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東京大学 院試 過去問 解答例

東大 工学系研究科 応用化学専攻 一般教育科目 化学 2022年度 院試 解答例・解説

東京大学 工学系研究科 応用化学専攻 一般教育科目 化学 2022年度の院試 過去問について、設問ごとの解法方針と確認点を解説。全3問収録の解答・解説PDFと併用できます。問題本文は含みません。

最終更新:

設問ごとの解法方針と確認点を公開しています。

続きの途中式・最終答は解答・解説PDFに収録しています。問題本文は含まれません。

1 — 物理化学

方針

第1部は「相平衡では化学ポテンシャルが等しい」という一点から出発する。 Clausius--Clapeyron 式では, VgVV^g\gg V^\ell と理想気体近似をどこで使ったかを明示すると答案が締まる。 蒸気圧プロットの傾きは ΔHvap\Delta H_{\mathrm{vap}} に直結するので, 水素結合の説明は「液相が余分に安定化され, 蒸発に必要なエンタルピーが大きい」と書くのが最短である。

熱力学式の書き方

dG=SdT+VdPdG=-S\,dT+V\,dP は丸暗記で書くより, G=HTSG=H-TS, H=U+PVH=U+PV, dU=TdSPdVdU=T\,dS-P\,dV から一度導くと符号の取り違えを避けられる。 相平衡を少し動かす問題では, 変化後も Gg+dGg=G+dGG^g+dG^g=G^\ell+dG^\ell であるから dGg=dGdG^g=dG^\ell と置く。 この一行を答案に入れると, Clapeyron 式の分子に ΔS\Delta S, 分母に ΔV\Delta V が出る理由が明確になる。 最後に理想気体の Vg=RT/PV^g=RT/P を代入した段階で初めて式(3)の形になる。

分子軌道の典型ミス

O2_2 の常磁性は「結合次数が 2」だけでは説明にならない。 縮退した反結合性 π\pi 軌道に Hund 則で不対電子が 2 個入ることを書く必要がある。 また, N2_2 と O2_2 の違いでは「2s2s--2p2p 混成」ではなく, 分子軌道として同じ対称性の 2σg2\sigma_g3σg3\sigma_g が混成する, と述べると正確である。

軌道エネルギーの説明

3σg3\sigma_g1πu1\pi_u の順序を問う部分では, 「σ\sigma 結合性軌道は結合軸上で正面重なりをもつため安定化が大きい」と形状に結びつける。 N2_2 側で順序が逆転する説明では, 同じ対称性をもつ σg\sigma_g 軌道だけが強く混成できること, 原子番号が大きくなると有効核電荷の増加により 2s と 2p のエネルギー差が広がり混成が弱くなることを書く。 反結合性軌道の不安定化が大きい理由は, 重なり積分 S>0S>0 を含む LCAO の式で示す方法と, 核間に節ができ電子密度が失われるという物理的説明の両方を添えると堅い。

検算

自触媒反応の速度式は x=0x=0r(0)=kCA02θ=kCA0CB0 r(0)=kC_{A0}^2\theta=kC_{A0}C_{B0} となり, 初期速度と一致する。 また x=1x=1r=0r=0 となるので, A が消費し尽くされる極限も正しい。 最大値条件 x=(1θ)/2x=(1-\theta)/2θ1\theta\ll1 で約 1/21/2 となり, S 字曲線の変曲点が中央付近に来るという直観とも合う。

自触媒反応の答案作成

CB=CB0+CA0xC_B=C_{B0}+C_{A0}x と置けるのは, A 1 mol の消費につき B 1 mol が生成する量論を使っているからである。 この量論関係を書かずに速度式だけ示すと, なぜ θ+x\theta+x が現れるかが伝わりにくい。 第 4 小問の概形では, 初期は B が少なく立ち上がりが遅いこと, 中盤で B の蓄積により加速すること, 終盤では A の枯渇で 1 に漸近することを曲線上で区別する。 tmt_m は速度最大, すなわち x(t)x(t) の傾き最大の時刻であり, x=1/2x=1/2 そのものではなく θ\theta だけ左にずれる点にも注意する。

続きの解答(途中式・最終答)はPDFに収録

2 — 無機化学

錯体の見方

錯体名から式を書くときは, 配位子の電荷を先に固定すると酸化数のミスを防げる。 CN- と NCS- は 1 価陰イオン, H2O と NH3 は中性配位子である。 C の「チオシアナト-NN」は配位原子を指定しており, -NCS で金属に結合していることを表す。 ここを -SCN としても全体の電荷は同じだが, 配位様式の指定に答えていないため減点されやすい。

配位子場の答案

八面体場の分裂では, 軸方向を向く dx2y2d_{x^2-y^2}, dz2d_{z^2} が高く, 軸間方向を向く dxyd_{xy}, dyzd_{yz}, dzxd_{zx} が低いという幾何学的理由を書く。 常磁性の比較では, Co3+^{3+} がどちらも d6d^6 であること, NH3_3 が強い場, F^- が弱い場であること, 低スピン・高スピン配置の不対電子数が異なることを順に示すとよい。 「配位子が違うから」だけでは配位子場理論の説明にならない。

有効核電荷と半径の検算

Mg2+^{2+} と O2^{2-} はどちらも Ne 型で同じ遮蔽定数を用いるため, 核電荷の大きい Mg2+^{2+} の方が ZeffZ_{\mathrm{eff}} が大きく, 半径は小さくなる。 計算結果も rMg2+<rO2r_{\mathrm{Mg}^{2+}}<r_{\mathrm{O}^{2-}} となっており, 傾向と合っている。 また NaCl 型では最近接距離が格子定数の半分であるため, 2 つの半径の和が 2.105 A˚2.105\ \text{\AA} になることを最後に確認するとよい。

