東京科学大学 院試 過去問 解答例
東工大 理学院 数学系 数学コース 修士課程 数学 2020年度 院試 解答例・解説
東京科学大学 理学院 数学系 数学コース 修士課程 数学 2020年度の院試 過去問について、設問ごとの解法方針・部分点の置き所を解説。全13問収録の解答・解説PDFと併用できます。問題本文は含みません。
最終更新:
設問ごとの解法方針・部分点の置き所を無料で公開しています。
完全な途中式・最終答は解答・解説PDFに収録しています。問題本文は含まれません。
第1問 — 右端リーマン和の誤差評価
方針
右端リーマン和の誤差は,各小区間で を右端値 で置き換えたときの誤差の和である。微分係数の絶対値が 以下であることは, がリプシッツ定数 をもつことを意味するので,小区間内の誤差は右端からの距離に比例して抑えられる。
係数の検算
各区間の誤差評価は三角形の面積 である。これを 個足すと になる。問題の右辺はこの 2 倍なので,途中で を落としても結論は出るが,試験ではこの強い評価まで書くと安心である。
典型ミス
から直接 へ進む部分が要点である。ここを「微分可能だから小さい」とだけ書くと, に関する具体的な評価にならない。
第2問 — 階差と平均の極限
方針
どちらも「階差を足し戻す」問題である。 自体を直接評価するのではなく, に戻すと,通常の Cesaro 平均または重み付き Cesaro 平均になる。
第2小問の係数
なら,階差はおよそ である。したがって となる。答が ではなく になるのは, の係数による。
試験で書くべき点
「Cesaro の定理より」で済ませられるのは第1小問である。第2小問は重み が付いているので,有限個の初期項を分け,残りを で抑える一行を入れると答案として堅い。
第3問 — 相対位相と連結成分
連結成分と開閉分離は別物
この空間では, の連結成分は一点であるにもかかわらず, と を開閉集合で分けることはできない。連結成分と,開閉集合で分けられない同値類は一般には一致しない,という典型例になっている。
第1小問の決め手
座標の像が の部分集合に入ることを使う。連結集合の連続像は連結なので, と を同時に含むことはできない。
第2小問の決め手
開集合性により, の近くにある縦線分の下端付近が に入る。閉集合性を縦線分 に制限すると, は の開閉集合になるため,縦線分全体が に入る。すると上端が に近づき, の閉性から も入ってしまう。
第4問 — 線形変換の階数と同型性
方針
同型なら階数が変わらない,という方向はすぐに分かる。逆向きでは, が単射でないと仮定し, に入るベクトルへ潰す階数 1 の写像 を作る。
なぜ階数 1 の写像を使うか
は像が に入るので高々階数 1 である。 としておくと は必ず零写像になる。一方で を 上で消えないように選ぶと, は零写像ではない。この非対称性が矛盾を作る。
試験での注意
有限次元性は最後に使う。 から直ちに が同型と言えるのは,定義域と値域が同じ有限次元空間だからである。
第5問 — 多項式空間上のアフィン置換
方針
アフィン変換は固定点を原点に移すとスカラー倍になる。 のとき固定点 が存在し, の冪がそのまま固有ベクトルになる。
重複固有値の扱い
が 1 の根である場合, には重複が起こる。しかし基底 の各元は固有ベクトルであるため,重複があっても対角化可能性は失われない。
平行移動の場合
は純粋な平行移動である。これは有限次元多項式空間上では上三角なユニポテント作用になり,固有値は 1 だけである。非定数多項式が周期 を持つことはないので,固有空間は定数だけになる。この点を書けば,対角化不能性が明確になる。
第6問 — 商環と誘導準同型
方針
商環の問題では,まず代表元によらないことを確認する。次に,図式の等式は全射 によって一意性や逆写像の確認に使う。
第2小問の見方
は の元であり, は から への全射である。したがって を と持ち上げることができる。差 を取ると で消える,というのが分解の全体である。
第3小問の注意
は最初から 上の写像ではない。 を示して初めて が定義できる。ここを書かずに「 が逆写像」とすると型が合わない答案になる。
第7問 — 加法多項式と有限生成加群
方針
