千葉大学 院試 過去問 解答例
千葉大 融合理工学府 数学情報科学専攻 数学・情報数理学コース 専門科目(A0・A問題・B問題) 2025年度 院試 解答例・解説
千葉大学 融合理工学府 数学情報科学専攻 数学・情報数理学コース 専門科目(A0・A問題・B問題) 2025年度の院試 過去問について、設問ごとの解法方針と確認点を解説。全17問収録の解答・解説PDFと併用できます。問題本文は含みません。
最終更新:
設問ごとの解法方針と確認点を公開しています。
続きの途中式・最終答は解答・解説PDFに収録しています。問題本文は含まれません。
第1問 — A0 写像・像・逆像
方針
像の等式では「像に入る元の原像を取る」議論になるため,単射性が必要になる。一方,逆像の等式は写像の単射性・全射性に関係なく,論理式をそのまま引き戻すだけでよい。
典型ミス
は における補集合であり, とは一般には異なる。単射性を使うのは, から を保証する場面である。
試験で書くべきポイント
上の例は,式を書くだけでなく,全射性・単射性のどちらが成り立ち,どちらが破れているかを一文で確認すると減点されにくい。
第2問 — A1 多項式空間の線形写像
方針
微分作用素は次数2の斉次部分と次数1の部分を混ぜない。したがって, への作用から , への作用から を別々に求めればよい。
検算
の特性多項式は になる。計算途中で になった場合は,二階微分係数の と の打ち消しを確認するとよい。
試験で書くべきポイント
対角化可能性は「固有値が重複している」だけでは判定できない。代数的重複度2の固有値に対して固有空間の次元が1である,という形で理由を書く。
第3問 — A2 極限と逆写像定理
方針
前半はリーマン和とチェザロ平均を使い分ける。後半は の正則性を確認し,逆写像の微分が逆行列で与えられることを使う。
典型ミス
第3の極限は ではなく で変化する数列の平均である。各項の極限を先に求め,収束列の算術平均の定理を使うのが安全である。
検算
なので,逆行列の成分に分母は現れない。計算結果が大きな分数になった場合は,連立一次方程式を列ごとに解き直すとよい。
第4問 — A3 距離の変換とコンパクト性
方針
は距離を有界化する標準操作である。連続性では と の明示的な変換式 を意識すると,逆向きの恒等写像も連続であることが見える。
典型ミス
だけから分かるのは の連続性である。逆向きは別途 を選ぶ必要がある。
試験で書くべきポイント
閉部分空間のコンパクト性は,開被覆に を加えて の開被覆に直す,という一手を書くと簡潔に証明できる。
第5問 — A4 正規分布の線形変換
方針
正規分布の線形結合は再び正規分布になる。平均と分散を先に出せば,密度関数は標準形にそのまま代入できる。
検算
では が消えて だけが残る。ここで と の同時分布を積分し始めると計算が重くなる。
典型ミス
共分散では定数 は消える。また であり,符号を落としやすい。
第6問 — A5 二次元累積和
方針
この関数は二次元累積和を作っている。各点 には,左上の長方形領域の総和が入る。
検算
最後の式は,右下までの大きな長方形から,上側と左側を引き,二重に引いた左上を戻す形である。添字が から始まるため,境界に が出る。
試験で書くべきポイント
プログラムの各行を逐語的に追うより,ループ不変量として「 列目を処理した時点で左上長方形の和になっている」と書くと証明が短い。
第7問 — B1 自己同型群
方針
巡回群 の自己同型は,生成元 をどの生成元へ送るかで決まる。そのため自己同型群は乗法群 に一致する。
典型ミス
自体の加法群と,自己同型群に対応する単元群を混同しない。自己同型は で, は と互いに素でなければならない。
試験で書くべきポイント
非巡回例では,単に「巡回でない」と書くのではなく,すべての非単位元の位数が2で,位数4の元が存在しないことを示す。
第8問 — B2 有限体上の多項式環と不変部分環
方針
標数3では となるため, が平行移動 の基本不変量になる。固定部分環を先に見抜くと,極大イデアルの問題も で整理できる。
検算
ではなく としてしまうと で固定されない。実際に を代入して確認することが重要である。
試験で書くべきポイント
が極大イデアルを与えるには,3次多項式が に根を持たないことを書けば十分である。3次多項式は根を持たなければ既約である。
第9問 — B3 2次微分形式とトーラス
方針
