2=−A3A_2=-A_3 なので、軽い二質点の重心は動かない。 その結果、質量 MM の質点には左右から同じ大きさのばね力が逆向きに働き、静止できる。 一方、ω3\omega_3 のモードでは軽い二質点が同位相で動き、重い質点が逆向きに動く。 関係式 MA1+mA2+mA3=0 M A_1+mA_2+mA_3=0 も満たしており、重心固定の条件と整合している。

エネルギー計算の確認

エネルギーを求めるときは、規準振動の振幅比を代入してから最大変位の瞬間を考えるのが最短である。 ω3\omega_3 では A2=A3A_2=A_3 なので、軽い二質点間のばねは伸びない。 残る二本のばねが同じだけ伸びるため Umax⁡=k2(A1−A2)2+k2(A3−A1)2=k(A1−A2)2 U_{\max} =\frac{k}{2}(A_1-A_2)^2+\frac{k}{2}(A_3-A_1)^2 =k(A_1-A_2)^2 となる。係数 1/21/2 を二本分で打ち消す点が答案上の落とし穴である。

解答

各座標 x1,x2,x3x_1,x_2,x_3 は平衡位置から円周に沿って測った微小変位とする。 質量 MM の質点を 11、質量 mm の質点を 2,32,3 とすれば、運動エネルギーと ばねの弾性エネルギーは T=12Mx˙12+12mx˙22+12mx˙32, T=\frac12 M\dot{x}_1^2+\frac12 m\dot{x}_2^2+\frac12 m\dot{x}_3^2, U=k2{(x1−x2)2+(x2−x3)2+(x3−x1)2}. U=\frac{k}{2}\{(x_1-x_2)^2+(x_2-x_3)^2+(x_3-x_1)^2\}. したがってラグランジアンは L=T−U. L=T-U.

ラグランジュ方程式より Mx¨1+k(2x1−x2−x3)=0,mx¨2+k(−x1+2x2−x3)=0,mx¨3+k(−x1−x2+2x3)=0. \begin{aligned} M\ddot{x}_1+k(2x_1-x_2-x_3)&=0,\\ m\ddot{x}_2+k(-x_1+2x_2-x_3)&=0,\\ m\ddot{x}_3+k(-x_1-x_2+2x_3)&=0. \end{aligned} この式へ xq(t)=Aqeiωtx_q(t)=A_q e^{i\omega t} を代入すると B(A1A2A3)eiωt=(000), B \begin{pmatrix}A_1\\ A_2\\ A_3\end{pmatrix}e^{i\omega t} = \begin{pmatrix}0\\0\\0\end{pmatrix}, B=(2k−Mω2−k−k−k2k−mω2−k−k−k2k−mω2). B= \begin{pmatrix} 2k-M\omega^2 & -k & -k\\ -k & 2k-m\omega^2 & -k\\ -k & -k & 2k-m\omega^2 \end{pmatrix}.

非自明解の条件は det⁡B=0\det B=0 である。因数分解すると det⁡B=−Mm2ω2(ω2−3km)(ω2−km−2kM). \det B = -Mm^2\omega^2 \left(\omega^2-\frac{3k}{m}\right) \left(\omega^2-\frac{k}{m}-\frac{2k}{M}\right). よって、与えられている ω3=k/m+2k/M\omega_3=\sqrt{k/m+2k/M} 以外の二つは ω1=0,ω2=3km. \omega_1=0,\qquad \omega_2=\sqrt{\frac{3k}{m}} .

ω=ω2\omega=\omega_2 では、行列方程式から A1=0,A2=−A3 A_1=0,\qquad A_2=-A_3 を得る。すなわち、重い質点は動かず、二つの軽い質点が同じ振幅で互いに逆位相に振動する規準振動である。

次に、ω=ω3\omega=\omega_3 の規準振動を用いる。このモードでは対称性から A2=A3 A_2=A_3 とおける。行列方程式に ω32=k/m+2k/M\omega_3^2=k/m+2k/M を代入すると A2=A3=−M2mA1. A_2=A_3=-\frac{M}{2m}A_1. 実変位を xq=Aqcos⁡ω3tx_q=A_q\cos\omega_3 t と見れば、最大変位の瞬間には運動エネルギーがゼロなので、全力学的エネルギーは弾性エネルギーだけでよい。 E=k2{(A1−A2)2+(A2−A3)2+(A3−A1)2}=k(A1−A2)2=k(1+M2m)2A12. \begin{aligned} E &=\frac{k}{2}\{(A_1-A_2)^2+(A_2-A_3)^2+(A_3-A_1)^2\}\\ &=k(A_1-A_2)^2 =k\left(1+\frac{M}{2m}\right)^2A_1^2. \end{aligned}

