東京大学 院試 過去問 解答例
東大 理学系研究科 物理学専攻 専門科目(物理学) 2011年度 院試 解答例・解説
東京大学 理学系研究科 物理学専攻 専門科目(物理学) 2011年度の院試 過去問について、設問ごとの解法方針・部分点の置き所を解説。全6問収録の解答・解説PDFと併用できます。問題本文は含みません。
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第1問 — 量子力学:分離型ポテンシャルの束縛状態
係数を落とさない
この問題では と の扱いで差が出る。座標表示の核に が入っているため,エネルギー式を 倍すると は消える。
存在条件の読み方
束縛条件を「積分が有限だから存在する」とだけ書くと不十分である。最後に の単調性を見て,正根の一意性まで述べると答案として締まる。
2011年度は公開から時間が経過しているため、解答・最終答まで全文公開しています
座標表示と運動量表示の規格化を とする。したがって であり,演算子の行列要素も同じ核を左右から掛けてフーリエ変換すればよい。 ここで とおくと,分離型ポテンシャルの運動量表示は となる。分離型では,積分方程式が未知関数全体ではなく,積分で定まる一つの定数へ落ちるのが要点である。
束縛状態を とおく。運動量表示のシュレーディンガー方程式は である。右辺の積分を定数 と書けば これを の定義へ戻すと,非自明な束縛状態の条件は である。ここで符号や は途中で消えるので,係数の追跡を丁寧に行うのが採点上重要である。
次に の場合を計算する。球対称なので を 軸に取り, したがって自己無撞着条件は,与えられた積分公式を用いて すなわち である。左辺に対応する関数 は で単調に増え,零から無限大まで動く。よって なら正の根がただ一つ存在し,束縛状態も一つ定まる。
座標表示の形は部分分数分解から分かる。 したがって,規格化定数を除けば では極限を取り, 型の有限な関数になる。原点では二つの指数の差が に比例するため,波動関数は発散しない。
最終答
運動量表示では であり,束縛状態は なら , 任意の に対して正の が一つ存在する。
第2問 — 統計力学:三角形上のスピン
符号規約を先に固定する
ハミルトニアンが を含むため,通常の 表記と強磁性・反強磁性の符号が逆に見える。答案の冒頭でこの点を明示すると誤読を防げる。
分配関数から一貫して導く
低温磁化だけを暗記で書くより,まず多重項のエネルギーと縮退度を表にする方が安全である。磁場は各多重項内の をゼーマン分裂させるだけなので,その後はブリルアン関数に直結する。
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相互作用がないとき,三つのスピンは独立である。磁場方向を 軸に取り,一つのスピンの磁気量子数を とすれば 全分配関数は である。問題で定義されたブリルアン関数を用い, とおくと 小磁場では なので,三つのスピン全体の零磁場帯磁率は 内部エネルギーは であり,定磁場での熱容量は 高温極限では となり,磁場によるゼーマン準位差が熱エネルギーに比べて小さいため,熱容量は で消える。
の場合相互作用するのは の二つだけである。ハミルトニアンの交換項は なので, が強磁性的な符号である。二つのスピンの合成で よって三重項 の交換エネルギーは ,一重項 の交換エネルギーは である。残りの三番目のスピンは自由なので,磁場中の分配関数は 低温では基底多重項だけを残せばよい。したがって 前者では結合した二スピンがスピン として振る舞い,後者では一重項が磁化に寄与しない。
の場合三角形の三辺が等価なとき, したがって である。磁場中の分配関数は 低温では 反強磁性的な では二組のスピン 多重項が残るが,磁化ではその余分な縮退は分配関数の共通因子として消える。
最終答
無相互作用では では二スピンの三重項が ,一重項が 。等価三角形では が ,二組の が 。正の では大きい全スピン,負の ではスピン の低温磁化が残る。
第3問 — 電磁気学:荷電粒子のドリフト
初速度の符号
では,点 で上向きに動くと力は外向きになる。原点中心の円にするには下向き速度が必要なので, を成分と解釈して負にする。
平均力からドリフトへ
磁場勾配の計算は,細かい軌道を最後まで解く必要がない。速い円運動に沿って力を平均し,その平均力に対応する電場ドリフトを読むのが最短である。
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磁場だけが働くとき,ローレンツ力は常に速度に垂直である。 したがって磁場は運動エネルギーを変えず,速度の向きだけを回転させる。
,, とする。角周波数を とおくと,運動方程式は 初期位置が で,原点を中心とする円軌道になるには,初速度の 成分は でなければならない。ここで は成分なので負である。速さとして と書く流儀なら,初速度ベクトルは である。軌道は
一様電場 を加える。複素速度 を使うと 初期条件を上の円運動と同じに取れば したがって すなわち円運動の中心が で等速に流される。これは電荷や質量に依存しない。
次に磁場が とゆっくり変わる場合を考える。摂動力は,零次の円運動 へ代入して平均すればよい。 一周期平均は これは 方向の有効な定力である。一様電場の場合と同じく,定力を と見れば案内中心のドリフトは 一般形では 電場ドリフトと違い,こちらは電荷の符号で向きが反転する。
最終答
磁場だけではエネルギーは保存する。原点中心の円運動には が必要である。一様電場を加えると つまり ドリフトが出る。磁場勾配では である。
第4問 — 原子核実験:反応しきい値とドップラー効果
