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総合研究大学院大学 先端学術院 先端学術専攻 専門科目(天文科学コース) 2023年度 院試 過去問 解答例・解説(解説5項目)

解説5項目の分野は線形代数1項目、電磁気学・回路1項目、力学1項目です。固有値・固有ベクトル、重積分と極座標、調和振動子などが出ています。2022年度と共通するテーマは重積分と極座標です。解説はすべて、途中式と最終答は大問1問ぶんを公開しています。PDFの収録範囲は商品ページで確認できます。問題本文は含みません。

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第1問 — 線形代数:エルミート行列の固有値と直交性

行列の固有値を求めた後は、固有ベクトルを零でない解として求める。エルミート行列の議論では、転置と複素共役を分けて追う。固有値が実数であることは複素内積の正値性から示し、異なる固有値の直交性へつなげる。

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第2問 — 解析:周期延長の違いとラプラス変換

同じ二次関数でも、周期として延長する区間が変わればフーリエ係数が変わる。継ぎ目に不連続が生じる場合は、端点値や一様収束の主張を再確認する。ラプラス変換では微分の初期値項を残し、逆変換した式を元の条件へ戻す。

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第3問 — 天体力学:二体問題と視線速度による質量測定

二体の運動は重心と相対座標に分けると、互いの重力を保ったまま整理できる。中心力から面積速度が保存され、円軌道では周期と半径が結び付く。視線速度は観測方向への投影なので、軌道面の傾きによる因子を落とさない。

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第4問 — 電磁気:電流環と双極子放射

遠方の電磁場は双極子として整理し、放射場の向きと距離依存性からエネルギー流を求める。全放射は角度と時間の両方について積分する。円運動の平均放射や軸上の偏光は、直交する成分の位相関係を保って比較する。

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第5問 — 気体分子運動論:粒子流束と輝線のドップラー幅

設問1 容器内の数密度

数密度は単位体積に含まれる粒子数で、質量密度とは異なる。質量密度ならρ=mn\rho=mnとなる。与えられたf(v)f(\boldsymbol v)を全速度で積分するとNNとなるので、単位体積・単位速度体積あたりの分布はf(v)/L3f(\boldsymbol v)/L^3である。 速度分布は位置の分布とは別の変数である。速度が速い分子だけが多い場所に集まるという位置の偏りを、この平衡モデルへ追加しない。以下ではnnと、1粒子あたりに規格化したガウス分布を組み合わせて粒子数を求める。

設問2(a)i 微小面を横切る初期位置

分子は微小時間に一定速度で直進するので、面へ達した時点の座標は(xs,y+vyu,z+vzu)(x_s,y+v_yu,z+v_zu)である。面の正方形の中にこの交点が入る条件を、時刻ttでの位置へ引き戻して書いた。 vy,vzv_y,v_zが非零なら、面の真後ろの直方体だけが対象になるわけではなく、初期位置の範囲が横へずれた斜めの柱になる。∣y−ys∣≤a|y-y_s|\leq aだけでは、面を外れる分子を含めたり、斜めから入る分子を落としたりする。vx≤0v_x\leq0の分子はこの正方向の通過には含めない。

設問2(a)ii 対象領域の体積

斜めの柱の体積は底面積と、その面に垂直な厚さの積で求められる。横方向のずれはせん断であり体積を変えない。これが、面を通過する粒子数に全速さvvでなく法線速度vxv_xが掛かる理由である。 vy=vz=0v_y=v_z=0なら通常の直方体へ戻り、同じ体積になる。svdtsvdtとすると面にほぼ平行に動く分子まで大きく数えてしまう。vx→0+v_x\to0^+では通過体積が0へ近づくという極限を確認する。

