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東京大学 院試 過去問 解答例

東大 理学系研究科 物理学専攻 専門科目(物理学) 2020年度 院試 過去問 解答例・解説(全6問)

全6問。電磁気学・回路1問。テーマタグは8件(固有値・固有ベクトル・分配関数・静電場)。2019年度と共通のテーマは固有値・固有ベクトル・分配関数・マクスウェル方程式。

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解説6問と大問1問の途中式・最終答(全6問)
解答PDFに収録
途中式と最終答(最終答つき6問)
問題本文
非収録

東大 専門科目(物理学) 2020年度 院試 過去問の出題内容(全6問)

この6問の分野は電磁気学・回路1問です。

大問分野主題解説の小見出し最終答
第1問—二状態系と相関一重項の使い方 / 同時確率の作り方あり
第2問—理想気体とフェルミ気体古典気体で落としやすい点 / 高温フェルミ気体は古典気体へ戻るあり
第3問—同軸ケーブルのTEM波TEMモードの構造 / 特性インピーダンスあり
第4問—熱容量測定熱回路として見る / 図から読む量あり
第5問電磁気学・回路熱雑音と光検出回路雑音も増幅される / 並列共振回路の役割あり
第6問—相対論的運動学と粒子識別しきい値計算の鉄則 / 保存則の見方あり

2020年度の出題テーマと、同じテーマを出した他大学・他年度

この年度は5問に8テーマが出ています。

前年度(2019年度)との違い

大問数
2019年度 6問 → 2020年度 6問
2019年度のページを見る

第1問 — 二状態系と相関

一重項の使い方

この問題の中心は,一重項状態では同じ方向の測定結果が必ず反対になることにある。 zz 方向で書かれた状態だけを見ると zz 方向専用の性質に見えるが,一重項は回転に対して形を保つため, xx 方向や任意の角度 θ\theta でも同じ反相関が成り立つ。

同時確率の作り方

相関だけでなく可能な結果も問われる場合は,周辺分布が 1/2,1/21/2,1/2 であることを書くと安全である。 二つの符号 s,t=±1s,t=\pm1 の同時確率は P(s,t)=14(1+st C) P(s,t)=\frac14(1+st\,C) と置ける。ここで C=⟨st⟩C=\langle st\rangle である。本問では C=−cos⁡(θ−ϕ)C=-\cos(\theta-\phi) なので, 解答中の式が得られる。

Mermin型の矛盾

決定論的な仮定では,実際に測っていない角度の値まで各試行で決まっていると考える。 このとき同じ角度での反相関から,BB 側の三つの値は AA 側の三つの値の反符号でなければならない。 すると平均は −(a1+a2+a3)2/9-(a_1+a_2+a_3)^2/9 という形になり,00 になれない。この「負にしかならない」という点が, 量子力学的平均 00 との決定的な違いである。

解答

設問1。σz\sigma_z の固有値は +1,−1+1,-1 であり, ∣↑⟩\ket{\uparrow} は固有値 +1+1 の固有状態である。したがって sz=+1(確率 1),⟨sz⟩=⟨↑∣σz∣↑⟩=1 s_z=+1\quad(\text{確率 }1),\qquad \langle s_z\rangle=\bra{\uparrow}\sigma_z\ket{\uparrow}=1 である。

設問2。σx\sigma_x の固有値も +1,−1+1,-1 である。∣↑⟩\ket{\uparrow} に対して ⟨↑∣σx∣↑⟩=0 \bra{\uparrow}\sigma_x\ket{\uparrow}=0 なので,期待値は 00 である。実際,σx\sigma_x の固有状態を ∣+x⟩=∣↑⟩+∣↓⟩2,∣−x⟩=∣↑⟩−∣↓⟩2 \ket{+x}=\frac{\ket{\uparrow}+\ket{\downarrow}}{\sqrt2},\qquad \ket{-x}=\frac{\ket{\uparrow}-\ket{\downarrow}}{\sqrt2} と書くと,どちらも確率 1/21/2 で得られる。

設問3。σ(θ)=cos⁡θ σz+sin⁡θ σx\sigma(\theta)=\cos\theta\,\sigma_z+\sin\theta\,\sigma_x は σ(θ)2=I \sigma(\theta)^2=I を満たすので,測定値は sθ=±1s_\theta=\pm 1 である。また ⟨sθ⟩=⟨↑∣σ(θ)∣↑⟩=cos⁡θ \langle s_\theta\rangle =\bra{\uparrow}\sigma(\theta)\ket{\uparrow} =\cos\theta となる。よって各結果の確率は P(sθ=+1)=1+cos⁡θ2,P(sθ=−1)=1−cos⁡θ2 P(s_\theta=+1)=\frac{1+\cos\theta}{2},\qquad P(s_\theta=-1)=\frac{1-\cos\theta}{2} である。