最終答

L=12Mx˙12+12mx˙22+12mx˙32−k2{(x1−x2)2+(x2−x3)2+(x3−x1)2},B=(2k−Mω2−k−k−k2k−mω2−k−k−k2k−mω2),ω1=0,ω2=3km,ω2 のモードは A1=0, A2=−A3,Eω3=k(1+M2m)2A12=k(M+2m)24m2A12. \begin{gathered} L=\frac12 M\dot{x}_1^2+\frac12 m\dot{x}_2^2+\frac12 m\dot{x}_3^2 -\frac{k}{2}\{(x_1-x_2)^2+(x_2-x_3)^2+(x_3-x_1)^2\},\\ B= \begin{pmatrix} 2k-M\omega^2 & -k & -k\\ -k & 2k-m\omega^2 & -k\\ -k & -k & 2k-m\omega^2 \end{pmatrix},\\ \omega_1=0,\qquad \omega_2=\sqrt{\frac{3k}{m}},\\ \omega_2\text{ のモードは }A_1=0,\ A_2=-A_3,\\ E_{\omega_3} =k\left(1+\frac{M}{2m}\right)^2A_1^2 =\frac{k(M+2m)^2}{4m^2}A_1^2. \end{gathered}

第2問 — 電磁気学

微分形から積分形への要点

導出で必要なのは、ストークスの定理と電流密度の面積分の意味である。 ∫Si⋅dS \int_S\boldsymbol{i}\cdot d\boldsymbol{S} は面 SS を貫く電流の総和であり、向きは dSd\boldsymbol{S} の向きで符号づけられる。 この向きを閉曲線 CC の周回方向と右ねじの関係にそろえることを書くと、符号の扱いまで明確な答案になる。

直線電流の磁場

無限直線電流では、磁場は軸を中心とする円周方向で、同じ半径上では大きさが一定である。 導体内部では包む電流が面積比に比例するため B∝rB\propto r になり、外部では全電流を包むため B∝1/rB\propto 1/r になる。 r=ar=a で両式は B(a)=μ0I12πa B(a)=\frac{\mu_0 I_1}{2\pi a} に一致するので、境界で不連続にならないことも確認できる。

電子一個の力と導線全体の力

電子の電荷は負なので、ローレンツ力は −e ve×B-e\,\boldsymbol{v}_e\times\boldsymbol{B} である。 ただし導線全体の力を出すときは、電子一個ずつ数えるより 辺の力=I2LB \text{辺の力}=I_2 L B にまとめると速い。 問題では電子数を尋ねているため、 Ne=I2Le∣ve∣ N_e=\frac{I_2L}{e|\boldsymbol{v}_e|} を経由して、Nee∣ve∣B=I2LBN_e e|\boldsymbol{v}_e|B=I_2LB と示すのがよい。

回路に働く合力

近い縦辺と遠い縦辺では、電流の向きが逆なので力の向きも逆になる。 しかし磁場は近い辺の方が大きいので、合力は近い辺の力の向きに残る。 上辺と下辺に働く力は上下方向で互いに打ち消し、水平合力には寄与しない。 ここを言葉で補うと、単に式を書くだけの答案より採点者に伝わりやすい。

誘導起電力の向き

回路を遠ざけると、回路を貫く外部磁束の大きさは小さくなる。 レンツの法則は「変化を妨げる向き」に誘導電流が流れるという法則なので、減少する磁束と同じ向きの磁場を回路自身が作る。 この配置ではそれが時計回りである。 起電力の大きさだけでなく向きも問われているため、磁束の増減を一文で説明しておくことが重要である。

電磁気学の途中式・最終答をPDFで見る

第3問 — 量子力学

相対運動への分離

この問題の本質は、相互作用が ∣x1−x2∣|x_1-x_2| だけに依存する点にある。 重心座標 XX は自由粒子のように分離し、束縛状態の構造は相対座標 xx の一次元井戸型ポテンシャルに帰着される。 共役運動量を p=p1−p22 p=\frac{p_1-p_2}{2} とする係数を間違えると、相対運動の運動エネルギーが p2/mp^2/m にならず、以後の k,qk,q の定義とも合わなくなる。

接続条件の意味

ポテンシャルは有限の段差なので、波動関数だけでなく一階微分も連続である。 無限壁では波動関数をゼロにするが、有限井戸では外側に指数関数的なしみ出しが残る。 したがって外側の形を e−kxe^{-kx} と置き、内側の三角関数と値・傾きを合わせるのが標準手順である。

