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東京大学 院試 過去問 解答例

東大 理学系研究科 物理学専攻 専門科目(物理学) 2015年度 院試 過去問 解答例・解説(全6問)

全6問。電磁気学・回路1問・熱・統計力学1問・物性物理1問。テーマタグは9件(特殊相対性理論・固有値・固有ベクトル・フーリエ変換)。2014年度と共通のテーマは固有値・固有ベクトル・分配関数・電磁波。

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解説6問・解答6問・最終答6問(全6問)
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東大 専門科目(物理学) 2015年度 院試 過去問の出題内容(全6問)

この6問の分野は電磁気学・回路1問・熱・統計力学1問・物性物理1問・量子力学1問です。

大問分野主題解説の小見出し最終答
第1問量子力学円周上のデルタ関数ポテンシャル円周上のデルタ関数では左右が 0+ と 2πL- になる / 束縛状態の一意性はグラフで示すあり
第2問熱・統計力学高分子鎖の配位数と揺らぎ応答配位数は「終点を固定した二項分布」 / フーリエ変換を使う理由あり
第3問電磁気学・回路運動する電荷列と場のローレンツ変換電荷列は遠方で線電荷として扱う / 長さ収縮の向きを取り違えないあり
第4問ガンマ線とコンプトン散乱曲線の対応はエネルギー依存で判断する / 矢印は対生成しきい値ではないあり
第5問物性物理磁気天秤と希土類イオンの磁気モーメント誘起磁化のエネルギーには半分が付く / 力の向きは式より先に物理で確認するあり
第6問ミューオン飛行時間と見かけの超光速飛行時間の揺らぎは速度で非対称に効く / 二つの検出器の誤差は二乗和で足すあり

2015年度の出題テーマと、同じテーマを出した他大学・他年度

この年度は5問に9テーマが出ています。

前年度(2014年度)との違い

大問数
2014年度 6問 → 2015年度 6問
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第1問 — 量子力学:円周上のデルタ関数ポテンシャル

円周上のデルタ関数では左右が 0+ と 2πL- になる

直線上のデルタ関数と同じく,波動関数は連続で導関数が跳ぶ。ただし円周では x=0−x=0- が区間表示の右端 2πL−2\pi L- に対応する。この点を落とすと,接続条件の符号や係数を誤りやすい。

束縛状態の一意性はグラフで示す

得られる条件は −v=2κtanh⁡(πLκ)-v=2\kappa\tanh(\pi L\kappa) である。右辺が 0 から無限大まで単調増加することを書けば,任意の引力に対して解がただ一つあることが直ちに分かる。

縮退摂動として見ると分裂が自然

自由粒子の nn と −n-n の縮退空間では,cos⁡(nx/L)\cos(nx/L) 型は x=0x=0 で値をもち,sin⁡(nx/L)\sin(nx/L) 型は x=0x=0 で消える。デルタ関数は一点の値だけを見るため,前者だけを押し上げ,後者はそのまま残す。

一次補正の係数

規格化された cos⁡(nx/L)\cos(nx/L) 型では ∣ψ(0)∣2=1/(πL)|\psi(0)|^2=1/(\pi L) なので,摂動論からも ΔE=ℏ2v2m1πL=ℏ2v2πmL \Delta E= \frac{\hbar^2v}{2m}\frac{1}{\pi L} = \frac{\hbar^2v}{2\pi mL} が得られる。平面波の ∣ψ(0)∣2=1/(2πL)|\psi(0)|^2=1/(2\pi L) をそのまま使うと,縮退の分裂を見落として係数が半分になる。

解答

円周の長さを a=2πL a=2\pi L と書き,座標は xx と x+ax+a を同一視する。デルタ関数ポテンシャルを V(x)=ℏ2v2mδ(x) V(x)=\frac{\hbar^2 v}{2m}\delta(x) とする。vv は長さの逆数の次元をもつ定数である。

1. 自由粒子の場合

V(x)=0V(x)=0 では −ℏ22md2ψdx2=Eψ -\frac{\hbar^2}{2m}\frac{d^2\psi}{dx^2}=E\psi である。正エネルギー解を ψ=eikx\psi=e^{ikx} とおくと E=ℏ2k22m. E=\frac{\hbar^2k^2}{2m}. 周期境界条件 ψ(x+a)=ψ(x)\psi(x+a)=\psi(x) から eika=1⟹k=nL,n∈Z. e^{ika}=1 \quad\Longrightarrow\quad k=\frac{n}{L}, \qquad n\in\mathbb Z. したがって規格化固有関数と固有値は ψn(x)=12πLeinx/L,En=ℏ2n22mL2. \psi_n(x)=\frac{1}{\sqrt{2\pi L}}e^{inx/L}, \qquad E_n=\frac{\hbar^2 n^2}{2mL^2}. n=0n=0 は非縮退であり,n≥1n\ge1 では nn と −n-n が同じエネルギーをもつので二重縮退である。

2. デルタ関数による接続条件

シュレーディンガー方程式を x=0x=0 の微小区間 (−ε,ε)(-\varepsilon,\varepsilon) で積分する。エネルギー項の積分は ε→0\varepsilon\to0 で消え,デルタ関数だけが有限に残るので −ℏ22m{ψ′(ε)−ψ′(−ε)}+ℏ2v2mψ(0)=0. -\frac{\hbar^2}{2m} \left\{\psi'(\varepsilon)-\psi'(-\varepsilon)\right\} + \frac{\hbar^2 v}{2m}\psi(0)=0. よって lim⁡ε→0+{ψ′(ε)−ψ′(−ε)}=vψ(0). \boxed{ \lim_{\varepsilon\to0+} \{\psi'(\varepsilon)-\psi'(-\varepsilon)\} = v\psi(0) }. 波動関数そのものは連続だが,導関数はデルタ関数の強さに比例して跳ぶ。円周上では 0−0- は a−a- と同じ側を意味する。

3. v<0v<0 の負エネルギー状態

負エネルギーを E=−ℏ2κ22m,κ>0 E=-\frac{\hbar^2\kappa^2}{2m}, \qquad \kappa>0 と書く。x=0x=0 を除く領域ではポテンシャルがないので ψ(x)=eκx+Ae−κx,0<x<a \psi(x)=e^{\kappa x}+A e^{-\kappa x}, \qquad 0<x<a は確かに上の固有値をもつ解である。周期的な連続条件 ψ(0+)=ψ(a−) \psi(0+)=\psi(a-) から 1+A=eκa+Ae−κa 1+A=e^{\kappa a}+A e^{-\kappa a} となり, A=eκa A=e^{\kappa a} を得る。次に導関数の跳びを用いると ψ′(0+)−ψ′(a−)=2κ(1−eκa), \psi'(0+)-\psi'(a-) = 2\kappa(1-e^{\kappa a}), また ψ(0)=1+eκa. \psi(0)=1+e^{\kappa a}. したがって 2κ(1−eκa)=v(1+eκa) 2\kappa(1-e^{\kappa a}) = v(1+e^{\kappa a}) であり, −v=2κtanh⁡(πLκ) \boxed{ -v=2\kappa\tanh(\pi L\kappa) } が得られる。右辺 f(κ)=2κtanh⁡(πLκ) f(\kappa)=2\kappa\tanh(\pi L\kappa) は κ>0\kappa>0 で単調増加し,f(0+)=0f(0+)=0,f(κ)→∞f(\kappa)\to\infty である。したがって任意の v<0v<0 に対して,−v=f(κ)-v=f(\kappa) を満たす κ\kappa は一つだけ存在する。すなわち負エネルギー状態は一つだけである。

4. v>0, E>0v>0,\ E>0 の正エネルギー状態

正エネルギーを E=ℏ2k22m,k>0 E=\frac{\hbar^2k^2}{2m}, \qquad k>0 と書く。x=0x=0 を除いて ψ(x)=eikx+Ae−ikx,0<x<a \psi(x)=e^{ikx}+A e^{-ikx}, \qquad 0<x<a とおける。周期的な連続条件から 1+A=eika+Ae−ika⟹A=eika. 1+A=e^{ika}+A e^{-ika} \quad\Longrightarrow\quad A=e^{ika}. 導関数の跳びは ψ′(0+)−ψ′(a−)=2ik(1−eika) \psi'(0+)-\psi'(a-) = 2ik(1-e^{ika}) であり,ψ(0)=1+eika\psi(0)=1+e^{ika} だから 2ik(1−eika)=v(1+eika). 2ik(1-e^{ika})=v(1+e^{ika}). 両辺を整理すると v=2ktan⁡(πLk) \boxed{ v=2k\tan(\pi L k) } が量子化条件である。