設問2(b) 運動量流束としての圧力

面を通る粒子数にvxv_x、1粒子の法線方向運動量にmvxmv_xが現れ、積としてmvx2mv_x^2を積分する。正負の速度を合わせることで、両側の運動量交換に対応する正の法線応力が得られる。壁への衝突として計算するなら、片側の粒子数に反射による運動量変化2mvx2mv_xを掛けても同じ式になる。 気体は等方的なので、y,zy,z方向についても同じ圧力になる。mv2mv^2をそのまま使うと3方向の寄与をまとめてしまい、3nkBT3nk_BTとなる。圧力は一つの面の法線成分から求めるため、この場合は全速度二乗の平均の1/31/3を使う必要がある。

設問3(a) 流出分子の法線速度分布

容器内の速度密度g(vx)g(v_x)に通過体積SvxSv_xを掛けたため、流出する分子の分布は単なる半ガウス分布ではない。速い法線速度を持つ分子ほど、同じ時間により厚い層から穴へ到達でき、多く流出する。穴が小さく、流出数が全粒子数に比べて無視できる条件により、容器内の元の平衡分布を使える。 SSは穴の面積、nnは数密度であり、前問の仮想面の面積ssとは記号を区別した。f(v)f(\boldsymbol v)は容器全体で積分がNNになる分布なので、それをそのまま体積密度として掛けるとL3L^3の因子が不足する。

設問3(b) 単位時間あたりの全流出数

xx方向の速度が正である確率は1/21/2だが、それだけでは通過数を表せない。速度による重みを含む積分が必要である。全速さの平均vˉ=8kBT/(πm)\bar v=\sqrt{8k_BT/(\pi m)}を用いればN˙out=Snvˉ/4\dot N_{\mathrm{out}}=Sn\bar v/4とも書ける。 温度を上げるとT\sqrt Tに比例して流出が増え、同じ温度で重い分子ほど1/m1/\sqrt mに比例して流出が減る。Snvˉ/2Sn\bar v/2とすると、速度の向きに対する投影を適切に平均していない。外が真空という条件により、反対側から入る粒子の流束はない。

設問4(a) 波長の確率密度への変換

波長幅dλd\lambdaに入る分子数を保存するように、速度密度を変換する。ヤコビアンc/λ0c/\lambda_0は、速度の単位幅を波長の単位幅へ換算する因子である。vx>0v_x>0なら波長が短くなるが、原題の符号ではvx<0v_x<0の分子も長波長側の光として観測する。 ここへ設問3の流出分布vxg(vx)v_xg(v_x)を使うと、近づく分子しか数えず、輝線の中心や対称性まで変えてしまう。光が穴を通ることと、放射した分子自身が穴を通ることは異なる。自然幅を無視するという指定により、各速度の分子のデルタ状の線をこの変換だけで足し合わせられる。

設問4(b) ピークの位置と高さ

静止した気体全体に正味の流れがなく、vxv_xの平均が0なので、輝線も静止波長を中心に広がる。熱運動が大きいほど幅はT\sqrt Tで増え、その分ピークの高さはT−1/2T^{-1/2}で低くなる。積分した強度を固定したガウス分布の性質に対応する。 平均流があればピークの波長も移るが、原題の平衡分布へそのような速度を追加しない。Imax⁡=Ni0I_{\max}=Ni_0とすると、波長積分した強度と単位波長あたりの強度を混同している。両者は単位も異なる。

設問4(c) ピークの1/e1/eとなる波長

ガウス分布の標準偏差σλ\sigma_\lambdaだけ中心から離れた点では、ピーク比はe−1/2e^{-1/2}となる。1/e1/eの高さに達するには2 σλ\sqrt2\,\sigma_\lambda離れる必要がある。半値幅の2ln⁡2 σλ\sqrt{2\ln2}\,\sigma_\lambdaとも異なるので、どの高さの幅を定義しているかを区別する。 中心から片側までの距離をwwと測れば、T=(mc2/(2kB))(w/λ0)2T=(mc^2/(2k_B))(w/\lambda_0)^2として温度を求められる。原題の非相対論的な熱運動ではw≪λ0w\ll\lambda_0であり、中心近くに狭い線が現れる。長波長側の1点だけを答えると、対称な短波長側の解を落とす。

