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東京大学 院試 過去問 解答例

東大 情報理工学系研究科 数理情報学専攻 数理情報学 2026年度 院試 過去問 解答例・解説(全5問)

全5問。確率・統計1問・線形代数1問。テーマタグは3件(固有値・固有ベクトル・正定値行列・直交対角化)。2025年度と共通のテーマは固有値・固有ベクトル・正定値行列。

最終更新:

収録5年度分の解答PDF:東京大学 情報理工学系研究科 数理情報学専攻 数理情報学(¥3,200・紙面見本あり)

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解説5問と大問1問の途中式・最終答(全5問)
解答PDFに収録
途中式と最終答(最終答つき5問)
問題本文
非収録

東大 数理情報学 2026年度 院試 過去問の出題内容(全5問)

この5問の分野は確率・統計1問・線形代数1問です。

大問分野主題解説の小見出し最終答
第1問—半正定値錐への射影一意性を落とさない / 相補性の見方あり
第2問線形代数ガウス行列の集中使う道具 / 定数の出し方あり
第3問—平面力学系の不変領域と爆発不変領域は境界を見る / 保存量の使いどころあり
第4問確率・統計二タイプ集団の吸収確率出生死滅連鎖として見る / 比 /qi が一定になる利点あり
第5問—非巡回向き付けと入次数最適化差分グラフを見る / 削除法はトポロジカルソートの一般化あり

2026年度の出題テーマと、同じテーマを出した他大学・他年度

この年度は1問に3テーマが出ています。

前年度(2025年度)との違い

大問数
2025年度 5問 → 2026年度 5問
両年度に出たテーマ
固有値・固有ベクトル・正定値行列
2026年度で新しく出たテーマ
直交対角化
2025年度のページを見る

第1問 — 半正定値錐への射影

方針

この問題の核は、半正定値錐へのユークリッド射影である。フロベニウスノルムと半正定値性は直交変換で保たれるので、対称行列を固有値分解してスカラーの問題に落とすのが最短である。

一意性を落とさない

固有値が重複すると固有ベクトルの選び方は一意でないが、正固有空間への射影として見れば ϕ(A)\phi(A) は一意である。この点を書いておくと、答案として安定する。

相補性の見方

最後の同値性は、凸錐の射影と相補性条件を結ぶ典型形である。特に tr⁡(XY)=0\operatorname{tr}(XY)=0 からすぐ XY=0XY=0 と書くのではなく、 X1/2YX1/2⪰0X^{1/2}YX^{1/2}\succeq0 のトレースが 00 だから零行列になる、という一段を入れると減点されにくい。

解答

実対称行列全体をフロベニウス内積 ⟨A,B⟩=tr⁡(AB),∥A∥2=tr⁡(A2) \langle A,B\rangle=\operatorname{tr}(AB),\qquad \|A\|^2=\operatorname{tr}(A^2) で考える。

半正定値錐の凸性

任意のベクトル v∈Rnv\in\mathbb{R}^n に対して v⊤{αX+(1−α)Y}v=αv⊤Xv+(1−α)v⊤Yv v^\top\{\alpha X+(1-\alpha)Y\}v =\alpha v^\top Xv+(1-\alpha)v^\top Yv である。X,YX,Y が半正定値で 0≤α≤10\le \alpha\le 1 なら右辺は非負なので、 αX+(1−α)Y\alpha X+(1-\alpha)Y も半正定値である。

