院試hub

東京大学 院試 過去問 解答例

東大 理学系研究科 物理学専攻 専門科目(物理学) 2017年度 院試 解答例・解説

東京大学 理学系研究科 物理学専攻 専門科目(物理学) 2017年度の院試 過去問について、設問ごとの解法方針・部分点の置き所を解説。全6問収録の解答・解説PDFと併用できます。問題本文は含みません。

最終更新:

設問ごとの解法方針・部分点の置き所を無料で公開しています。

完全な途中式・最終答は解答・解説PDFに収録しています。問題本文は含まれません。

1 — 量子力学:2粒子振動子と急変

座標変換で落としやすい係数

この問題の失点原因は,相対座標の換算質量を見落として yy 方向の運動エネルギーを py2/(2m)p_y^2/(2m) の形にしてしまうことである。微分演算子から直接計算すると 2y2/m-\hbar^2\partial_y^2/m となり,平面波 eikye^{iky} のエネルギーが 2k2/m\hbar^2k^2/m であることまで一貫して決まる。

安定条件の物理的意味

α=1\alpha=-1 は通常の基底状態を持つ安定領域ではなく,ちょうど相対座標の束縛が消える境界である。設問前半で求める基底状態は α>1\alpha>-1 の範囲でのみ正規化でき,後半の時間発展は,その境界へ急に変えた後の自由波束の広がりとして読むのが自然である。

フーリエ変換の規格化

展開に dk/(2π)dk/(2\pi) が入っているため,係数 f(x,k)f(x,k) は単純な規格化済み運動量波動関数ではなく,yy で積分した通常のフーリエ変換である。そのためガウス積分の係数は 2π/c0\sqrt{2\pi/c_0} になる。ここを π/c0\sqrt{\pi/c_0} とすると,t=0t=0 に戻したとき元の波動関数の大きさが合わない。

時間発展の検算

最後の閉じた形は t=0t=0 で初期波動関数に戻る。また 1+iωt1/2|1+i\omega t|^{-1/2} と複素幅の実部から,相対座標方向の幅が時間とともに広がることも確認できる。急変ではエネルギー固有状態が保存されるのではなく,急変直後の波動関数を新しいハミルトニアンで展開する点を明記する必要がある。

完全な解答(途中式・最終答)はPDFに収録

2 — 統計力学:反強磁性イジング模型の平均場

反強磁性で符号を決める

ハミルトニアンの相互作用項が +Jσiσj+J\sigma_i\sigma_jJ>0J>0 なので,隣同士が同符号だとエネルギーが高く,逆符号だと低くなる。このため AA 副格子の有効場には zJσB-zJ\langle\sigma_B\rangle が入る。ここを強磁性と同じ符号にすると,転移温度や帯磁率の分母がすべて逆になる。

転移温度の読み方

m=tanh(am)m=\tanh(am) は,原点での傾き aa が1を超えたときに非自明解を持つ。図を描く代わりに,tanhx=xx3/3+\tanh x=x-x^3/3+\cdots を用いても同じ条件が得られる。高温では傾きが小さく m=0m=0 だけ,低温では反強磁性秩序 m0m\neq0 が現れる。

帯磁率の係数

設問の帯磁率は一スピンあたりの磁化 μ(σA+σB)/2\mu(\langle\sigma_A\rangle+\langle\sigma_B\rangle)/2 を磁場で微分する量である。そのため,線形化で出る σ/H\langle\sigma\rangle/H に最後にもう一つ μ\mu が掛かり,答えは μ2/(kBT+4J)\mu^2/(k_{\mathrm B}T+4J) になる。

対角相互作用の効果

対角方向の相互作用は同じ副格子同士を結ぶため,反強磁性の A=BA=-B 秩序に対して最近接相互作用と競合する。平均場では駆動係数が 4J4J から 4J4J4J-4J' に減るだけなので,JJ'JJ に近づくほど秩序化温度が下がる。

完全な解答(途中式・最終答)はPDFに収録

3 — 力学:二重振り子の固有振動と断熱追随

角度の定義

θ1,θ2\theta_1,\theta_2 はそれぞれ各糸の鉛直下向きからの絶対角であって,二本目の角度を一番目の糸からの相対角としてはいけない。その違いは速度の交差項と固有モードの比に直接現れる。

固有値方程式の検算

質量行列の行列式は m1m21222m_1m_2\ell_1^2\ell_2^2 に比例する。ここで m1m_1 が残るため,固有値方程式の ω4\omega^4 の係数は m112m_1\ell_1\ell_2 になる。m1+m2m_1+m_2m2m_2 を残すと,m20m_2\to0 の極限で単振り子二つの結果に戻らない。

