東京大学 院試 過去問 解答例
東大 工学系研究科 応用化学専攻 一般教育科目 化学 2026年度 院試 解答例・解説
東京大学 工学系研究科 応用化学専攻 一般教育科目 化学 2026年度の院試 過去問について、設問ごとの解法方針と確認点を解説。全3問収録の解答・解説PDFと併用できます。問題本文は含みません。
最終更新:
設問ごとの解法方針と確認点を公開しています。
続きの途中式・最終答は解答・解説PDFに収録しています。問題本文は含まれません。
第1問 — 物理化学
方針
I では境界条件と規格化条件を分けて使う。境界条件はエネルギー準位を 離散化し,規格化条件は係数の大きさを決める。II では被覆率を直接 求めるより,空サイト被覆率 を共通因子として全種を 表すと計算が短い。III では阻害剤がどの酵素種に結合するかで, Lineweaver--Burk プロットの「どの切片が変わらないか」を判断する。
検算
箱型ポテンシャルのエネルギーは に比例する。井戸が長くなると 準位間隔が狭くなるので, となる結果は物理的に 自然である。また CO 酸化速度式の分母はサイトを奪い合う全吸着種の 寄与の二乗であり,律速段階に 2 種類の表面被覆率が掛かることと対応している。
典型ミス
図示分子の 電子数を二重結合数と同じ 11 個にしてしまうと, HOMO を と誤る。二重結合 1 個あたり 電子は 2 個であり, 各箱型準位にも電子が 2 個ずつ入る。吸着速度式では,酸素の解離吸着を としてしまう誤りが多い。 正しくは平方根依存である。
試験で書くべきポイント
境界条件から ,, の順に 書けば,エネルギー準位の導出は十分に採点される。吸着ではサイト収支を 明示すること,酵素阻害では反応速度式と直線の特徴を対応させることが 重要である。図だけを描いて式を書かない答案は根拠不足になりやすい。
第2問 — 無機化学
錯体問題の読み方
Werner 型の組成決定では,沈殿が「ただちに出るか」「加熱してから出るか」 を分ける。前者は外圏イオン,後者は配位圏内の塩化物を示す。凝固点降下で 得られるのは粒子数なので,外圏 Cl の存在から van't Hoff 因子を 入れることが重要である。
指定語を使った理由説明
Cu の 配置では Jahn--Teller 効果により八面体の軸方向が 伸び,平面四角形構造が相対的に安定になる。したがって が小さい 理由は「3 個目の en が軸方向に入るため弱い」と書くと,指定語を単に並べた 答案より因果が明確になる。
金属カルボニルでは,負電荷が大きい錯体ほど金属中心の電子密度が増え, 金属 軌道から CO の 軌道への逆供与が強くなる。 への電子供与は C--O 結合を弱めるので,伸縮振動は低波数へ 移る。ここを逆にして「負電荷が大きいほど高波数」と書くのが典型的な失点である。
半径比則の使いどころ
半径比則は厳密なエネルギー計算ではなく,接触球モデルによる幾何学的な 目安である。それでも NaBr と CsBr のように値が限界から十分離れている 場合は,配位数の判定に有効である。
密度判定の検算
Ca は Zr より軽く,さらに機構 2 では O 空孔も 生じるので,密度は大きく下がる。一方,機構 1 では Ca が余分に 入るため,式量はほとんど減らない。この定性的比較だけでも,実測密度の 低下が機構 2 を支持することが分かる。
答案作成上のチェック
Co 錯体では,分子量 から Co,3 個の Cl,2 個の NH を 引いた残りが になり,2 個の HO と一致する。この質量収支を 最後に書いておくと,配位水を落としていないことを示せる。さらに錯イオンを とすれば,Co の酸化数 と 外圏 Cl も同時に確認できる。
半径比則では,NaCl 型の は NaCl そのものの半径比ではなく, 6 配位を保つための幾何学的な下限である。NaBr の は 6 配位下限を 超えるが CsCl 型の には届かず,CsBr の は 8 配位下限を 超える,という比較を明示する。
典型ミス
の外圏 Cl を忘れて 電荷を合わせようとすると,凝固点降下と AgCl 量が同時に説明できない。 また,ZrO--CaO の密度計算では,格子定数一定という仮定のもとで 式量の比だけを比較する。単位格子中の式単位数まで再計算し始めると, かえって条件の読み違いを招きやすい。
第3問 — 有機化学
有機反応の方針
試薬名から反応型を先に固定する。PCC は一級アルコールをアルデヒドで止める, 還元的オゾン分解は二重結合を 2 つのカルボニルに割る,Stork エナミン反応は 位アルキル化を行う,溶解金属還元は trans-アルケンを与える, という対応を速く引き出す。
立体化学の見方
シクロヘキシルトシラートの脱離では,置換度だけでなく trans-diaxial 条件が必須である。椅子形配座を描き,OTs を軸方向に置いたときに どの -H が軸方向で反平行になるかを確認する。O を主生成物にする経路では, この条件を逆に利用して,メチル置換炭素側の -H を使えない配座へ 誘導している。
芳香族置換の判断
ビフェニルのニトロ化では,NMR の対称性情報が決め手になる。 para,para'-二置換体では各環が同等で,各環内でも 2 組のプロトンに分かれるため, 芳香族シグナルは 2 本のダブレットに単純化される。単に 「ニトロ基は para 配向」とだけ考えると,単ニトロ体を選んでしまう。
典型ミス
Grignard 試薬の反応で,不飽和アルデヒドに対して無条件に 1,4-付加を 選ぶのは誤りである。通常の Grignard 試薬は硬い求核剤としてカルボニル炭素へ 1,2-付加しやすい。また LiAlD 還元では,D が N--D として残るのではなく, ニトリル炭素に 2 個入る。水で後処理するためアミノ基上の同位体は H になる。
試験で書くべきポイント
構造式問題では,生成物だけでなく「どの結合が切れたか」「どの位置に 新しい C--C 結合ができたか」を一言添えると部分点が安定する。機構問題では, 中間体名だけでなく,C--O 結合開裂,1,2-D 移動,芳香族性回復の順序を 巻き矢印に対応させて示す。