東京大学 院試 過去問 解答例
東大 工学系研究科 化学システム工学専攻 化学システム工学 2022年度 院試 解答例・解説
東京大学 工学系研究科 化学システム工学専攻 化学システム工学 2022年度の院試 過去問について、設問ごとの解法方針と確認点を解説。全7問収録の解答・解説PDFと併用できます。問題本文は含みません。
最終更新:
設問ごとの解法方針と確認点を公開しています。
続きの途中式・最終答は解答・解説PDFに収録しています。問題本文は含まれません。
第1問 — 物理化学1
符号を固定してから計算する
この問題では「環境が気体にする仕事」が問われているため,膨張で気体が外へ仕事をする部分は負の仕事になる。熱機関の出力としては を用いる。ここを混同すると効率の式の符号が崩れる。
カルノー効率の本質
等温過程の体積比は高温側と低温側で同じ である。断熱式がそれを保証しているため,効率では が消え,温度だけの式 が残る。可逆機関の効率が作動物質によらない理由もこの点にある。
自由膨張の見方
理想気体の自由膨張で温度が変わらないのは,内部エネルギーが温度だけで決まるためである。実在気体では分子間引力の位置エネルギーが内部エネルギーに含まれるので,膨張により位置エネルギーが増え,その分だけ運動エネルギーが減少する。
第2問 — 物理化学2
重みの式の意味
は「全分子に番号を付けて並べたあと,同じ準位内の入れ替えを割り引く」式である。統計熱力学では,この巨大な組合せ数の対数がエントロピーになる。
分配関数は状態数の重み付き和
高温ではエネルギー差が に比べて小さくなり,準位の違いが見えにくくなる。そのため占有率は一様分布に近づく。逆に低温では基底状態の指数因子だけが支配的になる。
理論の使い分け
衝突理論は短く計算できるが,反応が起こる向きや溶媒効果を立体因子にまとめてしまう。活性錯合体理論は少し抽象的だが,遷移状態の構造・分配関数・活性化エンタルピーやエントロピーを議論できるため,化学反応の解釈にはこちらの方が拡張性が高い。
第3問 — 無機化学
電子親和力の例外は電子配置で説明する
周期表の単純な有効核電荷だけで押すと,Be, Mg, N の例外を説明できない。閉殻・半充填・電子対形成の反発を一言で入れると,グラフの凹凸が化学的に説明できる。
ナノ粒子は表面積と体積のスケーリング
白金微粒子の計算は,正確な格子点の整数計数よりも,面積が ,体積が に比例することを押さえるのが重要である。触媒でナノ粒子が有利になる理由は,表面原子の割合が増えるためである。
色は遷移の種類まで書く
金属錯体の色を問われたときは,単に「配位子場が大きい」と書くだけでは足りない。金属の 電子数,スピン禁制・ラポルテ禁制,電荷移動遷移か - 遷移かを区別すると答案が安定する。
第4問 — 有機化学
縮合式で答えるときの注意
構造式を文字で書く場合は,反応中心と立体化学を必ず言葉で補う。例えば OsO 酸化では「cis」「syn」を書かないと,単なるジオール名だけでは不十分になりやすい。
機構問題の採点点
巻き矢印を完全に図示できない答案でも,求電子剤・求核剤・中間体・芳香族性の回復・脱離の順番を書けば部分点を取りやすい。特にニトロ化では ,ベンザインでは脱離付加,Mannich反応ではイミニウムを明示するのが重要である。
ラセミ体分割の本質
エナンチオマー同士は通常の非キラルな環境では物性が同じなので,そのままでは分離しにくい。光学活性な試薬と反応させるとジアステレオマーになり,沸点・溶解度・保持時間が変わる。この差を利用して分離し,最後に元の官能基へ戻すのが設計の狙いである。
第5問 — 化学工学1
摩擦係数の定義に注意する
本問の は で定義されている。この定義から導くと になる。別の教科書で使う Darcy 摩擦係数とは係数が異なるため,図の軸と問題文の式を優先する。
ポンプ仕事の構造
必要仕事は,高さを上げる位置エネルギー,出口速度を持たせる運動エネルギー,配管で失われる摩擦損失の和である。今回の数値では位置エネルギー が支配的だが,細管や長配管では摩擦損失が支配的になる。
蛇口問題の考え方
水槽から蛇口まではポンプがないので,利用できるエネルギーは水面と蛇口の高さ差だけである。この高さ差が出口運動エネルギーと摩擦損失をまかなえるかで設置高さが決まる。
第6問 — 化学工学2
熱収支は体積と面積を分ける
加熱問題では,蓄熱項に体積 ,伝熱項に側面積 が入る。ここで なので となり,微分方程式の係数が簡単になる。
中間体最大は無次元時間で見る
は とおけば である。この関数は で最大になる。温度が変わると だけが変わるので,中間体を最大にする実時間は に反比例する。
温度選択の落とし穴
温度を高くすると加熱に時間がかかるため,反応だけを見てはいけない。ただし本問の活性化エネルギーは大きく,363 K から 383 K への上昇で反応時間が約4分の1になる。加熱時間の増加より反応時間の短縮が大きいため 383 K が有利である。
第7問 — 化学数学
固有値計算の短縮
行列の第2行・第2列は他成分と結合していない。このような場合, と固有ベクトル を先に取り出すと,残りは2次行列だけで済む。
Arrhenius式は横軸の取り方がすべて
活性化エネルギーは と の直線の傾きから出る。傾きは負であり, と符号を反転して正のエネルギーにする。 をそのまま横軸にすると直線化されないので注意する。
検定の解釈
帰無仮説を棄却できないことは,従来値が正しいと証明したという意味ではない。今回のデータと残差分散の範囲では,推定値と従来値の差が統計的に有意とはいえない,という意味である。