東京大学 院試 過去問 解答例
東大 理学系研究科 物理学専攻 専門科目(物理学) 2013年度 院試 解答例・解説
東京大学 理学系研究科 物理学専攻 専門科目(物理学) 2013年度の院試 過去問について、設問ごとの解法方針・部分点の置き所を解説。全6問収録の解答・解説PDFと併用できます。問題本文は含みません。
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第1問 — 量子力学:調和振動子とコヒーレント状態
数状態とコヒーレント状態の違い
数状態では位置・運動量の期待値はゼロで,量子数が大きいほど不確定性が増える。 一方,コヒーレント状態は の固有状態なので,古典的な調和振動子と同じ位相空間軌道を 期待値がたどる。最小不確定波束であり,時間発展しても形が崩れないことが特徴である。
符号で落としやすい点
の逆変換は である。 ここを と書くと,コヒーレント状態の の符号と 位相空間での回転向きが逆になる。
2013年度は公開から時間が経過しているため、解答・最終答まで全文公開しています
調和振動子の標準的な長さ・運動量スケールを とおく。消滅演算子が で与えられているので,共役な生成演算子は である。 を用いると を得る。逆変換は であり,ハミルトニアンは となる。したがって また規格化された励起状態は で与えられる。
初期状態をエネルギー固有状態で と展開すると,時間発展は各成分に位相を掛けるだけなので である。
数状態 では である。 また より したがって
次に を考える。消滅演算子を作用させて添字を一つずらすと であり, は の固有状態である。このため
初期状態が のとき,時間発展は である。規格化変数 に対して よって位相空間では半径 の円運動をし,波束の形は保たれる。
最終答
空欄に相当する主要結果は また , , , 。
第2問 — 統計力学:理想ボース気体と断熱磁化
凝縮点の物理的意味
は一粒子の波束が平均粒子間隔にどれだけ重なるかを表す無次元量である。 これが 1 程度になると,粒子を古典的に区別して数える描像が破綻し,量子統計が巨視的に効く。
断熱磁化の符号
断熱過程では「エネルギーが下がるか」ではなく「同じエントロピーを保つ温度がどう変わるか」を見る。 ゼーマン分裂を大きくすると低温で使えるスピン成分が減るため,エントロピーを保つには温度が上がる。
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一粒子状態 の占有数を とすると,その部分大分配関数は である。平均占有数は より となる。
スピン 0 の三次元自由ボース気体では,凝縮温度以上で が全粒子数密度に等しい。凝縮点では なので 熱的ドブロイ波長を と書くと,係数を代入して である。平均粒子間距離 との比は で,数値係数を除けば同程度である。
では のまま励起状態の粒子数が飽和し,余った粒子が基底状態を 巨視的に占有する。この領域の単位体積あたり内部エネルギーは したがって すなわち である。また より したがって である。
一様磁場中のスピン 1 ボース気体では,ゼーマンエネルギーが小さいと三つのスピン成分が ほぼ縮退し,低温励起のエントロピーを三成分で担う。ゼーマンエネルギーを から へ断熱的に大きくすると, 終状態では低い一成分だけが熱的に効く。凝縮が保たれる範囲では各成分のエントロピーは に比例するため,同じ温度なら終状態のエントロピー容量は小さい。断熱過程では エントロピーが保存されるので,温度は上昇する。
最終答
ボース分布は ボース・アインシュタイン凝縮は,励起状態に入りきらない粒子が基底状態を巨視的に占有する現象である。 凝縮点では なので,平均粒子間距離と熱的ドブロイ波長は同程度になる。 では スピン 1 気体でゼーマン分裂を断熱的に大きくすると,利用できるスピン自由度が減るため終状態の温度は高くなる。
第3問 — 電磁気学:ポテンシャル、ゲージ変換、荷電粒子の束縛運動
ポテンシャルから場を作る順序
電場には と の二つの寄与がある。 この問題の後半では が時間に依存しないため前者だけでよいが,一般式の段階で を落とすとゲージ不変性の確認が不完全になる。
安定条件の意味
スカラーポテンシャルによる 方向の電場は外向きであり,それだけなら粒子は逃げる。 磁場によるローレンツ力が十分強いと,二つの実振動数が現れて平面内運動が有界になる。
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ラグランジアンを とする。成分表示では がオイラー・ラグランジュ方程式である。左辺の全微分を展開して整理すると したがって とおけば を得る。
ゲージ変換 では である。ラグランジアンは と全時間微分だけ変わる。端点を固定した変分では全微分項は運動方程式を変えない。
具体的に を用いると である。
方向の運動方程式は なので,角振動数 の単振動である。
平面の運動方程式は , とおくと とおけば であり, 条件 により二つの角振動数は実数である。したがって 平面への 射影は,速いサイクロトロン運動と遅いドリフト運動の重ね合わせとして有界に回る。
最終答
一般には であり,運動方程式は 与えられたポテンシャルでは 方向は の単振動, 平面では の二つの回転運動の重ね合わせになる。
第4問 — 実験物理:抵抗の熱雑音と増幅回路
規格化の確認
この問題のフーリエ変換は を含む定義なので,白色雑音の定数は通常の と見かけ上異なる。積分範囲と変換規約を固定してから係数を比較する。
熱雑音と散逸
抵抗値 が大きいほど散逸は強いが,同時に熱平衡を保つための揺らぎも大きくなる。 等分配則から自己相関を決め,インピーダンスで電圧へ変換すると,揺らぎ散逸関係としての ジョンソン・ナイキスト雑音が得られる。
