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東京大学 院試 過去問 解答例

東大 理学系研究科 物理学専攻 専門科目(物理学) 2025年度 院試 解答例・解説

東京大学 理学系研究科 物理学専攻 専門科目(物理学) 2025年度の院試 過去問について、設問ごとの解法方針・部分点の置き所を解説。全4問収録の解答・解説PDFと併用できます。問題本文は含みません。

最終更新:

設問ごとの解法方針・部分点の置き所を無料で公開しています。

完全な途中式・最終答は解答・解説PDFに収録しています。問題本文は含まれません。

1 — 量子力学:振動摂動と和則

方針

この問題の核は,p^\hat p を使う摂動と x^\hat x を使う摂動が,完全な固有状態和をとる限り同じ遷移確率を与える,という事実である。 量子力学では同じ電磁場との相互作用を異なる表示で書けるが,表示を変えたときに物理量が変わってはいけない。 その等価性を支えるのが,交換関係と完全性から出る和則である。

最初に見るべき式

まず [x^,H^0][\hat x,\hat H_0] を計算するのが自然である。 ポテンシャルは x^\hat x の関数なので x^\hat x と可換であり,非自明な寄与は運動エネルギーだけから来る。 このため, [x^,H^0]=imp^ [\hat x,\hat H_0]=\frac{i\hbar}{m}\hat p が得られ,p^\hat p の行列要素を x^\hat x の行列要素へ変換できる。 答案ではこの変換式 pab=imΩabxab p_{ab}=im\Omega_{ab}x_{ab} を明示することが重要である。これを書かずに摂動行列要素だけを比較すると,位相や符号の扱いが不透明になる。

和則の意味

3. の和則は,単なる計算テクニックではなく,全中間状態を足したときだけ成立する「完全性の結果」である。 二重交換子 [x^,[H^0,x^]] [\hat x,[\hat H_0,\hat x]] に直すと一行で評価できるため,この形を見抜くと計算が大幅に短くなる。 特に,ccc=1\sum_c\ket c\bra c=1 をどこで使ったかを答案中に残すと,和の変形に説得力が出る。

一次遷移と二次遷移の違い

一次遷移では,p^\hat p 型と x^\hat x 型の行列要素は共鳴条件のもとで位相だけ異なる。 確率は絶対値の二乗なので,この位相差は観測量に影響しない。 一方,二次遷移では中間状態 bb についての和が入るため,単一の行列要素比較では足りない。 ここで和則が必要になる。 全状態和を保ったまま計算すれば,余分に見える項が和則で消え,二つの表示は同じ確率を与える。

近似で注意する点

最後の設問は,表示の等価性を近似計算にそのまま持ち込んではいけない,という教訓を問うている。 完全な和では消える項も,中間状態を一つだけ残すと消えない。 今回の条件では bbaa が近く,Ωab\Omega_{ab} が小さい。 したがって p^\hat p 型の行列要素には小さい因子 Ωab\Omega_{ab} が入り,近接準位の寄与を過小評価する。 一方,x^\hat x 型の式では問題で仮定されている同符号の和の一部を拾うので,一状態近似としては x^\hat x 型の方が自然である。

検算

p^\hat px^\hat x の次元を比べると, pabmΩxab p_{ab}\sim m\Omega x_{ab} である。一次遷移で Ω=Ωa0\Omega=\Omega_{a0} を入れると,(qA0/m)pa0(qA_0/m)p_{a0}qΩA0xa0q\Omega A_0x_{a0} の大きさが一致する。 この次元チェックは符号や mm の消し忘れを発見するのに有効である。

完全な解答(途中式・最終答)はPDFに収録

2 — 統計力学:調和トラップ中のボース気体

方針

この問題は,高温では古典統計,低温では量子統計に切り替える構成になっている。 高温部では一粒子分配関数 Z1Z_1 を正確に書き,最後に βω1\beta\hbar\omega\ll1 を使えばよい。 低温部では,離散準位を連続的な状態密度で近似し,励起状態に収容できる粒子数の最大値を調べる。