射影の明示式

対称行列 AA を直交行列 QQ により A=Qdiag⁡(λ1,…,λn)Q⊤ A=Q\operatorname{diag}(\lambda_1,\ldots,\lambda_n)Q^\top と対角化する。フロベニウスノルムは直交変換で不変だから、Z=Q⊤XQZ=Q^\top XQ とおくと ∥X−A∥2=∥Z−diag⁡(λi)∥2 \|X-A\|^2=\|Z-\operatorname{diag}(\lambda_i)\|^2 であり、X⪰0X\succeq0 と Z⪰0Z\succeq0 は同値である。対角成分だけを先に見ると ∥Z−diag⁡(λi)∥2=∑i(Zii−λi)2+∑i≠jZij2 \|Z-\operatorname{diag}(\lambda_i)\|^2 =\sum_i (Z_{ii}-\lambda_i)^2+\sum_{i\ne j}Z_{ij}^2 なので、最小点では非対角成分を消し、各 ZiiZ_{ii} を制約 Zii≥0Z_{ii}\ge0 の下で λi\lambda_i に最も近い値にすればよい。したがって一意な最小点は ϕ(A)=Qdiag⁡(λ1+,…,λn+)Q⊤,λi+=max⁡{λi,0}. \phi(A)=Q\operatorname{diag}(\lambda_1^+,\ldots,\lambda_n^+)Q^\top,\qquad \lambda_i^+=\max\{\lambda_i,0\}. 固有値に重複があっても、負の固有空間と非負の固有空間への直交射影で書けるため、この行列は一意に定まる。

射影不等式

P=ϕ(A)P=\phi(A) とする。任意の X⪰0X\succeq0 と 0≤t≤10\le t\le1 に対して、半正定値錐の凸性から P+t(X−P)⪰0. P+t(X-P)\succeq0. PP は最小点なので ∥A−P∥2≤∥A−{P+t(X−P)}∥2. \|A-P\|^2\le \|A-\{P+t(X-P)\}\|^2. 右辺を tt について展開し、t>0t>0 で割って t↓0t\downarrow0 とすれば ⟨A−P,X−P⟩≤0 \langle A-P,X-P\rangle\le0 を得る。

相補性条件

まず X,Y⪰0X,Y\succeq0 かつ ⟨X,Y⟩=0\langle X,Y\rangle=0 とする。このとき 0=tr⁡(XY)=tr⁡(X1/2YX1/2) 0=\operatorname{tr}(XY)=\operatorname{tr}(X^{1/2}YX^{1/2}) であり、X1/2YX1/2⪰0X^{1/2}YX^{1/2}\succeq0 だから X1/2YX1/2=0X^{1/2}YX^{1/2}=0 である。よって Y1/2X1/2=0Y^{1/2}X^{1/2}=0、したがって XY=YX=0XY=YX=0 となる。従って XX と YY は可換で同時直交対角化でき、X−YX-Y の正の固有値部分はちょうど XX である。ゆえに ϕ(X−Y)=X. \phi(X-Y)=X.

逆に ϕ(X−Y)=X\phi(X-Y)=X とする。上で示した射影不等式を A=X−YA=X-Y、P=XP=X、0⪰00\succeq0 に適用すると ⟨−Y,−X⟩≤0. \langle -Y,-X\rangle\le0. すなわち ⟨X,Y⟩≤0\langle X,Y\rangle\le0 である。一方、半正定値行列同士では ⟨X,Y⟩=tr⁡(X1/2YX1/2)≥0\langle X,Y\rangle=\operatorname{tr}(X^{1/2}YX^{1/2})\ge0 であるから、 ⟨X,Y⟩=0\langle X,Y\rangle=0 が従う。

最終答

半正定値錐は凸であり、射影は固有値の負部分を 00 に切り上げた ϕ(A)=Qdiag⁡(max⁡{λi,0})Q⊤\phi(A)=Q\operatorname{diag}(\max\{\lambda_i,0\})Q^\top で与えられる。また ⟨X,Y⟩=0\langle X,Y\rangle=0 と X=ϕ(X−Y)X=\phi(X-Y) は同値である。

第2問 — ガウス行列の集中

使う道具

本問は、正規分布のモーメント母関数、Markov の不等式、union bound の三つで完結する。ランダム行列の問題に見えるが、固定した bb に対しては各行との内積が標準正規になるだけである。