設問4(d) 輝線を積分した強度

1分子の線積分強度がi0i_0で、速度は線の位置だけを変えるため、全分子の和はNi0Ni_0になる。非相対論的な一次ドップラー式による狭い線では、波長0の境界が熱的な幅に比べて遠く、積分を中心の両側へ延ばせる。 温度でピークが下がっても幅が広がり、幅のT\sqrt Tと高さのT−1/2T^{-1/2}が相殺する。原題は1分子のi0i_0を一定としているので、発光準位の占有数など別の温度依存性を加えない。

解答

設問1 容器内の数密度

容器の体積はL3L^3で、平衡な気体は位置について一様なので

設問2(a)i 微小面を横切る初期位置

vx>0v_x>0とする。面のxx座標へ達するまでの時間はu=(xs−x)/vxu=(x_s-x)/v_xなので、時刻ttからt+dtt+dtの間に通過する条件は

設問2(a)ii 対象領域の体積

前問の各xxに対して、許されるy,zy,zの幅はいずれも2a2aである。中心がxxに応じてずれても断面積は4a24a^2で変わらない。xxの幅がvxdtv_xdtなので

設問2(b) 運動量流束としての圧力

1方向の速度密度をg(vx)=m/(2πkBT)e−mvx2/(2kBT)g(v_x)=\sqrt{m/(2\pi k_BT)}e^{-mv_x^2/(2k_BT)}とする。正方向に面を通る分子のxx運動量流束はnm∫0∞vx2g(vx) dvxnm\int_0^\infty v_x^2g(v_x)\,dv_xで、逆方向からの寄与も同じ大きさである。したがって P=nm∫−∞∞vx2g(vx) dvx. P=nm\int_{-\infty}^{\infty}v_x^2g(v_x)\,dv_x. ガウス分布の二次モーメントは⟨vx2⟩=kBT/m\langle v_x^2\rangle=k_BT/mなので

設問3(a) 流出分子の法線速度分布

穴の面積をSSとする。vx>0v_x>0の速度成分を持つ分子が単位時間に横切れる体積はSvxSv_xである。vy,vzv_y,v_zを全範囲で積分すると

vx≤0v_x\leq0の流出寄与は0である。

設問3(b) 単位時間あたりの全流出数

前問をvx>0v_x>0で積分する。b=m/(2kBT)b=m/(2k_BT)として ∫0∞vxe−bvx2dvx=12b=kBTm. \int_0^\infty v_xe^{-bv_x^2}dv_x=\frac1{2b}=\frac{k_BT}{m}. したがって

設問4(a) 波長の確率密度への変換

観測するのは容器内の分子が発する光であり、穴から出る分子だけではない。全ての符号のvxv_xについて、分子数はNg(vx) dvxN g(v_x)\,dv_xである。λ=λ0(1−vx/c)\lambda=\lambda_0(1-v_x/c)から vx=c(1−λλ0),∣dvxdλ∣=cλ0. v_x=c\left(1-\frac{\lambda}{\lambda_0}\right),\qquad \left|\frac{dv_x}{d\lambda}\right|=\frac c{\lambda_0}. 1分子の積分強度i0i_0を掛ける。

設問4(b) ピークの位置と高さ

σλ=(λ0/c)kBT/m\sigma_\lambda=(\lambda_0/c)\sqrt{k_BT/m}と置くと、前問は Iλ=Ni02πσλexp⁡[−(λ−λ0)22σλ2] I_\lambda=\frac{Ni_0}{\sqrt{2\pi}\sigma_\lambda} \exp\left[-\frac{(\lambda-\lambda_0)^2}{2\sigma_\lambda^2}\right] である。指数が最大の0となるのはλ=λ0\lambda=\lambda_0なので

