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東京科学大学 院試 過去問 解答例

東京科学大 理学院 化学系 化学系 専門科目 2023年度 院試 解答例・解説

東京科学大学 理学院 化学系 化学系 専門科目 2023年度の院試 過去問について、設問ごとの解法方針と確認点を解説。全11問収録の解答・解説PDFと併用できます。問題本文は含みません。

最終更新:

設問ごとの解法方針と確認点を公開しています。

続きの途中式・最終答は解答・解説PDFに収録しています。問題本文は含まれません。

1 — 原子の周期性とボルン・ハーバーサイクル

イオン化エネルギーの見方

同じ周期ではおおむね右ほど有効核電荷が大きくなり、イオン化エネルギーは増加する。ただし N と O では、N の 2p32p^3 半充填が比較的安定で、O の 2p42p^4 では同一軌道内の電子反発を受ける電子を抜けるため、N>ON>O となる。He, Li+^+, Be2+^{2+} はすべて閉殻または水素様に近い粒子として、核電荷が大きいほど電子は強く束縛される。

結合エネルギーの典型的な落とし穴

「原子が小さいほど結合が強い」とだけ考えると F--F を過大評価する。F 原子は小さく孤立電子対が近接するため、結合電子対以外の反発が無視できない。この反発を一言添えると、C--C, Cl--Cl, F--F の序列の説明として十分である。

符号の整理

本問では U,H,I,E,F,DU,H,I,E,F,D がいずれも「絶対値」として定義されている。したがって電子親和力と格子形成は発熱として E-E, U-U、生成熱は F-F と置く。ここで符号を混ぜると DD の式の FF の符号を誤りやすい。

続きの解答(途中式・最終答)はPDFに収録

2 — 有機反応の反応性と生成物

SN2 の二つの支配因子

SN2 は背面攻撃で進むため、炭素上の混雑が小さいほど速い。また脱離基は I\mathrm{I^-}Br\mathrm{Br^-} より良い。したがってヨードメタン B が最速で、同じブロミド同士ではメチル C、第一級 A、第二級 D の順になる。

芳香族求電子置換

ピロールでは窒素の孤立電子対が芳香環へ供与され、求電子攻撃で生じるシグマ錯体が強く安定化される。ピリジンでは窒素が電子求引的に働き、環の電子密度が下がるためベンゼンより不活性である。

反応 c の要点

基質は酸に弱いアセタールである。機構を書くときは、酸素のプロトン化、C--O 結合開裂、オキソカルベニウムイオンへの水の付加、脱プロトン化を順に示す。酸触媒反応なので、最後に H+H^+ が再生していることも答案上の重要な点である。

立体化学

過酸エポキシ化は協奏的な syn 付加である。一方、酸性条件でのエポキシド開環は、プロトン化エポキシドに対する背面攻撃で進むため anti 開環になる。したがって I は OH と Br が trans の相対配置をもつ。

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3 — 熱力学状態量と断熱過程

示強性と示量性

系を同じ状態の二つの部分に分けたとき、値が変わらない量が示強性、足し合わせられる量が示量性である。密度は体積と物質量の比なので示強性、化学ポテンシャルは偏モル Gibbs エネルギーなので示強性である。

氷の融点の符号

氷は水より密度が小さいため、融解で体積が減る。したがって ΔV<0\Delta V<0 であり、圧力を上げると融点は下がる。数値だけでなく負号を書くことが本問の採点上重要である。

断熱式の導出で書くべき点

PVγ=PV^\gamma= 一定を暗記式として書くだけでは導出にならない。第一法則、理想気体の状態方程式、Mayer の関係式の三つを順につなぐ。特に R/CV=γ1R/C_V=\gamma-1 への変形を書けば、指数 γ\gamma がどこから出るかが明確になる。

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4 — 電極電位とペロブスカイト構造

電位は足し算しない

標準電極電位は示強性の量なので、半反応を足し合わせるときに直接足してはいけない。必ず ΔG=nFE\Delta G^\circ=-nFE^\circ に直してから加減する。i) の +0.760V+0.760\,\mathrm{V} は、Fe(III) が Fe(II) へ還元されやすいことを表す大きな正電位である。

