東京大学 院試 過去問 解答例
東大 工学系研究科 応用化学専攻 一般教育科目 化学 2024年度 院試 解答例・解説
東京大学 工学系研究科 応用化学専攻 一般教育科目 化学 2024年度の院試 過去問について、設問ごとの解法方針と確認点を解説。全3問収録の解答・解説PDFと併用できます。問題本文は含みません。
最終更新:
設問ごとの解法方針と確認点を公開しています。
続きの途中式・最終答は解答・解説PDFに収録しています。問題本文は含まれません。
第1問 — 物理化学
計算で落としやすい単位
浸透圧から凝固点降下へ進む問題では、 は 、密度は に直してから を作る。 のまま代入すると 倍ずれる。高分子のモル質量は数平均値であり、浸透圧のような粒子数を数える測定から出る量であることも答案に書けるとよい。
凝固点降下の導出で必要な符号
溶液中では なので である。一方、凝固点降下後は であり、 である。この二つの負号が対応して、最終的な は正になる。途中式の符号を確認するだけで、導出ミスの多くを防げる。
箱中粒子の確率の検算
-- は箱の左から から の区間であり、基底状態の確率密度は中央に近いほど大きい。したがって一様分布なら だが、実際はそれより大きい。 という値はこの直観と合う。
Morse ポテンシャルと調和近似
は井戸の深さであり、実際に観測する解離エネルギーは振動準位の零点エネルギーを差し引いたものになる。調和近似では、最小点近傍で と書くので、二階微分を と同一視すればよい。一次微分だけで止めると力の定数は出ない。
可逆一次反応の答案の書き方
最初に全濃度保存 を明記すると、以後は一変数の一次微分方程式になる。温度ジャンプ後も同じ形だが、基準を新しい平衡濃度に取り直すのが要点である。指数の係数が になる理由は、正反応と逆反応の両方が平衡からのずれを戻す向きに働くためである。
第2問 — 無機化学
ダイヤモンドの充填率
ダイヤモンド構造は面心立方格子に 2 原子基底を置いた構造で、単位格子中の原子数は 8 個である。最近接距離を などと誤ると充填率が大きく外れる。最近接原子は体対角線方向にあり、距離が であることを最初に書くのが採点上も重要である。
結晶構造と性質を結びつける
「ダイヤモンド型に似ている」ことだけでは性質は決まらない。透明性は電子バンド構造、SiO2 は軌道重なりとネットワーク形成、氷は水素結合の方向性、ZnS は置換ドーパントの価数差で説明する。構造名だけを答えて終わると、理由説明としては不足する。
15 族水素化物の角度
NH3 では VSEPR の孤立電子対反発で説明できる。一方、重い 15 族水素化物を同じ 混成で説明しようとすると約 が出ない。重元素では混成が弱く、ほぼ 軌道で結合するという見方を入れると、沸点・結合角の周期変化を一貫して説明できる。
標準電位の符号チェック
還元電位が低くなるとは、還元されにくい、すなわち酸化体が相対的に安定化されているという意味である。計算結果 はこの解釈と一致する。もし逆比が出た場合は、熱力学サイクルの向きか の符号を見直す。
第3問 — 有機化学
構造式問題の答案
名称から構造を書く問題では、主鎖番号と官能基の位置を先に決める。2-methylpropan-1-amine は tert-butylamine ではなく、(CH3)2CHCH2NH2 である。cis-4-aminocyclohexanol は 1,4-cis のため椅子形では両置換基を同時に equatorial にはできない。この点を立体化学の確認に使う。
E2 反応の見方
ベンジル位塩化物に強塩基・加熱条件を与えると、置換ではなく脱離を主に考える。E2 では脱離する C-H と C-Cl が anti-periplanar でなければならない。Newman 投影は、絶対配置そのものよりも、この anti 関係と、脱離後にどのアルケン幾何を与えるかを示すための図である。
アミンの塩基性と求核性
塩基性は平衡量であり、共役酸の安定性に対応する。求核置換速度は遷移状態へ近づけるかどうかも大きく効く。triethylamine と quinuclidine は塩基性が近いが、メチル化速度では立体障害の小さい quinuclidine が明確に速い。
反応系列の典型ミス
Claisen 縮合後の ethyl acetoacetate は、酸性度の高い活性メチレンをもつため、次のアルキル化はカルボニル炭素ではなく 炭素で起こる。過酸酸化後の酸性加水分解は syn ジオールではなく、エポキシド開環を経る anti ジオールを与える。4-tert-butylcyclohexanone の還元では、tert-butyl 基が equatorial に固定されることを使って主生成物の立体を判断する。
芳香族性の判定
Huckel 則だけでなく、環状共役、平面性、電子数を同時に見る。 電子系は平面なら反芳香族的なので、多くの場合は非平面化して芳香族性を失う。 annulene は 系で、環が大きく平面共役を取りやすい点が 、 系との違いである。
アズレンの反応位置
アズレンは「ベンゼンの異性体」ではなく、五員環と七員環に分極した非交互炭化水素として考える。求電子剤は電子豊富な五員環側を攻撃しやすく、特に 1,3 位攻撃では反応中間体の芳香族的安定化を説明しやすい。単に「置換基が少ない位置」と答えるのは不十分である。