東京大学 院試 過去問 解答例
東大 理学系研究科 物理学専攻 専門科目(物理学) 2020年度 院試 解答例・解説
東京大学 理学系研究科 物理学専攻 専門科目(物理学) 2020年度の院試 過去問について、設問ごとの解法方針・部分点の置き所を解説。全6問収録の解答・解説PDFと併用できます。問題本文は含みません。
最終更新:
設問ごとの解法方針・部分点の置き所を無料で公開しています。
完全な途中式・最終答は解答・解説PDFに収録しています。問題本文は含まれません。
第1問 — 二状態系と相関
一重項の使い方
この問題の中心は,一重項状態では同じ方向の測定結果が必ず反対になることにある。 方向で書かれた状態だけを見ると 方向専用の性質に見えるが,一重項は回転に対して形を保つため, 方向や任意の角度 でも同じ反相関が成り立つ。
同時確率の作り方
相関だけでなく可能な結果も問われる場合は,周辺分布が であることを書くと安全である。 二つの符号 の同時確率は と置ける。ここで である。本問では なので, 解答中の式が得られる。
Mermin型の矛盾
決定論的な仮定では,実際に測っていない角度の値まで各試行で決まっていると考える。 このとき同じ角度での反相関から, 側の三つの値は 側の三つの値の反符号でなければならない。 すると平均は という形になり, になれない。この「負にしかならない」という点が, 量子力学的平均 との決定的な違いである。
第2問 — 理想気体とフェルミ気体
古典気体で落としやすい点
は単なる係数ではなく,熱力学極限で自由エネルギーを示量的にするために必要である。 この因子を落とすと,圧力のような一部の式は正しく見えても,エントロピーや混合の議論で矛盾が出る。
高温フェルミ気体は古典気体へ戻る
非縮退条件は と同値である。この条件下ではフェルミ分布の分母の が無視でき, Maxwell--Boltzmann 分布に戻る。設問7の積分は,状態密度を使っても直接 空間で積分しても同じ結果になる。
低温のグラフの意味
フェルミ気体は でも粒子がフェルミ面まで詰まっているが,エントロピーは状態数の不確定性を表す量なので ゼロから始まる。低温で熱的に励起できるのはフェルミ面近くの幅 の粒子だけであり, そのため ,したがって になる。
第3問 — 同軸ケーブルのTEM波
TEMモードの構造
同軸ケーブルのTEM波は,静電場・静磁場の断面分布をそのまま進行波にした形になる。 そのため電場は半径方向に ,磁場は方位角方向に で減衰する。この は Maxwell方程式の発散条件から直接出る。
特性インピーダンス
は電圧と電流の比であり,場の大きさ や位置 には依存しない。 同軸ケーブルでは幾何因子 と媒質因子 だけで決まる。
パルスが崩れない条件
波束が崩れないのは, を波束の幅の範囲で一次関数とみなせるときである。 二次以上の項が効くと, ごとに群速度が異なり,包絡線が広がる。この問題では一次近似を明示しているので, 包絡線は によって平行移動するだけである。
第4問 — 熱容量測定
熱回路として見る
この問題は電気回路の一次RC応答と完全に対応している。温度差 が電圧,熱容量 が容量, 熱抵抗 が抵抗に対応する。時定数が になるのはこの対応からすぐに読める。
図から読む量
パルス法では,飽和温度上昇から ,立ち上がりまたは減衰の時定数から を読む。 本問の図は1桁精度でよいので,細かな読み取りよりも「温度上昇量」と「半減時間」を押さえることが重要である。
交流法の利点
交流法では,定常的な温度揺らぎの振幅と位相を見る。直流ドリフトや環境温度のゆっくりした変動を避けやすく, 小さい熱容量を測るときに有利である。ただし入力が電圧で与えられるため,熱入力の振動周波数は電圧の2倍になる。
第5問 — 熱雑音と光検出回路
雑音も増幅される
OPアンプの利得 は信号にも抵抗雑音にも同じように掛かる。そのため,この単純なモデルでは 出力で信号雑音比を作ると は消える。利得を上げれば信号電圧は大きくなるが,抵抗由来の雑音も同じ比率で大きくなる。
並列共振回路の役割
共振時には と の虚数アドミタンスが打ち消し合い,回路のインピーダンスは最大値 になる。 光電流の変調成分を電圧に変換するには が効くので,検出したい角周波数を に合わせると感度が高くなる。
二乗平均と振幅の区別
最後の設問は「振幅 」を問う一方で,信号と雑音の比較は二乗平均で行う。 正弦波の二乗平均には が入るため,ここを落とすと答えが だけずれる。
第6問 — 相対論的運動学と粒子識別
しきい値計算の鉄則
しきい値では,重心系で最終粒子の相対運動が消える。固定標的問題では実験室系で考えると複雑だが, 不変量 を使えば一行で重心系の条件に移せる。
保存則の見方
起こらない反応の判定では,エネルギー以前に電荷,バリオン数,レプトン数などの保存則を確認する。 本問の a) は電荷,b) はバリオン数を見れば直ちに排除できる。
粒子識別で重要な時間スケール
同じ運動量でも重い粒子ほど速度が小さいため,飛行時間差が生じる。ただし本問の差は約 と短い。 したがって信号幅が数十 ns 以上ある検出器では分離が難しく,速い応答をもつ検出器を選ぶ必要がある。