沈殿を含む電極電位

iii) は Fe2+\mathrm{Fe^{2+}} の濃度が Fe(OH)2\mathrm{Fe(OH)_2}, H+H^+, KspK_{\mathrm{sp}}, KwK_w によって固定される問題である。KspK_{\mathrm{sp}} だけでなく 2OH+2H+2H2O2\mathrm{OH^-}+2\mathrm{H^+}\to 2\mathrm{H_2O} の寄与を入れるため、K=Ksp/Kw2K=K_{\mathrm{sp}}/K_w^2 となる。

ペロブスカイトの幾何

M は体心、O は面心にあり、M--O 距離は a/2a/2 である。A は頂点で、最近接 O までの距離は面対角線の半分 a/2a/\sqrt2 である。どの線分で接触しているかを図に頼らず言葉で書くと、式の根拠が明確になる。

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5 — 配位化学と分子構造

Pt(II) の trans 効果

正方平面 Pt(II) 錯体では、強い trans 効果をもつ配位子の反対側の配位子が置換されやすい。代表的には C2H4\mathrm{C_2H_4}CN\mathrm{CN^-} は強く、Cl\mathrm{Cl^-}NH3\mathrm{NH_3} より強い。このため [PtCl4]2\mathrm{[PtCl_4]^{2-}}NH3\mathrm{NH_3} を 2 当量入れると cis 体、[Pt(NH3)4]2+\mathrm{[Pt(NH_3)_4]^{2+}}Cl\mathrm{Cl^-} を入れると trans 体が主となる。

置換活性と反結合性

八面体錯体の置換活性は、単に酸化数だけでなく ege_g 反結合性軌道の占有と配位子場安定化に強く依存する。高スピン d4d^4 では ege_g 電子が結合を弱め、低スピン d4d^4 では t2gt_{2g} に電子が入り、金属--配位子結合が相対的に強い。

酸性の序列

配位水の酸性は、金属イオンが水分子から電子密度を引く強さで決まる。同じ 2 価なら、一般に小さく有効核電荷の大きい Ni(II) の方が Mn(II) より水を酸性にする。3 価の Sc(III) はさらに強く分極する。

点群判定

XeF2\mathrm{XeF_2} は直線分子で DhD_{\infty h}BrF5\mathrm{BrF_5} は四角錐で C4vC_{4v} である。T 字形 ClF3\mathrm{ClF_3} とシーソー形 SF4\mathrm{SF_4} は、主軸と二つの鏡映面をもち、ピリジンと同じ C2vC_{2v} に分類される。

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6 — 有機構造決定とペリ環状反応

A の構造決定

分子式 C8H7OCl\mathrm{C_8H_7OCl} と 1689 cm1\mathrm{cm^{-1}} の強吸収から、A は芳香族メチルケトンと考える。芳香環領域に 4H だけが現れ、さらに一つが一重線様に見えることは meta 二置換ベンゼンに合う。NaOH とベンズアルデヒドでアルドール縮合する点も、A がアセトフェノン誘導体であることを支持する。

Diels--Alder の立体

通常の Diels--Alder 反応では、電子不足アルケンの置換基配置は生成物に保存される。B が E 体なので、二つの置換基は cyclohexene 環上で trans になる。またカルボニル置換基は二次軌道相互作用により endo 配置を取りやすい。

過ヨウ素酸酸化

NaIO4\mathrm{NaIO_4} 酸化は、単に「隣接ジオールなら切れる」と覚えるより、環状 periodate ester が作れるかを見る方が安全である。環状中間体を作りにくい立体配置では、C--C 開裂が著しく遅くなる。

ペリ環状反応の駆動力

Claisen 転位と Cope 転位はいずれも熱的に許容な suprafacial--suprafacial 型 [3,3] 転位である。途中のシクロヘキサジエノン I は芳香族性を失っているため不安定で、J でフェノール芳香環が回復することが選択性の主要因である。

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7 — Juvabione 合成経路

A から B

基質 A はエノン型の 1,3-ジカルボニル等価体として振る舞い、塩基で炭素求核剤を与える。1-クロロ-3-ヨードプロパンでは C--I 結合の方が反応性が高いため、ヨード末端で SN2 反応し、クロロ基は後段の分子内反応に残る。

D から E の選択

選択肢のうち、アルケンを飽和結合に変え、ケトンをそのまま保つ標準的な条件は接触水素化である。LiAlH4_4 やヒドロホウ素化、酸化剤を選ぶと、図の官能基変化と合わない。

