院試hub

広島大学 院試 過去問 解答例

広島大 先進理工系科学研究科 物理学プログラム 物理 2022年度 一般A 院試 過去問 解答例・解説(全4問)

全4問。電磁気学・回路1問・熱・統計力学1問・量子力学1問。テーマタグは5件(固有値・固有ベクトル・剛体の回転運動・分配関数)。2021年度 一般Aと共通のテーマは分配関数。

最終更新:

このページで公開
解説4問と大問1問の途中式・最終答(全4問)
解答PDFに収録
途中式と最終答(最終答つき4問)
問題本文
非収録

広島大 物理 2022年度 一般A 院試 過去問の出題内容(全4問)

この4問の分野は電磁気学・回路1問・熱・統計力学1問・量子力学1問・力学1問です。

大問分野主題解説の小見出し最終答
第1問力学倒立振子付き台車符号の決め方 / 運動エネルギーの構成あり
第2問電磁気学・回路鏡像電荷と誘電体境界鏡像電荷法の役割 / 誘導電荷を積分する意味あり
第3問量子力学角運動量の昇降演算子昇降演算子の意味 / 範囲を決める決定打あり
第4問熱・統計力学局所磁場中の古典気体分配関数の分解 / 密度が一様でない理由あり

この年度の解説には試験で書くべきポイント1件・典型ミス1件が付いています。

2022年度 一般Aの出題テーマと、同じテーマを出した他大学・他年度

この年度は3問に5テーマが出ています。

前年度(2021年度 一般A)との違い

大問数
2021年度 一般A 4問 → 2022年度 一般A 4問
両年度に出たテーマ
分配関数
2021年度 一般Aのページを見る

第1問 — 力学:倒立振子付き台車

符号の決め方

この振子は支点から上に伸びる倒立振子である。したがって EP=(mgℓ/2)cos⁡θE_P=(mg\ell/2)\cos\theta は θ=0\theta=0 で最大になり,重力だけでは θ=0\theta=0 から外れる方向に動く。この符号を取り違えると,安定な普通の振子の式になってしまう。

運動エネルギーの構成

棒の運動エネルギーは,重心の並進エネルギーと重心まわりの回転エネルギーを足すのが最も安全である。 支点まわりの慣性モーメントだけを使うと,支点が加速している効果を落としやすい。混合項 (mℓ/2)x˙θ˙cos⁡θ(m\ell/2)\dot{x}\dot{\theta}\cos\theta は,棒の重心の水平速度に台車の速度と回転による速度が同時に入るために現れる。

線形化で残す項

小角近似では sin⁡θ≃θ\sin\theta\simeq\theta,cos⁡θ≃1\cos\theta\simeq1 だが, θ˙2sin⁡θ\dot{\theta}^2\sin\theta は θ\theta と θ˙\dot{\theta} の積を含む非線形項なので捨てる。 一方,θ¨\ddot{\theta} は小さい角度そのものではないので捨ててはいけない。

試験で書くべきポイント

答案では,まず重心座標を書き,そこから速度を微分して EKE_K を作る流れを示すと部分点を取りやすい。 最後の外力の議論では,単に「右へ押す」と書くだけでなく, θ¨=0\ddot{\theta}=0 となる条件 F=(M+m)gθF=(M+m)g\theta と,戻すには不等号をどちらにするかまで書くと物理的な判断が明確になる。

解答

支点を台車に固定された点とし,棒の重心を GG とする。棒は鉛直上向きから角度 θ\theta だけ傾いているので, xG=x+ℓ2sin⁡θ,yG=ℓ2cos⁡θ x_G=x+\frac{\ell}{2}\sin\theta,\qquad y_G=\frac{\ell}{2}\cos\theta とおける。

