東京科学大学 院試 過去問 解答例
東京科学大 生命理工学院 生命理工学系 生命理工学系 専門科目 2024年度 院試 解答例・解説
東京科学大学 生命理工学院 生命理工学系 生命理工学系 専門科目 2024年度の院試 過去問について、設問ごとの解法方針と確認点を解説。全8問収録の解答・解説PDFと併用できます。問題本文は含みません。
最終更新:
設問ごとの解法方針と確認点を公開しています。
続きの途中式・最終答は解答・解説PDFに収録しています。問題本文は含まれません。
第1問 — 塩基配列・代謝調節・膜流動性
方針
配列問題では「相補性」と「向き」を分けて処理する。アミノ酸配列では、センス鎖は mRNA と同じ情報をもつため、T を U とみなして 3 塩基ずつ読む。ただし本問では「システイン残基を含む」という条件が読み枠決定の手掛かりである。
根拠
相補鎖は A--T、G--C の組合せで、二本鎖 DNA は逆平行である。したがって、元の配列を左から読んだ相補鎖は 3' から 5' に向いている。cDNA センス鎖から読み枠を 3 通り調べると、1 番目には TGA、2 番目にも TGA が現れ、タンパク質内部の配列として不自然である。3 番目の読み枠は TGT を含み、これが Cys に対応する。
検算・典型ミス
相補鎖を から書き直すときは、単に塩基を置換するだけでなく、左右を反転する。アミノ酸配列では「Cys を含む」という条件を使わずに最初の読み枠から読んでしまうと、途中で終止コドンを答えることになる。膜流動性では「長鎖ほど融点が高い」「cis 二重結合ほど詰まりにくい」と言い換えると、符号を取り違えにくい。
試験で書くべきポイント
代謝調節は、どの分子がどの位置の酵素を調節するかを書く。単に「抑制する」とだけ書くと、フィードフォワード調節との差が曖昧になる。膜流動性では、鎖長と不飽和度を別々に述べ、理由として分子間相互作用またはパッキングのしやすさに触れると減点されにくい。
第2問 — 酸素発生・活性酸素・酸化的リン酸化
方針
酸素の問題は、水分解、酸素毒性、抗酸化、酸化的リン酸化を一つの流れとして整理する。光合成では水が電子供与体になり、呼吸では酸素が最終電子受容体になる、という対比を押さえる。
根拠
酸素発生型光合成では、酸素発生複合体の Mn クラスターが水を酸化し、電子を光化学系 II に供給する。酸化で生じる水素は、 ではなく として扱われる。呼吸鎖では、複合体 I、III、IV などを通る電子移動に伴ってプロトンが汲み出され、化学浸透圧説に従って ATP 合成が駆動される。
検算・典型ミス
過酸化水素はラジカルではないが、活性酸素種には含まれる。抗酸化化合物と抗酸化酵素を混同しないことも重要である。例えばスーパーオキシドジスムターゼやカタラーゼは酵素であり、本問の「化合物」の例としてはグルタチオンなどを書く方が安全である。
試験で書くべきポイント
IV では指定語である「ATP 合成酵素」「プロトン濃度勾配」「電子伝達系」を必ず含める。酸素がどこで使われるか、すなわち電子伝達系の末端で水へ還元されることまで書くと、単なる暗記ではなく反応の仕組みを説明した答案になる。
第3問 — がん遺伝子と遺伝性腫瘍
方針
がん関連遺伝子は、活性化でがん化を促す原がん遺伝子と、失活でがん化を促す腫瘍抑制遺伝子に分ける。設問はこの対比を軸にして、原因、変異の性質、実験的証明、遺伝性腫瘍へ展開している。
根拠
原がん遺伝子は正常細胞にも存在し、増殖や生存に必要な機能を担う。変異後に「がん遺伝子」として働く場合、多くは片方のアレルの活性化だけで表現型が出る。一方、腫瘍抑制遺伝子は両アレルの機能喪失が問題になりやすく、遺伝性腫瘍の説明では Knudson の two-hit の考え方がよく対応する。
検算・典型ミス
「原がん遺伝子」と「がん遺伝子」を混同しない。正常遺伝子としての総称を聞かれているので原がん遺伝子と答える。III では「ミスセンス変異」を入れる指定があるため、単に発現量増加だけを書くと条件を満たさない。
試験で書くべきポイント
IV は「相関」ではなく「ドライバーであること」を問うている。患者検体で頻度が高い、という記述だけでは弱い。導入で十分性、ノックダウン・ノックアウト・変異修復で必要性を示す、という形で実験を書くと説得力が高い。
第4問 — 上皮組織・輸送体・細胞外マトリックス
方針
上皮の問題では、細胞間接着、頂端側輸送、基底膜接着、免疫細胞、細胞外マトリックスを層構造として整理するとよい。小腸上皮では、頂端側と側底側の役割分担が特に重要である。
根拠
タイトジャンクションはバリアと極性維持を担い、デスモソームは機械的接着を担う。Na/グルコース共輸送は、ATP を輸送体が直接分解する一次性能動輸送ではなく、Na 勾配に依存する二次性能動輸送である。ヘミデスモソームは細胞間接着ではなく、上皮細胞と基底膜の接着である。
検算・典型ミス
アドヘレンスジャンクションを I で答えてもよいが、構造と機能を具体化する必要がある。III で「カドヘリン」と答えるのは誤りで、カドヘリンは主に細胞間接着に働く。IV は樹状細胞も抗原提示を行うが、貪食能をもち結合組織に常在する代表としてはマクロファージが最も標準的である。