ただし,点 x=0x=0 で消える解はデルタ関数ポテンシャルの影響を受けない。具体的には ψn(−)(x)=1πLsin⁡nxL,n=1,2,… \psi_n^{(-)}(x)= \frac{1}{\sqrt{\pi L}}\sin\frac{nx}{L}, \qquad n=1,2,\dots は ψn(−)(0)=0\psi_n^{(-)}(0)=0 であり,導関数の跳びも 0 である。したがってこの系列は En(−)=ℏ2n22mL2 E_n^{(-)}=\frac{\hbar^2n^2}{2mL^2} のまま残る。自由粒子で二重縮退していた各 n≥1n\ge1 の準位は,デルタ関数で値をもつ偶型の組合せだけがずれ,点で消える奇型の組合せはずれない。

5. k≫vk\gg v での一次補正

影響を受ける正エネルギー解について,v=0v=0 の準位 kn=nL,n=1,2,… k_n=\frac{n}{L}, \qquad n=1,2,\dots の近くに k=kn+Δk k=k_n+\Delta k とおく。k≫vk\gg v では Δk\Delta k は小さく, tan⁡(πLk)=tan⁡(nπ+πLΔk)≃πLΔk. \tan(\pi L k) = \tan(n\pi+\pi L\Delta k) \simeq \pi L\Delta k. 量子化条件 v=2ktan⁡(πLk)v=2k\tan(\pi Lk) から,一次まで v≃2knπLΔk v\simeq2k_n\pi L\Delta k である。したがって Δk≃v2πLkn=v2πn. \Delta k\simeq \frac{v}{2\pi L k_n} = \frac{v}{2\pi n}. エネルギー補正は ΔE=ℏ22m{(kn+Δk)2−kn2}≃ℏ2knΔkm=ℏ2v2πmL. \Delta E = \frac{\hbar^2}{2m}\{(k_n+\Delta k)^2-k_n^2\} \simeq \frac{\hbar^2 k_n\Delta k}{m} = \boxed{ \frac{\hbar^2 v}{2\pi m L} }. 一方,sin⁡(nx/L)\sin(nx/L) 型の解は ψ(0)=0\psi(0)=0 なので一次補正だけでなく厳密に補正を受けない。

最終答

自由粒子では ψn=12πLeinx/L,En=ℏ2n22mL2 \psi_n=\frac{1}{\sqrt{2\pi L}}e^{inx/L}, \qquad E_n=\frac{\hbar^2n^2}{2mL^2} であり,n=0n=0 は非縮退,n≥1n\ge1 は二重縮退である。デルタ関数により ψ′(0+)−ψ′(0−)=vψ(0) \psi'(0+)-\psi'(0-)=v\psi(0) が生じる。v<0v<0 の束縛状態は A=e2πLκ,−v=2κtanh⁡(πLκ) A=e^{2\pi L\kappa}, \qquad -v=2\kappa\tanh(\pi L\kappa) で決まり,一つだけ存在する。v>0v>0 の影響を受ける正エネルギー状態は v=2ktan⁡(πLk) v=2k\tan(\pi Lk) を満たす。点 x=0x=0 で消える sin⁡(nx/L)\sin(nx/L) 型の状態は影響を受けない。k≫vk\gg v では影響を受ける枝の一次補正は ΔE=ℏ2v2πmL \Delta E=\frac{\hbar^2v}{2\pi mL} である。

第2問 — 統計力学:高分子鎖の配位数と揺らぎ応答

配位数は「終点を固定した二項分布」

各結合は xx 方向に +1+1 または −1-1 だけ寄与する。終点 xx を指定することは,右向き結合数 n+n_+ を指定することと同じである。ここで n+n_+ が整数にならない場合があり,それが偶奇条件 L+xL+x 偶数の意味である。この条件を書き落とすと,存在しない終点にも配位数を与えてしまう。

フーリエ変換を使う理由

漸化式は xx のずれを含む差分方程式である。フーリエ変換すると,平行移動が位相因子になり,漸化式は単なる掛け算に変わる。入試答案では,和の添字を一回ずらして e±ike^{\pm ik} が出る過程を示すと失点しにくい。

ガウス近似の有効範囲

逆変換の積分では (2cos⁡k)L(2\cos k)^L が k=0k=0 近傍で最も大きく,幅 O(L−1/2)O(L^{-1/2}) の範囲だけが効く。このため Lk2Lk^2 を有限に保った展開になる。結果は ∣x∣=O(L)|x|=O(\sqrt L) の中心領域でよく,端点 ∣x∣≃L|x|\simeq L では二項係数そのものを扱う必要がある。

外場中では近似を使わない

熱平衡の設問では LL が十分大きいとは仮定できない。したがってガウス近似を流用せず,ステップごとに重み e±he^{\pm h} が掛かることから正確な分配関数を作るのが安全である。これは C~(k,L)\widetilde C(k,L) に k=ihk=ih を代入する見方とも同じである。

揺らぎ応答関係の注意点

∂⟨x⟩/∂h\partial\langle x\rangle/\partial h は ⟨x2⟩\langle x^2\rangle そのものではなく分散である。無電場で平均がゼロになるため,この問題では分散が ⟨x2⟩E=0\langle x^2\rangle_{E=0} と一致する。一般の外場で同じ置き換えをすると誤りになる。

解答

一本の結合が作る xx 方向の変位を sj=±1(j=1,…,L) s_j=\pm 1\qquad (j=1,\dots,L) とおく。終点の xx 座標は x=∑j=1Lsj x=\sum_{j=1}^{L}s_j である。右向き成分を持つ結合数を n+n_+,左向き成分を持つ結合数を n−n_- とすると n++n−=L,n+−n−=x n_+ + n_- = L,\qquad n_+ - n_- = x だから n+=L+x2,n−=L−x2. n_+=\frac{L+x}{2},\qquad n_-=\frac{L-x}{2}. したがって L+xL+x が偶数で ∣x∣≤L|x|\le L のとき C(x,L)=(L(L+x)/2)=L!((L−x)/2)! ((L+x)/2)! C(x,L)=\binom{L}{(L+x)/2} =\frac{L!}{((L-x)/2)!\,((L+x)/2)!} であり,それ以外では該当する配位は存在しない。

次に C~(k,L)=∑x=−∞∞e−ikxC(x,L) \widetilde C(k,L)=\sum_{x=-\infty}^{\infty}e^{-ikx}C(x,L) を用いる。漸化式の両辺に e−ikxe^{-ikx} を掛けて xx で和を取ると C~(k,L+1)=∑xe−ikxC(x−1,L)+∑xe−ikxC(x+1,L)=(e−ik+eik)C~(k,L)=2cos⁡k C~(k,L). \begin{aligned} \widetilde C(k,L+1) &=\sum_x e^{-ikx}C(x-1,L) +\sum_x e^{-ikx}C(x+1,L)\\ &=\left(e^{-ik}+e^{ik}\right)\widetilde C(k,L)\\ &=2\cos k\,\widetilde C(k,L). \end{aligned} 初期状態では C(0,0)=1C(0,0)=1 なので C~(k,0)=1\widetilde C(k,0)=1。よって C~(k,L)=(2cos⁡k)L \widetilde C(k,L)=(2\cos k)^L である。