以後,二体系の状態を ∣Ψ⟩=12(∣↑⟩A∣↓⟩B−∣↓⟩A∣↑⟩B) \ket{\Psi} =\frac{1}{\sqrt2} \left(\ket{\uparrow}_A\ket{\downarrow}_B -\ket{\downarrow}_A\ket{\uparrow}_B\right) とする。

設問4。σzA,σzB\sigma_z^A,\sigma_z^B の同時測定であり,可能な組は (szA,szB)=(+1,−1),(−1,+1) (s_z^A,s_z^B)=(+1,-1),\quad (-1,+1) で,それぞれ確率は 1/21/2 である。したがって ⟨szAszB⟩=−1. \langle s_z^A s_z^B\rangle=-1.

設問5。上の状態は xx 方向でも反相関をもつ。実際, ∣Ψ⟩=12(∣−x⟩A∣+x⟩B−∣+x⟩A∣−x⟩B) \ket{\Psi} =\frac{1}{\sqrt2} \left(\ket{-x}_A\ket{+x}_B-\ket{+x}_A\ket{-x}_B\right) と書けるため, (sxA,sxB)=(+1,−1),(−1,+1) (s_x^A,s_x^B)=(+1,-1),\quad (-1,+1) がそれぞれ確率 1/21/2 で得られ, ⟨sxAsxB⟩=−1. \langle s_x^A s_x^B\rangle=-1.

設問6。同じ角度 θ\theta の測定では一重項の反相関により sθA=−sθB=±1 s_\theta^A=-s_\theta^B=\pm1 である。各組の確率は 1/21/2 ずつであり,積の期待値は −1-1 である。

設問7。角度が θ,ϕ\theta,\phi と異なるときは ⟨sθAsϕB⟩=⟨Ψ∣σA(θ)σB(ϕ)∣Ψ⟩=−cos⁡(θ−ϕ) \langle s_\theta^A s_\phi^B\rangle = \bra{\Psi} \sigma^A(\theta)\sigma^B(\phi) \ket{\Psi} =-\cos(\theta-\phi) である。周辺分布はどちらも P(s=±1)=1/2P(s=\pm1)=1/2 なので,同時確率は P(s,t)=14{1−stcos⁡(θ−ϕ)},s,t=±1 P(s,t)=\frac14\{1-st\cos(\theta-\phi)\}, \qquad s,t=\pm1 と書ける。

設問8。θ,ϕ\theta,\phi をそれぞれ 0,120∘,240∘0,120^\circ,240^\circ から等確率で選ぶ。 同じ角度の組は3通りで,それぞれ積の期待値は −1-1 である。異なる角度の組は6通りで, cos⁡(θ−ϕ)=−1/2\cos(\theta-\phi)=-1/2 だから積の期待値は +1/2+1/2 である。よって全体平均は ⟨sAsB⟩=19(3(−1)+6⋅12)=0. \langle s^A s^B\rangle =\frac{1}{9}\left(3(-1)+6\cdot\frac12\right)=0.

設問9。決定論的に a1=s0A,a2=s120∘A,a3=s240∘A,siB=−ai a_1=s_0^A,\quad a_2=s_{120^\circ}^A,\quad a_3=s_{240^\circ}^A, \qquad s_i^B=-a_i があらかじめ決まっているとする。角度は独立に等確率で選ばれるので ⟨sAsB⟩det=19∑i,jai(−aj)=−(a1+a2+a3)29. \langle s^A s^B\rangle_{\mathrm{det}} =\frac{1}{9}\sum_{i,j}a_i(-a_j) =-\frac{(a_1+a_2+a_3)^2}{9}. したがって (+,+,+):−1,(+,+,−):−19. (+,+,+):\quad -1,\qquad (+,+,-):\quad -\frac19. 一般に ai=±1a_i=\pm1 の8通りでは a1+a2+a3=±3,±1a_1+a_2+a_3=\pm3,\pm1 であり,二乗は必ず正である。 よって決定論的仮説の予言は常に負である。一方,設問8の量子力学的結果は 00 なので,両者は矛盾する。

最終答

⟨sθAsϕB⟩=−cos⁡(θ−ϕ),⟨sAsB⟩{0,120∘,240∘}=0, \langle s_\theta^A s_\phi^B\rangle=-\cos(\theta-\phi),\qquad \langle s^A s^B\rangle_{\{0,120^\circ,240^\circ\}}=0, 決定論的な事前値の仮定では ⟨sAsB⟩det=−(a1+a2+a3)29<0 \langle s^A s^B\rangle_{\mathrm{det}} =-\frac{(a_1+a_2+a_3)^2}{9}<0 となるため,量子力学の結果と両立しない。

第2問 — 理想気体とフェルミ気体

古典気体で落としやすい点

1/N!1/N! は単なる係数ではなく,熱力学極限で自由エネルギーを示量的にするために必要である。 この因子を落とすと,圧力のような一部の式は正しく見えても,エントロピーや混合の議論で矛盾が出る。