試験で書くべきポイント
V では「タンパク質」と「糖質」を分けて答える。コラーゲンの機能を「強度」、ヒアルロン酸の機能を「保水・粘弾性」と書くと、単なる名称列挙より評価されやすい。
第5問 — 有機反応の生成物とカルボニル反応
方針
I は反応型を先に判定する。E2、1,4-付加、アルキンのハロ水和、芳香族求電子置換、PCC 酸化と Grignard 付加、Wittig 反応という対応を作ると、個別の構造決定が機械的になる。
根拠
E2 では anti-periplanar な 水素が引き抜かれ、通常はより置換度の高いアルケンが優先する。有機銅試薬は -不飽和ケトンへ 1,4-付加しやすく、残ったエノラートはヨウ化メチルで 位アルキル化される。PCC は第一級アルコールをアルデヒドで止めるため、続く Grignard 付加で二級アルコールを与える。
検算・典型ミス
アルデヒド・ケトンのカルボニル炭素は電子不足なので求核攻撃を受け、酸素は電子豊富なのでプロトンなどの求電子攻撃を受ける。II の「低温」と「加熱」は、アルドール付加生成物で止まるか、脱水して -不飽和アルデヒドになるかの違いである。
試験で書くべきポイント
vi) はホスホニウム塩をイリドにしてアルデヒドへ付加させる問題である。答案では、リンに隣接する炭素とアルデヒドのホルミル炭素との間に新しい二重結合ができること、またエステル部位はそのまま残ることを明示するとよい。共役鎖が長いので、二重結合の位置を一つずらして書くミスに注意する。
第6問 — 香料合成・反応機構・有機化学の正誤
方針
合成スキームは、前半が isoprene 由来のアリル塩化物を作る段階、中央が acetoacetic ester 合成で炭素鎖を伸ばす段階、後半がアルキン付加と部分水素化でアリルアルコールへ仕上げる段階である。
根拠
NaOEt/EtOH と酢酸エチルの組合せは、同じアルコキシ基を使った Claisen 縮合の典型である。-ケトエステルのアルキル化後、塩基性加水分解と酸性加熱を行うと、カルボン酸を経て脱炭酸しメチルケトンが残る。ケトンへの 付加は第三級プロパルギルアルコールを与え、Lindlar 触媒はアルキンをアルケンで止める。
正誤問題の根拠
Baeyer--Villiger 酸化では、より移動能の高い置換基が酸素へ移る。tert-butyl 基は ethyl 基より移動しやすいため、記述 3 は正しい。シクロヘキサンの燃焼熱はおおむねシクロプロパン 2 分子分より小さいので 1 は誤りである。p は ethyne ethene ethane の順に大きくなるので 2 も逆である。neopentyl bromide は第一級でも著しく SN2 が遅く、4 は危険な一般化である。trans-1,4-置換シクロヘキサンは両置換基 equatorial の配座をとれるので 5 は誤りである。
検算・典型ミス
IR の C=C 伸縮は 1600 cm 台であり、CC や CN の 2200 cm 付近と混同しない。NMR では「高磁場」は ppm が小さい側を意味する。アルキン水素はアルケン水素より高磁場側である。
第7問 — 反応座標・活性化エネルギー・触媒
方針
反応速度論の語句は、ポテンシャルエネルギー図と対応させて覚える。横軸が反応座標、山頂の配置が遷移状態、その近傍の原子集団を活性錯合体、原系から山頂までの差を活性化エネルギーまたは活性化ギブズエネルギーと呼ぶ。
根拠
触媒は反応の標準ギブズエネルギー変化や平衡定数を変えるのではなく、正逆両方向の到達経路の障壁を下げる。IV では頻度因子や は同じ温度で打ち消し合うため、活性化ギブズエネルギー差だけを指数に入れればよい。
検算・典型ミス
27 ℃は 300 K としてよい。kJ と J の単位をそろえないと指数が 1000 倍ずれる。V の負の活性化エネルギーは「山が下向き」という意味ではなく、観測速度定数が前駆平衡の温度依存性を含むために生じる見かけの値である。
第8問 — 理想気体混合とタンパク質変性のエントロピー
方針
I は「混合前後で各気体が占める体積が 2 倍になる」と見るのが最短である。II は、転移温度で となる条件と、 を使って温度を移す。
根拠
理想気体の化学ポテンシャルは分圧だけで決まる。混合前後で A も B も分圧がちょうど半分になるため、物質量が異なっても混合ギブズエネルギーは になる。これは、最初から左右の体積が等しいという条件の帰結である。
検算・典型ミス
対数の中には本来 を入れる。問題で標準圧力を 1 bar、 の単位を bar としているため、式では をそのまま書ける。II-3 では符号を間違えやすい。 から へ上げるとき、unfolded と folded のエントロピー増加量の差を、転移温度での差から差し引いて戻すと考えるとよい。
試験で書くべきポイント
I-2 は全ギブズエネルギーを聞いているので、標準化学ポテンシャルの項を落とさない。I-3 ではそれらが差を取ると消える。II では「標準圧力下」「単量体」「熱容量一定」という条件により、会合エントロピーや温度依存する熱容量積分を考えなくてよい。