大きな LL で k=O(L−1/2)k=O(L^{-1/2}) の寄与が支配的になる範囲を考えると log⁡C~(k,L)=Llog⁡(2cos⁡k)=Llog⁡2−Lk22+O(Lk4). \log \widetilde C(k,L) =L\log(2\cos k) =L\log2-\frac{Lk^2}{2}+O(Lk^4). 逆変換では主寄与を k=0k=0 近傍に限ってよいので C(x,L)≃2L2π∫−∞∞exp⁡ ⁣(ikx−Lk22) dk=2L2πLexp⁡ ⁣(−x22L). \begin{aligned} C(x,L) &\simeq \frac{2^L}{2\pi}\int_{-\infty}^{\infty} \exp\!\left(ikx-\frac{Lk^2}{2}\right)\,dk\\ &= \frac{2^L}{\sqrt{2\pi L}} \exp\!\left(-\frac{x^2}{2L}\right). \end{aligned} 二項分布の中心極限定理に対応するガウス形である。

終点だけが電場からポテンシャルエネルギー U(x)=−qEx U(x)=-qEx を受ける。 β=1/(kBT)\beta=1/(k_{\mathrm B}T), h=βqEh=\beta qE とおくと,分配関数は ZL(E)=∑xC(x,L)ehx=∑s1,…,sL=±1exp⁡ ⁣(h∑j=1Lsj)=(eh+e−h)L={2cosh⁡h}L. \begin{aligned} Z_L(E) &=\sum_x C(x,L)e^{hx}\\ &=\sum_{s_1,\dots,s_L=\pm1} \exp\!\left(h\sum_{j=1}^{L}s_j\right)\\ &=\left(e^h+e^{-h}\right)^L =\{2\cosh h\}^L. \end{aligned} 平均位置は ⟨x⟩=∂log⁡ZL∂h=Ltanh⁡h=Ltanh⁡ ⁣(qEkBT). \langle x\rangle =\frac{\partial \log Z_L}{\partial h} =L\tanh h =L\tanh\!\left(\frac{qE}{k_{\mathrm B}T}\right).

最後に,配位数の詳細を使わない導出を書く。任意の外場 hh について ∂⟨x⟩∂h=⟨x2⟩h−⟨x⟩h2 \frac{\partial \langle x\rangle}{\partial h} =\langle x^2\rangle_h-\langle x\rangle_h^2 が成り立つ。これは分配関数の二階微分から直ちに従う。いま h=βqEh=\beta qE だから ∂⟨x⟩∂E=βq(⟨x2⟩E−⟨x⟩E2). \frac{\partial \langle x\rangle}{\partial E} =\beta q\left(\langle x^2\rangle_E-\langle x\rangle_E^2\right). 無電場では左右対称性により ⟨x⟩E=0=0\langle x\rangle_{E=0}=0 である。したがって ∂⟨x⟩∂E∣E=0=qkBT ⟨x2⟩E=0. \left.\frac{\partial \langle x\rangle}{\partial E}\right|_{E=0} = \frac{q}{k_{\mathrm B}T}\,\langle x^2\rangle_{E=0}. 同値に ⟨x2⟩E=0=kBTq∂⟨x⟩∂E∣E=0 \langle x^2\rangle_{E=0} = \frac{k_{\mathrm B}T}{q} \left.\frac{\partial \langle x\rangle}{\partial E}\right|_{E=0} であり,比例係数は表し方に応じて q/(kBT)q/(k_{\mathrm B}T) または kBT/qk_{\mathrm B}T/q である。

最終答

配位数は C(x,L)={L!((L−x)/2)! ((L+x)/2)!,L+x が偶数かつ ∣x∣≤L,0,それ以外. C(x,L)= \begin{cases} \dfrac{L!}{((L-x)/2)!\,((L+x)/2)!}, & L+x\ \text{が偶数かつ}\ |x|\le L,\\[1.0ex] 0, & \text{それ以外}. \end{cases} また C~(k,L)=(2cos⁡k)L,C(x,L)≃2L2πLe−x2/(2L). \widetilde C(k,L)=(2\cos k)^L,\qquad C(x,L)\simeq \frac{2^L}{\sqrt{2\pi L}} e^{-x^2/(2L)}. 電場中では ZL(E)={2cosh⁡(qE/kBT)}L,⟨x⟩=Ltanh⁡(qE/kBT), Z_L(E)=\{2\cosh(qE/k_{\mathrm B}T)\}^L,\qquad \langle x\rangle=L\tanh(qE/k_{\mathrm B}T), さらに ∂⟨x⟩∂E∣E=0=qkBT⟨x2⟩E=0. \left.\frac{\partial\langle x\rangle}{\partial E}\right|_{E=0} = \frac{q}{k_{\mathrm B}T}\langle x^2\rangle_{E=0}.

第3問 — 電磁気学:運動する電荷列と場のローレンツ変換

電荷列は遠方で線電荷として扱う

点 (x,0,0)(x,0,0) が格子間隔 aa より十分遠いので,離散和ではなく線電荷のガウスの法則とアンペールの法則を使うのが自然である。符号は 1/x1/x に含めておくと,x<0x<0 の向きも同時に表せる。

長さ収縮の向きを取り違えない

座標系 OO で電荷列は運動しているので,OO で測った間隔 aa は収縮後の長さである。静止系 O′O' の固有間隔は a′=γaa'=\gamma a であり,静止系の線密度は q/(γa)q/(\gamma a) になる。ここを逆にすると,後で電場変換の γ\gamma と打ち消し合わず,設問1との比較が破綻する。

磁場は変換で生じる

共動系では電荷が静止しているため磁束密度はゼロである。しかし座標系を変えると横方向電場と磁束密度が混ざり,ByB_y や BxB_x が現れる。得られた向きは,電流 I=qvz/aI=qv_z/a に対する右ねじの規則と一致している。

点電荷では時刻を明示する

一個の運動する点電荷の場は空間的に一様ではなく,観測時刻に依存する。設問の点 (x,0,0)(x,0,0) は通常,二つの原点が一致する時刻に評価する。答案ではこの時刻を明示し,その事象で z′=0z'=0 となることを確認してから変換するのが安全である。

解答

電荷列は zz 軸方向へ速度 v=(0,0,vz),β=vzc,γ=11−β2 \boldsymbol v=(0,0,v_z),\qquad \beta=\frac{v_z}{c},\qquad \gamma=\frac{1}{\sqrt{1-\beta^2}} で等速運動している。座標系 OO で隣り合う電荷の間隔が aa であるから,十分遠方 ∣x∣≫a|x|\gg a では連続的な線電荷として扱える。線電荷密度と電流は λ=qa,I=λvz=qvza \lambda=\frac{q}{a},\qquad I=\lambda v_z=\frac{qv_z}{a} である。したがって点 (x,0,0)(x,0,0) で E=λ2πϵ0xex=q2πϵ0axex,B=μ0I2πxey=μ0qvz2πaxey. \boldsymbol E = \frac{\lambda}{2\pi\epsilon_0 x}\boldsymbol e_x = \frac{q}{2\pi\epsilon_0 a x}\boldsymbol e_x, \qquad \boldsymbol B = \frac{\mu_0 I}{2\pi x}\boldsymbol e_y = \frac{\mu_0 qv_z}{2\pi a x}\boldsymbol e_y . ここで x<0x<0 なら 1/x1/x の符号により向きも反転する。

次に,電荷列とともに動く座標系 O′O' を考える。電荷列は O′O' で静止しているので, 隣り合う二つの電荷の固有間隔を a′a' とする。逆変換は ct=γ(ct′+βz′),z=γ(z′+βct′) ct=\gamma(ct'+\beta z'),\qquad z=\gamma(z'+\beta ct') である。座標系 OO で間隔 aa を測るには,二つの事象を OO で同時刻に取る必要が ある。したがって Δt=γ(Δt′+vzc2Δz′)=0 \Delta t = \gamma\left(\Delta t'+\frac{v_z}{c^2}\Delta z'\right)=0 を課す。ここで Δz′=a′\Delta z'=a' だから Δt′=−vza′c2. \Delta t'=-\frac{v_z a'}{c^2}. この二つの事象の OO での空間間隔は a=Δz=γ(Δz′+vzΔt′)=γa′(1−β2)=a′γ. \begin{aligned} a=\Delta z &=\gamma(\Delta z'+v_z\Delta t')\\ &=\gamma a'(1-\beta^2) =\frac{a'}{\gamma}. \end{aligned} よって a′=γa a'=\gamma a である。運動している座標系 OO で測った間隔 aa は,静止系での固有間隔より短い。

座標系 O′O' では電荷列は静止しており,線電荷密度は λ′=qa′=qγa. \lambda'=\frac{q}{a'}=\frac{q}{\gamma a}. 半径方向の距離を r⊥′=x′2+y′2 r'_\perp=\sqrt{x'^2+y'^2} とおくと,十分遠方では E′=λ′2πϵ0r⊥′2(x′ex+y′ey),B′=0. \boldsymbol E' = \frac{\lambda'}{2\pi\epsilon_0 r_\perp'^2} (x'\boldsymbol e_x+y'\boldsymbol e_y), \qquad \boldsymbol B'=\boldsymbol 0. すなわち Ex′=q2πϵ0γax′x′2+y′2,Ey′=q2πϵ0γay′x′2+y′2,Ez′=0. E'_x=\frac{q}{2\pi\epsilon_0\gamma a}\frac{x'}{x'^2+y'^2}, \qquad E'_y=\frac{q}{2\pi\epsilon_0\gamma a}\frac{y'}{x'^2+y'^2}, \qquad E'_z=0 .