高温極限での見方

調和振動子の一粒子分配関数は,三つの独立な一次元振動子の積である。 したがって Z1=(1eβω)3 Z_1=(1-e^{-\beta\hbar\omega})^{-3} が出る。この式をいきなり高温近似するのではなく,まず厳密な幾何級数として書いてから近似する方が安全である。 エネルギーは H=βlogZ \langle H\rangle=-\partial_\beta\log Z で求まるため,logZ1\log Z_1ω\omega 依存と β\beta 依存を取り違えないようにする。

自由気体との差

自由な単原子分子理想気体では,エネルギーは運動量の二次形式だけから来るので,一粒子あたり 32kBT \frac{3}{2}k_{\mathrm B}T である。一方,調和トラップでは運動量の三成分に加えて,座標の三成分も二次形式で入る。 等分配則では二次項一つにつき 12kBT\frac{1}{2}k_{\mathrm B}T が割り当てられるので,一粒子あたり 6×12kBT=3kBT 6\times\frac{1}{2}k_{\mathrm B}T=3k_{\mathrm B}T になる。ここは単に「調和振動子だから2倍」と書くより,二次項の数を明示した方が減点されにくい。

有効体積と圧力

この問題の圧力は,箱の壁を押す通常の圧力ではなく,トラップの広がりを有効体積 VV と見なした熱力学的な圧力である。 したがって p=(FV)T p=-\left(\frac{\partial F}{\partial V}\right)_T を直接使うには,ω\omega を媒介変数として (FV)T=(F/ω)T(V/ω)T \left(\frac{\partial F}{\partial V}\right)_T = \frac{(\partial F/\partial\omega)_T}{(\partial V/\partial\omega)_T} と書く必要がある。符号を間違えやすいが,Vω3V\propto\omega^{-3} なので (V/ω)T<0(\partial V/\partial\omega)_T<0 であり,最終的に p>0p>0 になる。 高温極限で pV=NkBTpV=Nk_{\mathrm B}T が戻ることは,この計算の重要な検算である。

状態密度の考え方

低温部では,三つの非負整数 (nx,ny,nz)(n_x,n_y,n_z) が作る格子点を数える。 エネルギー以下の状態数は,第一象限の四面体の体積で近似できるため Ω(E)16(Eω)3 \Omega(E)\simeq \frac{1}{6}\left(\frac{E}{\hbar\omega}\right)^3 となる。状態密度はこれを微分したものなので D(E)E2D(E)\propto E^2 である。 この E2E^2 が,三次元調和トラップにおける凝縮温度の N1/3N^{1/3} 依存性を決めている。

凝縮温度の意味

ボース分布では μ0\mu\le0 であり,励起状態の粒子数は μ0\mu\to0 で最大になる。 その最大値より多い粒子を入れようとすると,余った粒子は励起状態ではなく基底状態に入る。 これがこの問題でのボース・アインシュタイン凝縮である。 答案では,「μ=0\mu=0 を代入する」だけでなく,η3(x)\eta_3(x) が単調増加であることから最大値が η3(0)\eta_3(0) で決まる,という論理を書くとよい。

検算

kBTc=ω(Nζ(3))1/3 k_{\mathrm B}T_c=\hbar\omega\left(\frac{N}{\zeta(3)}\right)^{1/3} はエネルギーの次元を持つ ω\hbar\omega に無次元量を掛けた形であり,次元が合っている。 また,T=0T=0 では N0=NN_0=NT=TcT=T_c では N0=0N_0=0 となるため, N0=N[1(TTc)3] N_0=N\left[1-\left(\frac{T}{T_c}\right)^3\right] の極限も正しい。

