東京科学大学 院試 過去問 解答例
東京科学大 生命理工学院 生命理工学系 生命理工学系 専門科目 2023年度 院試 解答例・解説
東京科学大学 生命理工学院 生命理工学系 生命理工学系 専門科目 2023年度の院試 過去問について、設問ごとの解法方針と確認点を解説。全8問収録の解答・解説PDFと併用できます。問題本文は含みません。
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設問ごとの解法方針と確認点を公開しています。
続きの途中式・最終答は解答・解説PDFに収録しています。問題本文は含まれません。
第1問 — 酵素反応速度とDNAポリメラーゼ
方針
第1問は計算問題ではなく、短い記述で核心語を落とさないことが重要である。 は「最大速度そのもの」ではなく「最大速度の半分を与える基質濃度」である。 この区別を書けるかどうかで、酵素反応速度論の理解が伝わる。
根拠
ミカエリス・メンテン式に を代入すると となり、直ちに が得られる。正の協同性は、1個目の基質結合が以後の 結合を促進する現象なので、速度曲線はアロステリック酵素に典型的なシグモイド型 になる。
検算・典型ミス
「 が小さいほど反応速度が小さい」と書くのは誤りである。同じ なら、 が小さい酵素ほど低い で反応が進む。DNAポリメラーゼの fidelity では、校正活性だけでなく、活性部位で正しい塩基対を選ぶ段階も要因に 含めると答案が安定する。
試験で書くべきポイント
PCRの設問では「低 fidelity は悪い」と一般論で終わらせず、変異導入、進化分子 工学、タンパク質改変などの目的を具体例として書く。実験目的と酵素選択を結びつける 一文があると、単なる用語暗記ではない答案になる。
第2問 — 植物の貯蔵代謝と糖新生
方針
植物代謝の問題は、輸送形態、貯蔵形態、分解経路、糖新生の炭素収支を順に整理する。 語句選択では「葉で作られ師管を通る糖」はスクロース、「油脂の主成分」は トリアシルグリセロール、と即決できる。
根拠
脂肪酸は 酸化によりアセチルCoAへ分解される。アセチルCoAを糖へ戻すには、 クエン酸回路の脱炭酸で炭素を失わず、C4有機酸として取り出す必要がある。植物や 一部微生物はグリオキシル酸経路を持つため、油脂を発芽時の糖供給源として使える。
検算・典型ミス
哺乳類でも脂肪酸からエネルギーは得られるが、偶数鎖脂肪酸由来のアセチルCoAから グルコースを正味合成できない。クエン酸回路の中間体は一見糖新生に接続しているが、 アセチルCoA由来の2炭素が脱炭酸で失われるため、正味の炭素増加がない点を明記する。
試験で書くべきポイント
第5小問は「グリオキシル酸経路がないから」で終わると説明不足である。脱炭酸を迂回 する、C4ジカルボン酸を正味生成する、糖新生の炭素骨格を供給する、の3点を入れると 4〜5行の答案としてまとまる。
第3問 — 真核生物mRNAの成熟と発現制御
方針
各設問で指定語があるため、指定語を本文中に自然に入れつつ、機能まで一文添える。 特に I は「名称だけ」では足りず、どの末端・どの配列・何のためかを短く書く。
根拠
真核生物のmRNAは、転写された直後の前駆体のままでは翻訳に使われない。イントロン 除去、 末端保護、 末端形成を経て、核外輸送と翻訳に適した成熟mRNAになる。 転写促進では、遠位のエンハンサーがDNAループによりプロモーター近傍の転写開始装置 へ作用する点が中心である。
検算・典型ミス
ポリA尾部は「アデニンが1個付く」のではなく、多数のアデニン残基が連なる構造である。 キャップ構造は 末端ではなく 末端に付く。スプライシングではエキソンを 除去するのではなく、イントロンを除去してエキソンをつなぐ。
試験で書くべきポイント
mRNA半減期の意義は、単に「安定な方がよい」ではない。短寿命mRNAは素早い応答、 長寿命mRNAは恒常的発現に向く、という対比を書くと生理学的意義として十分な答案に なる。
第4問 — 分泌経路と蛍光プローブ解析
方針
この問題は、Vが「ERからGを経てPMへ向かう1方向の輸送プローブ」であると読めばよい。 阻害点より上流に蓄積し、下流には現れない、という保存則でグラフを決める。
根拠
化合物CはER滞留因子との結合を解除するだけで、分解は考えない条件である。したがって ER、G、PMの割合の総和は一定であり、どこかの輸送段階を止めると、その手前の区画に Vが蓄積する。FRAPでは蛍光分子そのものが再発光するのではなく、未退色分子の移動に より蛍光が回復する点が本質である。