格子エネルギーの符号と大きさ

式から得る ULU_L は結晶を作るときのエネルギー変化として負になる。 一方, 「格子エネルギーの大きさ」を問う文脈では正の値として 4.6×103 kJmol14.6\times10^3\ \mathrm{kJ\,mol^{-1}} と述べてもよい。 符号を付ける場合は, どちらの過程を正方向に取っているかを一言添えると誤解がない。 第 3 近接までの Madelung 定数は真の NaCl 型の値より粗い近似であり, 与えられた条件では 2.12.1 を使って次問へ進めばよい。

沈殿滴定と抽出の典型ミス

Mohr 法の終点では, AgCl の当量点濃度ではなく, Ag2_2CrO4_4 の溶解度積から必要な [Ag+][\mathrm{Ag}^+] を計算する。 指示薬濃度を上げると終点に必要な [Ag+][\mathrm{Ag}^+] は小さくなり, 下げると大きくなる。 この関係を式 [Ag+]end=Ksp(Ag2CrO4)[CrO42] [\mathrm{Ag}^+]_{\mathrm{end}} =\sqrt{\frac{K_{\mathrm{sp}}(\mathrm{Ag_2CrO_4})}{[\mathrm{CrO_4^{2-}}]}} で示せば, 滴定誤差の説明が定性的な丸暗記に見えない。 溶媒抽出は, 錯形成やイオン対形成で分配比を変えられることが本質であり, 単に「有機溶媒に溶けるから」と書くより, 分離選択性と濃縮を同時に説明する答案が強い。

錯体で見るべき順序

錯体名から式を書くときは, まず配位子の電荷を決め, 全電荷から金属の酸化数を決める。 その後で dd 電子数を数える。 中性配位子である NH3_3 と H2_2O は酸化数に寄与せず, CN^-, NCS^-, F^- はそれぞれ 1-1 として扱う。 ここを逆にすると, 低スピン・高スピンの議論まで連鎖的に誤る。

格子エネルギーの検算

MgO の最近接距離は a/2a/2 であり, aa そのものを使わない。 また Born--Mayer 式の dd^\ast はオングストロームで与えられているので, d0d_0 と同じ SI 単位に直してから代入する。 計算結果が 103 kJmol110^3\ \mathrm{kJ\,mol^{-1}} の桁になれば, 2 価イオン結晶として妥当である。

沈殿滴定の答案上の注意

当量点と終点は同じではない。 当量点は AgCl の溶解度積から決まり, 終点は Ag2_2CrO4_4 の溶解度積とクロム酸イオン濃度から決まる。 この 2 つの銀イオン濃度を別々に計算してから, 指示薬濃度や pH 条件が終点をずらす理由を説明すると, 定量分析としての答案になる。

続きの解答(途中式・最終答)はPDFに収録

3 — 有機化学

酸性度・塩基性の見方

炭化水素の酸性度は, 脱プロトン化後の炭素アニオンの安定性で比較する。 ここでは「ss 性が大きいほど原子核に近く, 負電荷を安定化する」という説明が最も簡潔である。 アニリン類の塩基性は置換基効果を孤立電子対の利用しやすさに結びつける。 電子供与基は塩基性を上げ, 電子求引基は下げる, とだけ書くより, 共鳴構造で N の電子対がどちらへ引かれるかを書くと説得力が増す。

立体化学とひずみの答案

乳酸の絶対配置では, 優先順位を決めたあと最低順位の H が手前にあることを忘れずに反転する。 ここを落とすと SS と誤答しやすい。 環内アルキンの不安定性は「環ひずみ」とだけ書くのではなく, spsp 炭素が本来直線形を好むこと, その直線性が六員環では実現しにくいことまで書くと十分な説明になる。

反応機構の要点

Grignard 試薬のニトリル付加では, 付加後のイミン型中間体を酸性加水分解してケトンにする。 酸塩化物やエステルへの付加と違い, ニトリルでは通常 1 回付加で止まり, 加水分解後にケトンが得られる点が重要である。 HCl 付加では Markovnikov 付加だけで止めず, より安定なカルボカチオンへの転位を検討する。 ブロモエーテル化では, まずブロモニウムイオンを考え, 分子内 OH が 5 員環を作る向きで攻撃する。 Br2_2 の単純付加体を書いて終えると, 分子内求核攻撃を見落とした答案になる。 Diels--Alder 反応では endo/exo を名前だけでなく, 無水物部位が橋の内側を向く配置として示すと採点者に伝わりやすい。

合成問題の採点ポイント

A\toB では「エステルだけをアルコールへ還元し, ケトンは残す」選択性が本質である。 LiAlH4_4 をそのまま使うとケトンも還元されるため, ケトン保護を明示しない答案は危険である。 C\toD ではアニリンを直接臭素化しないことが重要で, アセトアニリドにしてから臭素化すれば para 体を主生成物として得やすい。

検算

II-1 では Grignard 試薬由来のフェニル基がニトリル炭素に結合し, ニトリルの置換基 CH3CH2CH2\mathrm{CH_3CH_2CH_2} がカルボニル炭素の反対側に残るので, 生成物はフェニルプロピルケトンである。 III-2 では炭素数が出発物質と生成物で同じで, エステルの CO2Et 部分だけが CH2OH に変わっていることを確認する。 III-3 では臭素の位置がアミノ基の para 位であり, 保護基が最終的に外れて NH2 に戻っていることを確認する。

続きの解答(途中式・最終答)はPDFに収録

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