完全な解答(途中式・最終答)はPDFに収録

3 — 電磁気学:ポアソン方程式と鏡像法

方針

この問題は,前半でポアソン方程式と一意性を確認し,後半でその一意性を根拠に鏡像法を使う構成である。 鏡像法は便利な作図法ではなく,「同じ境界値問題を満たす候補解を作れば,一意性によりそれが真の解である」と主張する方法である。 したがって,鏡像電荷を書くだけでなく,境界条件と領域内の特異点を確認することが答案上重要である。

ポアソン方程式の符号

静電場では E=ϕ \mathbf E=-\nabla\phi である。これをガウスの法則に入れるため, E=Δϕ=ρε0 \nabla\cdot\mathbf E = -\Delta\phi = \frac{\rho}{\varepsilon_0} となる。したがって Δϕ=ρε0 \Delta\phi=-\frac{\rho}{\varepsilon_0} であり,符号はマイナスである。 ここは電磁気で頻出の符号ミスなので,E=ϕ\mathbf E=-\nabla\phi を明記してから導くとよい。

一意性の使い方

二つの解の差 ff を考えると,電荷密度が同じなので Δf=0\Delta f=0,境界値が同じなので f=0f=0 on SS となる。 与えられた積分公式を用いると V(f)2dV=0 \int_V(\nabla f)^2\,dV=0 が得られる。被積分関数は非負なので f=0\nabla f=0,つまり ff は定数である。 境界でゼロだから全体でゼロ,という流れで示す。 この証明では「非負量の積分がゼロなら関数がゼロ」という点が本質である。

点電荷の鏡像法

接地導体面上ではポテンシャルがゼロでなければならない。 実電荷と反対符号の鏡像電荷を対称な位置に置くと,面上の任意の点から二つの電荷までの距離が等しくなるため,ポテンシャルが打ち消し合う。 また,解くべき領域は導体外部 x>0x>0 だけなので,鏡像電荷が x<0x<0 側にあることは問題にならない。 この「鏡像電荷は計算上の仮想電荷であり,解く領域の外に置く」という理解が大切である。

双極子の鏡像

双極子では,面に垂直な成分と平行な成分で鏡像の向きが異なる。 導体面に垂直な xx 成分は同じ向き,平行な yy 成分は反対向きになる。 これは点電荷対を鏡映し,さらに符号を反転させると確認できる。 ここを間違えると,電場の x,yx,y 成分の符号が逆になり,トルクの安定方向まで誤る。

トルクと安定性

誘導電荷が作る電場を実双極子自身に作用させると, N=p×Eind \mathbf N=\mathbf p\times\mathbf E_{\mathrm{ind}} でトルクが得られる。 小角で Nzp232πε0a3θ N_z\simeq -\frac{p^2}{32\pi\varepsilon_0a^3}\theta となるため,θ=0\theta=0 は安定平衡である。 一方,θ=π/2\theta=\pi/2 近傍では微小ずれを元に戻す向きにならず,不安定平衡である。 周期から慣性モーメントを求めるときは,単振動の標準形 Iθ¨=κθ,T=2πIκ I\ddot\theta=-\kappa\theta,\qquad T=2\pi\sqrt{\frac{I}{\kappa}} に落とすと係数を間違えにくい。

検算

点電荷のポテンシャルは遠方で 1/r1/r に比例し,双極子の電場は 1/r31/r^3 に比例する。 導体面の影響による電場も距離 aa に対して Eindpε0a3 E_{\mathrm{ind}}\sim \frac{p}{\varepsilon_0a^3} となっており,次元・距離依存性ともに双極子場として妥当である。 また,トルクは pEpE の次元を持つため Np2ε0a3 N\sim \frac{p^2}{\varepsilon_0a^3} となる。最終式の係数以前に,このスケールが合っているかを確認するとよい。