  1. 棒の中心から棒に沿った座標を ss とすると,線密度は m/ℓm/\ell である。したがって I=∫−ℓ/2ℓ/2s2 mℓ ds=mℓ[s33]−ℓ/2ℓ/2=mℓ212. I=\int_{-\ell/2}^{\ell/2}s^2\,\frac{m}{\ell}\,ds =\frac{m}{\ell}\left[\frac{s^3}{3}\right]_{-\ell/2}^{\ell/2} =\frac{m\ell^2}{12}.
  2. 重心速度は x˙G=x˙+ℓ2θ˙cos⁡θ,y˙G=−ℓ2θ˙sin⁡θ \dot{x}_G=\dot{x}+\frac{\ell}{2}\dot{\theta}\cos\theta,\qquad \dot{y}_G=-\frac{\ell}{2}\dot{\theta}\sin\theta であるから, vG2=x˙2+ℓx˙θ˙cos⁡θ+ℓ24θ˙2. v_G^2=\dot{x}^2+\ell\dot{x}\dot{\theta}\cos\theta +\frac{\ell^2}{4}\dot{\theta}^2 . よって台車の並進運動,棒の重心運動,棒の重心まわりの回転を加えると EK=12(M+m)x˙2+mℓ2x˙θ˙cos⁡θ+mℓ26θ˙2. E_K =\frac{1}{2}(M+m)\dot{x}^2 +\frac{m\ell}{2}\dot{x}\dot{\theta}\cos\theta +\frac{m\ell^2}{6}\dot{\theta}^2 .
  3. 位置エネルギーの原点は任意である。支点の高さを基準に取れば EP=mgyG=mgℓ2cos⁡θ. E_P=mg y_G=\frac{mg\ell}{2}\cos\theta .
  4. したがってラグランジアンは L=EK−EP=12(M+m)x˙2+mℓ2x˙θ˙cos⁡θ+mℓ26θ˙2−mgℓ2cos⁡θ. L=E_K-E_P =\frac{1}{2}(M+m)\dot{x}^2 +\frac{m\ell}{2}\dot{x}\dot{\theta}\cos\theta +\frac{m\ell^2}{6}\dot{\theta}^2 -\frac{mg\ell}{2}\cos\theta .
  5. xx 方向の一般化力を FF,θ\theta 方向の一般化力を 00 とする。Euler--Lagrange 方程式より (M+m)x¨+mℓ2(θ¨cos⁡θ−θ˙2sin⁡θ)=F, (M+m)\ddot{x} +\frac{m\ell}{2}\left(\ddot{\theta}\cos\theta-\dot{\theta}^2\sin\theta\right) =F, mℓ2x¨cos⁡θ+mℓ23θ¨−mgℓ2sin⁡θ=0. \frac{m\ell}{2}\ddot{x}\cos\theta +\frac{m\ell^2}{3}\ddot{\theta} -\frac{mg\ell}{2}\sin\theta =0 .
  6. θ\theta が十分小さいとき,sin⁡θ≃θ\sin\theta\simeq\theta,cos⁡θ≃1\cos\theta\simeq1 とし, θ˙2sin⁡θ\dot{\theta}^2\sin\theta は高次の微小量として捨てる。線形化された方程式は (M+m)x¨+mℓ2θ¨=F,mℓ2x¨+mℓ23θ¨−mgℓ2θ=0. (M+m)\ddot{x}+\frac{m\ell}{2}\ddot{\theta}=F,\qquad \frac{m\ell}{2}\ddot{x}+\frac{m\ell^2}{3}\ddot{\theta} -\frac{mg\ell}{2}\theta=0 . x¨\ddot{x} を消去すると F+ℓ(4M+m)6θ¨−(M+m)gθ=0, F+\frac{\ell(4M+m)}{6}\ddot{\theta}-(M+m)g\theta=0, すなわち θ¨=6ℓ(4M+m){(M+m)gθ−F}. \ddot{\theta} =\frac{6}{\ell(4M+m)}\{(M+m)g\theta-F\}.
  7. θ>0\theta>0 に少し傾いているとき,F=0F=0 なら上式から θ¨>0\ddot{\theta}>0 となり, 棒はさらに倒れる向きに加速する。倒れ始めを止めて角加速度をちょうど 00 にするには F=(M+m)gθ F=(M+m)g\theta とすればよい。より強く戻すなら,θ>0\theta>0 では F>(M+m)gθF>(M+m)g\theta として θ¨<0\ddot{\theta}<0 にする。θ<0\theta<0 では同じ式に従って力の向きが反対になる。

最終答

% EK=12(M+m)x˙2+mℓ2x˙θ˙cos⁡θ+mℓ26θ˙2E_K=\dfrac12(M+m)\dot{x}^2+\dfrac{m\ell}{2}\dot{x}\dot{\theta}\cos\theta +\dfrac{m\ell^2}{6}\dot{\theta}^2, EP=mgℓ2cos⁡θE_P=\dfrac{mg\ell}{2}\cos\theta, L=EK−EPL=E_K-E_P。外力 FF があるとき (M+m)x¨+mℓ2(θ¨cos⁡θ−θ˙2sin⁡θ)=F,mℓ2x¨cos⁡θ+mℓ23θ¨−mgℓ2sin⁡θ=0. (M+m)\ddot{x}+\frac{m\ell}{2}(\ddot{\theta}\cos\theta-\dot{\theta}^2\sin\theta)=F,\quad \frac{m\ell}{2}\ddot{x}\cos\theta+\frac{m\ell^2}{3}\ddot{\theta}-\frac{mg\ell}{2}\sin\theta=0. 小振幅では θ¨=6ℓ(4M+m){(M+m)gθ−F}. \ddot{\theta}=\frac{6}{\ell(4M+m)}\{(M+m)g\theta-F\}. 倒れ始めを止める最小条件は,θ>0\theta>0 に対して F=(M+m)gθF=(M+m)g\theta,戻すにはそれより大きい +x+x 向きの力。