場の変換式に Bx′=By′=Bz′=0B'_x=B'_y=B'_z=0 を代入する。横方向座標は x=x′x=x', y=y′y=y' であるから Ex=γEx′=q2πϵ0axx2+y2,Ey=γEy′=q2πϵ0ayx2+y2,Ez=0, \begin{aligned} E_x&=\gamma E'_x =\frac{q}{2\pi\epsilon_0 a}\frac{x}{x^2+y^2},\\ E_y&=\gamma E'_y =\frac{q}{2\pi\epsilon_0 a}\frac{y}{x^2+y^2},\\ E_z&=0, \end{aligned} また Bx=−γβcEy′=−qβ2πϵ0acyx2+y2,By=γβcEx′=qβ2πϵ0acxx2+y2,Bz=0. \begin{aligned} B_x&=-\gamma\frac{\beta}{c}E'_y =-\frac{q\beta}{2\pi\epsilon_0 a c}\frac{y}{x^2+y^2},\\ B_y&=\gamma\frac{\beta}{c}E'_x =\frac{q\beta}{2\pi\epsilon_0 a c}\frac{x}{x^2+y^2},\\ B_z&=0. \end{aligned} μ0ϵ0c2=1\mu_0\epsilon_0c^2=1 を用いれば B=μ0qvz2πa−yex+xeyx2+y2. \boldsymbol B = \frac{\mu_0 qv_z}{2\pi a} \frac{-y\boldsymbol e_x+x\boldsymbol e_y}{x^2+y^2}. 特に y=0y=0 では,最初に連続線電荷として求めた結果と一致する。

最後に一個の点電荷を考える。座標系 O′O' では電荷は原点に静止しているから,原点を除いて E′=q4πϵ0x′ex+y′ey+z′ez(x′2+y′2+z′2)3/2,B′=0. \boldsymbol E' = \frac{q}{4\pi\epsilon_0} \frac{x'\boldsymbol e_x+y'\boldsymbol e_y+z'\boldsymbol e_z} {(x'^2+y'^2+z'^2)^{3/2}}, \qquad \boldsymbol B'=\boldsymbol 0 . 座標系 OO の点 (x,0,0)(x,0,0) で,両座標系の原点が一致する時刻 t=0t=0 に評価する。 この事象では x′=x,y′=0,z′=0 x'=x,\qquad y'=0,\qquad z'=0 なので Ex′=q4πϵ0x∣x∣3,Ey′=Ez′=0. E'_x=\frac{q}{4\pi\epsilon_0}\frac{x}{|x|^3}, \qquad E'_y=E'_z=0. 変換式より E=γq4πϵ0x∣x∣3ex,B=γqβ4πϵ0cx∣x∣3ey=μ0γqvz4πx∣x∣3ey. \boldsymbol E = \frac{\gamma q}{4\pi\epsilon_0} \frac{x}{|x|^3}\boldsymbol e_x, \qquad \boldsymbol B = \frac{\gamma q\beta}{4\pi\epsilon_0 c} \frac{x}{|x|^3}\boldsymbol e_y = \frac{\mu_0\gamma qv_z}{4\pi} \frac{x}{|x|^3}\boldsymbol e_y . これは B=1c2v×E \boldsymbol B=\frac{1}{c^2}\boldsymbol v\times\boldsymbol E という形にも書ける。

最終答

電荷列について,座標系 OO では E=q2πϵ0axex+yeyx2+y2,B=μ0qvz2πa−yex+xeyx2+y2. \boldsymbol E = \frac{q}{2\pi\epsilon_0 a} \frac{x\boldsymbol e_x+y\boldsymbol e_y}{x^2+y^2}, \qquad \boldsymbol B = \frac{\mu_0 qv_z}{2\pi a} \frac{-y\boldsymbol e_x+x\boldsymbol e_y}{x^2+y^2}. 特に (x,0,0)(x,0,0) では E=q2πϵ0axex,B=μ0qvz2πaxey. \boldsymbol E=\frac{q}{2\pi\epsilon_0 a x}\boldsymbol e_x,\qquad \boldsymbol B=\frac{\mu_0qv_z}{2\pi a x}\boldsymbol e_y. 共動系の間隔は a′=γaa'=\gamma a,そこで E′=q2πϵ0γax′ex+y′eyx′2+y′2,B′=0. \boldsymbol E' = \frac{q}{2\pi\epsilon_0\gamma a} \frac{x'\boldsymbol e_x+y'\boldsymbol e_y}{x'^2+y'^2}, \qquad \boldsymbol B'=\boldsymbol 0. 一個の点電荷では O′O' でクーロン場, E′=q4πϵ0r′∣r′∣3,B′=0 \boldsymbol E' = \frac{q}{4\pi\epsilon_0} \frac{\boldsymbol r'}{|\boldsymbol r'|^3},\quad \boldsymbol B'=\boldsymbol 0 であり,OO の (x,0,0)(x,0,0) を t=0t=0 に見ると E=γq4πϵ0x∣x∣3ex,B=μ0γqvz4πx∣x∣3ey. \boldsymbol E = \frac{\gamma q}{4\pi\epsilon_0}\frac{x}{|x|^3}\boldsymbol e_x, \qquad \boldsymbol B = \frac{\mu_0\gamma qv_z}{4\pi}\frac{x}{|x|^3}\boldsymbol e_y.

第4問 — 実験物理:ガンマ線とコンプトン散乱

曲線の対応はエネルギー依存で判断する

光電効果は低エネルギーで強く,概ね原子番号の高い物質で急激に大きくなる。コンプトン散乱は 中間領域で広く効き,対生成はしきい値を超えた高エネルギー側で立ち上がる。この順序を覚えて おくと,曲線名を暗記していなくても選べる。

矢印は対生成しきい値ではない

対生成のしきい値は 2mec2≃1.0 MeV2m_ec^2\simeq 1.0\,\mathrm{MeV} である。一方,設問の急増は 低エネルギー側の吸収端であり,NaI ではヨウ素の KK 殻束縛エネルギーに対応する。 ここを混同すると,曲線 BB と CC の物理まで入れ替わってしまう。

コンプトン端と戻り散乱ピークを分ける

コンプトン端は「シンチレータ内で電子へ渡った最大エネルギー」で,値は E0−Emin⁡′E_0-E'_{\min} である。戻り散乱ピークは「外で後方散乱された後に入射した光子」の エネルギー Emin⁡′E'_{\min} である。両者は足すと元のガンマ線エネルギー E0E_0 になる。

逆コンプトンは二回のドップラー効果

電子静止系へ移るときに γ(1+β)\gamma(1+\beta),実験室系へ戻るときにもう一度 γ(1+β)\gamma(1+\beta) が掛かる。反跳を無視できる条件では散乱そのものはほぼ弾性なので, 増幅因子は [(1+β)γ]2\bigl[(1+\beta)\gamma\bigr]^2 になる。