重心系と実験室系を分ける
クーロン障壁は相対運動のエネルギーで評価する。標的静止の実験室系では,その全てが相対運動へ入らないため, の換算が必要である。
ピーク強度の意味
シフトしたピークは移動中の崩壊,静止位置のピークは停止後の崩壊を表す。ピークが等しいという条件は,崩壊確率が半分ずつという意味なので,半減期が飛行時間に一致する。
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入射核が標的核に接触するには,まずクーロン障壁を越える必要がある。半径を と見積もる。窒素とアルミニウムの電荷はそれぞれ なので,重心系で必要な相対運動エネルギーは 標的が静止している実験室系では だから
入射運動エネルギーが のとき,反応直後の複合核の速度は運動量保存で決まる。非相対論的に ここでは質量を で近似した。
励起硫黄核が同じ向きに速度 で進み,静止系で のガンマ線を出す。検出角を速度方向から とすると,実験室系で観測されるエネルギーは したがって であり,静止核からの線より約 高い。
標的の後ろにストッパーを置く寿命測定では,標的からストッパーまでの飛行時間を ,平均寿命を ,生成数を とすると,ストッパー到達前に崩壊する数は 到達後に崩壊する数は 二つのガンマ線ピーク強度が等しいなら したがって半減期 は飛行時間そのものに等しい。 距離が なら
最終答
接触に必要な実験室系エネルギーは 入射では複合核の速度は 方向の 線は に見える。飛行時間 までに崩壊する数は 。二つのピーク強度が等しければ半減期は飛行時間に等しく, では
第5問 — 量子実験:光電効果
符号つきの阻止電圧
表では阻止電圧が負で与えられるため,運動エネルギーは である。ここを としてしまうと傾きの符号も仕事関数も逆になる。
直線の切片
を縦軸に取ると切片は である。切片そのものではなく,その反対符号に電荷を掛けた量が仕事関数になる。
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光電流の電圧依存性では,阻止電圧が最大運動エネルギーを与える。問題の符号では,阻止電圧 は負であり, である。振動数を上げると が大きくなるため,電流を止めるにはより負の電圧が必要になる。一方,同じ光子数率で照射しているなら,十分大きい正電圧での飽和電流はほぼ同じである。
金属中の電子のエネルギーを とする。フェルミ面の電子に対する仕事関数が なので,より深い電子を取り出すには余分に が必要である。したがって表面から出るための最小振動数は
与えられた測定点を に最小二乗で当てはめると を得る。よって これは がプランク定数に対応することを示す。
古典的な波動描像なら,電子が受け取るエネルギーは主に光の強度で決まるはずである。したがって十分強い光なら低い振動数でも時間をかけて電子を出せる,また最大運動エネルギーも強度とともに増える,という予想になる。しかし実験では最大運動エネルギーが振動数に線形に依存し,強度は主に電流量を変える。この差が光量子仮説の核心である。
X線光電子分光が内部の電子状態を調べるのに使われる理由は,放出電子の運動エネルギーが大きく,平均自由行程が長くなるためである。低エネルギー電子は表面近傍で散乱されやすいが,高エネルギー電子はより深い位置からでも脱出できる。さらに内殻準位を選択的に励起できるため,元素や化学状態の情報も得やすい。
最終答
阻止電圧は を満たす。金属中のエネルギー の電子に対するしきい振動数は 測定値の直線当てはめから 古典波動論ではしきい振動数と振動数比例の最大エネルギーを説明できない。X線では高運動エネルギー電子の平均自由行程が長くなり,より内部の電子状態を調べられる。
第6問 — 光計測:Hアルファ線とフォトダイオード
フォトダイオードは電流源として使う
光強度に比例するのは光電流である。大きい負荷抵抗で電圧を取り出そうとすると,ダイオード自身の電流電圧特性が混ざるため,線形性が悪くなる。
帰還容量の役割
帰還容量は高周波で帰還インピーダンスを下げ,ノイズや不要な高速成分を抑える。感度を決める と帯域を決める を分けて設計すると計算しやすい。
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水素原子のエネルギー準位を とする。H 線は から への遷移なので したがって これは赤色の可視光である。
量子効率が のフォトダイオードで の光電流が流れるとき,入射光子数率 は
光照射下のフォトダイオードは,暗状態のダイオード電流に光電流が重なったものとして見られる。すなわち符号を図の電流向きに合わせれば のように,電流電圧曲線が下向きへ平行移動する。負荷抵抗だけをつなぐ測定では,負荷線との交点が動作点になる。光強度に比例した電流を取り出すには,動作点を 近くに置き,ダイオードの指数的な順方向電流を混ぜないことが重要である。目安は であり,十分小さい負荷抵抗を選ぶ。
トランスインピーダンス回路では,演算増幅器の入力インピーダンスを無限大,出力インピーダンスを零とする。非反転入力は接地されているので,反転入力ノードの電位を とすれば 入力電流を とし,増幅器の入力へ流れ込む電流を零とすると,帰還素子へ流れる電流は よって 十分大きな利得では であり,反転型の電流電圧変換器として動作する。
帰還素子を と の並列とすれば を に変えるには,低周波で 付近を折れ点にするには すなわち である。
最終答
H 線の光子エネルギーは 波長は で赤色である。量子効率 ,電流 なら 負荷抵抗測定では として短絡電流に近い動作点を使う。有限利得 のトランスインピーダンス出力は には ,遮断周波数 には