東京科学大学 院試 過去問 解答例
東京科学大 理学院 化学系 化学系 専門科目 2024年度 院試 解答例・解説
東京科学大学 理学院 化学系 化学系 専門科目 2024年度の院試 過去問について、設問ごとの解法方針と確認点を解説。全11問収録の解答・解説PDFと併用できます。問題本文は含みません。
最終更新:
設問ごとの解法方針と確認点を公開しています。
続きの途中式・最終答は解答・解説PDFに収録しています。問題本文は含まれません。
第1問 — 弱酸平衡と14族元素
弱酸近似の使いどころ
であっても、まずは と書くのが安全である。その後で と近似する。pH 計算では を使うため、 の形に直すと指数計算を避けられる。
緩衝液の式
が与えられている場合は、濃度そのものではなく比だけが効く。したがって Henderson--Hasselbalch の式を使うのが最短で、比が 10 なら pH は より 1 だけ大きい。
14族の典型事項
Sn と Pb では 電子対が結合に使われにくくなるため、下の元素ほど 酸化状態が安定化する。この説明を書けると、単なる穴埋めではなく周期性の理解として答案が強くなる。
第2問 — 有機反応の基礎
酸性度は共役塩基で比較する
酸そのものの構造だけを眺めるより、脱プロトン化後のアニオンがどれだけ安定かを比べる方が確実である。トリフルオロメチル基は距離をおいても強く電子を引くため、カルボキシラートの負電荷を下げる方向に働く。
E2 の立体化学
体が出る理由は、生成物の安定性だけでは説明が不十分である。E2 は反応する配座が指定される反応なので、Newman 投影で と が反対向きであること、さらに大きなフェニル基同士の反発が小さいことを書くと採点されやすい。
典型反応の見分け
ヒドロホウ素化は anti-Markovnikov かつ syn、Wittig は を に変える、活性化ハロアレーンの は nitro 基の 位で進みやすい、Diels--Alder では endo 則をまず疑う。この四つを反応名と選択性で整理すると短時間で解ける。
第3問 — 水素分子イオンの分子軌道
核間反発を落とさない
は電子が一つだけなので電子間反発はない。しかし核同士の反発 は全エネルギー曲線に入る。電子座標で微分されない定数項だが、 に依存するので結合距離を議論するときに重要である。
変分法の分母
LCAO の期待値では分子軌道が自動的に規格化されているとは限らないため、分母 が必要である。この分母から重なり積分 が現れる。永年方程式は、この期待値を で停留させる条件から得られる。
電子密度の符号
密度式の差は交差項 の符号である。結合性では交差項が正で核間密度を増やし、反結合性では負で節を作る。この符号を説明できれば、概略図を描く問題でも説得力が出る。
第4問 — 固体化学と材料物性
密度計算の単位
格子定数が で与えられているため、体積を に直す を忘れやすい。単位格子中の質量は 、体積は であり、bcc では である。
格子エネルギーと融点
融点は厳密にはエントロピーや構造の差も受けるが、同じ岩塩型の比較では格子エネルギーが最もよい指標になる。電荷積が大きく、イオン間距離が短いほど格子エネルギーは大きい。
YSZ の伝導
YSZ は電子伝導体ではなく酸化物イオン伝導体である。答案では「Y を入れると酸素空孔ができる」「高温で空孔を介したホッピングが速くなる」の二点を明確に書く。
第5問 — 錯体の電子構造
選択律で吸収強度を説明する
吸収の強弱は単に色の濃さではなく、禁制の程度で説明する。八面体錯体は反転中心を持つため Laporte 禁制を受け、四面体錯体ではこれが緩む。高スピン の Mn(II) ではスピン禁制が特に強く効く。
CO 伸縮波数の読み方
CO の赤外波数は逆供与の強さの指標である。金属から CO への電子供与が強いほど C--O は弱く長くなり、伸縮振動数は下がる。錯体の電荷が負になるほどこの傾向は強くなる。
18電子計算
中性法で数えると、CO とホスフィンは 2 電子供与、ベンゼンは 6 電子供与、-配位環は 4 電子供与である。金属--金属単結合は各金属に 1 電子を与えるとして数える。
第6問 — 有機合成と反応機構