解答

扱うエネルギーは 10−2 MeV10^{-2}\,\mathrm{MeV} から GeV\mathrm{GeV} まで広いので, まず「光子は Eγ=hc/λE_\gamma=hc/\lambda,運動量は pγ=h/λp_\gamma=h/\lambda」という 対応を徹底して使う。数値計算では,与えられた hc=200 MeV fm,mec2=0.5 MeV hc=200\,\mathrm{MeV\,fm},\qquad m_ec^2=0.5\,\mathrm{MeV} をそのまま用いればよい。

1. 0.5 MeV 光子の波長 エネルギーが Eγ=0.5 MeVE_\gamma=0.5\,\mathrm{MeV} であるから λ=hcEγ=200 MeV fm0.5 MeV=4.0×102 fm. \lambda=\frac{hc}{E_\gamma} = \frac{200\,\mathrm{MeV\,fm}}{0.5\,\mathrm{MeV}} = 4.0\times 10^{2}\,\mathrm{fm}. 1 fm=10−15 m1\,\mathrm{fm}=10^{-15}\,\mathrm{m} より λ=4.0×10−13 m. \lambda=4.0\times 10^{-13}\,\mathrm{m}. ここでは hchc を MeV fm\mathrm{MeV\,fm} で与えられているので,ジュールへ直さない方が 桁落ちや単位換算ミスを避けやすい。

2. コンプトン散乱の保存則 入射光子を xx 軸正方向へ進むものとし,散乱光子は入射方向から角度 θ\theta, 反跳電子は入射方向から角度 ψ\psi の向きに進むと定める。散乱前の電子は静止しているので, エネルギー保存は hcλ+mec2=hcλ′+pe2c2+me2c4 \frac{hc}{\lambda}+m_ec^2 = \frac{hc}{\lambda'} + \sqrt{p_e^2c^2+m_e^2c^4} である。運動量保存を xx 成分と yy 成分に分けると hλ=hλ′cos⁡θ+pecos⁡ψ,0=hλ′sin⁡θ−pesin⁡ψ. \frac{h}{\lambda} = \frac{h}{\lambda'}\cos\theta+p_e\cos\psi, \qquad 0 = \frac{h}{\lambda'}\sin\theta-p_e\sin\psi . この符号は,反跳電子が散乱光子と反対側の横方向成分を持つように ψ\psi を測った場合の 取り方である。横方向の符号を逆に定義しても,同じ物理を表す。

3. 波長シフト 保存則から反跳電子のエネルギーと運動量を消去する。電子の四元運動量について peμ=pγμ+pelectron,0μ−pγ′μ p_e^\mu = p_\gamma^\mu+p_{\mathrm{electron},0}^\mu-p_{\gamma'}^\mu と書き,両辺を二乗すると peμpeμ=me2c2p_e^\mu p_{e\mu}=m_e^2c^2 であるから 2mec(hλ−hλ′)=2h2λλ′(cos⁡θ−1). 2m_ec\left(\frac{h}{\lambda}-\frac{h}{\lambda'}\right) = 2\frac{h^2}{\lambda\lambda'}(\cos\theta-1). 両辺を整理して λ′−λ=hmec(1−cos⁡θ)=λe(1−cos⁡θ). \lambda'-\lambda = \frac{h}{m_ec}(1-\cos\theta) = \lambda_e(1-\cos\theta). したがって散乱後の波長は λ′=λ+λe(1−cos⁡θ) \boxed{\lambda'=\lambda+\lambda_e(1-\cos\theta)} である。後方散乱 θ=π\theta=\pi では波長が最大で 2λe2\lambda_e だけ伸びる。

4. NaI 中の相互作用 ガンマ線と物質の主要な相互作用は,低エネルギー側で光電効果,中間エネルギーで コンプトン散乱,高エネルギー側で電子・陽電子対生成である。設問 2, 3 の過程は 自由または弱く束縛された電子との弾性散乱として扱うので,吸収係数曲線では 中間エネルギーで緩やかに変化する曲線 BB に対応する。

低エネルギー側で急に吸収係数が増える位置は,NaI のうち重いヨウ素原子の内殻吸収端, 特に KK 吸収端に対応する。水素様近似で有効核電荷を Zeff≃52Z_{\mathrm{eff}}\simeq 52 と見積もると EK≃13.6 eV Zeff2≃3.7×104 eV=3.7×10−2 MeV, E_K\simeq 13.6\,\mathrm{eV}\, Z_{\mathrm{eff}}^2 \simeq 3.7\times 10^4\,\mathrm{eV} = 3.7\times 10^{-2}\,\mathrm{MeV}, 実際のヨウ素の KK 吸収端はおよそ 3.3×10−2 MeV3.3\times 10^{-2}\,\mathrm{MeV} である。これは グラフの低エネルギー側の段差の位置と同じ桁になる。

5. 137Cs{}^{137}\mathrm{Cs} のスペクトル構造 137Cs{}^{137}\mathrm{Cs} は主に励起した 137Ba{}^{137}\mathrm{Ba} を経由し, その準位差として E0≃0.66 MeV E_0\simeq 0.66\,\mathrm{MeV} のガンマ線を出す。シンチレータ内でこの光子のエネルギーがすべて吸収されると, 右側の鋭い構造 (a)(a) が現れる。これは全吸収ピークで,エネルギーは Ea≃0.66 MeV E_a\simeq 0.66\,\mathrm{MeV} である。

コンプトン散乱で電子へ渡るエネルギーは散乱角が大きいほど増える。最大値は θ=π\theta=\pi のときで,散乱後光子のエネルギーは Emin⁡′=E01+2E0/(mec2)≃0.661+2(0.66)/(0.5) MeV≃0.18 MeV. E'_{\min} = \frac{E_0}{1+2E_0/(m_ec^2)} \simeq \frac{0.66}{1+2(0.66)/(0.5)} \,\mathrm{MeV} \simeq 0.18\,\mathrm{MeV}. したがって電子へ渡る最大エネルギーは Eb=E0−Emin⁡′≃0.48 MeV. E_b = E_0-E'_{\min} \simeq 0.48\,\mathrm{MeV}. この端点がスペクトル中の肩または端の構造 (b)(b) であり,コンプトン端と呼ばれる。

一方,鉛遮蔽や周囲の物質でほぼ後方にコンプトン散乱された光子がシンチレータへ入ると, その光子エネルギーは上で求めた Emin⁡′E'_{\min} と同程度になる。そのため低エネルギー側に 戻り散乱ピーク (c)(c) が現れ, Ec≃0.18 MeV E_c\simeq 0.18\,\mathrm{MeV} となる。より低いチャンネルに見える小さな寄与には,内部転換に伴う Ba の特性 X 線や 鉛の特性 X 線も混じり得るが,(c)(c) として目立つピークの主成分は戻り散乱ガンマ線である。

6. 相対論的電子による後方散乱 実験室系で電子が +x+x 方向に速度 βc\beta c で進み,レーザー光子が −x-x 方向から 正面衝突するとする。電子静止系へローレンツ変換すると,入射光子のエネルギーは E∗=γ(1+β)E E^*=\gamma(1+\beta)E にドップラー増大する。ただし E=hc/λE=hc/\lambda である。

条件 λmech≫4γ \frac{\lambda m_ec}{h}\gg 4\gamma は,電子静止系で見た光子エネルギーが mec2m_ec^2 より十分小さく,反跳による コンプトン波長シフトを無視できることを意味する。このトムソン極限では,電子静止系で 散乱の前後に光子エネルギーはほとんど変わらない。

電子静止系で後方散乱された光子は,実験室系では電子の進行方向へ戻る。したがって 実験室系へ戻すと,もう一度同じドップラー因子が掛かり, E′=γ(1+β)E∗=[(1+β)γ]2E. E' = \gamma(1+\beta)E^* = \bigl[(1+\beta)\gamma\bigr]^2 E . よって E′=[(1+β)γ]2hcλ,λ′=λ[(1+β)γ]2. \boxed{ E'=\bigl[(1+\beta)\gamma\bigr]^2\frac{hc}{\lambda} }, \qquad \boxed{ \lambda' = \frac{\lambda}{\bigl[(1+\beta)\gamma\bigr]^2} }. β≃1\beta\simeq 1 では (1+β)2γ2≃4γ2(1+\beta)^2\gamma^2\simeq 4\gamma^2 なので,可視レーザーでも 高エネルギー光子へ変換できる。