偶奇の式の覚え方

偶関数では内側が cos⁡qx\cos qx なので、対数微分は ϕ′(a)ϕ(a)=−qtan⁡qa. \frac{\phi'(a)}{\phi(a)}=-q\tan qa. 外側 e−kxe^{-kx} の対数微分は −k-k であるから k=qtan⁡qak=q\tan qa となる。 奇関数では内側が sin⁡qx\sin qx なので ϕ′(a)ϕ(a)=qcot⁡qa \frac{\phi'(a)}{\phi(a)}=q\cot qa となり、外側と合わせて k=−qcot⁡qak=-q\cot qa を得る。 符号を逆にしやすいので、対数微分で確認すると安定する。

基底状態が偶になる理由

一次元の基底状態は節をもたない。 節があると、波動関数の曲率が大きくなり、運動エネルギーが上がる。 奇パリティの状態は x=0x=0 で必ずゼロになるため、節なしの偶パリティ状態より低くはなれない。 井戸が浅くて奇の束縛状態が存在しない場合でも、偶の束縛状態は最低状態である。

スピンと反対称性

交換 x1↔x2x_1\leftrightarrow x_2 は相対座標では x→−xx\to -x に対応する。 空間波動関数が偶なら空間部分は対称である。 電子全体の波動関数は反対称でなければならないので、スピン部分は反対称、すなわち一重項になる。 「偶パリティだからスピン三重項」と逆に書く誤りが多いので、空間部分とスピン部分の対称性の積が反対称になることを必ず確認する。

量子力学の途中式・最終答をPDFで見る

第4問 — 熱・統計力学

古典分配関数の規格化

位相空間積分では dp dxdp\,dx をそのまま積分するのではなく、状態数の規格化として hh で割る。 ガウス積分の積は 2πmβ2πβmω2=2πβω \sqrt{\frac{2\pi m}{\beta}} \sqrt{\frac{2\pi}{\beta m\omega^2}} =\frac{2\pi}{\beta\omega} となり、h=2πℏh=2\pi\hbar を使って 1/(βℏω)1/(\beta\hbar\omega) に整理される。 この形にしておくと量子結果の高温極限と比較しやすい。

高温極限の意味

量子論ではエネルギー間隔が ℏω\hbar\omega で離散的である。 熱エネルギー kBTk_{\mathrm B}T がこの間隔より十分大きいと、多数の準位が熱的に占有され、準位の離散性が見えにくくなる。 そのため ZqZ_{\mathrm{q}} は古典分配関数 ZcZ_{\mathrm{c}} に近づく。

平均エネルギーの確認

古典結果 ⟨εc⟩=kBT\langle\varepsilon_{\mathrm{c}}\rangle=k_{\mathrm B}T は、運動エネルギーと位置エネルギーがそれぞれ 12kBT\frac12 k_{\mathrm B}T をもつという等分配則と一致する。 量子結果は高温で ℏω2+ℏωex−1≃ℏω2+ℏω(1x−12)=kBT \frac{\hbar\omega}{2} +\frac{\hbar\omega}{e^x-1} \simeq \frac{\hbar\omega}{2} +\hbar\omega\left(\frac{1}{x}-\frac12\right) =k_{\mathrm B}T となり、古典論に戻る。 低温では励起が凍結し、零点エネルギー ℏω/2 \hbar\omega/2 だけが残る。

比熱のふるまい

比熱は温度で変化するエネルギー部分だけに反応する。 零点エネルギーは温度に依存しないので比熱には寄与しない。 低温では C∼NkBx2e−xC\sim Nk_{\mathrm B}x^2e^{-x} と指数関数的に小さく、高温では C→NkB C\to Nk_{\mathrm B} となる。これは NN 個の一次元調和振動子に対する古典的な等分配則の結果である。

エントロピーの極限

低温で S→0S\to 0 となるのは、基底状態だけが占有されるためであり、熱力学第三法則に対応する。 高温では利用できる量子状態の数が温度とともに増えるため、 SH≃NkB[1+log⁡kBTℏω] S_{\mathrm{H}}\simeq Nk_{\mathrm B}\left[1+\log\frac{k_{\mathrm B}T}{\hbar\omega}\right] のように対数的に増加する。 高温極限で FHF_{\mathrm{H}} 自体は有限値へ収束せず、主要項として NkBTlog⁡(ℏω/kBT)Nk_{\mathrm B}T\log(\hbar\omega/k_{\mathrm B}T) をもつ点も押さえておきたい。

熱・統計力学の途中式・最終答をPDFで見る

広島大 物理 院試 過去問の収録6年度