東京科学大学 院試 過去問 解答例
東京科学大 理学院 化学系 化学系 専門科目 2022年度 院試 解答例・解説
東京科学大学 理学院 化学系 化学系 専門科目 2022年度の院試 過去問について、設問ごとの解法方針と確認点を解説。全11問収録の解答・解説PDFと併用できます。問題本文は含みません。
最終更新:
設問ごとの解法方針と確認点を公開しています。
続きの途中式・最終答は解答・解説PDFに収録しています。問題本文は含まれません。
第1問 — 原子半径・電子配置・無機化学の周期性
半径の考え方
同じ族では下に行くほど主量子数が大きくなり半径は大きい。同じ元素では陽イオンの方が中性原子より小さい。また , , , はいずれも Ar 型の等電子系列であり、核電荷が大きいほど電子雲が強く引き寄せられるので半径は小さくなる。
電子配置の典型ミス
は半充填 が安定なため となる。 では中性 Co の から先に電子を取り、さらに から 1 個取るので である。
酸化物とハロゲン化銀
高酸化数で中心元素が小さいほど M--O 結合は分極し、酸性酸化物としての性格が強くなる。重い 15 族元素で が安定化するのは、最外殻 電子対が結合に使われにくくなる不活性電子対効果で説明される。ハロゲン化銀では、難溶な ほど 活量が低く、 の電位はより負側に寄る。また吸収端の長波長化はバンドギャップの縮小に対応する。
第2問 — 有機反応と立体化学
配座
1,2-ジブロモエタンでは C--Br 結合の双極子反発と大きな Br 原子間の立体反発を同時に小さくする配座が有利である。したがって eclipsed ではなく staggered、かつ gauche ではなく anti を選ぶ。
C--H 結合解離
結合解離後にできるラジカルが安定なほど C--H 結合は弱い。アリルラジカルは共鳴安定化を受けるので最も小さく、ビニルラジカルは 炭素上のラジカルで不安定なので大きい。第三級、第二級、第一級はアルキル置換による超共役安定化の順で判断する。
反応機構で書くべき点
ラセミ化では「エノラートが平面状である」こと、Friedel--Crafts では「一次カチオンのままではなく、より安定な二次カチオン相当種を経る」ことが採点上の要点である。生成物名だけでなく、なぜその骨格になるかを一文添えると答案の説得力が増す。
第3問 — 二分子反応の速度式
二次反応の積分形
で初濃度が等しい場合にだけ と置ける。この条件を確認せずに を使うと、初濃度が異なる二次反応では誤答になる。
擬一次近似
大過剰成分の濃度変化が相対的に小さいため、速度式中で定数として扱う。実験ではこの近似により と の直線関係から を求め、 を変えて真の二次速度定数 を決められる。
第4問 — 沈殿滴定と半導体結晶
Mohr 法の計算
赤色の が見える条件は、 がクロム酸銀の溶解度積で決まる濃度に達することである。塩化物が残っている間は の沈殿により が低く保たれるため、クロム酸銀より先に塩化銀が出る。
密度式の単位
が Å\ で与えられているため、体積換算に が入る。ここを落とすと係数が 倍ずれる。ウルツ鉱型の と六方晶の底面積 を明記すれば、導出過程として十分である。
第5問 — 錯体化学と配位子場
強配位子場と弱配位子場
ハロゲン化物は概して弱場で、、en、bpy のような窒素配位子は水より強場である。bpy は 受容性も持つため en より強場側に置かれる。
不対電子数の判断
金属の酸化数を先に決め、次に 電子数を決める。四面体錯体は分裂が小さく、ほぼ高スピンと考える。 の Fe は 、 の Fe は である点を取り違えない。
第6問 — 置換ベンゼンと加溶媒分解
NMR の一重線
メチル基の一重線は、隣接原子上にカップリング相手の水素がない場合に現れる。四級炭素や に隣接するメチル基を探すとよい。
加溶媒分解速度
SN1 的な加溶媒分解では、脱離基が抜けやすい配座と、生成カチオンを安定化する隣接基効果が速度を大きく左右する。第 c) ii) の 倍以上という差は、単なる立体差ではなく、酸素による電子的安定化を示す強い根拠である。
臭素付加の syn 生成
ブロモニウムイオンが完全に橋かけ構造を保つと、背面攻撃しかできないため anti 付加になる。F ではベンジルカチオン的な開環構造が混ざり、求核剤が同じ面から近づける経路が生じる。
第7問 — 天然物合成経路の反応機構
位置選択性
mCPBA の通常のエポキシ化はアルケンの電子密度が高いほど速い。エノンの二重結合はカルボニルに電子を引かれているため、孤立した環内アルケンが優先して反応する。
オゾン分解
機構は「モロゾニド、カルボニルオキシド、オゾニド、還元的開裂」の順で書くとよい。 処理なので、カルボン酸まで酸化せずアルデヒドまたはケトンで止まる。
合成経路問題の答案
全構造を精密に描けない場合でも、どの官能基が変わり、どの官能基が残るかを明確にすることが重要である。ここでは DCC/DMAP によるエステル化、熱的 Claisen 型転位、L-proline によるエナミン触媒という反応名と、立体選択性の由来を書くのが得点の中心になる。
第8問 — エントロピー表示と van der Waals 型状態方程式
熱力学の符号
この問題は「気体が外部からされた仕事」を正に取っているので、圧縮で のとき となる。ここを とすると後続の の式で圧力項の符号が反対になる。
エントロピー表示からの読み取り
が与えられているとき、 を使う。得られる状態方程式は van der Waals 型で、 は分子間引力、 は排除体積の効果として現れる。
第9問 — 調和振動子と不確定性関係
偶奇性
エルミート多項式 は が偶数なら偶関数、奇数なら奇関数である。波動関数の二乗は常に偶関数なので、奇関数である の積分は 0 になる。同じ対称性で平均運動量も 0 と判断できる。
基底状態の意味
でも と は 0 にならない。これは零点振動に対応し、調和振動子の基底状態が古典的な静止状態ではないことを示している。
第10問 — 生化学反応機構
選択問題への対応
本番では 4 つを選べばよい。確実に点を取りやすいのは a), b), c), e) であり、d), f) は有機反応機構としてカチオン環化やエンジオラートを正しく描ける場合に選ぶとよい。
機構問題の書き方
生化学の機構では、酵素名の暗記だけでは不十分である。どの原子が求核剤になり、何が脱離し、酸化還元補酵素がどこで使われるかを順に書くと、化学反応としての説明になる。
第11問 — 剛体の転がりと磁場
転がり運動
転がりでは並進と回転の両方を入れる。滑らない条件 を使うことで、未知量を だけにできる。斜面角 は途中の加速度を求める場合には現れるが、高さ だけ下がった後の速さはエネルギー保存から に依存しない。
アンペールの法則
アンペールの法則を使う問題では、対称性に合った経路を選ぶことが最重要である。直線電流では同心円、ソレノイドでは内部に沿った長方形経路を選ぶと、積分が単純な積に落ちる。
ビオ・サバール積分
円形コイル中心では全ての電流素片の寄与が同じ向きにそろう。大きさだけを積分できるのは、接線ベクトルと中心向きベクトルが常に直交しているためである。