最終答

(1) λ=4.0×10−13 m\lambda=4.0\times 10^{-13}\,\mathrm{m}。 (2) エネルギー保存と運動量保存は hcλ+mec2=hcλ′+pe2c2+me2c4, \frac{hc}{\lambda}+m_ec^2 = \frac{hc}{\lambda'} + \sqrt{p_e^2c^2+m_e^2c^4}, hλ=hλ′cos⁡θ+pecos⁡ψ,0=hλ′sin⁡θ−pesin⁡ψ. \frac{h}{\lambda} = \frac{h}{\lambda'}\cos\theta+p_e\cos\psi, \qquad 0 = \frac{h}{\lambda'}\sin\theta-p_e\sin\psi . (3) λ′=λ+λe(1−cos⁡θ),λe=hmec. \lambda'=\lambda+\lambda_e(1-\cos\theta), \qquad \lambda_e=\frac{h}{m_ec}. (4) 対応する曲線はコンプトン散乱の BB。低エネルギー側の急増はヨウ素の KK 吸収端で,およそ 3.3×10−2 MeV3.3\times 10^{-2}\,\mathrm{MeV}。 (5) (a)(a) は 0.66 MeV0.66\,\mathrm{MeV} の全吸収ピーク,(b)(b) は約 0.48 MeV0.48\,\mathrm{MeV} の コンプトン端,(c)(c) は約 0.18 MeV0.18\,\mathrm{MeV} の戻り散乱ピーク。 (6) トムソン極限で E′=[(1+β)γ]2hcλ,λ′=λ[(1+β)γ]2. E'=\bigl[(1+\beta)\gamma\bigr]^2\frac{hc}{\lambda}, \qquad \lambda'=\frac{\lambda}{\bigl[(1+\beta)\gamma\bigr]^2}.

第5問 — 物性実験:磁気天秤と希土類イオンの磁気モーメント

誘起磁化のエネルギーには半分が付く

線形媒質では磁化 M=χHM=\chi H 自体が外場によって作られる。そのためエネルギーは −μ0MH-\mu_0MH をそのまま使うのではなく,−∫0Hμ0M(H′) dH′-\int_0^H\mu_0 M(H')\,dH' と積分して −μ0χH2/2-\mu_0\chi H^2/2 になる。ここは符号と係数の両方で失点しやすい。

力の向きは式より先に物理で確認する

Hx(y)=H0−αyH_x(y)=H_0-\alpha y では,上へ行くほど磁場が弱い。常磁性体は磁場が強い側へ 引かれるので力は下向きである。微分計算で符号が逆になったときは,この物理判断で すぐ検出できる。

較正では装置定数を消す

磁場勾配 α\alpha,力から電流への比例定数,幾何学的な補正は同じ装置で測れば比で 消える。較正試料と未知試料の差として残るのは χv\chi v だけなので, χ=χR(vR/v)(B/A)\chi=\chi_R(v_R/v)(B/A) という形になる。

キュリー則のグラフは直線化する

χ∝1/T\chi\propto 1/T を示すには,χ\chi と TT をそのまま描くより, χ\chi と 1/T1/T を描く方が判定しやすい。数値計算では各行の Tχ/NmT\chi/N_m が一定かどうかを見ると,傾きの読み取りをしなくても peff2p_{\mathrm{eff}}^2 を安定に求められる。

半充填殻では軌道角運動量が消える

4f74f^7 は 7 個の mℓm_\ell 状態を一つずつ同じスピンで占有する半充填殻である。 このとき mℓm_\ell の和がゼロになり L=0L=0 となる。希土類イオンでは軌道寄与が 残ることも多いが,Gd3+\mathrm{Gd}^{3+} はこの半充填性のためスピンのみの値 peff2=63p_{\mathrm{eff}}^2=63 がそのまま観測値と一致する。

解答

磁場は xx 方向を向き,その大きさだけが上下方向 yy にゆっくり変化する。常磁性体では Mx=χHx M_x=\chi H_x であり,誘起磁化のエネルギーは磁場をゼロから立ち上げる仕事として求めるのが安全である。 永久磁気モーメントの −μ⋅B-\boldsymbol\mu\cdot\boldsymbol B とは異なり,線形応答で誘起される 磁化には係数 1/21/2 が入る。

1. 試料のエネルギー変化 体積 vv の試料について,単位体積あたりの磁化エネルギー変化は −∫0Hxμ0Mx(H) dH=−∫0Hxμ0χH dH=−12μ0χHx2. -\int_0^{H_x}\mu_0 M_x(H)\,dH = -\int_0^{H_x}\mu_0\chi H\,dH = -\frac{1}{2}\mu_0\chi H_x^2 . したがって試料全体のエネルギー変化は U(Hx)=−12μ0χvHx2 \boxed{ U(H_x)=-\frac{1}{2}\mu_0\chi v H_x^2 } である。常磁性体では χ>0\chi>0 なので,磁場が強いほどエネルギーは低くなる。

2. 磁場勾配による力 試料位置を y=0y=0 とし,近傍で Hx(y)=H0−αy,α>0,H0>0 H_x(y)=H_0-\alpha y, \qquad \alpha>0,\quad H_0>0 と近似する。エネルギーは U(y)=−12μ0χv{H0−αy}2 U(y)=-\frac{1}{2}\mu_0\chi v\{H_0-\alpha y\}^2 であるから,力の yy 成分は Fy=−dUdy=−μ0χvα{H0−αy}. F_y=-\frac{dU}{dy} = -\mu_0\chi v\alpha\{H_0-\alpha y\}. ∣αy∣≪H0|\alpha y|\ll H_0 より試料位置では Fy≃−μ0χvαH0. F_y\simeq -\mu_0\chi v\alpha H_0 . したがって大きさは f=μ0χvαH0 \boxed{f=\mu_0\chi v\alpha H_0} で,向きは −y-y 方向,すなわち下向きである。これは常磁性体がより強い磁場側へ引かれる という物理的判断とも一致する。

3. 較正試料との比較 引き戻しコイルの電流 II は力 ff に比例するように設計されている。較正試料 RR と 未知試料 XX で同じ装置・同じ磁場分布を使うので,比例定数と μ0αH0\mu_0\alpha H_0 は 比を取ると消える。較正試料では fR=μ0χRvRαH0,IR=AH0, f_R=\mu_0\chi_R v_R\alpha H_0, \qquad I_R=A H_0, 未知試料では fX=μ0χvαH0,IX=BH0. f_X=\mu_0\chi v\alpha H_0, \qquad I_X=B H_0. よって BA=IXIR=fXfR=χvχRvR. \frac{B}{A} = \frac{I_X}{I_R} = \frac{f_X}{f_R} = \frac{\chi v}{\chi_R v_R}. 求める磁化率は χ=χR vRv BA. \boxed{ \chi=\chi_R\,\frac{v_R}{v}\,\frac{B}{A} }. この方法では力の絶対較正や磁場勾配の詳細を直接知らなくてもよい点が重要である。

4. キュリー則から有効磁気モーメントを求める 磁性イオン数密度を NmN_m とすると,キュリー則は χNm=μ0(peffμB)23kBT \frac{\chi}{N_m} = \frac{\mu_0(p_{\mathrm{eff}}\mu_B)^2}{3k_BT} と書ける。したがって χ/Nm\chi/N_m を縦軸,1/T1/T を横軸に取れば原点を通る直線になる。 与えられたデータでは T (K)T χ/Nm (m3 K)501.65×10−281001.65×10−282001.66×10−283001.65×10−28 \begin{array}{c|c} T\,(\mathrm K) & T\,\chi/N_m\,(\mathrm{m^3\,K})\\ \hline 50 & 1.65\times 10^{-28}\\ 100 & 1.65\times 10^{-28}\\ 200 & 1.66\times 10^{-28}\\ 300 & 1.65\times 10^{-28} \end{array} となり,確かに Tχ/NmT\chi/N_m はほぼ一定である。