検算・典型ミス
ERからGへの輸送阻害でGが一過的に上がる、と描くのは誤りである。阻害が化合物C添加と 同時なら、ERから出る経路が最初から止まっている。GからPMへの阻害では、PMが後から 増える曲線を描かない。
試験で書くべきポイント
第4小問はFRAP以外を求めているため、FRET、FLIP、光活性化蛍光タンパク質、単粒子追跡 などから一つ選ぶ。検出対象、蛍光シグナルが変わる原理、何が分かるかを3行で結ぶ。
第5問 — 有機反応とエーテル誘導体
方針
構造決定は「反応名」と「炭素数・不飽和度」を照合する。第I部は、Baeyer--Villiger 酸化、アルキン合成と水和、ジアゾカップリング、Claisen転位、ジチアンのアシルアニオン 等価体、オゾン分解が並んでいる。
根拠
Baeyer--Villiger酸化では、より移動しやすいシクロペンチル基が酸素側へ移り、加水分解 でアルコールになる。末端アルキンのヒドロホウ素化酸化は、エノールを経てアルデヒドを 与える。エポキシドは通常のエーテルより環ひずみが大きく、求核開環を受けやすい。
検算・典型ミス
エポキシドの塩基性開環では、より置換の少ない炭素を攻撃する。酸性開環では、プロトン化 により正電荷性が大きい、より置換の多い炭素が攻撃されやすい。両者の位置選択性を 逆に書くミスが多い。
試験で書くべきポイント
構造式問題では、名称だけでなく骨格式を書くのが本来の答案である。本解説の凝縮式を 答案用紙では骨格式へ直す。FとGは図の読み取りを伴うため、反応後の官能基 (チオアセタールの脱保護、オゾン分解でのジカルボニル化)から逆算して描く。
第6問 — 医薬品合成と有機化学の基礎
方針
合成スキームは、アセトフェノンからMannich塩基を作り、還元、塩素化、フェノキシドに よる置換、脱メチル化へ進む流れで読む。各試薬を単独知識として覚えるより、官能基の 変化に対応させる方が確実である。
根拠
Mannich反応では、カルボニル化合物の 炭素が、アミンとホルムアルデヒドから 生じたイミニウムイオンへ付加する。NaBH は通常ケトンをアルコールへ還元し、 SOCl はアルコールを塩化物へ変換する。BrCNと加水分解は第三級アミンの脱メチル化 に用いられる。
検算・典型ミス
化合物2の主鎖はプロパン-1-オンで、1位にフェニル基、3位にジメチルアミノ基がある。 NMRでは「カルボニルの隣だから常に最も低磁場」と決めつけず、酸素が直接結合した 炭素上の水素の強い脱遮蔽を考える。
試験で書くべきポイント
第II部は正誤判定なので、正しい番号だけでよいが、見直しでは反例を一つずつ確認する。 HBr付加、Birch還元、シクロペンタジエニルアニオン、C--H結合解離エネルギーは頻出の 組合せである。
第7問 — 逐次一次反応の速度式
方針
逐次一次反応では、Aを先に解き、その結果をBの微分方程式に代入する。Cは直接解くより、 保存則 を使う方が速い。
根拠
Bの式は線形微分方程式である。 に積分因子 を掛けると となり、 から解が得られる。
検算・典型ミス
になるかを確認する。得られた式では となるので初期条件を満たす。また で指数項が消え、 となるため、全量が最終生成物へ移る極限とも一致する。
試験で書くべきポイント
は から求める。 の式を知らなくても、この条件は と解釈できるが、最終的には指数関数の比を整理して対数を取る必要が ある。分母を とした場合は分子の対数も対応して反転させる。
第8問 — 生成エンタルピーと内部エネルギー
方針
熱化学方程式では、反応エンタルピーを「生成物の生成エンタルピーの和」から 「反応物の生成エンタルピーの和」を引いたものとして書く。完全気体の内部エネルギーは でエンタルピーとつなぐ。
根拠
標準生成エンタルピーは、標準状態の単体から1 molの物質を作る反応のエンタルピーである。 そのため 、、 の値は0である。 また完全気体1 molの温度変化では が成り立つ。
検算・典型ミス
Iの(1)は水が2 mol生成しているため、 をそのまま1 molあたりの値にしない。 IIIの2)では、反応の気体モル数変化 を入れる。式 から、今回は になる。
試験で書くべきポイント
温度補正では、各物質の熱容量を個別に書くより、反応熱容量 を先に定義してもよい。最後に での内部エネルギー変化を求めるため、 の項は を用いる。