完全な解答(途中式・最終答)はPDFに収録

4 — 数学:パウリ行列・直交多項式・真偽判定

方針

この問題は三つの独立した小問に見えるが,いずれも「構造を保つ変換」や「条件から何が言えるか」を問うている。 第1部ではパウリ行列による三次元ベクトル表示,第2部では直交多項式と自己随伴作用素,第3部では命題の反例構成がテーマである。

パウリ行列の見方

エルミートかつトレースレスな 2×22\times2 行列は,実三次元ベクトル (x,y,z)(x,y,z) と一対一に対応する。 行列式が detH=(x2+y2+z2) \det H=-(x^2+y^2+z^2) となることから,行列式を保つユニタリー共役は三次元ベクトルの長さを保つ変換として見える。 特に U=(eiθ00eiθ) U=\begin{pmatrix}e^{i\theta}&0\\0&e^{-i\theta}\end{pmatrix} の場合,非対角成分に e2iθe^{\mp2i\theta} が掛かるため,(x,y)(x,y) 平面で角 2θ2\theta の回転が起きる。 ここで角度が θ\theta ではなく 2θ2\theta になる点が重要である。 これは量子力学で現れる SU(2)SU(2)SO(3)SO(3) の二重被覆の最も簡単な例になっている。

答案上の注意

ユニタリー共役でエルミート性を示すときは, (UHU)=UHU (U^\dagger HU)^\dagger=U^\dagger H^\dagger U と書けばよい。トレースは巡回性,行列式は積の行列式を使う。 この三つはそれぞれ使う性質が異なるので,まとめて「ユニタリー変換だから保存される」とだけ書くより,どの性質を使ったかを短く示す方が確実である。

多項式部分の狙い

第2部の fnf_n は,区間 [0,1][0,1] 上のシフトされた Legendre 多項式に対応する Rodrigues 型の定義である。 ただし,この事実を知っている必要はない。 重要なのは Q(x)=x(x1) Q(x)=x(x-1) が両端 0,10,1 でゼロになることである。 このため,部分積分を繰り返しても境界項が消え,直交性が出る。

直交性の証明で落としやすい点

01gm(x)fn(x)dx \int_0^1 g_m(x)f_n(x)\,dx を扱うとき,fnf_n の定義に含まれる nn 回微分を,部分積分によって gmg_m 側へ移す。 すると gmg_mm<nm<n 次多項式なので,nn 回微分でゼロになる。 境界項が消える理由は,[Q(x)]n[Q(x)]^n が両端に nn 位の零点を持つからである。 この二点,すなわち「境界項が消える理由」と「nn 回微分でゼロになる理由」を両方書く必要がある。

固有値 cnc_n の求め方

L^\hat L が自己随伴であることから,L^fn\hat Lf_nf0,,fn1f_0,\ldots,f_{n-1} に直交する。 一方,L^fn\hat Lf_n は高々 nn 次多項式なので,直交性から fnf_n に比例するしかない。 最後に最高次係数を比較すると cn=n(n+1) c_n=n(n+1) が得られる。 この問題では,微分方程式を直接展開して全係数を比べる必要はない。 最高次係数だけを見れば固有値が決まる,というのが効率のよい解き方である。

真偽判定の考え方

偽の命題では,一つの具体例を出せば十分である。 冪等行列 X2=XX^2=X は射影行列を意味するので,零行列・単位行列以外にも多数存在する。 たとえば一部の成分だけを残す対角射影が最短の反例である。

複素積分の命題でも,一つの閉曲線に沿った積分がゼロであることは正則性を保証しない。 正則性を結論するには,領域内の十分多くの閉曲線について積分がゼロである,あるいは Cauchy--Riemann 方程式などの条件が必要である。 ここでは z2\overline z^{\,2} のように正則でない関数でも,単位円上の積分がゼロになる例を出せばよい。 反例では,関数が正則でない理由と,積分が実際にゼロになる計算の両方を示すと答案として強い。

完全な解答(途中式・最終答)はPDFに収録

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