Baeyer--Villiger 酸化

過酸はアルケンのエポキシ化だけでなく、ケトンの Baeyer--Villiger 酸化にも使われる。本段階では E にアルケンがなくケトンがあるため、酸素がカルボニル隣接 C--C 結合へ挿入されてラクトンを与えると読む。

K から L の立体非依存性

通常の E2 脱離なら、脱離基と β\beta 水素の anti-periplanar 配置が強く要求される。しかし本問では相対配置によらず L が生じると明記されているため、E1cB 型に、すなわちエノラート形成を先に考えるのが自然である。

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8 — フロンティア軌道とヒュッケル近似

位相図は符号で十分

答案で絵を描く場合は、各 pp 軌道の上下の色や符号をそろえて示す。計算値の係数比まで書く必要はないが、HOMO と LUMO の節の数が一つ違うこと、末端位相が反応選択性に効くことを示す必要がある。

ヒュッケル固有値

直鎖 nn 原子の Hückel 固有値は Ek=α+2βcos(kπ/(n+1))E_k=\alpha+2\beta\cos(k\pi/(n+1)) と書ける。ここで β<0\beta<0 なので、数式上の大小とエネルギー準位の上下を取り違えやすい。ブタジエンでは k=1,2k=1,2 が占有軌道、k=3,4k=3,4 が空軌道である。

熱的 [2+2] と [4+2]

熱的反応では基底状態の HOMO--LUMO 相互作用を考える。[4+2] では両端で同位相重なりが可能であるのに対し、[2+2] の suprafacial--suprafacial 接近では片方の端で位相が合わない。この「両端で同時に位相が合うか」を図示するのが説明の核心である。

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9 — 一次反応と Lindemann 機構

反応次数と分子数

反応次数は実験的な速度式の濃度指数であり、素反応の分子数と常に同じとは限らない。本問の Lindemann 機構は、二分子衝突を含んでいても見かけ上一次反応になり得る典型例である。

定常状態近似

活性化分子 AA^\ast は生成されてもすぐ失活または分解する中間体である。このような中間体では濃度そのものは小さくても、生成速度と消費速度がほぼ釣り合うため d[A]/dt0d[A^\ast]/dt\simeq 0 とおく。

高圧限界と低圧限界

M=AM=A のとき、高濃度では AA^\ast が分解する前に衝突失活しやすく、速度は活性化分子の分解段階で律速されるため一次になる。低濃度では衝突で AA^\ast を作る段階が律速となり、二つの A 分子の衝突に比例して二次になる。

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10 — 生化学の基礎反応

選択問題としての書き方

本問は 7 項目から 5 項目を選ぶ形式である。実際の答案では、確実に書ける項目を選び、用語だけでなく因果関係を一文入れると点が安定する。ここでは確認用に全項目を記した。

RNA と DNA の安定性

RNA 分解の核心は 2'-OH の存在である。塩基が 2'-OH を脱プロトン化し、その酸素がリン酸を攻撃するので、反応は分子内で速く進む。DNA は 2' 位が H であり、この近接求核剤を持たない。

PLP の役割

PLP は単なる補助基質ではなく、電子の逃げ道である。外部アルジミンを作ることで、α\alpha 炭素の陰電荷をピリジン環まで非局在化できる。この安定化が、ラセミ化、トランスアミノ化、脱炭酸など多様な PLP 酵素反応の共通基盤である。

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11 — 物理振り子と平行平板コンデンサ

物理振り子として扱う

単振り子の式 2πl/g2\pi\sqrt{l/g} をそのまま使ってはいけない。剛体棒では質量が分布しているため、支点まわりの慣性モーメント I=Ml2/3I= Ml^2/3 と、重心に働く重力のトルクを使う。

小角近似

微小振動なので sinθθ\sin\theta\simeq\theta として、運動方程式を単振動の形にする。この近似を書かないと、周期式を導く根拠が曖昧になる。

コンデンサの電場

二枚の平板が十分広く dd が小さいとき、端の fringing field は無視できる。導体内部の電場が 0 であることを使って pillbox を置けば、極板間の電場が E=σ/ε0E=\sigma/\varepsilon_0 と得られ、そこから V=EdV=Ed, C=Q/VC=Q/V と進む。

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