この問題の核は, 乗だけからなる多項式が加法的であることと,非零多項式の根は有限個であることを結び付ける点にある。 は の根が重ならないことを保証する。
第2小問の構造
では が零として作用する。したがって -加群としては,実質的に -ベクトル空間である。根の個数が 個なので,-次元が になり, が得られる。
第3小問の典型ミス
「 は無限集合だから有限生成でない」というだけでは不十分である。 自身も集合としては無限だが 1 元生成加群である。ここでは, が全射でありながら核が非零であるという性質が,有限生成 -加群の構造と矛盾することを使う。
第8問 — 正則値と超曲面の微分同相
方針
第1小問は正則値定理,第2小問は方程式を に関する 1 本の線形方程式と見る。係数ベクトル が 0 にならないことが, の重要な使い所である。
パラメータの意味
を固定すると, は平面内の直線を動く。その直線の法線方向が ,接線方向が である。したがって自由度は, の 2 次元と,直線上のパラメータ の 1 次元を合わせた 3 次元になる。
検算
表示式を代入すると となるので, が確認できる。
第9問 — 写像トーラスのホモロジー
方針
商空間の定義は, の端を回転で貼り合わせる写像トーラスである。したがって, のホモロジーと回転が に及ぼす作用を計算すればよい。
グラフ の階数
は連結グラフで,頂点 4,辺 6 である。連結グラフの の階数は なので 3 になる。ここを図形の印象だけで「円が 1 つ」と数えると,中心から伸びる 3 本の辺によってできる独立サイクルを落としてしまう。
Wang 完全列の読み方
写像トーラスでは,不変な 1 サイクルが 2 次元ホモロジーを作り,回転で同一視された 1 サイクルの余りが に残る。ここでは が回転不変であり,余核では 3 つの が同じものとして残る。
第10問 — 複素解析:留数と固定点
方針
積分は固定点方程式 の零点を数える留数計算である。 条件により円内の特異点は だけなので, の における展開を見ればよい。
(2) の作り方
のときは が 以上の次数で始まる。 留数を にしたいので, となるように逆算すればよい。これを反転すると が得られる。
典型ミス
の場合に を形式的に使ってはいけない。 零点の位数が上がり,単純零点の留数公式が使えなくなる。
第11問 — 関数解析:数列空間とコンパクト作用素
方針
重み を の双対的な重みとして扱う。 が収束するかどうかが,有界性とコンパクト性の境目である。
境界例
では が発散する。 反例では ノルムを に正規化しながら, 後の ノルムが 調和級数の平方根だけ大きくなるようにしている。
コンパクト性の見方
は対角成分が の対角作用素である。 尾部の ノルムが消えるため,有限階作用素で近似できる。 試験では「有限階近似」と「尾部評価」の二点を書くのが最も確実である。
第12問 — 測度論:概収束と積分
方針
概収束だけでは積分の極限交換はできない。有限測度集合上の測度収束,Fatou の補題,優収束定理のどれが使えるかを 各小問ごとに見分ける。
(1) の反例の意味
は点ごとには に消えるが,面積は常に である。 質量が一点に集中していく典型例であり,支配関数がない状況で積分極限が壊れる。
(2) と (4) の違い
(2) は有限測度区間に制限しているため,概収束から測度収束が従う。 (4) は がコンパクト台を持つため,積分する の範囲が実質的に有限測度集合に限られ, さらに有界な支配関数が得られる。
典型ミス
(3) で優収束定理を使おうとすると支配関数がない。 ここでは非負性があるので Fatou の補題を使うのが正しい。
第13問 — 解析:Gronwall型不等式
方針
積分不等式は,右辺の積分部分を新しい関数として置くと微分不等式に変わる。 (1), (2) は一次のGronwall型評価,(3) は二乗による有限時間爆発の議論である。
(2) の積分因子
では,積分因子は である。 したがって を微分すると余分な項が消え, だけが残る。
(3) の検算
, の解は で, で発散する。 本問では なので,それより遅くはならない。 したがって全ての で連続に存在することはできない。
典型ミス
(1) で の符号を勝手に正と仮定する必要はない。 が単調非増加であることを直接使えば, がそのまま得られる。