Fischer 投影の落とし穴
Fischer 投影は、紙面手前と奥の情報を含んでいる。横線を手前として三つの中心を順に変換する。紙面内で構造を回転させることはできるが、Fischer 投影を 90 度回転すると立体配置が反転して見えるので避ける。
Claisen 縮合で塩基が消費される理由
Claisen 縮合は、生成する -ジカルボニル化合物が特に酸性であることが駆動力になる。塩基は触媒量ではなく、生成物エノラートを作るために量論量必要になる。この点を述べると、単なる機構矢印より理解が伝わる。
合成経路の読み方
Fries 転位でフェノール性 OH とアシル基を同じ芳香環上にそろえ、-ブロモケトン化でアミン置換の足場を作る。最後に を使うのは、カルボン酸とケトンを同時に還元する必要があるためで、 ではカルボン酸が残る。
第7問 — 芳香族化合物と転位
塩基性はプロトン化後で比べる
ピロールは中性分子では窒素に孤立電子対があるように見えるが、その電子対は芳香族性を作るために使われている。プロトン化で芳香族性を壊すことが不利なので、ピリジンよりかなり弱塩基になる。
フェノール樹脂形成の要点
酸性条件では「ホルムアルデヒドの活性化」「フェノールの 位での求電子置換」「ベンジル位の再活性化」「別の芳香環による捕捉」の順に考える。モデル反応では、この流れを書けばポリマー全体を描かなくても機構として十分である。
速度が酸濃度に依存しない意味
反応速度が基質濃度だけに依存するなら、律速段階は基質のイオン化または隣接基関与を伴う内部過程であり、外部のトリフルオロ酢酸の攻撃ではない。フェニル基によるフェノニウムイオン安定化が速度差の本質である。
第8問 — 自由エネルギー
自然変数を意識する
の自然変数は 、 の自然変数は である。したがって定温定積で が最小、定温定圧で が最小になる。空欄問題でもこの対応を先に思い出すと迷いにくい。
Maxwell 関係の符号
から、 の係数が 、 の係数が である。混合二階微分を等置すると となり、負号が付く。
van't Hoff 式への接続
と の式に Gibbs--Helmholtz 式を組み合わせると、温度依存性は の符号で決まる。発熱反応は温度を上げると が下がる、という Le Chatelier の原理と同じ結論が数式から出る。
第9問 — 分子軌道と反応速度
二原子分子の軌道順
から までは の 軌道が 軌道より低く、 では順序が入れ替わる。この違いが と の三重項基底状態を説明する鍵である。
結合次数
結合次数は である。内殻由来の結合性・反結合性軌道は同数だけ埋まるため、通常は価電子だけで数えても同じ結果になる。
寿命プロットの読み方
が一定なら二分子消失も擬一次になる。 と の直線の切片が 、傾きが である。軸の と の倍率を最後に掛けることを忘れない。
第10問 — 糖と生体分子
グルコースのイス形
-D-グルコピラノースが安定なのは、かさ高い置換基がほぼすべてエクアトリアルになるためである。Haworth 式で上か下かを答えるだけでなく、イス形で axial/equatorial を示すと構造問題として十分な答案になる。
比旋光度の平均
変旋光後の比旋光度は各アノマーの比旋光度の線形結合で扱う。未知数を 体の割合に置くと、 で一行で求まる。
阻害剤は中間体をまねる
酵素阻害の説明では「強く結合する」だけでは不十分である。トリオースリン酸イソメラーゼはエンジオール様中間体を安定化する酵素なので、その幾何と電荷分布をまねる化合物が遷移状態類似体として強く結合する、と書く。
第11問 — 微小振動と電磁波
微小振動は二次係数だけで決まる
極小点近くではポテンシャルの定数項と一次項は周期に寄与しない。二次係数が有効ばね定数であり、一般に なら である。
安定性の分岐
b) では見かけ上ばね力 と遠心力型の が競合している。 が正なら復元力、負なら原点から遠ざける力になり、解が三角関数から双曲線関数へ変わる。
横波の証明
電場が 方向に進む平面波なら、空間変化は だけに依存する。ガウスの法則は 成分の振幅を 0 にする条件になり、電場は 平面内で振動する。これが電磁波が横波であることの最短の示し方である。