は位置ベクトルを体積形式へ内積した2形式であり,球面上では半径方向の面積形式になる。最後は が原点で特異性をもつため,小球をくり抜いて Stokes の定理を使う。
典型ミス
の内部に原点が含まれるので,単純に としてはいけない。小球境界から の寄与が出る。
検算
もし特異項 がなければ,答えは 倍のトーラス体積 になる。実際の答えはそこから だけ引かれる。
第10問 — B4 単体複体のホモロジー
方針
各複体を図形として見ると早い。 は三角形の枠と枝, は一方の三角形だけを面で埋めたもの, は2つの三角形を両方とも面で埋めたものである。
検算
連結なグラフだけなら の階数は で数えられる。2単体が入ると,その境界サイクルが1つずつ殺される。
試験で書くべきポイント
は, で残っているサイクルのうち で境界になるものを, から来たサイクルで割ったものとして説明すると分かりやすい。
第11問 — B5 留数定理とフーリエ型積分
方針
なので上半平面で が指数減衰する。したがって上半平面の長方形輪郭を使い,内部の極 の留数を拾う。
典型ミス
下半平面を閉じると が減衰しない。 の符号を見て,どちらに閉じるかを決める。
検算
留数は であり,答えは で指数的に小さくなる。これは振動積分の減衰として自然である。
第12問 — B6 常微分方程式
方針
前半2問は変数分離でよい。最後は を取って,0に近づけないことを不等式で示すのが要点である。
典型ミス
(1) では の枝から出発しているため, と書いて負の側へ延長することはできない。最大定義域は初期点を含む連結区間で考える。
試験で書くべきポイント
一意性の主張では,通常の Lipschitz 条件を原点でそのまま使うのは危険である。正負に分け,正の解が0へ到達できないことを示す形が安定している。
第13問 — B7 l1空間におけるコンパクト集合
方針
本質は「支配収束」と「対角線論法」である。各座標はコンパクトな閉円板に入るので,座標ごとの収束部分列は取れる。最後に -ノルム収束へ昇格させるために を使う。
典型ミス
座標ごとの有界性だけでは のコンパクト性は出ない。尾部を一様に小さくできること,つまり が必要である。
検算
のとき,有限切断 はすべて に属する点である。これを使うと非有界性が直接見える。
第14問 — B8 実数値確率変数の可測性
方針
実数値可測性は,開半直線 の逆像を調べれば十分である。和の可測性では,実数の間に有理数を挟むことで可算和に落とす。
典型ミス
を非可算和で表すと,-加法族の閉性だけでは処理できない。有理数を使って可算和にすることが必要である。
試験で書くべきポイント
右辺の等式では, なら となる有理数 が存在する,という有理数の稠密性を一言添えるとよい。
第15問 — B9 ハミング符号と重み3グラフ
方針
検査行列の列が の非零ベクトル全体であることに気づくと,これは長さ7のハミング符号の標準的な議論になる。
検算
重み3の個数は7であり,これは7本の直線に対応する。2列を選ぶと3列目が和で決まるが,同じ3点集合を3回数えるので となる。
試験で書くべきポイント
連結性は「重み3符号語が生成する」ことを示せば十分である。具体的な4つの独立な重み3符号語を書くと,抽象論に頼らずに完結する。
第16問 — B10 ユークリッドの互除法
方針
互除法の計算量評価では,商がすべて1に近いときが最悪であり,そのとき余り列は Fibonacci 数列になる。これを下界として使う。
典型ミス
最後の商だけは である。最後の余りが0になるため, であり, から はありえない。
試験で書くべきポイント
は「余りが毎回半分以下になる」とは限らないため,単純な半減論法では不十分である。Fibonacci 数列との比較を書くのが標準的である。
第17問 — B11 OCamlリスト反転とキュー
方針
`rev0' が遅い理由は,各段階で末尾挿入 `ins' を行うためである。反転は先頭への追加を使うと線形時間になる。同じ発想をキューにも使い,後ろ側への追加を `s' への先頭追加として蓄積する。
典型ミス
各 `pop' のたびに `s' を反転すると,やはり二乗時間になりうる。`r' が空になったときだけまとめて反転することが重要である。
検算
償却的に見ると,各要素は `s' に入る,`r' へ移る,`r' から出る,という定数回のリスト操作にしか関与しない。したがって操作列全体では線形になる。