東京科学大学 院試 過去問 解答例
東工大 理学院 数学系 数学コース 修士課程 数学 2021年度 院試 解答例・解説
東京科学大学 理学院 数学系 数学コース 修士課程 数学 2021年度の院試 過去問について、設問ごとの解法方針・部分点の置き所を解説。全10問収録の解答・解説PDFと併用できます。問題本文は含みません。
最終更新:
設問ごとの解法方針・部分点の置き所を無料で公開しています。
完全な途中式・最終答は解答・解説PDFに収録しています。問題本文は含まれません。
第1問 — 線形代数・微分作用素
方針
この問題は関数空間の問題に見えるが、実質は 次元ベクトル空間上の線形作用素の問題である。基底を固定して を行列に直すと、一次独立性、生成する空間の次元、方程式の解がすべて係数比較で処理できる。
Jordan ブロックを見抜く
を微分すると になるので、 の部分には固有値 の Jordan ブロックが現れる。このため となり、係数に が出る。 の成分は単に 倍である。
検算
得られた について 成分は により常に 倍されるので、 は避けられない。 成分も で即座に確認できる。最後に 成分は となり、右辺の係数と一致する。
典型ミス
を と誤解すると全体が崩れる。ここでの は 階微分、すなわち である。また の の項を落とすと、一次独立性の判定でも方程式の解でも誤答になる。
第2問 — 位相・コンパクト性
方針
開被覆による定義と閉集合族による定義は、補集合を取るだけで互いに移り合う。試験答案では、有限部分被覆がないことと「有限個の補集合の交わりが空でないこと」を正確に対応させるのが要点である。
有限交叉性の意味
有限交叉性は「どれだけ有限個を選んでも共通点が残る」という性質であり、全体の共通点があることまでは要求しない。(1) の は、有限個だけ見れば最大の添字以上の点が残るが、全てを同時に満たす実数は存在しない。
閉集合がコンパクトになる理由
閉集合 の閉集合族を の中でも閉集合族として扱える点が重要である。これは が閉であるからで、ここを省くと証明にならない。開被覆で証明する場合も、 を加えて の開被覆に直すという同じ発想を使う。
典型ミス
有限交叉性では空でない有限部分集合だけを考える。空集合を選ぶと交わりが全空間になるため、条件として意味を持たない。また (2) の逆向きで、最初から閉集合族を任意に取るのではなく、開被覆の補集合族を作ることが必要である。
第3問 — 多変数解析・連続性
方針
分母は 、分子は概ね の大きさなので、原点近くの大きさは で見積もれる。連続性には 、零微分での全微分可能性には 、すなわち が十分条件になる。
連続だが全微分可能でない例
の場合は なので連続性は出るが、 が必ず に落ちるとは限らない。 では 軸方向の一次近似は だが、斜め方向では係数が変わるため全微分可能性が壊れる。
検算
では で、 である。全微分可能性の定義では を見るので、 となる。
典型ミス
偏微分係数が存在することと全微分可能性を混同しないことが重要である。(3) では候補となる一次写像まで決めたうえで、斜め方向の剰余が でないことを示す必要がある。
第4問 — 可換環・べき等元
方針
べき等元 は環を 側と 側に分ける。 で割ることは 側を消す操作であり、 を局所化することも同じ側を残す操作である。(1) はこの直観を核と全射性で厳密化する。
素イデアルで使う一点
と素イデアル性から、 と の少なくとも一方が素イデアルに入る。これが条件 (a) そのものである。条件 (b) は、生成イデアルが素イデアルに含まれるため真である、という一行が本質である。
極大イデアルの取り方
(3) では が生成するイデアルが真であることを使い、それを含む極大イデアルを取る。ここで「極大なべき等元集合」と「極大イデアル」は別概念であるため、両者を混同しないようにする。
典型ミス
で が単元になるだけでなく、べき等元かつ単元なら になることを書く必要がある。単元 が を満たせば、 を掛けて である。
第5問 — 体論・Dickson 不変式
方針
は有限 ベクトル空間 の全元を根に持つ多項式である。このような多項式は加法的、つまり べきの次数だけを持つ線形化多項式になる。帰納法で超平面 と一次元分を分けると、形が自然に出る。
係数が不変になる理由
は の元を並べ替える。したがって根全体の積で定義される は変わらない。多項式が変わらないので、係数も固定される。
ガロア群の決定