直線の傾きに相当する量を C1=T χNm≃1.65×10−28 m3 K C_1=T\,\frac{\chi}{N_m}\simeq 1.65\times 10^{-28}\,\mathrm{m^3\,K} とおくと C1=μ0(peffμB)23kB. C_1=\frac{\mu_0(p_{\mathrm{eff}}\mu_B)^2}{3k_B}. したがって peff2=3kBC1μ0μB2. p_{\mathrm{eff}}^2 = \frac{3k_B C_1}{\mu_0\mu_B^2}. 数値を代入すると peff2=3(1.38×10−23)(1.65×10−28)(1.26×10−6)(9.27×10−24)2≃6.3×101. p_{\mathrm{eff}}^2 = \frac{ 3(1.38\times 10^{-23})(1.65\times 10^{-28}) }{ (1.26\times 10^{-6})(9.27\times 10^{-24})^2 } \simeq 6.3\times 10^{1}. すなわち peff2≃63 \boxed{p_{\mathrm{eff}}^2\simeq 63} である。必要なら peff≃7.9p_{\mathrm{eff}}\simeq 7.9 と読める。

5. Gd3+\mathrm{Gd}^{3+} のフント則と実験値の比較 Gd3+\mathrm{Gd}^{3+} では 4f4f 軌道に 7 個の電子が入る。ff 軌道では ℓz=3,2,1,0,−1,−2,−3 \ell_z=3,2,1,0,-1,-2,-3 に対応する 7 個の軌道状態があり,各軌道に上下 2 種類のスピンを入れられる。フント則 (A) により,まず全スピン SS を最大にするため,7 個の電子は互いに異なる 7 個の 軌道へ同じ向きのスピンで一つずつ入る。したがって S=7×12=72. S=7\times\frac12=\frac72.

この配置では占有された ℓz\ell_z の和が 3+2+1+0−1−2−3=0 3+2+1+0-1-2-3=0 である。よって全軌道角運動量は L=0 L=0 となる。つまり軌道角運動量の寄与は打ち消し合い,磁気モーメントは電子スピンの寄与だけで 決まる。

スピンのみの寄与で g=2g=2 とすれば peff2=g2S(S+1)=227292=63. p_{\mathrm{eff}}^2 = g^2S(S+1) = 2^2\frac72\frac92 = 63. これは設問 4 の実験値 peff2≃63 p_{\mathrm{eff}}^2\simeq 63 と非常によく一致する。したがって,Gd3+\mathrm{Gd}^{3+} の 4f74f^7 は半充填殻で 軌道角運動量が消え,磁気モーメントがほぼスピンだけからなる,という解釈が支持される。

最終答

(1) U=−12μ0χvHx2. U=-\frac12\mu_0\chi vH_x^2. (2) Fy≃−μ0χvαH0, F_y\simeq-\mu_0\chi v\alpha H_0, したがって大きさは μ0χvαH0\mu_0\chi v\alpha H_0,向きは下向き。 (3) χ=χRvRvBA. \chi=\chi_R\frac{v_R}{v}\frac{B}{A}. (4) χ/Nm\chi/N_m を縦軸,1/T1/T を横軸に取ると原点を通る直線になる。傾きから peff2=3kBμ0μB2TχNm≃63. p_{\mathrm{eff}}^2 = \frac{3k_B}{\mu_0\mu_B^2}T\frac{\chi}{N_m} \simeq 63. (5) 4f74f^7 では 7 個の mℓm_\ell 状態に同じ向きのスピンが一つずつ入り, S=72,L=0. S=\frac72,\qquad L=0. よって軌道寄与は消え,スピンのみで peff2=g2S(S+1)=4⋅72⋅92=63 p_{\mathrm{eff}}^2=g^2S(S+1)=4\cdot\frac72\cdot\frac92=63 となり,実験結果と一致する。

第6問 — 相対論と実験:ミューオン飛行時間と見かけの超光速

飛行時間の揺らぎは速度で非対称に効く

測定するのは時間差であり,速度は v=L/Δtv=L/\Delta t と逆数で求まる。したがって時間差が 真値より少し短く出ると速度は大きめに出る。今回の「光速超え」は Δtmeas<100 ns\Delta t_{\mathrm{meas}}<100\,\mathrm{ns} という測定揺らぎの事象であって, 相対論の破れではない。

二つの検出器の誤差は二乗和で足す

各検出器の時刻のばらつきが 0.7 ns0.7\,\mathrm{ns} でも,時間差のばらつきは 0.7 ns0.7\,\mathrm{ns} ではなく 2 0.7 ns\sqrt2\,0.7\,\mathrm{ns} である。独立な二つの測定値の差を 取るためで,ここを落とすと超光速確率が大きく変わる。

見かけの超光速は到着時刻差の圧縮

B が地球へ近づいている場合,後に放たれた光は出発点が地球に近い。そのため観測者が見る 到着時刻差は放出時刻差より 1−βcos⁡θ1-\beta\cos\theta 倍だけ短くなる。この分母が小さくなるので, 天球面内の見かけ速度は実速度の横成分より大きく見える。

近づく成分と遠ざかる成分を同時に使う

同じ βsin⁡θ\beta\sin\theta を持っていても,近づく B は分母が 1−βcos⁡θ1-\beta\cos\theta,遠ざかる C は分母が 1+βcos⁡θ1+\beta\cos\theta になる。二つの見かけ速度を同時に測ると, βsin⁡θ\beta\sin\theta と βcos⁡θ\beta\cos\theta を分離して β\beta と θ\theta を決定できる。

解答

地上実験では,ミューオンそのものの速度は常に cc 未満である。しかし有限の時間分解能を 持つ装置で飛行時間を測ると,測定値の揺らぎによって見かけ上 cc を超える値が出ることが ある。天体観測では,光の到着時刻差の幾何により,天球面内の見かけの横速度が cc を 超えることがある。どちらも相対論に反する現象ではない。

1. ミューオンの全エネルギーとシンチレータ中の損失 β=0.9\beta=0.9 では γ=11−β2=11−0.92≃2.3. \gamma=\frac{1}{\sqrt{1-\beta^2}} = \frac{1}{\sqrt{1-0.9^2}} \simeq 2.3 . ミューオンの静止エネルギーを mμc2=100 MeVm_\mu c^2=100\,\mathrm{MeV} としているので,全エネルギーは E=γmμc2≃2.3×100 MeV≃2×102 MeV E=\gamma m_\mu c^2\simeq 2.3\times 100\,\mathrm{MeV} \simeq 2\times 10^2\,\mathrm{MeV} である。有効数字 1 桁では 2×102 MeV2\times 10^2\,\mathrm{MeV} と答えればよい。

エネルギー損失の横軸は βγ\beta\gamma である。β=0.9\beta=0.9 では βγ≃0.9×2.3≃2.1 \beta\gamma\simeq 0.9\times 2.3\simeq 2.1 で,グラフから ε≃2 MeV g−1 cm2 \varepsilon\simeq 2\,\mathrm{MeV\,g^{-1}\,cm^2} 程度と読める。シンチレータの面密度は ρd=(1.1 g cm−3)(0.5 cm)=0.55 g cm−2 \rho d = (1.1\,\mathrm{g\,cm^{-3}})(0.5\,\mathrm{cm}) = 0.55\,\mathrm{g\,cm^{-2}} であるから,1 枚で失うエネルギーは ΔE≃ερd≃2×0.55 MeV≃1 MeV. \Delta E\simeq \varepsilon\rho d \simeq 2\times 0.55\,\mathrm{MeV} \simeq 1\,\mathrm{MeV}. 全エネルギー 102 MeV10^2\,\mathrm{MeV} に比べると小さく,速度の大きな変化は無視できる。

2. 飛行時間測定と見かけの超光速確率 2 台のシンチレータ間の距離は L=30 mL=30\,\mathrm m である。真の速度が β=0.990\beta=0.990 なら,平均飛行時間は Δt0=Lβc=300.990×3.00×108 s=1.01×10−7 s=101 ns. \Delta t_0 = \frac{L}{\beta c} = \frac{30}{0.990\times 3.00\times 10^8}\,\mathrm s = 1.01\times 10^{-7}\,\mathrm s = 101\,\mathrm{ns}. 各検出器の時刻測定の標準偏差が σ=0.7 ns\sigma=0.7\,\mathrm{ns} で独立なら,差の標準偏差は σΔt=σ2+σ2=2 σ≃0.99 ns. \sigma_{\Delta t}=\sqrt{\sigma^2+\sigma^2} = \sqrt2\,\sigma \simeq 0.99\,\mathrm{ns}. したがって Δt=(101±0.99) ns \boxed{\Delta t=(101\pm 0.99)\,\mathrm{ns}} である。