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電流を と書く。各粒子の運動方程式 を全粒子で足し, を用いると したがって 時間依存を と約束すれば,複素交流インピーダンスは であり,以下で必要なのは である。
等分配則より したがって よって が成り立つ。
自己相関関数を とする。 で式を と掛け合わせて平均すると,揺動起電力と過去の電流は 相関しないので より 問題の規格化で定義されたパワースペクトルは 電圧スペクトルは だから となる。この規格化では角振動数に対する両側スペクトルが定数になる。通常の片側周波数 スペクトルで書けば に対応する。
非反転増幅回路では理想オペアンプの二つの入力端子の電位が等しい。抵抗 の熱雑音電圧を とすると,点 の電圧は その後段の は一次低域通過回路なので したがって出力電圧のパワースペクトルは
最終答
増幅回路では
第5問 — 原子核実験:二体反応と荷電粒子識別
二体反応は不変量で整理する
生成核の一方だけを測る問題では,未検出側を運動量保存で消去し,エネルギー保存から 欠損質量を作るのが最も安全である。角度の符号よりも,ベクトル三角形から を作ることを優先する。
荷電粒子識別の見方
磁場と電場の選別器は速度と比電荷を選ぶ。後段の - 検出器は, 同じ速度での阻止能の電荷依存性と,止まるまでの全エネルギーを組み合わせて粒子種を絞る。
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入射陽子の全エネルギーを とする。標的核は静止しているので,反応前の全エネルギーは である。生成核 の全エネルギーを と書けば,エネルギー保存は であり,運動量保存は,入射方向を 軸に取って である。したがって 未検出核 の質量は から求まる。
入射陽子の運動量が ,質量が のとき よって運動エネルギーは で,有効数字 1 桁では である。また なので,有効数字 1 桁では である。
磁場中の円弧では であり,平行平板部では直進条件 を満たす。したがって
, の He 原子核では非相対論的に He 原子核の電荷を とすると また なので
薄い検出器と厚い検出器の組合せでは,薄い検出器でのエネルギー損失 と, 厚い検出器で止まるまでの残留エネルギー を同時に測る。運動量が既知なら速度が制限され, 阻止能が概ね に比例することを用いて電荷数を識別できる。また全運動エネルギーから 質量の整合性も調べられる。
同じ速さの陽子と He 原子核では,電荷が と なので,エネルギー損失はおよそ 電荷の二乗に比例して 有効数字 1 桁では である。
He 原子核の運動エネルギーは 検出器 1 で を失うので,検出器 2 で測る残留エネルギーは約 である。電子正孔対一つあたり とすると 統計ゆらぎだけなら相対精度は 絶対精度は である。
最終答
, では 選別装置では He 原子核の例では 同じ速さの陽子の薄型検出器での損失は約 。He の運動エネルギーは 約 ,検出器 2 の統計精度は相対で ,絶対で約 。
第6問 — 物性実験:固体の熱伝導率測定とフォノン散乱
測定式の前提
は,熱流が試料中を一次元的に流れ,放射・支持線・熱電対線からの熱漏れが 小さいときに成り立つ。接触熱抵抗を含めないためには,温度差は端子ではなく熱電対の接点間で 測った距離 に対応させる必要がある。
グラフの読み方
熱伝導率そのものではなく, のうち何が温度依存するかを分ける。 低温では比熱の がそのまま見えており,室温では比熱がほぼ飽和して平均自由行程の が見えている。
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試料の一端を銅熱浴に熱的に固定し,他端に小型ヒーターを取り付ける。ヒーターは熱浴上の 絶縁端子を通して電流源につなぎ,投入電力 を測る。銅コンスタンタン熱電対の二つの接点を試料の長軸方向に距離 だけ離して取り付け, 熱起電力 から接点間の温度差を得る。試料断面積を とすると,定常一次元熱流では 訂正に従い,ここで使う は熱電対の接点間距離である。
測定では,まず熱浴温度を に保ち,ヒーター電流を十分小さくして の 範囲で定常状態を作る。次にヒーター電力 と熱電対電圧 を測り, として上式から を求める。熱浴温度を変えながら同じ手順を 繰り返せば温度依存性が得られる。
一次元の簡単な運動論を考える。温度勾配 があると,エネルギー密度 も位置で変化する。位置 を通る正向きのフォノンはおよそ から, 負向きのフォノンは から来るとみなせるので したがって一次元模型では 三次元では方向平均により となる。
低温極限ではデバイ模型により格子比熱が であり,音速はほぼ温度に依存しない。図の低温側では なので すなわち平均自由行程はほぼ温度非依存で,試料境界・不純物・欠陥などの静的散乱で制限される。
室温付近では格子比熱はほぼデュロン・プティ値で一定,音速も一定とみなせる。図では なので これはフォノン数が増えてフォノン間散乱,特に熱抵抗を生むウムクラップ過程が強くなる描像と 整合する。したがって低温極限では不純物・欠陥・境界散乱が支配的で,室温付近ではフォノン間散乱が 支配的である。
金属電子の熱伝導率は Wiedemann--Franz 則 で見積もれる。数値を代入すると ,電気抵抗率 では これは図の典型的な絶縁体の室温熱伝導率より十分大きい。
最終答
測定では定常熱流 と熱電対の接点間温度差 を用い, で求める。フォノンの運動論では一次元で 三次元で 低温では かつ なので はほぼ一定で,不純物・欠陥・境界散乱が支配的である。 室温付近では がほぼ一定で なので ,フォノン間散乱が支配的である。 金属例では 。