断熱追随の意味

ゆっくり変えると「近い式の根をそのまま選ぶ」のではなく,同じ固有ベクトルが連続的に変形していく分枝を追う。二つの長さが等しくなる近くでは結合が小さくても縮退が解けるため,線が交差せず避け合う。このため初期に上側を含んでいた運動が,最終的には下側質点の運動へ移る。

最終状態の物理像

21\ell_2\gg\ell_1 では,ω2g/2\omega^2\simeq g/\ell_2 の低い振動数をもつモードは (a1,a2)(0,1)(a_1,a_2)\propto(0,1) である。上の重い質点を動かすには大きな慣性を動かす必要があるため,断熱的にたどった運動は軽い下側の質点だけの振動として現れる。

完全な解答(途中式・最終答)はPDFに収録

4 — 熱物理:核断熱消磁冷凍

エントロピー曲線の読み方

核断熱消磁では「等温磁化でエントロピーを捨て,断熱消磁で温度を下げる」という二段階を分けて考える。等温過程の熱量は TΔST\Delta S,断熱過程の到達温度は同じエントロピー曲線上を移る条件で決まる。数値は一桁精度でよいので,曲線から読む値に幅があっても結論は変わらない。

渦電流の係数

係数を落としやすいのはファラデーの法則の円周積分である。面積が πr2\pi r^2,周長が 2πr2\pi r なので Eφ=(r/2)B˙E_\varphi=-(r/2)\dot B となる。発熱は j2ρj^2\rho で,円筒殻の体積 2πrdrdl2\pi r\,dr\,dl を掛けるため r3r^3 が出る。

銅ブロックの改良

総量を一定にしたまま円柱の半径を aa とすると, P=Va28ρ(dBdt)2 P=\frac{Va^2}{8\rho}\left(\frac{dB}{dt}\right)^2 であり,発熱は実質的に断面半径の二乗に比例する。したがって同じ銅量でも太い一体円柱ではなく,磁場方向に細長いロッドを多数本に分ける,薄板を積層して絶縁する,スリットを入れて閉じた電流ループを切る,という設計が有効である。

完全な解答(途中式・最終答)はPDFに収録

5 — 光学:モード同期レーザー

角周波数と通常周波数を混同しない

設問は角周波数間隔 Δω\Delta\omega を使っているため,ピーク間隔には 2π2\pi が出る。通常周波数間隔 Δνmode\Delta\nu_{\mathrm{mode}} で書けばピーク間隔は 1/Δνmode1/\Delta\nu_{\mathrm{mode}} であり,両者は Δω=2πΔνmode\Delta\omega=2\pi\Delta\nu_{\mathrm{mode}} で同じ内容である。

位相同期でピークが強くなる理由

同位相の時刻では電場振幅が NN 個分だけ足し合わさるので振幅は NE0N E_0,強度は N2E02N^2E_0^2 になる。位相がランダムなら強度だけが足し合わさるため NE02NE_0^2 程度で止まる。この差がモード同期の本質である。

時間幅と帯域幅

パルス幅 Δtp\Delta t_p が帯域幅 Δν\Delta\nu の逆数になるのは,有限個の等間隔スペクトルを足すと時間領域でディリクレ核が現れるからである。フェムト秒パルスには広い増幅帯域が必要で,狭い帯域のレーザー媒質では短いパルスを作りにくい。

完全な解答(途中式・最終答)はPDFに収録

6 — 素粒子:大気ニュートリノ振動

寿命の伸びと飛行距離

設問1では E/mc2E/mc^2 ではなく βγ=p/(mc)\beta\gamma=p/(mc) を使うと計算が最短になる。今回の運動量では β1\beta\simeq1 だが,式としては βγcτ\beta\gamma c\tau を書いておくと,非相対論的な寿命 cτc\tau と混同しない。

低エネルギー比の数え上げ

R=2R=2 は実験事実を使う前の基準値である。正負両方のパイ中間子で同じ結論になること,分子にはミュー型の粒子と反粒子を両方足すこと,分母にも電子型の粒子と反粒子を足すことを明示すると失点しにくい。

振動式の核心

振動確率は,質量固有状態どうしの相対位相 (E2E1)T/(E_2-E_1)T/\hbar だけで決まる。共通位相は観測確率から消えるため,計算では位相差に集中すればよい。最後に T=L/cT=L/c と高エネルギー近似を入れる順序にすると,係数 44 を落としにくい。

データからの桁見積もり

最初の谷を L/EL/E のどこに読むかで係数は多少変わるが,求められているのは有効数字1桁である。したがって,谷の位置を数百 km/GeV\mathrm{km/GeV} と読み,Δm2c4\Delta m^2c^4103eV210^{-3}\,\mathrm{eV^2} 台であることを導くのが採点上の要点である。

完全な解答(途中式・最終答)はPDFに収録

東京大学 専門科目(物理学) — 他の年度