第2問 — 電磁気学:鏡像電荷と誘電体境界

鏡像電荷法の役割

鏡像電荷は,計算したい領域の境界条件を満たすための仮想電荷であり,導体の内部や誘電体側に実在する電荷ではない。 導体の場合は,z=0z=0 のポテンシャルを全ての rr で 00 にするため,鏡像電荷の大きさが必ず −q-q になる。

誘導電荷を積分する意味

導体面に誘起された電荷密度を積分すると −q-q になる。これは,無限導体平板が点電荷から出る電束の下半分を受け止めることと対応している。 点 A の電場を積分で求めると鏡像電荷の結果と一致するので,表面電荷密度の符号と係数の良い検算になる。

仕事の半分を忘れない

電荷と導体の相互作用エネルギーは,単純な qq と −q-q の二点電荷対のエネルギーではなく,その半分である。 ここでは力を積分しているので半分は自動的に入る。ポテンシャルエネルギーから求める場合は U(z)=12qϕimage=−q2/(16πϵ0z)U(z)=\frac12 q\phi_{\mathrm{image}}=-q^2/(16\pi\epsilon_0 z) と書くと安全である。

誘電体境界での典型ミス

境界条件は EzE_z そのものの連続ではなく,ϵEz\epsilon E_z の連続である。 また,誘電体中の電場式には係数 1/(4πϵ)1/(4\pi\epsilon) が入る。ここを 1/(4πϵ0)1/(4\pi\epsilon_0) のままにすると, Q′′Q'' の係数が逆になりやすい。

電磁気学:鏡像電荷と誘電体境界の途中式・最終答をPDFで見る

第3問 — 量子力学:角運動量の昇降演算子

昇降演算子の意味

[L^z,L^±]=±ℏL^±[\hat{L}_z,\hat{L}_\pm]=\pm\hbar\hat{L}_\pm は, L^±\hat{L}_\pm が L^z\hat{L}_z の固有値を ±ℏ\pm\hbar だけ変えることを表している。 ただし,最上位・最下位では作用後のベクトルが零ベクトルになるため,無限に上げ下げできるわけではない。

範囲を決める決定打

固有値 μ\mu の上限と下限は,規格化条件ではなくノルムの非負性から出る。 ⟨v∣v⟩\langle v|v\rangle と ⟨w∣w⟩\langle w|w\rangle の両方を使う必要があり,片方だけでは上限または下限の一方しか得られない。

縮退度の読み替え

通常の記法で λ=j(j+1)ℏ2\lambda=j(j+1)\hbar^2 と書けば g=2j+1 g=2j+1 である。本問の式 g=1+4λ/ℏ2g=\sqrt{1+4\lambda/\hbar^2} はこれを λ\lambda だけで表したものになっている。 縮退度 22 は j=1/2j=1/2 に対応し,2π2\pi 回転で状態ベクトルが −1-1 倍される。

答案での注意

最後の位相は μ=+ℏ/2\mu=+\hbar/2 でも −ℏ/2-\hbar/2 でも −1-1 になる。 e−i2πμ/ℏe^{-i2\pi\mu/\hbar} を書かずに「一周だから元に戻る」とすると,半整数角運動量の本質を落としてしまう。

量子力学:角運動量の昇降演算子の途中式・最終答をPDFで見る

第4問 — 熱統計力学:局所磁場中の古典気体

分配関数の分解

この問題では,位置とスピンが磁場を通して結合しているが,運動量積分は通常の理想気体と同じである。 空間を x<0x<0 と x≥0x\ge0 に分け,それぞれでスピン和を取ると,一粒子分配関数の因子 1+cosh⁡b1+\cosh b が自然に現れる。

密度が一様でない理由

仕切り板は粒子を止めないので,密度差は壁によるものではなく,右半分だけに磁場エネルギー −σμB-\sigma\mu B があることによって生じる。x≥0x\ge0 では低エネルギースピンの重みが増えるため, 粒子数密度も cosh⁡b\cosh b 倍だけ大きくなる。

断熱消磁の符号

磁場を弱めると,スピンと位置の取り得る状態数が増え,そのままではエントロピーが増える。 断熱過程ではエントロピーを一定に保つ必要があるため,並進運動の温度を下げて熱的な状態数を減らす。 これが dB<0dB<0 で dT<0dT<0 になる物理的理由である。

典型ミス

N!N! を忘れるとエントロピーの対数内が正しくならない。また,μ\mu はボーア磁子であって化学ポテンシャルではない。 エントロピーを微分するときは b=μB/(kT)b=\mu B/(kT) が TT に依存するため, ln⁡(1+cosh⁡b)\ln(1+\cosh b) の微分だけでなく,−bsinh⁡b/(1+cosh⁡b)-b\sinh b/(1+\cosh b) の項まで含めて扱う必要がある。

熱統計力学:局所磁場中の古典気体の途中式・最終答をPDFで見る

広島大 物理 院試 過去問の収録6年度