東京大学 院試 過去問 解答例
東大 理学系研究科 物理学専攻 専門科目(物理学) 2012年度 院試 解答例・解説
東京大学 理学系研究科 物理学専攻 専門科目(物理学) 2012年度の院試 過去問について、設問ごとの解法方針・部分点の置き所を解説。全6問収録の解答・解説PDFと併用できます。問題本文は含みません。
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第1問 — 量子力学:スピンと回転磁場
磁場の向きを取り違えない
この問題の一定磁場は 方向である。 方向磁場として解くと固有状態も期待値も別物になる。まずハミルトニアンの行列を磁場の向きから作るのが安全である。
相互作用表示の役割
による速い 軸回転を外すと,横磁場は位相因子 だけを持つ。共鳴でこの因子が消えることが,ラビ振動の計算を一気に簡単にする。
2012年度は公開から時間が経過しているため、解答・最終答まで全文公開しています
角運動量とスピンの基本代数から順に整理する。以下,設問の後半では とする。
- 軌道角運動量を とおく。例えば 異なる成分の座標・運動量は可換なので,残る項だけを計算すると したがって 巡回置換により が得られる。
- スピン の行列は同じ交換関係を満たす必要がある。与えられた に対し とすれば, などが成り立つ。
- 一定磁場が 方向, であるから の固有状態を用いれば直ちに である。エネルギーは磁場方向のスピン成分で決まる。
- 初期状態を 上向き とする。時間発展は よって期待値は 磁場が 軸まわりの回転を作るので, 成分と 成分が入れ替わる。
- 回転磁場を と書くと である。ただし 。相互作用表示 では となる。行列表現で計算すると したがって,回転磁場の角周波数とゼーマン分裂 のずれだけが相互作用表示の時間依存性として残る。
- 共鳴条件 では相互作用表示のハミルトニアンが という時間によらない形になる。初期状態を再び 上向きに取ると は 軸まわりの戻し変換と可換なので,シュレーディンガー表示でも である。共鳴では弱い横磁場の大きさ が振動周期を決める。
最終答
% では 初期 上向きなら 回転磁場の相互作用表示では 共鳴 で 。
第2問 — 統計力学:剛体回転子とオルト・パラ水素
古典分配関数の
のガウス積分から が出る。これが球面の面積要素と合わさり,最終的に が現れる。ここを落とすと係数だけでなく温度依存の理解も曖昧になる。
オルト・パラは熱平衡と組成凍結を分ける
急冷後の は熱平衡比ではなく組成が凍結した比である。各成分の内部では低温の最低回転準位に落ちる,という二段階で考えると平均エネルギーを誤らない。
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線形二原子分子の回転自由度は二つである。古典極限,量子準位,核スピン統計を分けて扱う。
- 古典的な剛体回転子のエネルギーは である。一分子の回転分配関数を と書く。運動量積分は よって を用いれば したがって
- 量子力学では回転準位は である。よって 高温 では和を積分で近似でき, したがって古典結果 に一致する。
- 低温 では と だけを残せばよい。 内部エネルギーは したがって 比熱は等分配則の値へ滑らかに行くのではなく,励起準位が熱的に使えるようになるまで指数的に小さい。
- 水素分子では二つの陽子がフェルミ粒子である。電子・振動の基底状態を対称と見れば,全波動関数の交換反対称性は で決まる。核スピン三重項は対称であり,回転波動関数は反対称,すなわち奇数 を取る。これがオルト水素である。核スピン一重項は反対称であり,回転波動関数は対称,すなわち偶数 を取る。これがパラ水素である。 高温では偶数 と奇数 の回転状態数がほぼ等しく,核スピン縮退度だけが効くので となる。
- 急冷でオルト・パラ比が のまま凍結されたとする。 では より,パラ水素は最低の ,オルト水素は最低の にほぼ入る。回転エネルギーは したがって一分子あたり平均内部エネルギーは
最終答
% 古典分配関数は したがって 。量子回転子では 低温では 水素分子はオルトが奇数 ,パラが偶数 を取り,高温比は 。急冷後 の平均回転エネルギーは
第3問 — 電磁気学:ローレンツ振動子と屈折率分散
分極ではなく電流密度から入る
この設問は束縛電子の速度を使って電流密度を作らせている。分極 から解いても同じ結果になるが,アンペール・マクスウェルの式に戻す流れを明示すると係数を落としにくい。
共鳴の位置が色順を決める
水晶では可視域が共鳴より低振動数側にあり,屈折率は振動数とともに増える。共鳴が可視域に入ると曲線が分断され,プリズム上の並びが単純な赤から紫の順ではなくなる。
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束縛電子の運動から電流密度を作り,それをマクスウェル方程式に戻す。
- 電子の変位を ,外部電場を とする。復元力を とすれば である。ここで であるが,最終的な分散式には が現れる。
- 定常解を とおくと 速度は 単位体積あたりの束縛電子数を とすれば,電流密度は
- 真空中のアンペール・マクスウェルの式を と書く。両辺の発散を取ると左辺は常にゼロなので ガウスの法則 を使えば となり,電荷保存が従う。