定数の出し方

指数の定数 88 は、λ=ε/(4m)\lambda=\varepsilon/(4m) と置いて、与えられた対数不等式を log⁡(1−2λ)\log(1-2\lambda) に使うことで出る。最適な λ\lambda を解いてもよいが、試験ではこの選択の方が速く、指定された定数に合わせやすい。

全組への拡張

最後は Johnson--Lindenstrauss 型の議論である。ただし両側評価ではなく上側だけなので、必要なのは上側集中と有限個の組に対する union bound だけである。

ガウス行列の集中の途中式・最終答をPDFで見る

第3問 — 平面力学系の不変領域と爆発

不変領域は境界を見る

x=0x=0、y=0y=0、x+y=1x+y=1 の三つの境界に対して、ベクトル場が外側へ出ないことを確認するのが基本方針である。ここでは指数表示を使うと x,yx,y の正性まで直接示せる。

保存量の使いどころ

dydx\frac{dy}{dx} を使うと一次の微分方程式になり、保存量が出る。極限値の議論では保存量だけでなく、x(t)x(t) が単調で極限を持つことも先に書く必要がある。

発散の判定

有限時刻爆発は、x˙\dot x が少なくとも x2x^2 程度で増えることを示せば十分である。∫∞u−2 du\int^\infty u^{-2}\,du が有限であるため、無限大に到達するまでの時間も有限になる。

平面力学系の不変領域と爆発の途中式・最終答をPDFで見る

第4問 — 二タイプ集団の吸収確率

出生死滅連鎖として見る

この過程では一回に XtX_t は +1+1、−1-1、または変化なしにしかならない。従って本質は一次元の出生死滅連鎖であり、吸収確率も期待吸収時刻も第一ステップ解析で差分方程式に落ちる。

比 pi/qip_i/q_i が一定になる利点

一般の出生死滅連鎖では ∏qi/pi\prod q_i/p_i が出るが、この問題では比が常に 1/r1/r なので等比数列だけで解ける。r=1r=1 は極限としても得られるが、答案では別に書く方が明確である。

期待時刻の符号確認

期待時刻の式では右辺が −1-1 になる。これは「一歩進めると時間を1消費する」ためであり、符号を逆にすると TiT_i が負になるので検算しやすい。

二タイプ集団の吸収確率の途中式・最終答をPDFで見る

第5問 — 非巡回向き付けと入次数最適化

差分グラフを見る

一意性の証明では、二つの向き付けの違う辺だけを見るのが要点である。入次数が同じなら、その差分部分では各頂点の入次数と出次数が釣り合う。非空なら有向閉路を含むので、非巡回性と矛盾する。

削除法はトポロジカルソートの一般化

指定入次数列の判定アルゴリズムは、通常のトポロジカルソートに「残り入次数を指定値から引いていく」処理を加えたものと見ればよい。負になった時点で、すでに必要以上の入辺を使ってしまったことを意味する。

最適化の二つの型

最大入次数の最小化は大域的な順序の問題で、degeneracy が答になる。一方、線形重みの最大化は各辺の寄与が独立なので、局所的に大きい重みへ向ければよい。ただし非巡回性を保つため、同じ重みの中では添字で向きを統一する。

非巡回向き付けと入次数最適化の途中式・最終答をPDFで見る

東大 数理情報学 院試 過去問の収録5年度

  • 2026年度(このページ・全5問)

    半正定値錐への射影 / ガウス行列の集中 / 平面力学系の不変領域と爆発

  • 2025年度(全5問)

    半正定値行列の真偽判定 / 相分離モデルとエネルギー / 密度の平均と中央値

  • 2024年度(全5問)

    直交Procrustes問題 / 加速勾配法のエネルギー評価 / 一方向三角多項式による近似

  • 2023年度(全5問)

    指数核平均と連続極限 / Lotka--Volterra型方程式と安定性 / 複素積分による台形公式誤差

  • 2021年度(全3問)

    基礎概念:凸最適化と双対性 / 研究計画:分布ロバスト学習 / 社会課題論述:感染症対策