の根は そのものであり、 を含む。従って は の分解体である。 上の自己同型は根を根へ送るので、 たちは の基底へ送られる。ここから自己同型は の元に限られる。
典型ミス
だけから直ちに次数の形を書いてしまうと説明不足になりやすい。帰納法で を使うと、 だけが残る理由を明確に書ける。
第6問 — 微分幾何・特異像
方針
まずは周囲空間 で微分を計算し、それを接平面 に制限する。階数が落ちるのは の大円上で、そこが全て原点へ潰れることが像の特異性を生む。
像の式
像は で記述できる。ただし では原点だけである。原点近くでは なので、円錐に近い形をしており、 側と 側が原点で貼り合わさっている。
部分多様体でないことの書き方
単に「階数が一定でない」と書くだけでは、像が部分多様体でないことの証明としては弱い。写像の階数が一定でないことはパラメータ表示の性質であり、像そのものの多様体性とは別である。ここでは原点近傍から原点を除くと二つに分かれる、という局所位相の破綻を示すのが確実である。
典型ミス
のときに階数を としてしまう誤りが多い。接ベクトルの 成分は自由に取れるので、像は 方向の一次元になる。
第7問 — 代数的位相・ホモロジー
方針
はトーラス、 は円板、共通部分はトーラス上の対角円周である。したがって問題は「トーラスに、対角ループを境界とする円板を貼るとホモロジーがどう変わるか」に帰着される。
対角円周のホモロジー類
の二つの標準生成元を とすると、対角写像 は一周する間に両方の 成分を一回ずつ回る。従って表すホモロジー類は である。
Euler 標数による検算
、、 なので である。得られたホモロジーからは となり、Euler 標数と一致する。
典型ミス
円板を貼ると が消えると考えるのは誤りである。新しい セルは の関係 を作る一方、トーラス由来の 次元基本類は残る。そのため である。
第8問 — 複素解析・留数
方針
条件 (i) は、積分汎関数 が多項式の原点評価と一致する、という主張である。原点評価は Cauchy の積分公式 で表されるので、 を調べるのが自然である。
余分な極を消す議論
有理型関数の極は有限個である。もし に極が残っていれば、多項式 をうまく選んでその極の留数だけを取り出せる。これは Hermite 補間の初歩的な使い方であり、複数の極がある場合でも他の極で高位の零点を持たせればよい。
留数の正規化
この問題では積分に が付いていない。そのため、原点で必要な留数は ではなく である。ここは最も係数ミスが起きやすい。
典型ミス
多項式 が任意であることを使わず、 だけで判断してしまうと不十分である。 から分かるのは留数の総和だけであり、個々の極の位置や位数は決まらない。
第9問 — 測度論・収束
方針
は でだけ になる非負関数である。積分が に近いということは、 が のどちらからも一定距離以上離れる集合の測度が小さくなる、という意味である。
(2) の注意点
(1) から分かるのは測度収束に近い性質であり、各点での収束ではない。それでも「最終的にずっと離れたまま」の点集合は で押さえられるため、測度 と分かる。ここでは ではなく 型の集合を使う。
(3) の反例の意図
値が常に または なら積分条件は完全に満たされる。しかし点ごとの値が二つの根の間でランダムに振動すると、どの部分列を取ってもほとんど至る所収束しないようにできる。二進桁はこの独立な振動を明示的に作る道具である。
典型ミス
測度収束から部分列の概収束を連想して (3) を真としてしまうのは危険である。ここで必要なのは二点集合への距離が に近づくことではなく、実数値列そのものが一つの極限に落ち着くことである。二つの零点の間で振動する可能性が残る。
第10問 — 関数解析・Volterra 作用素
方針
は Volterra 型の積分作用素である。反復すると積分核に階乗が現れ、 が で抑えられる。この階乗評価により、通常の Neumann 級数が任意の で収束する。
階乗が出る理由
は三角領域 上の積分になり、 では 次元単体の体積が現れる。その体積が であるため、作用素ノルムに が出る。
スペクトルの見方
この結果は、Volterra 作用素のスペクトルが に含まれることを意味する。通常の有界作用素なら のときだけ Neumann 級数がすぐ使えるが、ここでは反復ノルムが階乗で減るので全ての で収束する。
典型ミス
だけから の収束を主張できるのは の場合だけである。任意の を扱うには、(2) の を必ず使う。