- 真空で伝導電流がない場合, に対して 誘電体中では束縛電子の電流密度を加えるので したがって同じ形 で書けば
- 屈折率は波の位相速度 と の比から プラズマ振動数 を用いれば
最終答
% 電子の運動方程式は 定常解から 誘電体中では よって 可視域より高い共鳴なら通常分散,可視域近傍の共鳴なら異常分散で色順が乱れる。
第4問 — 原子核・素粒子:しきい値・飛行時間・寿命測定
しきい値は不変量で処理する
実験室系では生成粒子が全て静止することはできない。重心系で相対運動が消えるという条件を に入れるのが,しきい値問題の標準手順である。
指数分布の寿命推定
崩壊時間が指数分布に従う場合,寿命の最尤推定量は標本平均である。個々の長い崩壊時間を外れ値として捨てるのではなく,指数分布の長い尾として含める。
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相対論的不変量,検出器の偶然同時計数,指数分布の最尤推定をまとめて扱う。
- 標的陽子が静止している実験室系で を考える。入射陽子の全エネルギーを とすると しきい値では重心系で生成粒子が相対運動を持たないため したがって入射陽子の運動エネルギーは , を使うと
- の崩壊で生じる高エネルギー光子は,物質中で主に以下の過程を起こす。 数十 MeV 以上の領域では対生成が特に重要であり,その後の電磁シャワーを検出することで光子を捉える。
- 飛行距離と飛行時間から 相対誤差は したがって
- 運動量 の粒子について,長さ の飛行時間は なので したがって 中間子と 中間子の時間差は を用いると とするには よって必要な飛行距離は約 である。
- 二つの計数管のノイズがそれぞれ独立に で入り,パルス幅を とする。二つの矩形パルスが少しでも重なる条件は開始時刻差が である。偶然同時計数率は すなわち約 である。
- 寿命分布を とする。独立な測定値 に対する対数尤度は から 与えられた九つの値の和は したがって
最終答
% 高エネルギー光子の主過程は光電効果・コンプトン散乱・対生成で,高エネルギーでは対生成が重要。 の 識別で を得るには 偶然同時計数率は 。寿命の最尤推定値は
第5問 — 物性実験:中性子散乱と拡散係数
横軸の単位に注意
式のローレンツ幅は角周波数の幅 である。一方,実験図は を横軸にしているため,読み取った幅は である。
グラフ読み取りは傾きで安定化する
各ピークの半値半幅を個別に使うより, と の直線性を使って傾きを読む方が誤差に強い。三点がほぼ原点を通る直線に乗ることも,ブラウン拡散モデルの検算になる。
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飛行時間法の運動学,ローレンツ型スペクトル,アレニウス解析を一つずつ処理する。数値は有効数字二桁で示す。
- グラファイトの面間隔を ,一次反射を用いる。ブラッグ条件 であり,入射角・反射角は なので 弾性散乱では 散乱角が であるから
- 入射中性子のエネルギーは 散乱後,中性子が試料から検出器まで距離 を時間 で飛ぶなら 試料へのエネルギー移行を と取ると
- 時間相関関数が である。偶関数性を使うと よって準弾性ピークはローレンツ型になる。
- 最大値は で 半値条件は したがって 横軸をエネルギー で読むときの半値半幅は である。
- アレニウス式 の対数を取ると 端の二点を用いると したがって直線の傾きは約 であり この活性化エネルギーは,水分子が拡散する際に水素結合ネットワークを組み替えるためのエネルギーと主に関係する。
最終答
% 図の読み取りから 水の温度依存性から 主に水素結合の組み替えエネルギーを反映する。
第6問 — 電磁気学:同軸ケーブルと整合減衰器
単位長さあたりの量で統一する
ここでの は総インダクタンス・総容量ではなく単位長さあたりの線路定数である。伝送速度 がケーブル長に依存しないのはこのためである。
T型減衰器は二条件で決まる
減衰だけなら抵抗比はいくらでも作れるが,反射させない条件が入力インピーダンスを に固定する。減衰比 と整合条件を同時に解くと が一意に出る。
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同軸ケーブルの断面内の静電場・静磁場から線路定数を求め,最後に整合したT型減衰器を設計する。
- 中心導体半径を ,外部導体内半径を とする。単位長さあたりの電荷を とすれば,ガウスの法則から である。電位差は したがって単位長さあたりの電気容量は 電流 が流れると,アンペールの法則から 単位長さあたりの磁場エネルギーは これを と比べると
- 長さ の微小区間について,直列インダクタンスは ,並列容量は である。直列インダクタンスによる電圧降下は で また,微小容量に流れ込む電流は なので,電流の減少分は したがって
- 二つの伝送線路方程式をもう一度微分して組み合わせる。 同様に 標準形 と比べて
- 絶縁体の比誘電率が ,比透磁率が なら 上で求めた を使うと したがって光速の約 である。
- 進行波 を伝送線路方程式に代入する。例えば 方向波では したがって これが特性インピーダンスである。断面から求めた を代入すると ケーブル長ではなく,断面形状と媒質だけで決まる。
最終答
% 伝送線路方程式は したがって では 。特性インピーダンスは 電圧を にする整合T型減衰器は