設問4(c) ピークの1/e1/eとなる波長

Iλ/Imax⁡=1/eI_\lambda/I_{\max}=1/eの対数を取ると(λ−λ0)2/(2σλ2)=1(\lambda-\lambda_0)^2/(2\sigma_\lambda^2)=1となる。

両側の波長があり、その間の全幅は2λ02kBT/(mc2)2\lambda_0\sqrt{2k_BT/(mc^2)}である。

ガウス型輝線の規格化強度と、ピークの1/eになる両側の波長

設問4(d) 輝線を積分した強度

ガウス積分により、前問の規格化された波長分布を全体で積分すると1になる。したがって

最終答

設問1 容器内の数密度

n=NL3.\displaystyle n=\frac{N}{L^3}.

設問2(a)i 微小面を横切る初期位置

xs−vxdt≤x≤xs,∣y+vyu−ys∣≤a,∣z+vzu−zs∣≤a,u=xs−xvx.\displaystyle x_s-v_xdt\leq x\leq x_s,\qquad |y+v_yu-y_s|\leq a,\qquad |z+v_zu-z_s|\leq a,\qquad u=\frac{x_s-x}{v_x}.

設問2(a)ii 対象領域の体積

dVcross=4a2vxdt=s vxdt,s=4a2.\displaystyle dV_{\mathrm{cross}}=4a^2v_xdt=s\,v_xdt,\qquad s=4a^2.

設問2(b) 運動量流束としての圧力

P=nkBT=NkBTL3.\displaystyle P=nk_BT=\frac{Nk_BT}{L^3}.

設問3(a) 流出分子の法線速度分布

dN˙outdvx=Snm2πkBT vxexp⁡ ⁣(−mvx22kBT)(vx>0).\displaystyle \frac{d\dot N_{\mathrm{out}}}{dv_x} =Sn\sqrt{\frac{m}{2\pi k_BT}}\, v_x\exp\!\left(-\frac{mv_x^2}{2k_BT}\right)\quad(v_x>0).

設問3(b) 単位時間あたりの全流出数

N˙out=SnkBT2πm.\displaystyle\dot N_{\mathrm{out}} =Sn\sqrt{\frac{k_BT}{2\pi m}}.

設問4(a) 波長の確率密度への変換

Iλ=Ni0cλ0m2πkBT exp⁡ ⁣[−mc2(λ−λ0)22kBTλ02].\displaystyle I_\lambda=Ni_0\frac c{\lambda_0}\sqrt{\frac{m}{2\pi k_BT}}\, \exp\!\left[-\frac{mc^2(\lambda-\lambda_0)^2}{2k_BT\lambda_0^2}\right].

設問4(b) ピークの位置と高さ

λmax⁡=λ0,Imax⁡=Ni0cλ0m2πkBT.\displaystyle\lambda_{\max}=\lambda_0,\qquad I_{\max}=Ni_0\frac c{\lambda_0}\sqrt{\frac{m}{2\pi k_BT}}.

設問4(c) ピークの1/e1/eとなる波長

λ1/e,±=λ0(1±2kBTmc2).\displaystyle \lambda_{1/e,\pm}=\lambda_0\left(1\pm\sqrt{\frac{2k_BT}{mc^2}}\right).

設問4(d) 輝線を積分した強度

I=∫Iλ dλ=Ni0.\displaystyle I=\int I_\lambda\,d\lambda=Ni_0.

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2023年度の出題内容

解説5項目

この5問の分野は線形代数1問・電磁気学・回路1問・力学1問です。

大問分野主題解説の小見出し最終答
第1問線形代数エルミート行列の固有値と直交性—あり
第2問周期延長の違いとラプラス変換—あり
第3問力学二体問題と視線速度による質量測定—あり
第4問電磁気学・回路電流環と双極子放射—あり
第5問粒子流束と輝線のドップラー幅—あり

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