速度の測定値は v=L/Δtv=L/\Delta t で与えられる。中心値は v0=30 m101 ns≃2.97×108 m s−1=0.990c. v_0=\frac{30\,\mathrm m}{101\,\mathrm{ns}} \simeq 2.97\times 10^8\,\mathrm{m\,s^{-1}} = 0.990c . 誤差は一次の誤差伝播より σvv0=σΔtΔt0≃0.99101≃9.8×10−3 \frac{\sigma_v}{v_0} = \frac{\sigma_{\Delta t}}{\Delta t_0} \simeq \frac{0.99}{101} \simeq 9.8\times 10^{-3} なので σv≃2.9×106 m s−1≃0.010c. \sigma_v\simeq 2.9\times 10^6\,\mathrm{m\,s^{-1}} \simeq 0.010c. よって v=(2.97±0.03)×108 m s−1 \boxed{ v=(2.97\pm 0.03)\times 10^8\,\mathrm{m\,s^{-1}} } である。

測定速度が cc を超える条件は,測定された時間差が Δtmeas<Lc=100 ns \Delta t_{\mathrm{meas}}<\frac{L}{c}=100\,\mathrm{ns} となることである。平均値 101 ns101\,\mathrm{ns},標準偏差 0.99 ns0.99\,\mathrm{ns} の正規分布で 見ると z=100−101.010.99≃−1.0. z=\frac{100-101.01}{0.99}\simeq -1.0 . 標準正規分布で z<−1.0z<-1.0 となる確率は約 0.160.16 なので,有効数字 1 桁では P(vmeas>c)≃0.2 \boxed{P(v_{\mathrm{meas}}>c)\simeq 0.2} である。これは粒子が実際に光速を超えたという意味ではなく,測定揺らぎによる見かけである。

3. 天球面内の見かけの速度 天体 A から物体 B が地球へ近づく向きに角度 θ\theta をなして速度 v=βcv=\beta c で 飛び出すとする。A の静止系で時間 Δtemit\Delta t_{\mathrm{emit}} が経過すると,B の天球面内の 変位は Δx=βc Δtemitsin⁡θ \Delta x=\beta c\,\Delta t_{\mathrm{emit}}\sin\theta である。一方,B は地球に近づくので,後で出た光は距離 βcΔtemitcos⁡θ\beta c\Delta t_{\mathrm{emit}}\cos\theta だけ短い位置から出る。したがって観測される 到着時刻差は Δtobs=Δtemit(1−βcos⁡θ). \Delta t_{\mathrm{obs}} = \Delta t_{\mathrm{emit}}(1-\beta\cos\theta). ゆえに見かけの天球面内速度は ub=ΔxΔtobs=βcsin⁡θ1−βcos⁡θ. \boxed{ u_b = \frac{\Delta x}{\Delta t_{\mathrm{obs}}} = \frac{\beta c\sin\theta}{1-\beta\cos\theta} }.

4. 最大の見かけ速度 ubc=βsin⁡θ1−βcos⁡θ \frac{u_b}{c} = \frac{\beta\sin\theta}{1-\beta\cos\theta} を θ\theta で微分する。分子を N=βsin⁡θN=\beta\sin\theta,分母を D=1−βcos⁡θD=1-\beta\cos\theta とすると ddθND=βcos⁡θ(1−βcos⁡θ)−β2sin⁡2θD2=β(cos⁡θ−β)D2. \frac{d}{d\theta}\frac{N}{D} = \frac{\beta\cos\theta(1-\beta\cos\theta)-\beta^2\sin^2\theta}{D^2} = \frac{\beta(\cos\theta-\beta)}{D^2}. したがって最大値を与える角度は cos⁡θ=β \boxed{\cos\theta=\beta} を満たす。このとき sin⁡θ=1−β2=1/γ\sin\theta=\sqrt{1-\beta^2}=1/\gamma であり, (ubc)max⁡=β/γ1−β2=βγ. \left(\frac{u_b}{c}\right)_{\max} = \frac{\beta/\gamma}{1-\beta^2} = \beta\gamma . β=0.99\beta=0.99 では γ=11−0.992≃7.1,βγ≃7.0. \gamma=\frac{1}{\sqrt{1-0.99^2}}\simeq 7.1, \qquad \beta\gamma\simeq 7.0. 有効数字 1 桁では ub,max⁡≃7c \boxed{u_{b,\max}\simeq 7c} である。

5. 逆方向に飛ぶ物体 C との同時観測 B と逆方向に同じ速さで飛ぶ C は,地球から遠ざかる向きの視線方向成分を持つ。したがって 光の到着時刻差は長くなり, Δtobs,C=Δtemit(1+βcos⁡θ). \Delta t_{\mathrm{obs},C} = \Delta t_{\mathrm{emit}}(1+\beta\cos\theta). 天球面内の変位の大きさは同じ βcΔtemitsin⁡θ\beta c\Delta t_{\mathrm{emit}}\sin\theta なので, −x-x 方向に動く見かけの速さの大きさは uc=βcsin⁡θ1+βcos⁡θ. \boxed{ u_c = \frac{\beta c\sin\theta}{1+\beta\cos\theta} }.

条件 ubc=2,ucc=0.25 \frac{u_b}{c}=2,\qquad \frac{u_c}{c}=0.25 を X=βcos⁡θ,Y=βsin⁡θ X=\beta\cos\theta,\qquad Y=\beta\sin\theta で書くと 2=Y1−X,0.25=Y1+X. 2=\frac{Y}{1-X}, \qquad 0.25=\frac{Y}{1+X}. よって Y=2(1−X)=0.25(1+X) Y=2(1-X)=0.25(1+X) から X=79,Y=49. X=\frac{7}{9},\qquad Y=\frac{4}{9}. したがって β=X2+Y2=659≃0.90, \beta=\sqrt{X^2+Y^2} = \frac{\sqrt{65}}{9} \simeq 0.90, また sin⁡θ=Yβ=465≃0.50. \sin\theta=\frac{Y}{\beta} = \frac{4}{\sqrt{65}} \simeq 0.50. 有効数字 1 桁で β≃0.9,sin⁡θ≃0.5 \boxed{\beta\simeq 0.9,\qquad \sin\theta\simeq 0.5} である。

最終答

(1) β=0.9\beta=0.9 では γ≃2.3\gamma\simeq 2.3 なので E≃2×102 MeV. E\simeq 2\times 10^2\,\mathrm{MeV}. グラフから ε≃2 MeV g−1 cm2\varepsilon\simeq 2\,\mathrm{MeV\,g^{-1}\,cm^2} と読め, ΔE≃ερd≃1 MeV. \Delta E\simeq \varepsilon\rho d\simeq 1\,\mathrm{MeV}. (2) Δt=(101±0.99) ns,v=(2.97±0.03)×108 m s−1. \Delta t=(101\pm 0.99)\,\mathrm{ns},\qquad v=(2.97\pm 0.03)\times 10^8\,\mathrm{m\,s^{-1}}. 測定値が光速を超える確率は約 0.20.2。 (3) ub=βcsin⁡θ1−βcos⁡θ. u_b=\frac{\beta c\sin\theta}{1-\beta\cos\theta}. (4) 最大条件は cos⁡θ=β, \cos\theta=\beta, 最大値は ub,max⁡/c=βγu_{b,\max}/c=\beta\gamma。β=0.99\beta=0.99 では約 7c7c。 (5) uc=βcsin⁡θ1+βcos⁡θ. u_c=\frac{\beta c\sin\theta}{1+\beta\cos\theta}. ub=2c, uc=0.25cu_b=2c,\ u_c=0.25c から β≃0.9,sin⁡θ≃0.5. \beta\simeq 0.9,\qquad \sin\theta\simeq 0.5.

東大 専門科目(物理学) 院試 過去問の収録15年度

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