高温フェルミ気体は古典気体へ戻る

非縮退条件は eβμ≪1e^{\beta\mu}\ll1 と同値である。この条件下ではフェルミ分布の分母の +1+1 が無視でき, Maxwell--Boltzmann 分布に戻る。設問7の積分は,状態密度を使っても直接 kk 空間で積分しても同じ結果になる。

低温のグラフの意味

フェルミ気体は T=0T=0 でも粒子がフェルミ面まで詰まっているが,エントロピーは状態数の不確定性を表す量なので ゼロから始まる。低温で熱的に励起できるのはフェルミ面近くの幅 ∼kBT\sim k_BT の粒子だけであり, そのため CV∝TC_V\propto T,したがって S∝TS\propto T になる。

理想気体とフェルミ気体の途中式・最終答をPDFで見る

第3問 — 同軸ケーブルのTEM波

TEMモードの構造

同軸ケーブルのTEM波は,静電場・静磁場の断面分布をそのまま進行波にした形になる。 そのため電場は半径方向に 1/r1/r,磁場は方位角方向に 1/r1/r で減衰する。この 1/r1/r は Maxwell方程式の発散条件から直接出る。

特性インピーダンス

Z0Z_0 は電圧と電流の比であり,場の大きさ E0E_0 や位置 z,tz,t には依存しない。 同軸ケーブルでは幾何因子 log⁡(b/a)\log(b/a) と媒質因子 μ/ε\sqrt{\mu/\varepsilon} だけで決まる。

パルスが崩れない条件

波束が崩れないのは,ω(k)\omega(k) を波束の幅の範囲で一次関数とみなせるときである。 二次以上の項が効くと,kk ごとに群速度が異なり,包絡線が広がる。この問題では一次近似を明示しているので, 包絡線は z−Atz-At によって平行移動するだけである。

同軸ケーブルのTEM波の途中式・最終答をPDFで見る

第4問 — 熱容量測定

熱回路として見る

この問題は電気回路の一次RC応答と完全に対応している。温度差 ΔT\Delta T が電圧,熱容量 CC が容量, 熱抵抗 RkR_k が抵抗に対応する。時定数が CRkCR_k になるのはこの対応からすぐに読める。

図から読む量

パルス法では,飽和温度上昇から RkR_k,立ち上がりまたは減衰の時定数から CRkC R_k を読む。 本問の図は1桁精度でよいので,細かな読み取りよりも「温度上昇量」と「半減時間」を押さえることが重要である。

交流法の利点

交流法では,定常的な温度揺らぎの振幅と位相を見る。直流ドリフトや環境温度のゆっくりした変動を避けやすく, 小さい熱容量を測るときに有利である。ただし入力が電圧で与えられるため,熱入力の振動周波数は電圧の2倍になる。

熱容量測定の途中式・最終答をPDFで見る

第5問 — 熱雑音と光検出回路

雑音も増幅される

OPアンプの利得 GG は信号にも抵抗雑音にも同じように掛かる。そのため,この単純なモデルでは 出力で信号雑音比を作ると GG は消える。利得を上げれば信号電圧は大きくなるが,抵抗由来の雑音も同じ比率で大きくなる。

並列共振回路の役割

共振時には LL と CC の虚数アドミタンスが打ち消し合い,回路のインピーダンスは最大値 RR になる。 光電流の変調成分を電圧に変換するには V=IZV=IZ が効くので,検出したい角周波数を ω0\omega_0 に合わせると感度が高くなる。

二乗平均と振幅の区別

最後の設問は「振幅 I1I_1」を問う一方で,信号と雑音の比較は二乗平均で行う。 正弦波の二乗平均には 1/21/2 が入るため,ここを落とすと答えが 2\sqrt2 だけずれる。

熱雑音と光検出回路の途中式・最終答をPDFで見る

第6問 — 相対論的運動学と粒子識別

しきい値計算の鉄則

しきい値では,重心系で最終粒子の相対運動が消える。固定標的問題では実験室系で考えると複雑だが, 不変量 ss を使えば一行で重心系の条件に移せる。

保存則の見方

起こらない反応の判定では,エネルギー以前に電荷,バリオン数,レプトン数などの保存則を確認する。 本問の a) は電荷,b) はバリオン数を見れば直ちに排除できる。

粒子識別で重要な時間スケール

同じ運動量でも重い粒子ほど速度が小さいため,飛行時間差が生じる。ただし本問の差は約 2 ns2\,\mathrm{ns} と短い。 したがって信号幅が数十 ns 以上ある検出器では分離が難しく,速い応答をもつ検出器を選ぶ必要がある。

相対論的運動学と粒子識別の途中式・最終答をPDFで見る

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